2012年8月 5日 (日)

第280回:海賊版対策条約(ACTA)に関するQ&A

 海賊版対策条約(ACTA)の問題点については既に山田奨治氏(twitter)のブログ記事やてんたま氏(twitter)のブログ記事があるのでリンク先をお読み頂ければ十分だと思うが、この8月3日にACTAが参議院本会議で賛成217反対9で可決され衆議院に送られたということもあり、ネットを見ていると根拠のない憶測や不正確な理解に基づく意見も散見されるので、前回に続き、ここでも念のため今まで書いて来たことをまとめてQ&A形式で書いておきたいと思う。(ただし、ACTAに関しては今まで散々書いてきているので、今回もあまり目新しいことは書いていない。なお、前回も書いた通り、私は「海賊版対策条約」という略称を使っているが、ACTA(Anti-Counterfeiting Trade Agreement)は、初期の政府の検討では「模倣品・海賊版拡散防止条約」と称されており、最終的に公表された政府訳では「偽造品の取引の防止に関する協定」とされている。)

Q1:ACTAってそもそもどこから来たの?

⇒2005年にグレンイーグルス・サミットで日本の小泉首相(当時)が模倣品・海賊版防止のために法的な枠組みを作る必要性を言い出したのがACTAの発端となっています。当時の自公政権の大臣連や官僚たちが実際のところ何を考えていたのか良く分かりませんが、当時海外での日本製品の模倣品・海賊版が問題となっていたことを受け、ほとんど勢いだけで中身をロクに考えずに言い出したのではないかと私は見ています。(ACTAに関する一連の経緯については、第279回参照。)

Q2:ACTAには何が書かれているの?

⇒外務省のHPで公表されているACTAの最終条文(pdf)を見ると、以下のような章立てになっています。

第一章 冒頭の規定及び一般的定義
 第一節 冒頭の規定
 第二節 一般的定義
第二章 知的財産権に関する執行のための法的枠組み
 第一節 一般的義務
 第二節 民事上の執行
 第三節 国境措置
 第四節 刑事上の執行
 第五節 デジタル環境における知的財産権に関する執行
第三章 執行実務
第四章 国際協力
第五章 制度上の措置
第六章 最終規定

詳しい内容については下で書いて行きますが、章立てを見ても分かるように、ACTAは特に新たに知財権を作ろうとするものなく、主として知財権の行使・執行に関するものだということは議論する上で常に念頭に置いておく必要があります。

Q3:ACTAが対象としている知的財産権は商標権と著作権だけなの?

⇒2012年7月31日の参議院外交防衛委員会で八木外務省経済局長が特許権は基本的にACTAの対象外と答えています(参議院審議中継や山田奨治氏の参議院審議に関するブログ記事参照)。ここで、確かに第1章第2節と第13条の注でそれぞれ書かれている通り、第1章第2節の「民事上の執行」について「締約国は、特許及び開示されていない情報の保護についてはこの節の規定の適用範囲から除外することができ」、第3節の「国境措置」について「締約国は、特許及び開示されていない情報の保護がこの節の規定の適用を受けない」のはその通りで、 第4節の「刑事上の執行」と第5節の「デジタル環境における知的財産権に関する執行」では著作権と商標権が対象となるとほとんどの条項で明記しているので、「基本的に」対象とならないと言えなくもないですが、一般的に「知的財産」と書かれている他の部分の条項では特許権も基本的に対象となっていると考えるべきで、ACTAが特許を対象としていないという理解は正しくないでしょう。ACTAとジェネリック医薬品との関係は下で詳しく書きますが、基本的に特許権を対象としていないというより、ACTAは日本国内の特許法に影響しないと言う方が正確です。(これは、ACTA第5条(h)で「知的財産」とは、TRIPS協定(特許庁HPの翻訳参照)第2部第1節から第7節までの全ての種類の知的財産をいうとされている通りです。また、細かな話になりますが、注の書き方で第2節について特許権等を「除外することができる」とされ、第3節について特許権等は「適用を受けない」とされている条文上の差異は重要で、第3節に選択の余地はありませんが、第2節は選択可能なのでここで特許権を除外するかどうかで条約の適用範囲が変わって来ることになります。日本の国内法に大きな影響を与える点ではありませんが、日本政府が第2節で完全に特許権等を除外するとしているのかどうかはなお不鮮明です。)

Q4:ACTAによってインターネットの監視が強化されるの?

⇒ACTAの交渉過程でストライクポリシーなどが議論された形跡がありますが(当ブログのACTA関連記事参照)、最終的にインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)の責任について残されたのは、以下のような第27条第4項です。

第二十七条 デジタル環境における執行
 締約国は、自国の法令に従い、商標権又は著作権若しくは関連する権利が侵害されていることについて権利者が法的に十分な主張を提起し、かつ、これらの権利の保護又は行使のために侵害に使用されたと申し立てられたアカウントを保有する者を特定することができる十分な情報が求められている場合において、オンライン・サービス・プロバイダに対し当該情報を当該権利者に速やかに開示するよう命ずる権限を自国の権限のある当局に付与することができる。このような手続は、電子商取引を含む正当な活動の新たな障害となることを回避し、かつ、表現の自由、公正な手続、プライバシーその他の基本原則が当該締約国の法令に従って維持されるような態様で実施される。

この条項は基本的に情報開示の可能性について書かれているだけで、今のところ日本の現行プロバイダー責任制限法に関してプロバイダーの責任を不当に増やす形での強化を求めているものとは読めません。ただし、表現の自由云々は一般的な記載に過ぎず、ストライクポリシーなどの非道なネット検閲を禁止するとまでは読めないため、今後このような条項を踏み台にしてさらなる権利者団体などがさらなる規制強化の検討を求めてくることは十分あり得るでしょうし、ダウンロード犯罪化との関係でこのような条項が微妙な問題を引き起こす可能性もあり、批准された場合、即座にどうこうということはないでしょうが、残念ながら今後も様々なネット規制強化の検討について十分な注視が必要となって来るでしょう。

Q5:ACTAとダウンロード犯罪化(違法ダウンロード刑事罰化)は関係あるの?

⇒ダウンロード犯罪化に関する国会審議を見ても分かるように(第277回参照)、ACTAによってダウンロード犯罪化がなされたというような直接的な関係はありません。ただし、ダウンロード犯罪化とACTAの関係については精査が必要で、上であげた第27条第4項との関係もそうですが、以下のような刑事犯罪を定める第23条第1項との関係にも注意が必要です。

第二十三条 刑事犯罪
 各締約国は、刑事上の手続及び刑罰であって、少なくとも故意により商業的規模で行われる商標の不正使用並びに著作権及び関連する権利を侵害する複製について適用されるものを定める。この節の規定の適用上、商業的規模で行われる行為には、少なくとも直接又は間接に経済上又は商業上の利益を得るための商業活動として行われる行為を含む。

ダウンロード犯罪化(10月1日施行予定)によって日本は非商業的規模と言って良いだろう著作物の私的なダウンロード(録音録画に限るが)まで犯罪化し、ACTAを完全に超える規制をやってしまっていることになるため、ACTAのレベルでどうこう言うのはある意味難しいのですが、この条項の「商業的規模」の定義は曖昧で、私的な著作物のダウンロードの犯罪化をそのまま求めるものではないにしても、著作権を侵害する複製についてどこまで犯罪化することが必要とされるかという点で、批准された場合、このACTAの条文がネックとなり今後のダウンロード犯罪化条項に関する議論で単純に元に戻すことが難しくなって来ることもあり得るのではないかと私は考えています。

Q6:ACTAと著作権の保護期間延長やパロディ規制、非親告罪化は関係あるの?

⇒ACTAには著作権の保護期間延長やパロディ規制に関する規定はありません。ACTAも全体的に知的財産権の保護強化の傾向を助長することから全く影響がないとまでは言い切れませんが、これらについては基本的に関係ないと考えておいて良いかと思います。これらの問題についてであれば、TPP交渉や文化庁における文化審議会・著作権分科会・法制問題小委員会・パロディワーキングチームの検討の方が遥かに影響して来るように思います。

また、非親告罪化については、第26条に、

第二十六条 職権による刑事上の執行
 各締約国は、第二十三条(刑事犯罪)1から4までに定める刑事犯罪であって自国が刑事上の手続及び刑罰を定めるものに関し、適当な場合には、自国の権限のある当局が捜査を開始し、又は法的措置をとるために職権により行動することができることについて定める。

と書かれていますが、ここは、「適当な場合には」という文言の解釈で、ACTAからは著作権の非親告罪化は求められないと理解できるようです(参議院審議中継や山田奨治氏の参議院審議に関するブログ記事参照)。ただし、この条項の文言にも曖昧なところはあり、批准された場合、その運用に注意して行く必要があるでしょう。

Q7:ACTAで日本法との関係で特に問題となるところは?

⇒上で書いたいくつかの点も気になりますが、他に日本法との関係で特に問題があると私が考えているのは、以下の第9条第3項、第14条第1項、第2項及び第27条第6項です。

第九条 損害賠償
 各締約国は、少なくとも著作物、レコード及び実演を保護する著作権又は関連する権利の侵害並びに商標の不正使用について、次の一又は二以上の事項を定める制度を設け、又は維持する。
(a) 法定の損害賠償
(b) 侵害によって引き起こされた損害について権利者を補償するために十分な損害賠償の額を決定するための推定
 (c) 少なくとも著作権については、追加の損害賠償

第十四条 小型貨物及び手荷物
 各締約国は、小型貨物で送られる商業的な性質の物品をこの節の規定の適用対象に含める。

 締約国は、旅行者の手荷物に含まれる少量の非商業的な性質の物品については、この節の規定の適用から除外することができる。

第二十七条 デジタル環境における執行
 各締約国は、5に規定する適当な法的保護及び効果的な法的救済について定めるため、少なくとも次のことについて定める。
(a) 自国の法令の範囲内で次の行為から保護すること。
(ⅰ) 効果的な技術的手段の許諾されていない回避行為であって、そのような行為であることを知りながら、又は知ることができる合理的な理由を有しながら行われるもの
(ⅱ) 効果的な技術的手段を回避する手段としての装置若しくは製品(コンピュータ・プログラムを含む。)又はサービスを販売して公衆に提供する行為
(b) 次の要件を満たす装置若しくは製品(コンピュータ・プログラムを含む。)を製造し、輸入し、若しくは頒布する行為又は次の要件を満たすサービスを提供する行為から保護すること。
(ⅰ) 主として効果的な技術的手段を回避するために設計され、又は生産されていること。
(ⅱ) 効果的な技術的手段を回避すること以外の商業上の重要な目的が限られていること。

必須とされている訳ではありませんが、第9条で日本法に存在しない法定賠償に関する記載がある点は今後の日本における各種の検討において微妙な影響を与えて行くことがあり得るでしょうし、第14条で旅行者の手荷物の少量物品の検査をきちんと日本政府が除外しようとしているかどうか明確でなく、旅行者のiPodの中までチェックしようとするような規制強化の検討が今後されるようなことがないようきちんと見て行く必要があるでしょう。

また、DRM回避規制の部分については、実のところACTAを背景とする規制強化を含む不正競争防止法と著作権法の改正が既に成立してしまっていますが(第279回第266回参照)、これらの改正にはACTA以外に何ら納得の行く根拠・背景があったとは思われず、この部分こそが日本法との関係で考えた時のACTA最大の問題点だと私は考えています。詳しいことは過去の記事を読んで頂ければと思いますが、これらの法改正には私はなお反対で、元に戻す以上の規制緩和が必要だと考えていますし、このような明らかなポリシーロンダリングがあったからこそ私はACTAに反対しています。

Q8:表現の自由やプライバシーの尊重などが条文に書かれているが?

⇒上でも書きましたが、表現の自由やプライバシーの尊重などに関する記載は一般的なものに過ぎず、ストライクポリシーなどの非道なネット検閲を禁止するとまでは読めず、ACTAはこれらの基本的な権利に対する保障が不十分であると言わざるを得ません。

Q9:ACTAとジェネリック医薬品との関係は?

⇒ジェネリック医薬品(特許権切れの後発医薬品)の問題は複雑です。確かにACTAに直接的にジェネリック医薬品のことを規定する条文はなく、批准によって直接的に日本の特許法が改正され、国内でのジェネリック医薬品の流通が阻害されるということはないでしょう。ただし、第2章第2節の「民事上の執行」で特許権等を除外せずに批准する国もあり得ることを考えると、例えば、第5節第27条第1項の

第二十七条 デジタル環境における執行
1 各締約国は、第二節(民事上の執行)及び前節(刑事上の執行)に定める範囲内の執行の手続によりデジタル環境において生ずる知的財産権の侵害行為に対し効果的な措置(侵害を防止するための迅速な救済措置及び追加の侵害を抑止するための救済措置を含む。)がとられることを可能にするため、当該手続を自国の法令において確保する。

という規定との関係で、ジェネリック医薬品の国境を超えたネット取引を考えた時に、本当にACTAが完全に関係ないと言い切れるかどうか微妙なところがあります。(あまりに微妙なところなので、今の国会審議のレベルで果たしてここまで議論できるかどうか甚だ疑問ですが。)

Q10:欧州議会ではなぜACTAが否決されたの?ACTAについて世界的に批判されているところは?

⇒詳しくは前の記事(第278回参照)をお読み頂ければと思いますが、欧州議会は主として、

  • ACTAの交渉が極めて不透明に行われ広く国民的な議論が全くなされて来なかったこと
  • 結果として、ACTAの条文が曖昧となっており、表現の自由やプライバシー、個人情報保護の権利などを害するような各国法制をもたらす危険があること
  • 特に、非商業的規模の個人による著作権侵害に対する刑事訴追や、ISPなどによる通信の監視・ISPの著作権警察化をもたらす危険性が高いこと

を問題としてACTAを否決しています。世界的にACTAに対する批判が渦巻いているのも、同じく、検討過程が極めて不透明だったこと、政府のポリシーロンダリングにより著作権保護強化を言い訳に各種のネット規制の強化が正当化される懸念が強いことが原因です。

Q11:欧州議会否決後のACTAを巡る世界の情勢は?

⇒参議院の審議で日本政府(玄葉外務大臣)は6か国の批准でACTAは発効すると苦し紛れの言い訳をしていますが、欧州で特に危険だとして否決されたACTAをわざわざ好きこのんで批准するような国は少ないでしょうし、もはやこの6か国の批准すら覚束ないのではないかと私は踏んでいます。実質この欧州議会の否決でACTAは世界的には死んだも同然ではないかと思います。(実際のところあまり直接的な関係はないのですが、主導国である日本がこのタイミングでダウンロード犯罪化をやったことも世界的にACTAの危険性を印象づけることに一役買うと見て間違いないでしょう。)

Q12:それでも、日本の製品やコンテンツの模倣品や海賊版が出回っている国で批准されれば日本にとって意味があるのでは?

⇒模倣品や海賊版が多い国として良く持ち出される国はまず中国ですが、中国は交渉に始めから入っておらず、署名する気配すらありません。ACTAに関しては日本は当初から完全にデタラメな外交的間違いを繰り返しており、中国に限らず模倣品や海賊版で特に問題となっている国の巻き込みに今後も成功するとは到底思えません。

Q13:日本において今急いでACTAを批准する意味は?

⇒上で書いたように、欧州議会の否決を受けてACTAは世界的には実質死んだに等しく、日本が今急いでACTAを批准する意味は何もありません。危険な条約を主導し自分たちだけで勝手に国内法の改正までして批准したが結局他の国はただの1つもついて来なかったという国際的汚名だけが未来永劫残るという最低最悪の結果に終わることも十分に考えられます。

Q14:日本として考えた時のACTAの問題点は?

⇒上で書いたことの繰り返しになりますが、日本として考えた時のACTAの問題点は、

  • ACTAの交渉が極めて不透明に行われ広く国民的な議論が全くなされて来なかったこと
  • そのような不透明な条約交渉を通じたポリシーロンダリングによってACTA以外に何ら納得の行く根拠のないDRM回避規制の強化が不正競争防止法と著作権法のそれぞれの改正によって行われこと
  • DRM回避規制の強化含め今までの非道な数々の規制強化を既成事実化しかねないこと
  • ACTAの曖昧な条文を踏み台にして今後さらなる非道な規制強化の検討が行われる恐れがあること
  • 外交的にも完全に失敗しており、ACTA批准について日本にとっての国家戦略上の理由が完全に欠如していること

になるのではないかと思います。参議院の審議でもこのような問題点についてほとんど顧みられることなく、ほとんど出来レースの審議がなされており(参議院審議中継や山田奨治氏の参議院審議に関するブログ記事参照)、次は衆議院に移りますが、今の国政の状況を考えると今後の審議も政局に振り回される恐れが強く非常に不安です。

(2012年8月5日の追記:1箇所誤記を改めた。)

(2012年8月6日の追記:1箇所誤記を改め、少し文章を整えた。)

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2012年7月29日 (日)

第279回:海賊版対策条約(ACTA)主要事項年表

 海賊版対策条約(ACTA)については、外務省のHPに表向きのことは大体書かれているし、Wikiでもおよその経緯は分かると思うが、この7月26日に日本の参議院でACTA批准に関する審議が開始されたこともあり、資料として今までの主要な経緯を年表形式でここにまとめておく。(なお、私は「海賊版対策条約」という略称を使っているが、ACTA(Anti-Counterfeiting Trade Agreement)は、初期の政府の検討では「模倣品・海賊版拡散防止条約」と称されており、最終的に公表された政府訳では「偽造品の取引の防止に関する協定」とされている。)

(以下、年表)

2004年 2月 知財本部・権利保護基盤の強化に関する専門調査会で模倣品・海賊版対策に関する議論が開始

      4月 知財本部・第7回権利保護基盤の強化に関する専門調査会の「模倣品・海賊版対策の強化について(とりまとめ)案(pdf)」ではじめて模倣品・海賊版拡散防止条約の提唱が盛り込まれる

      5月 知財本部・第8回権利保護基盤の強化に関する専門調査会で「模倣品・海賊版対策の強化について(pdf)」をとりまとめ(第8回専門調査会の議事録も参照)

     12月 知財本部・第9回本部会合で模倣品・海賊版の拡散を防止するための条約の提唱を含む「模倣品・海賊版対策加速化パッケージ(pdf)」を決定(第9回会合の議事録も参照)

2005年 6月 知財本部・第11回本部会合で模倣品・海賊版拡散防止条約の提唱を含む「知財計画2005」を決定(第11回会合の議事録も参照。なお、この年表ではいちいち載せていないが、ACTAについてはこの後の知財計画でも記載され続けている)

      7月 グレンイーグルズ・サミットにおいて小泉首相(当時)が模倣品・海賊版防止のための法的枠組み策定の必要性を提唱(外務省のHP参照)

2006年 6〜10月 荒井寿光知財事務局長(当時)を筆頭として外務省の田辺審議官(当時)や経産省の豊田正和通商政策局長(当時)や中富道隆審議官(当時)らがアメリカ通商代表部と接触、条文案の丸投げや勝手な国内法改正コミットなどデタラメな暴走外交を展開(第251回で取り上げたウィキリークスのアメリカ公電リーク文書参照)

2007年10月 関係国との協議開始を発表(外務省のリリース参照)

2008年 6月 第1回関係国会合(外務省の結果概要参照)

      7月 第2回関係国会合(外務省の結果概要参照)

     10月 第3回関係国会合(外務省の結果概要参照)

     12月 第4回関係国会合(外務省の結果概要によると、ここではじめてインターネットによる知的財産権の侵害への対策について情報共有が行われている)

2009年 6月 関係国非公式会合(外務省の結果概要によると、ここではじめて透明性に関する議論が行われている)

      9月 アメリカがEUにACTAのインターネットに関する部分の案を提示(第198回参照)

     10月 第5回関係国会合(外務省の結果概要参照)

     11月 第6回関係国会合(外務省の結果概要から見ても、ここからインターネット関連章の議論が本格化していることが窺われる)

2010年 2月 第7回関係国会合(外務省の結果概要参照。1月時点のリーク条文案について、第216回第218回第219回及び第220回参照)

      4月 第8回関係国会合(外務省の結果概要からも分かる通り、世界的な批判を受け、ここから要領を得ないながらわずかに交渉内容が開示されるようになった)

      4月 ACTA条文案(pdf)(英語のみ)がようやく公開

      6月〜7月 第9回関係国会合(外務省の結果概要参照。7月時点のリーク条文案について、第237回参照)

      8月 第10回関係国会合(外務省の結果概要参照。8月時点のリーク条文案について、第238回参照)

      9月 第11回関係国会合で条文案がほぼ確定(外務省の結果概要参照)

      9月 文化庁・文化審議会・著作権分科会・法制問題小委員会でDRM回避規制の強化について検討開始

      9月 経産省・産業構造審議会・知的財産政策部会・技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会でDRM回避規制の強化について検討開始

     10月 この時点でのACTA条文案(pdf)(英語のみ)の公開(内容については、第240回参照)

     11月 ACTA最終条文案(pdf)(英語のみ)の公開

     12月 文化庁・文化審議会・第32回著作権分科会でDRM回避規制の強化を含む「法制問題小委員会技術的保護手段に関する中間まとめ(pdf)」をとりまとめ(内容とそのパブコメについては、第243回及び第246回参照。なお、ACTAとの関係で国内法制上特に必要となるのがDRM回避規制の強化であることは2010年12月の知財本部会合の資料「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA(アクタ):Anti-Counterfeiting Trade Agreement)(仮称)の現況について(pdf)」で日本政府自ら認めていることである)

     12月 経産省・産業構造審議会・第4回技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会でDRM回避規制の強化を含む「技術的制限手段に係る不正競争防止法の見直しの方向性について(案)(pdf)」をとりまとめ(第4回小委員会の議事要旨及び議事録(pdf)も参照。内容とそのパブコメについては、第244回及び第247回参照)

2011年 5月 ACTAの署名のための開放(外務省のリリース参照)

      5月 ACTA正式条文(pdf)の公表

      5月 DRM回避規制の強化を含む不正競争防止法改正案が日本の国会で可決・成立(衆議院の審議経過情報参照)

     10月 日本、アメリカ、オーストラリア、カナダ、韓国、モロッコ、ニュージーランド、シンガポールの各国代表がACTAに署名(外務省のリリース参照)

     12月 DRM回避規制の強化を含む改正不正競争防止法の施行(経産省の施行令に関するリリース参照)

2012年 1月 ACTAに欧州連合代表が署名(外務省のリリース参照)

      2月〜6月 欧州で大規模な反ACTAデモや反対請願の提出(「P2Pとかその辺のお話」の関連ブログ記事rt.comの記事や欧州議会のリリースなど参照)

      3月 ACTA条文の政府版日本語訳(pdf)がようやく公開

      5〜6月 欧州議会の5つの委員会がACTAをことごとく否決(第278回参照)

      6月 DRM回避規制の強化を含む著作権法改正案が日本の国会で可決・成立(未施行)(内容・経緯については、第266回第275回第276回及び第277回参照。なお、この法改正に含まれているダウンロード犯罪化は大問題だが、国会での議論からも分かるように、ダウンロード犯罪化とACTAとの間に表向き直接の関係はない)

      6月 オーストラリア議会の条約担当委員会がACTAを否決(techdirt.comの記事infojustice.orgの記事参照)

      7月 欧州議会がACTAを否決(第278回参照)

      7月 ACTAにメキシコ代表が署名(外務省のリリース参照)

      7月 メキシコ議会両院常任委員会(休会中審議委)がACTAを否決(noticias.terra.com.mxの記事(スペイン語)やメキシコ上院HPの両院常任委員会報告(スペイン語)参照)

      7月 参議院外交防衛委員会で偽造品の取引の防止に関する協定(ACTA)の趣旨説明、日本の国会で批准のための検討開始(参議院の7月26日の公報参照)

      7月 参議院外交防衛委員会で全会一致で可決(7月31日の審議中継参照)

      8月 参議院本会議で賛成217反対9で可決(投票結果参照)

(2012年7月29日夜の追記:少し表記を整えた。)

(2012年8月4日夜の追記:参議院での可決について追記した。)

(2012年8月15日夜の追記:メキシコ議会両院常任委員会での否決について追記した。)

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2012年7月16日 (月)

第278回:欧州議会における海賊版対策条約(ACTA)の否決

 今月7月4日に欧州議会で海賊版対策条約が否決された。既に、山田奨治氏(twitter)がそのブログで「違法ダウンロード刑罰化とACTA:彼我の差を考える」という記事を、84oca氏(twitter)がガジェット通信などで「欧州議会のACTA否決で深まる日本の“監視・検閲型”知財政策への疑念」という記事を、谷本真由美氏(twitter)がWirelessWire Newsで「忘れっぽい日本人といつまでも覚えている欧州人」という記事を書かれているので、リンク先をご覧頂ければ十分だと思うが、ここでも遅ればせながら、この7月4日の欧州議会における海賊版対策条約の否決について取り上げておきたい。

 まず、欧州議会のリリースは、この否決について以下のように書いている。

The Anti-Counterfeiting Trade Agreement (ACTA), was rejected by the European Parliament on Wednesday, and hence cannot become law in the EU. This was the first time that Parliament exercised its Lisbon Treaty power to reject an international trade agreement. 478 MEPs voted against ACTA, 39 in favour, and 165 abstained.

"I am very pleased that Parliament has followed my recommendation to reject ACTA" said rapporteur David Martin (S&D, UK), after the vote, reiterating his concerns that the treaty is too vague, open to misinterpretation and could therefore jeopardise citizens' liberties. However, he also stressed the need to find alternative ways to protect intellectual property in the EU, as the "raw material of the EU economy".

The EPP's key ACTA advocate, Christofer Fjellner (EPP, SE), asked before the vote that Parliament should delay its final vote until the European Court of Justice has ruled on whether ACTA is compatible with the EU treaties. However, when a majority of MEPs rejected this request, a substantial minority responded by abstaining in the vote on Parliament's consent.

While debating whether to give its consent to ACTA, Parliament experienced unprecedented direct lobbying by thousands of EU citizens who called on it to reject ACTA, in street demonstrations, e-mails to MEPs and calls to their offices. Parliament also received a petition, signed by 2.8 million citizens worldwide, urging it to reject the agreement.

ACTA was negotiated by the EU and its member states, the US, Australia, Canada, Japan, Mexico, Morocco, New Zealand, Singapore, South Korea and Switzerland to improve the enforcement of anti-counterfeiting law internationally. Wednesday's vote means that neither the EU nor its individual member states can join the agreement.

海賊版対策条約(ACTA)がこの水曜日(7月4日)に欧州議会によって否決された。これはリスボン条約で国際条約で与えられた国際条約否決権限の欧州議会による始めての行使である。478名の議員がACTAに反対し、39名の議員が賛成し、165名が棄権した。

担当報告官のデイヴィッド・マルティン(社民同盟、イギリス)は、議決の後で、本条約は極めて曖昧であり、間違った解釈が可能で、その結果市民の基本的自由を危うくし得るという懸念を繰り返し、「私の勧告に従い、欧州議会がACTAを否決したことについて大変喜ばしく思う」と述べた。しかしながら、彼はまた「欧州経済の基礎材料」として欧州における知的財産の保護のために別の方法を見つける必要性も強調した。

欧州人民党の主要なACTA唱道者だったクリストファー・フィエルナーは、議決の前に、ACTAがEU条約に合致しているかどうかについての欧州司法裁判所の判断が示されるまで最終議決を延期するべきだと求めていた。しかしながら、欧州議員の多数がこの求めを否決すると、実質少数派は議会の議決を棄権することで答えた。

ACTAに同意するかどうかの議論において、欧州議会は、街頭デモや議員に対するメールや議員事務所に対する電話によりACTAを否決せよと求める前代未聞の何千という欧州市民からの直接的ロビー活動を受けた。議会はまた、本条約を否決することを強く求める、280万人の世界中の市民から署名された請願を受理した。

ACTAは、EUとその加盟国、アメリカ、オーストラリア、カナダ、日本、メキシコ、モロッコ、ニュージーランド、シンガポール、韓国及びスイスにより、海賊対策法の執行を改善するために交渉されて来たものである。この水曜の議決は、EUもその個々の加盟国も本条約に参加することはもうできないということを意味する。

 この7月4日に採決された否決文書にも書かれている通り、欧州議会がこのような決定に至るまでには、産業研究エネルギー委員会(5月31日)、法務委員会(5月31日)、市民の自由、司法及び内務委員会(5月31日)、開発委員会(6月4日)、国際貿易委員会(6月21日)という5つの欧州議会関連・担当委員会でことごとく否決されて来たということがある。(括弧内がそれぞれの採決日。)

 この国際貿易委員会の報告の概要中にも

The report states that the unintended consequences of the ACTA text is a serious concern. On individual criminalisation, the definition of “commercial-scale”, the role of internet service providers and the possible interruption of the transit of generic medicines, Members maintain doubts that the ACTA text is as precise as is necessary. The intended benefits of this international agreement are far outweighed by the potential threats to civil liberties.

Given the vagueness of certain aspects of the text and the uncertainty over its interpretation, Members consider that the European Parliament cannot guarantee adequate protection for citizens' rights in the future under ACTA.

Therefore, the committee recommends that the European Parliament declines to give consent to ACTA. It hopes the European Commission will therefore come forward with new proposals for protecting IP.

本報告は、ACTAの条文から意図せずにもたらされ得ることについて深刻な懸念があると述べている。個人の刑事訴追、「商業的規模」の定義、インターネット・サービス・プロバイダーの役割及びジェネリック医薬に対するあり得る通過の遮断について、ACTAの条文が必要なだけ明確かどうか私たちは疑念がある。この国際条約についてはその目的とする便益より市民の自由に対する潜在的脅威が遥かに上回っている。

条文にある種の曖昧さ及び解釈の不鮮明があり、欧州議会はACTAの下で将来に渡り市民の権利が適切に保護されることを保証できないと私たちは考える。

したがって、本委員会はACTAに対して同意を与えないことを欧州議会に勧告する。すなわち、欧州委員会が知財保護について新たな提案を打ち出すことを期待する。

と簡単に書かれているが、中でも重要な市民の自由委員会の意見書を同国際貿易委員会の報告から抜き出して訳出すると以下のようになる。

General framework

1. Acknowledges that intellectual property rights (IPRs) are important tools for the Union in the 'knowledge economy' and that adequate enforcement of IPRs is key; recalls that infringements of IPRs harm growth, competitiveness and innovation; points out that ACTA does not create new IPRs, but is an enforcement treaty aimed at tackling effectively IPR infringements;

2. Reiterates that Europe needs an international agreement in order to step up the fight against counterfeit products as these products are causing substantial damage every year to European companies, thereby also putting European jobs at risk; notes that in addition, counterfeit products often do not fulfil European safety requirements, posing significant health hazards to consumers;

3. Recalls that the level of transparency of the negotiations as well as many provisions of ACTA itself, have been a cause of controversy that this Parliament has dealt with repeatedly during all stages of the negotiation; underlines that in line with Article 218(10) of the Treaty on the Functioning of the European Union (TFEU) Parliament must be immediately and fully informed at all stages of the procedure; takes the view that adequate transparency has not been ensured throughout the negotiations on ACTA; recognises that efforts to inform Parliament have been undertaken by the Commission, but regrets that the requirement of transparency has been construed very narrowly and only as a result of pressure by Parliament and civil society; emphasises that in line with the Vienna Convention on the Law of Treaties when interpreting a treaty '[r]ecourse may be had to supplementary means of interpretation, including the preparatory work of the treaty and the circumstances of its conclusion' (Article 32); points out that not all of the preparatory work for ACTA is publicly available;

4. Underlines at the same time, that it is crucial to strike the appropriate balance between enforcement of IPRs and fundamental rights such as freedom of expression, the right to privacy and protection of personal data and confidentiality of communications, the right to due process - notably the presumption of innocence and effective judicial protection - and recalls international treaties, European law and the case-law of the Court of Justice of the European Union (CJEU) as regards this fair balance;

5. In this respect stresses that IPRs are themselves among the fundamental rights protected under Article 17(2) of the Charter and under international agreements;

6. Recalls that a number of internal and external limits on IPRs, such as the prevention of unilateral abuse, contribute to establishing an appropriate balance between the enforcement of IPRs and the fundamental rights and interests of the public;

7. Points out that fundamental rights are, by nature, based on a number of assumptions: they are universal, based on rights relating to the personality and on non-material interests; they are non-transferable and do not cease; they emanate from the person, are innate and are governed by public law; notes, in this regard, that a number of objects protected by IPRs only exhibit some of these characteristics, thus it is necessary to distinguish the use of effective tools to protect such rights, e.g. in the case of life-saving medicines on the one hand or industrial patents to protect designs on the other, from other interests deriving from other fundamental rights such as, for example, protecting human health;

8. Reiterates that the entry into force of the Treaty of Lisbon on 1 December 2009 has fundamentally changed the legal landscape of the Union, which should establish itself increasingly as a community of shared values and principles; recalls that the new, multi-level Union system of fundamental rights protection emanates from multiple sources and is enforced through a variety of mechanisms, including the legally binding Charter, the rights guaranteed by the Convention for the Protection of Human Rights and Fundamental Freedoms (ECHR), and the rights based on the Member States' constitutional traditions and their interpretation according to the jurisprudence of the European Court of Human Rights and the CJEU; underlines that this enhanced human rights architecture and high level of protection that the Union is pursuing ('the European model') must be also upheld in its external dimension as the Union must be 'exemplary' in matters of fundamental rights and should not be perceived as allowing 'fundamental rights laundering';

9. Considers that 'dignity, autonomy and self-development' of human beings are deeply ingrained in this European model and recalls that privacy, data protection, together with freedom of expression have always been considered as core elements of this model as fundamental rights as well as political objectives; underlines that this must be taken into account when balancing against the right to protection of intellectual property and the right to conduct a business, rights also protected by the Charter;

10. Recalls the positions expressed by Parliament in its recommendation of 26 March 2009 to the Council on strengthening security and fundamental freedoms on the Internet which are of relevance to the current debate, including constant attention to the absolute protection and enhanced promotion of fundamental freedoms on the Internet;

11. Reiterates that limitations on the exercise of the rights and freedoms recognised by the Charter must comply with the provisions of the ECHR and with Article 52 of the Charter which prescribe that such limitations be provided for by law, necessary and proportionate to the legitimate aims pursued;

12. Recalls that international agreements concluded by the Union must be compatible with the provisions of the Treaties, are binding upon the institutions and on its Member States' (Article 216(2) TFEU) and according to CJEU settled case-law form an integral part of the Union legal order; underlines that in order to recognise direct effect for provisions of international agreements these 'must appear as regards their content, to be unconditional and sufficiently precise and their nature and broad logic must not preclude their being so relied on'; also recalls the case-law of the CJEU according to which the requirements flowing from the protection of general principles recognised in the Union legal order, which include fundamental rights, are also binding on Member States when they implement Union rules, and according to which obligations imposed by an international agreement cannot have the effect of prejudicing the constitutional principles of the Union Treaties, which include the principle that all Union acts must respect fundamental rights;

13. Deeply regrets that no specific impact assessment on fundamental rights has been conducted on ACTA and does not consider that 'there is no justification for an impact assessment on ACTA since it does not go beyond the [Union] acquis and no implementation measures are required', especially considering the view taken by the Commission in its 2010 Communication on the 'Strategy for the effective implementation of the Charter';

14. Recalls that the Commission has decided to refer ACTA to the CJEU on the question of whether it is compatible with the Treaties, in particular the Charter;

15. Respects the role of the CJEU as foreseen in the Treaties; emphasises, however, that the assessment of the Committee on Civil Liberties, Justice and Home Affairs in this field must take into consideration Parliament's role in the protection and promotion of fundamental rights in their letter as well as in their spirit, in the external and internal dimensions, from the perspective of the individual as well as from that of a community; moreover, considers that such an assessment should examine whether the European model described above which requires high standards of protection for fundamental rights and places dignity, autonomy and self-determination at its core has been reflected in the instrument under analysis;

The challenge of legal certainty and of appropriate balance

16. Notes that ACTA includes provisions on fundamental rights and proportionality both general (e.g. Article 4 and Article 6, Preamble) and specific (e.g. Articles 27(3) and (4)); in this context, indicates, however, that Article 4 covers only disclosure of personal data by Parties and that the references included in Article 27 (3) and (4) should be considered as standard and minimal safeguards; points out that privacy and freedom of expression are not simple principles as referred to in ACTA, but are recognised as fundamental rights by inter alia the International Covenant on Civil and Political Rights, the ECHR, the Charter, and the Universal Declaration of Human Rights;

17. Wonders whether the concepts set out in ACTA, such as the 'basic principles' or the concept of 'fair process', are compatible with the concepts set out in the Charter, such as fundamental rights or the right to a fair trial arising from Article 47;

18. Notes that concern has especially been raised on those provisions that leave room for flexibility in their implementation, on the basis that these provisions might be implemented in the Union in a manner that could be illegal or contrary to fundamental rights;

19. Considers, furthermore, that while it is understandable that an international agreement negotiated by Parties with different legal traditions will be drafted in more general terms than is the case for Union legislation, taking into account the different means in which Parties deal with the balance between rights and interests and allowing for flexibility, it is also crucial that legal certainty and strong and detailed safeguards be embedded in ACTA;

20. Underlines that there is significant legal uncertainty in the manner in which some key provisions of ACTA have been drafted (e.g. Article 11 (Information related to Infringements), Article 23 (criminal offences), Article 27 (scope of the enforcement measures in the digital environment), especially Article 27(3) (cooperation mechanisms), and Article 27(4); warns against the potential to deliver fragmented approaches within the Union with risks of inadequate compliance with fundamental rights, particularly the right to protection of personal data, the right to due process and the right to conduct business; points out that these risks are especially present as regards Article 27 (3) and (4) in light of the lack of precision of those texts but also having in mind the practices currently taking place in some Member States (e.g. large scale monitoring of Internet by private parties) whose conformity with the Charter is questionable;

21. Considers that Section 5 'Enforcement of Intellectual Property Rights in the Digital Environment' is in particular need of greater clarity and coherence, as inaccuracies and incompleteness may result in divergent national rules, and such a fragmented system would act as an obstacle to the internal market, which, in the case of the Internet environment, would preclude the wider cross-border use of the object protected by IPRs;

22. Recalls that according to Article 49 of the Charter no one shall be held guilty of any criminal offence on account of any act or omission which did not constitute a criminal offence under national or international law at the time when it was committed; points out in this regard that the scope of several provisions set out in Section 4 (Criminal Enforcement) is ambiguous;

23. Shares the concerns expressed by the European Data Protection Supervisor in its opinion of 24 April 2012 on ACTA, notably in relation to the unclear scope, the vague notion of "competent authority", the processing of personal data by Internet Service Providers (ISPs) through voluntary enforcement cooperation measures and the lack of appropriate safeguards in relation to fundamental rights;

24. Points out, that while several ACTA provisions (e.g. Article 27 (3) and (4)) are of a non-mandatory nature and thus do not establish any legal obligation on the Parties which would be contrary to fundamental rights, the lack of specificity of the provisions, of sufficient limitations and safeguards casts a doubt on the necessary level of legal certainty required from ACTA (e.g. safeguards against misuse of personal data or to protect the right of defence); emphasises that these deficiencies should not be acceptable in an agreement where the Union is a contracting party; recalls that other international agreements with fundamental rights implications have secured a higher level of precision and safeguards;

25. Takes the view that measures allowing the identification of a subscriber whose account was allegedly used for infringement would involve various forms of monitoring of individuals' use of the Internet; emphasises that the CJEU has ruled in unquestionable terms that monitoring of all electronic communications with no time limit and no precise scope such as filtering by ISPs or collection of data by rights holders does not strike a fair balance between IPRs and other fundamental rights and freedoms, in particular the right to protection of their personal data and the freedom to receive or impart information or the freedom to conduct a business (Articles 8, 11 and 16 of the Charter);

26. Considers that ACTA does not contain explicit guarantees concerning the protection of sensitive personal information, the right of defence (particularly the right to be heard) or the presumption of innocence;

27. Considers that ACTA does not provide guarantees on preserving the right to respect for private life and communications arising from Article 7 of the Charter ;

The duty to uphold fundamental rights

28. Finds it disappointing that additional and substantial efforts to further consult all the stakeholders and incorporate their views were not undertaken in the run-up to the negotiations on ACTA; deplores that the high standards of transparency and good governance the Union is striving to set have not been met as regards ACTA; believes, therefore, that ACTA comes at a very premature stage in particular with regard to areas where the Union has not yet had the chance to have thorough public deliberation;

29. Emphasises that ISPs should not police the Internet and therefore calls on the Commission and the Member States to ensure legal clarity on the role of ISPs; considers that ACTA only targets large-scale infringement of IPRs, allowing for Parties to exempt non-commercial use from its provisions on criminal enforcement procedures; notes that it is unclear where to draw the line between commercial and non-commercial use; underlines also the importance of differentiating between small scale non-commercial downloading and piracy;

30. Believes that counterfeiting and piracy committed wilfully and on a commercial scale are serious phenomena in the information society and that it is therefore necessary to prepare a comprehensive Union strategy to deal with them; such a strategy should not be focused solely on repression or the impact of counterfeiting and piracy, but also on their causes, should respect fully fundamental rights in the Union and should be simultaneously effective, acceptable and understandable for society as a whole; recalls that, following a request from Parliament, the Commission, in its Digital Agenda for Europe strategy, made a commitment to adopting a Code of EU online rights in 2012; therefore calls on the Commission that the Code of EU online rights should unambiguously define Union citizen users' rights and set out what they may or may not do in the digital environment, including when they use the content protected by IPRs;

31. Emphasises that the States where the greatest infringements of IPRs occur, such as China, Pakistan, Russia and Brazil, were not invited to sign ACTA, and it is unlikely that those States will sign up to ACTA in the near future, and this raises important questions about the efficacy of the measures proposed by ACTA;

32. Considers that when fundamental rights are at stake there shall be no place for any ambiguity; is of the view that ACTA has not avoided such ambiguity, but, on the contrary, entails additional and various layers of ambiguity; recalls that the jurisprudence of the European Court of Human Rights affirms that any limitation on fundamental rights and freedoms foreseen by law must be foreseeable in its effects, clear, precise and accessible, as well as necessary in a democratic society and proportionate to the aims pursued;

33. Is of the view that ACTA fails to secure adequate safeguards and an appropriate balance between IPRs and other core fundamental rights, as well as failing to secure the necessary legal certainty for its key provisions;

34. In light of all of the above and without prejudice to the CJEU's assessment of the matter, but taking into consideration Parliament's role in the protection and promotion of fundamental rights, concludes that the proposed ACTA, for which Parliament's consent has been requested, is incompatible with the rights enshrined in the Charter and calls on the Committee on International Trade, as the committee responsible, to recommend that Parliament declines to consent to the conclusion of ACTA.

SHORT JUSTIFICATION

Your Rapporteur believes that protecting intellectual rights in Europe is essential to maintain our continent's competitive advantage in a globalised, fast-moving and interconnected economy. Artists and innovators should be compensated for their genius. At the same time, those same artists, together with activists, political dissidents and citizens willing to engage in the public debate, should not in any way find their ability to communicate, create, protest and take action inhibited. Especially not today, when, around the world, we are experiencing, and we welcome, a vast, uncontrolled expansion of voices which are finally able to be heard. As the sole direct representative of 400 million European citizens, the European Parliament has the responsibility to safeguard that this expansion will remain unhindered.

The culture of file-sharing, enabled by the remarkable technological advance of the last decades, certainly poses direct challenges to the way we have dealt with compensation of artists and proper enforcement of intellectual rights for the past decades. Our task, as policymakers, is to overcome this challenge by striking an acceptable balance between the possibilities that technology unravels and the continuation of artistic creation, which is an emblematic token of Europe's place in the world.

We are therefore, at a defining moment of this debate, an exciting juncture of change. In this sense, your Rapporteur believes that ACTA comes at a very premature stage and a possible adoption of the Treaty would essentially freeze the possibility of having a public deliberation that is worthy of our democratic heritage. Against such a monumental challenge, what we absolutely need is that every expert we have, every affected organisation or institution we can spare, every citizen that desires to voice an opinion participates, from the beginning, in the creation of a modern social pact, a modern regime of protecting intellectual property rights. ACTA is not, and was not conceived to be, this. Instead, the Rapporteur believes that an adoption of ACTA would prematurely strangle the debate and tip the balance on one side, would allow for Member States to experiment on laws that could potentially harm fundamental freedoms and set precedents that could be undesirable for future societies. By highlighting these dangers, this opinion aims to enrich the discussion undertaken by the European Parliament and help its Members make the most informed and rounded decision on the fundamental issue of rejecting or giving our consent to ACTA.

全体的な枠組み

.(市民の自由委員会は)知的財産権が欧州連合にとってその「知識経済」において重要なツールであり、知財権の適切なエンフォースメントが鍵であることを認め;知財権の侵害が成長、競争及びイノベーションを阻害することを思い起こし;ACTAは新たな知財権を作るものではなく、知財権侵害に効果的に取り組むことを目的とした執行に関する条約であるということを指摘し;

.毎年欧州企業にかなりの損害を与え、欧州の職も危うくしている模倣品に対抗して行くために欧州が国際条約を必要としていることを繰り返し;さらに、模倣品が欧州の安全要件を満たさないことも良くあり、消費者に重大な健康上の危険をもらたし得ることにも留意し;

.交渉並びにACTA自体の多くの規定の透明性のレベルが論争の種となっており、本議会がその交渉の全ての段階を通してそのことを問題としていたことを思い起こし;欧州連合機能条約(TFEU)の第218条第10項の規定通り欧州議会は即座に完全にその全ての手続きについて情報を受けなければならないということを強調し;ACTAの交渉において適切な透明性が確保されて来なかったと判断し;欧州議会に情報提供しようとする努力が欧州委員会によってなされたが、残念ながら透明性の要件は非常に狭く解釈され、欧州議会及び市民社会の圧力の結果としてしか得られなかったと認め;条約法に関するウィーン条約の通り条約解釈において、「条約の準備文書や締結の際の事情等への依拠は、解釈の補足的手段としてのみある」(第32条)ことを強調し;ACTAの準備文書の全てが公開されていないことを指摘し;

.同時に、知財権のエンフォースメントと、表現の自由、プライバシーの権利及び個人情報保護及び通信の秘密や適正な法手続きに関する権利−特に推定無罪の原則及び効果的な法的保護−のような基本的な権利との間の適正なバランスにそれは深刻な影響を与えるものであることを強調し;そして、この公正なバランスに関して、国際条約、欧州法及び欧州司法裁判所の判例があることを思い起こし;

.この点で、知財権は欧州憲章第17条第2項及び国際条約においてそれ自体基本的な権利とされていることを強調し;

.一方的な濫用の禁止のような限界が知財権には内外にかなりあり、知財権のエンフォースメントと基本的な権利と公益の間で適切なバランスを確立することに役立っていることを思い起こし;

.基本的な権利は、その性質から、多くの前提に基づいていることを、それは普遍的であって、人格に関する権利及び非物質的利害に基づいていることを指摘し;それは譲渡不可能であり停止されることもなく;それは個人から発し、生得のものであって、公法によって管理され;この点で、知財権によって保護される多くの対象はこのような性質のいくつかを見せているのみであって、例えば、生命を救う医薬やデザインパテントの場合におけるような権利を保護する効果的なツールの利用において、例えば、人の健康を守らなくてはいけないというような他の基本的権利から来る利益を分けて考える必要があることに留意し;

.2009年12月1日のリスボン条約の発効が欧州連合の法的風景に根本的な変化をもたらし、これを価値観と原則を共有する共同体としてより強固にしたということを繰り返し;基本的な権利を保護する新たな多層の欧州連合システムは、様々な法源から来ており、法的拘束力を持つ憲章、人権及び基本的な自由を守るための条約(ECHR)によって保障された権利、そして、各加盟国の憲法法制及びその欧州人権裁判所及び欧州司法裁の判決に従う解釈等のいろいろな機構によってエンフォースされていることを思い起こし;欧州連合が追求しているこの強化された人権の構造及びハイレベルな保護(「欧州モデル」)はその外部に対しても維持されなければならないのであって、欧州連合は基本的な権利に関連する事項において「模範的」でなければならず、「基本的な権利のロンダリング」を許したと受け止められるようなことはあってはならないということを強調し;

.人類の「尊厳、自治及び自己開発」がこの欧州モデルに根深く入り込んでいることを考慮し、プライバシー、個人情報保護が表現の自由とともに、基本的な権利であると同時に政治的目的としてこのモデルの中心要素と常に考えられることを考慮し;知的財産の保護を受ける権利と商業を行う権利をバランスさせる際、やはり欧州憲章によって保護される権利を考慮に入れなければならないことを強調し;

10.インターネットにおいて基本的な自由の強化推進を完全に守るよう常に注視する等、今の議論に関係し、インターネットにおけるセキュリティと基本的な自由の強化について欧州議会が2009年3月26日の勧告で欧州理事会に表明した立場を思い起こし;

11.欧州憲章によって認められている権利及び自由の行使における制限は、そのような制限は法によって規定され、その正当な目的の追求に必要でありかつそれと釣り合いの取れたものでなければならないことを定める、ECHRの規定及び欧州憲章の第52条と合致しなければならないことを繰り返し;

12.欧州連合によって締結される国際条約は欧州条約の規定と合致していなければならず、それはその機関及び加盟国を拘束し(TFEU第216条第2項)、欧州司法裁が判断を示した判例に従い欧州連合の法秩序の不可分の一部をなすことを思い起こし;国際条約の規定の直接的な影響を把握するために、それは「その内容に関して、無条件に十分明確でなければならず、その性質と広い文言がその依拠するところのあり方を害するようであってはならない」ことを強調し;基本的な権利等の欧州連合の法秩序において認められている一般原則の保護から来る要件に関する欧州司法裁の判例は、欧州連合の法令を実施している加盟国を拘束するものであり、そして、そのことから、全ての欧州連合法令は基本的な権利を尊重しなければならないとすることを含む欧州連合条約の憲法原則を害する効果が、国際条約によって課される義務にあってはならないことも思い起こし;

13.基本的な権利に関する具体的な影響評価がACTAに関して行われて来なかったことは極めて残念であり、「それは[欧州連合の]法制を超えるものではなく、実施措置は何も求められていないことから影響評価を必要とする理由はない」という考えを取ることはなく、特にこのような見解を「欧州憲章の効果的な実施のための戦略」に対する2010年の通知において欧州委員会が取ったことを考え;

14.欧州条約、特に欧州憲章と合致しているかどうかという問題に関してACTAを欧州司法に付託すると欧州委員会が決定したことを思い起こし;

15.欧州連合条約で予定されている欧州司法裁の役割を尊重し;しかしながら、この分野における市民の自由、司法及び内務委員会の審議は、文字通り並びにその精神において、内部及び外部において、個人並びに共同体の観点における、欧州議会の役割を考慮しなければならないことを強調し;さらに、このような審議は、高度な水準の基本的な権利の保護を求め、尊厳、自治及び自己決定をその中心とする上記の欧州モデルが、審議される手段に反映されて来たことを考え;

法的安定性及び適切なバランスに対する危惧

16.ACTAは基本的な権利及びバランスに関する規定を両方とも一般的な形(例えば、第4条及び第6条、全文)及び特定の形(例えば、第27条第3項及び第4項)で含んでいることに注意し;しかしながら、その内容において、第4条は参加国による個人情報の開示のみをカバーしており、第27条第3項及び第4項も基準及び最低限の保障条項として考えられることを指摘し;プライバシーと表現の自由はACTAで言及されているように単なる原則ではなく、とりわけ市民の政治的な権利に関する国際条約、ECHR、欧州憲章及び世界人権宣言によって基本的な権利と認められているものであることを指摘し;

17.「基本原則」あるいは「公正な手続き」の概念のようなACTAで規定されている概念が、基本的な権利やその第47条に由来する公正な裁判を受ける権利のような欧州憲章に規定されている概念と合致しているかどうかについて疑念があり;

18.これらの規定が違法であるか基本的な権利に反する形で欧州連合で実施され得ることから、柔軟な実施の余地を残したこれらの規定について懸念が持ち上がっていることに留意し;

19.さらに、参加国が異なる法的慣習から交渉した国際条約は欧州連合法令の場合より一般的な用語で起草されると理解されるが、参加国に権利と利害の間のバランスを取り扱う様々ややり方があることを考慮すると、柔軟性を許すことになるが、ACTAに法的な明確性と強く詳細な保障条項が組み込まれるべきだったことが決定的であることを考慮し;

20.ACTAの主要ないくつかの規定がその起草された形において(例えば、第11条(侵害に関する情報)、第23条(刑事罰規定)、第27条(デジタル環境における執行手段の範囲)、また特に第27条第3項(協力機構)及び第27条第4項)かなりの法的不明確性があることを強調し;基本的な権利、特に、適正な法手続きを受ける権利及び商業を行う権利について合致していない恐れがあり、欧州連合においてバラバラのアプローチをもたらす潜在的な可能性があることを警告し;これらの危険性は特に第27条第3項及び第4項に関してその条文が明確性を欠いていることに起因しているが、その欧州憲章との合致に疑問のある各加盟国において現在取られている実務(例えば、私的団体によるインターネットの大規模な監視)を念頭に置いていることも指摘し;

21.不正確性と不完全性は相違する国内規制をもたらし得、そのようなバラバラの法制は域内統一市場の妨げとなり、それは、インターネット環境においては、知的財産に酔って保護された対象のより広い越境取引を阻害することとなるため、第5章「デジタル環境における執行」は特により明確性及び整合性を必要としていることを考慮し;

22.欧州憲章の第49条に従い、いかなる者も、それが犯された時に国内又は国際法で犯罪を構成しないいかなる行為又は過失に関しても刑事罰を受け得ないことを思い起こし;この点で第4章(刑事執行)に置かれたいくつかの規定の範囲が曖昧であることを指摘し;

23.特にその不明確な範囲、「権限を有する当局」という曖昧な概念、自主的な執行協力措置を通じたインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)による個人情報の処理及び基本的な権利に関する適切な保障条項の欠如に関し、欧州データ保護監督官がACTAに関する2012年4月24日の意見で表明した懸念を共有し;

24.ACTAのいくつかの規定(例えば、第27条第3項及び第4項)は非強制的な性質であり、何ら基本的な権利に反するような法的義務を参加国に課すものではないが、規定の明確性、十分な制限と保障条項の欠如からACTAから求められる法的明確性の必要なレベル(例えば、個人情報の悪用に対する、あるいは抗弁の権利の保護に関する保障条項)に関する疑義がもたらされていることを指摘し;これらの欠陥は欧州連合が締約国となる場合の条約としては受け入れられるものではないことを強調し;基本的にな権利と関わりのある他の国際条約ではより高いレベルの正確性と保障条項が確保されて来たことを思い起こし;

25.そのアカウントが侵害のために使われたと推定される契約者の特定を可能とする措置が、インターネットにおける個々人の利用を監視する様々な形式を含むだろうとする見方を取り;ISPによる監視や権利者による情報収集のように、無期限に曖昧な範囲であらゆる電気通信を監視することは、知財権と他の基本的な権利及び自由との間で、特にその個人情報保護権及び情報を受け伝える自由や商業の自由(欧州憲章の第8、11及び16条)との間で公正なバランスを欠くと、欧州司法裁が疑問の余地のない言葉で判断を示していることを強調し;

26.センシティブな個人情報の保護や抗弁の権利(特に聴取の権利)や推定無罪の原則に関する明示的な保障が含まれていないことを考慮し;

27.ACTAが欧州憲章の第7条から来る私的生活及び私的通信の尊重の権利を保護する保障を規定していないことを考慮し;

基本的な権利を守る義務

28.さらに全ての利害関係者の話を聞き、その見解を取り入れさせようとする相当の追加的努力がACTAの交渉過程において取り上げられなかったことは残念なことであり;欧州議会が打ち立てようとしている高いレベルの透明性と適切な統治についてACTAが満たしていないことは残念極まることであり;したがって、特に欧州連合が徹底的に広く国民的な議論をする機会が得られなかった領域について、ACTAが非常に生煮えな段階でもたらされたと考え;

29.ISPはインターネットにおける警察であるべきではなく、そのために欧州委員会及び加盟国にISPの役割を法的に明確にすることを求めていることを強調し;ACTAが大規模な知財権侵害のみをターゲットにしており、その参加国に非商業的利用をその刑事執行手続き規定から外すことを認めていることを考慮し;商業的利用と非商業的利用の間の線をどこに引くかは不明確であることに留意し;また小規模の非商業的ダウンロードと海賊行為を区別することの重要性を強調し;

30.故意に商業的規模でなされる模造及び海賊行為は情報社会における深刻な現象であり、そのことからその対策に関して包括的な欧州連合の戦略を用意することが必要であると考えるが;このような戦略は模倣品と海賊版の影響もしくは抑圧のみに、しかしその原因にも注力するべきであって、有効であると同時に、社会全体にとって受け入れ可能で理解可能なものであるべきであり;欧州議会からの要請に従い、欧州委員会が、その欧州のためのデジタルアジェンダ戦略において、2012年に欧州連合オンライン権利法典を採用するという約束をしていることを思い起こし;したがって、欧州連合オンライン権利法典は明確に欧州連合のユーザーの権利を定義し、知財権によって保護されているコンテンツの利用に関する場合も含め、デジタル環境においてユーザーが何ができて何ができないのかを規定することとなっていることを欧州委員会に思い起こしてもらい;

31.中国、パキスタン、ロシア及びブラジルのような知財権が最も侵害されている国がACTAに入っておらず、これらの国がACTAに近い将来署名することはなさそうであり、このことはACTAが提案する措置の有効性に対して多大の疑問を惹起することを強調し;

32.基本的な権利が危うくなるような場合に曖昧な余地が残されてはならないことを考慮し;ACTAはそのような曖昧さを排除しておらず、逆に、曖昧さについて様々な追加の余地が含まれすらしているという見解を取り;法によって予見される基本的な権利に対する制限はその効果において予見可能であり、明確で、正確で、理解可能であると同時に、民主主義社会において必要なだけに限られ、その追求する目的に照らしてバランスのとれたものでなければならないと、欧州人権裁判所の判例が明確に述べていることを思い起こし;

33.ACTAは知財権と他の中心的な基本的権利との間で適切な保障条項及び適切なバランスを確保することに失敗していると同じく、その中心となる規定について必要な法的明確性を確保することにも失敗しているという見解を取り;

34.上記の全てのことに照らし、欧州司法裁の判断事項を妨げることはないが、基本的な権利の保護及び推進における欧州議会の役割を考慮に入れ、提案され、議会の同意が求められているACTAは、欧州憲章に謳われた権利と合致せず、主担当委員会である国際貿易委員会に、議会がACTAの締結に同意を与えないよう勧告することを呼びかける。

まとめ

欧州における知的財産権の保護が、グローバル化が進み、動きが速く、相互につながった経済における、私たちの競争的な優位を維持するために必要不可欠であると担当報告官は考えている。アーティストと革新者はその才能に対する報酬を受けるべきである。同時に、この同じアーティストとともに、広く国民的な議論に参加したいという活動家、政治的反対派及び市民は、いかなる形にせよ、その情報を伝え、創造し、反対し、行動する権利を禁止されてはならない。特に今日だけのことでなく、ついには聞かれることになる、広く、統制不可能な声の広がりを、世界中で、私たちが経験し歓迎している時にはそうである。4億の欧州市民の唯一の直接的な代表として、欧州議会はこのような広がりが妨げられないことを保障する責任を有している。

先の10年間の注目に値する技術的発展によって可能とされたファイル共有の文化が、この十年間にアーティストと知的財産権の適切な執行に私たちが取り組むそのやり方に関して直接的な課題を突きつけて来たのは確かである。私たちの仕事は、立法家として、技術が解きほぐす可能性と、世界における欧州の地位の象徴的な印である芸術的な創造の継続との間で受け入れ可能なバランスを取りつつこの課題を克服することにある。

すなわち、私たちは、この議論の決定的な瞬間に、胸を驚かせるような変革期にある。この意味で、ACTAは非常に生煮えの段階でもたらされたものであり、条約の採択は、必然的に私たちの民主主義的な遺産として価値ある広く国民的な議論の可能性をも止めることになると担当報告官は考えている。このような極めて大きな課題に対し、私たちが完全に必要としていることは、私たちが擁する全ての専門家、私たちが許容している全ての関係機関又は組織、意見を述べたいと考える全ての市民が、現代の社会契約、現代の知的財産権法制の創造において、最初から参加することである。ACTAはそのようなものでなく、そのようなものであったとも考えられない。それに対し、ACTAの採択は生煮えの段階で議論を潰し、バランスを一方に傾け、基本的な権利を害し得、将来の社会にとって望ましくない先例となる法律を作る余地を加盟国に与えかねないものであると担当報告官は考えている。この危険性を強調し、本意見は、欧州議会によってなされる議論を補強し、私たちの同意をACTAに与えるべきか否かという本質的な問題において、実に広い見識に基づきバランスのとれた議論を議員が行う助けとなることを目的とするものである。

 欧州議会において海賊版対策条約(ACTA)の何が問題となったかは上を読んで頂ければわかると思うが、要するに、欧州議会は主として、

  • ACTAの交渉が極めて不透明に行われ広く国民的な議論が全くなされて来なかったこと
  • 結果として、ACTAの条文が曖昧となっており、表現の自由やプライバシー、個人情報保護の権利などを害するような各国法制をもたらす危険があること
  • 特に、非商業的規模の個人による著作権侵害に対する刑事訴追や、ISPなどによる通信の監視・ISPの著作権警察化をもたらす危険性が高いこと

を問題として欧州議会はACTAを否決しているのである。

 これに対し、日本はと言えば、この前のダウンロード犯罪化法案の可決成立で、欧州議会が否決の理由とした、非商業的規模の個人侵害に対する刑事罰化や、ISPなどによる通信の監視をもたらすかもしれないというACTAに対する懸念が極めて正しいことを見事に全世界に発信することになったのだが、日本の場合、このダウンロード犯罪化が実のところACTAとあまり関係ないという点で2重のバカさ加減を露呈しているのが本当に救い難い。(前回のエントリを読んで頂いても分かるだろうが、日本のダウンロード犯罪化の審議ではACTAのあの字も出て来ない。ただし、タイミングから見て、日本のダウンロード犯罪化がACTAとあまり関係ないと言っても海外では全く信じてもらえないだろう。)

 日本政府の見解では、ACTA批准には不正競争防止法と著作権法におけるDRM回避規制の強化だけで足りるとしていたはずであり(でなければ国会での修正を待つことなく最初から内閣提出の著作権法改正案にダウンロード犯罪化が盛り込まれていたはずである。なお、ACTAの条文については外務省のHP参照)、頭の悪い話だが、日本においては、

  • 既にダウンロード犯罪化まで可決成立していること
  • ACTAとダウンロード犯罪化の間に表向き直接の関係はないこと
  • ACTAとの関係ではDRM回避規制の強化がまず問題となるが、これも不正競争防止法と著作権法のそれぞれで改正法が成立済みであること(不正競争防止法については施行済み)

を前提として議論せざるを得ないというところからして頭が痛い。(このような前提に立って考えると、日本が関係する条約として今後来るだろうTPPの方が反対する上でACTAより重要度が高いというのもある意味正しい。)

 欧州で特に危険だとして否決されたACTAをわざわざ好きこのんで批准するような国は少ないだろうし、実質この欧州議会の否決でACTAは世界的には死んだも同然だと思うが、日本政府はまだまだ主導国のメンツ可愛さにACTA批准をしようとして来るのだろう。実際、ACTA批准によって今回のダウンロード犯罪化やDRM回避規制等の規制強化が完全に既成事実化される恐れも強く、国会において欧州における結論も踏まえた慎重な議論を求めたいところだが、どうも前提をきちんと理解して議論できるかとなると甚だ心許ないのが実に残念極まる。

 大体、日本において、著作権と条約の関係を前提からきちんと理解できる人間からして少なく、その上で条文に基づいて欧州議会レベルで基本的な権利に関する議論ができる人間となるとほとんど絶望的なくらいに少ないだろうと考えられるのがこの問題を否応なくどうしようもないものとしているが、これは今後を待つしかない。

 欧州議会で可決の瞬間"HELLO DEMOCRACY, GOODBYE ACTA"(「こんにちは民主主義、さようならACTA」)というビラを多くの議員が掲げたのを見ることができるが(欧州議会の7月4日の録画でVoting TimeのSpeakersからMartin David氏をクリックすることで採決の様子を見ることができる)、これは全くその通りだろう。ただし、この欧州議会の結論は欧州各国での行き過ぎた著作権保護で市民が痛い目を見た結果でもある。今のところ日本は「こんにちはダウンロード犯罪化、さようなら民主主義」としか言いようのないどうしようもない状態にあるが、今後のことは分からない。常に私は個人として今後のためにできることをして行くしかないと思っている。

(2012年7月17日夜の追記:いくつか誤記を修正した。また、特に上記の市民の自由委員会報告の第29段落の翻訳で何故か訳し漏らしていた最後の1文を追加した。)

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2011年2月 9日 (水)

第251回:ウィキリークスで公開された模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)関連アメリカ公電

 ウィキリークスの一連のアメリカ公電リークで海賊版対策条約(ACTA)関連のものが公開されないかと思っていたが、最近ようやく少し関連するものが出て来た(laquadrature.netの記事ars technicaの記事「ウィキリークス・ウォッチ・ジャパン」のブログ記事「電子書籍、ヴォーカロイド、そしてコンピュータ将棋」のブログ記事参照)。今回は、ACTAの検討経緯を知る上で第一級資料と言って良い、その関連公電の内容を一通り紹介したいと思う。

 他の点についても言いたいことがない訳ではないが、主に知財関連の公電(大体KIPRというタグが付けられているようである)から、海賊版対策条約(ACTA)に関する記述のある10通の公電の関連部分を、以下に時系列順に訳出する。(いつも通り翻訳は拙訳。赤字強調は全て私が付けたもの。より正確には直接リンク先の原文を当たってみることをお勧めする。)

(1)2006年6月28日の東京発公電

主題:日本は海賊版対策条約(ACTA)の提案を支持

1.要約:似た考えを持つ選ばれた国々の間で高水準のスタンダードの海賊版対策条約を模索することにより、模倣品と海賊版の拡散を抑止する世界的枠組みを推進するという日本の目指す目標に対するアメリカ通商代表部の修正提案を、日本の外務官僚は、異論なく支持すると表明。日本側は、アメリカがこの条約に正確には何を入れようとし、どのようなスタンダードをアメリカが必須と考えているのかについてより学びたいという。

(背景)
2.スタンフォード・マッコイ米通商代表部知財執行主席交渉官が、6月13・14日に、日本外務省と経産省と知財本部の官僚と会談。他の国々が参加したがるような、知財執行の「ゴールド・スタンダード」を似た考えを持つ少数の国の間で確立することを目的としている、この多国間のTRIPSプラスのACTAに関するアメリカ通商代表部のコンセプトについて、両会談でマッコイが説明。これは、そこでは高水準のスタンダードを確立することが難しいだろうG8やOECDのような国際グループとは何ら関係のない、独立の条約であるべきとマッコイは強調。マッコイは、最近交渉した自由貿易協定(FTA)の一部としてなど(執行に関する要素を別としても)高水準のスタンダードの知的財産権に関する協定の交渉の経験をアメリカは多く有していると指摘。この条約の考えられるパートナーは、オーストラリア、シンガポール、韓国、ニュージーランド、スイス、モロッコ、ヨルダン、EU諸国、メキシコ、カナダ。中国に対するあり得る知的財産に関するWTO提訴についてのマッコイと同じ職員らとの議論については別途報告。

(日本政府は、海賊版対策条約の修正提案を歓迎)
3.日本の官僚たちは、アメリカ通商代表部の提案した海賊版対策条約を支持し、異論なく感激していた。彼らは驚いていたが、強力なカウンターの提案でアメリカが答えたことについて喜んでいた。(日本の官僚たちによると、今までのところ、フランスだけが彼らの先の海賊版対策条約のアイデアについて喜んで答えてきたという。)彼らは提案をさらに研究し、ワシントンの日本大使館を通じて質問を送ると約束。毛利忠敦外務省国際貿易課主席課長補佐は、小泉首相が条約を提唱したG8の中でこの件を提起し続けることを日本政府は望んでいたが、何故それが独立の条約でなければならないのかということに関するアメリカの主張を聞き入れる意志があると発言。日本の官僚たちは、OECD職員の専門知識を生かし海賊版対策条約の起草・交渉についてその手を借りたいと考えていたが、アメリカ通商代表部にはこの分野における十分な専門知識があり、OECDや他の国際機関を巻き込む必要はないというマッコイの明言に納得した模様。

4.日本の外務省、経産省と知財本部の官僚たちは皆、アメリカ政府が提案条約についてどのようなスタンダードと中核コンセプトを必須と考えているかについてより知りたいという。荒井知財事務局長は、条約の条文案又は少なくとも最近アメリカが交渉したFTAの知財セクションのコピーを提供してくれるようアメリカ通商代表部に要請。マッコイは、主要事項に関する相互理解への到達のための日米間のさらなる検討に合意。マッコイは、日本がこの条約に関して、アメリカをそのパートナーとして、引き続きリーダーシップを取り続ける必要があり、日本の官僚らは外交的下働きを多くしなければならないだろうと指摘。

5.日本の官僚の何人かは、条約交渉のスケジュールを気にしていた。荒井知財事務局長は、条約交渉に1年、その発効までもう1年という日米目標を提案。荒井は、交渉国が条約に何が含まれるべきかということに関するお互いの議論に足を取られて立ち往生したら、これは状況を改善させることなく海賊たちを愉快がらせるだけであり、恥になるだろうと注意。この理由のため、彼は、アメリカ政府で既に何がしかのコンセンサスがあるTRIPSプラスのスタンダードについて集中的に検討するべきと助言。荒井はまた、アメリカとEUが、地理的表示のような脇の問題で紛糾しないことを望んだ。

(コメント)
6.日本の官僚たちは、アメリカの良く練られたカウンターの提案を受け取ったことについて心から喜び驚いているようだったが、どのように先に進むかについて不確かなようだった。明らかに日本政府の官僚たちは、条約の起草についてOECDの専門家の手を借りることを期待しており、提案の他国との共有について日本がアメリカとともにリードすることをアメリカは期待すると数度指摘されることとなった。

7.この公電は、スタンフォード・マッコイ米通商代表部知財執行主席交渉官のクリアを受けた。日本の経産・外務官僚らは、似た考えを持つ選ばれた国々の間で高水準のスタンダードの海賊版対策条約を模索することにより、模倣品と海賊版の拡散を抑止する世界的枠組みを促進するという日本の目指す目標に対するアメリカ通商代表部の修正提案を、何の反対もなく支持すると表明。日本側は、アメリカがこの条約に正確には何を入れようとし、どのようなスタンダードをアメリカが必須と考えているのかについてより学びたいという。

(2)2006年7月20日の東京発公電

主題:日本の小泉首相のアドバイザーが知財に関する両国間の議題を提案

1.要約:荒井寿光知的財産戦略推進本部事務局長は、7月14日、経済担当公使の別れの挨拶の際に、知財に関する両国間の協力のための野心的な議題を提示。次回の日米首脳会合で知的財産権についての協力に関する共同声明を出し、年末までに海賊版対策条約を妥結し、特許の相互承認制を確立することを提案。彼は、日米が知的財産権について中国に統一メッセージを発することを希望。小泉首相の知財問題に関する主なアドバイザーである荒井は、次の日本の主な首相候補はともに知的財産権の強力な保護を支持していると断言。

(中略)

(海賊版対策条約)
5.荒井は、似た考えを持つ国々の間で海賊版対策条約(ACTA)の条文について合意に達することはそれほど難しくないと信じており、年末までに議論を終えることを目標とすべきという。日本にはこのような条約に対する強力な支持があり、荒井は、与野党の議員の中から、安岡興治(自民党)、甘利明(自民党)、弁理士でもある菅直人(民主党)らの名を強力な知財保護の支持者としてあげた。

6.荒井は、我々は可能な限り速く動くべきであって、この条約の内容は中国やロシアやブラジルのような第三国の知財問題に向けられるべきで、似た考えを持つ国々の間で対立する利害の交渉をするべきでないことに留意すべきと強調。この新たな条約は、中国やロシアのような国々の市場経済の状態を測る尺度となるだろう。

(後略)

(3)2006年10月5日東京発

主題:日本の知財官僚たちは、「ゴールド・スタンダード」条約に肯定的他

1.要約:日本の政府と産業界は、9月21-22日のクリス・ムーア米次官補との東京会合で、海賊版対策条約(ACTA)に対する強力な支持を表明、ただし、アメリカの交渉官によって提案された知財執行の「ゴールド・スタンダード」の全ての事項に合わせて日本の国内法を改正することについては非楽観的。日本政府の官僚たちは、例えそのような法改正が可能だとしても、国内の合意に達するにはそのお役所仕事のために時間がかかり、ACTAを大幅に遅らせるだろうという。(中略)

(ACTAに対する強力な政治的サポート)
2.田辺よしお外務省審議官(訳注:当時外務省の審議官をしていた田辺靖雄氏?)は、ムーア次官補に、ACTAの共同条文案が1月程度で用意できることを期待していると告げた。日本の官僚らは皆、安倍晋三新首相は、前官房長官として、知財関連事項に関して興味を持ち十分な情報を受けており、提案されている条約について支持していたと強調。安倍は多くの内閣官房の知的財産権に関する会議を多く主宰していたという。しかし、法的な問題は残る。

3.荒井寿光内閣知財本部事務局長は、職権取り締まり・非親告罪化、法定賠償と判決ガイドラインに関する法改正に日本政府としてコミットするのは非常に難しいと注意。荒井は個人的にはこれらの全ての措置を支持していたが、日本のお役所仕事の中でこれらの改正を試みるのは非常に時間と手間がかかるという。もしアメリカがこれらの法改正にこだわるようなら、実際に遅れが生じるだろうと彼は考えていた。判決ガイドラインについては、判決を個々の裁判官に委ねている日本国憲法に違反するとして法務省が理念的に反対している。職権取り締まり・非親告罪化に関しては、商標については認められているが、日本政府内の議論において、著作権侵害の非親告罪化は、著作権法を見ている文化庁によって10年、20年越し否定され続けている。職権取り締まり・非親告罪化の当局として主導権を握っている文化庁か関税局かにいつ圧力がかけられたかについては、荒井は知らなかった。

4.以前と同じく、海賊版と模倣品がせわしく稼ぎをあげている中で、その対策に責任を持つ我々の間の条約の立ち往生で時間を浪費すべきでないと荒井は主張。もしアメリカと日本がほぼ他の全てのことについて合意したなら、残り5%でプロセスを止めるべきではないという。知財保護のために必要な最も高い最も必須のスタンダードはどのようなものかという点で国の間に多少違いがあることが制約になると荒井は付加。例えば、欧州は地理的表示について何かを得ようとするだろう。知財先進国が合意できる最も必須のスタンダードのコンセンサスに基づいて速やかに動くスケジュールを設定することがより重要と荒井は主張。彼は、知財保護は動く目標であって、全ての問題を一気に片付けることはできないのだから、新しい知財問題が毎年持ち上がって来ていると認めるより広い戦略の採用を彼は推奨。

5.ムーア次官補は、ACTAにより新しい世界水準を規定することが決定的に重要なことであり、アメリカもその法律を改善しその執行を強化して来たと説明。必要な場合は法改正を行い、この問題について参加する機会を得られることについて議会も歓迎していると彼は追加。ムーアは、早急だが、効果的で高水準のスタンダードの条約を前進させることについてアメリカは熱心であると強調。似た考えの他の国々にともに働きかけて行く上で、その知財執行法制の改善を日本が真剣に考えることは必須であると彼は発言。

6.それは難しく時間もかかるため、ゴールド・スタンダードのためのアメリカ政府提案と合わせるために国内法を変えなければならないことを日本政府は好まないと田辺は簡単に述べ、日本外務省はこの問題についてよりソフトなアプローチを取るという。それは日本政府内でと利害関係者との間での長い検討を要すると彼は考えていた。アメリカ側でも知財保護執行の有効性の問題に集中することを田辺はアメリカ側に促した。相馬弘尚外務省知的財産室長は、8省庁を集めた先週の日本政府内会合で、国内法改正の余地もあり、皆その可能性を排除しなかったと発言。

(ACTAに関するG8と他の国へのアプローチ)
7.外務省の相馬は、日本政府が最初にこのことを提唱した場であり、日本政府はなおG8の参加国を含めてACTAの議論を進めたいと思っていると発言。さらに、発展途上国を含めた各国にとってのイノベーションとクリエイティビティが発達する雰囲気を作る必要性を強調し、日本政府は知財をG8における議題として押し続けたいと思っているという。経産省の中富は、それに対し、最近のロシア訪問においてACTAの議論をしたが進展はなかったと発言。G8でACTAを提起することは非常に難しいと彼は同意、不可能でないにしても、ロシアのために反対は避けがたいだろうという。

8.欧州をACTAに参加させることについて多少微妙な見解があった。外務省の相馬は、EUに細々とアプローチする前に各加盟国に集中するのが最善であるという点でムーア次官補に同意。経産省の豊田正和通商政策局長と中富道隆審議官はともに、どうあれEUにおいてこの問題について権限を持っている欧州委員会は遅くではなく早くACTAの議論に参加させなければならないとムーアに告げた。さもなければ、欧州が降りるような問題となるだろうと。ただし中富は、例えば欧州委員会がACTAの全議論を、ムーアがアメリカにとって出発点とならないとする、地理的表示と結びつけに来るかも知れないことから、まず各加盟国にアプローチすることについてのアメリカの利害に理解を示した。注意深いマネジメントが必要とされる点で両者は一致。

9.日本政府は、最初の交渉国候補には、フランス、イギリス、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランドとシンガポールが考えられると見ている。日本政府は、イタリアとカナダを第2にアプローチされるべきグループと見ているが、ムーア次官補は、カナダとの潜在的困難性を説明し、最初の候補としてヨルダンやモロッコのような発展途上国も入れることを押した。これらの国々は、アメリカとのFTAで高い水準の知財スタンダードを受け入れた。

(中略)

18.この公電はムーア次官補のクリアを受けた。日本の政府と産業界は、9月21-22日のクリス・ムーア次官補との東京会合で、海賊版対策条約(ACTA)に対する強力な支持を表明、ただし、アメリカの交渉官によって提案された知財執行の「ゴールド・スタンダード」の全ての事項に合わせて日本の国内法を改正することについては非楽観的。日本政府の官僚たちは、例えそのような法改正が可能だとしても、国内の合意に達するにはそのお役所仕事のために時間がかかり、ACTAを大幅に遅らせるだろうという。(後略)

(4)2006年12月1日ローマ発

主題:海賊版対策条約(ACTA):イタリア

(要約)
1.イタリア政府は、ACTAをさらに議論することに関心を寄せているが、(WTOやEUのような)既存の多国間組織や条約の枠組みでイタリアは動くこととしていると強調し、これらの条約以外の条約への参加には念入りな評価が必要という。イタリアは、ワシントンでのACTA準備会合への参加に関心を寄せている。

2.経済担当公使が、11月17日、スピネッティ伊外務省経済担当部長とジャンニ次官に、経済開発省でACTAについて提起。ECMINは、ACTAは似た考えを持つ国々にとって知的財産権(IPR)対策を劇的に前進させるツールとして使えるものであり、世界知的所有権機関(WIPO)や世界協力開発機構(OECD)や欧州連合(EU)あるいはG8で高水準のスタンダードの国々がぶつかるだろう政治的困難をほぼ避けられると概要を述べた。

3.スピネッティとジャンニは大体経済担当公使に同意し、ACTA提案に興味を示し、ACTAの提案する目標にイタリアも同意すると示唆。スピネッティとジャンニはともに、イタリアはACTAの検討作業に参加すべきとも示唆し、スピネッティは、イタリアはワシントンで始まる会合に参加できるだろうとも示唆。しかしながら、スピネッティとジャンニは、WIPOやEUのような多国間組織とG8へのコミットメントを強調し、イタリア政府はこれらの枠組みの外に踏み出すことには慎重でなければならないと強調。

4.スピネッティは、「この条約は国際的な知財保護に関するWIPOの主導的役割を減じる恐れがある」というWIPOのACTAに対する懸念を聞いたと経済担当公使に告げた。

5.そして、経済担当参事官は、11月22日、内閣次官エンリコ・レッタのチーフ・スタッフであるファブリチオ・パガーニと面会。パガーニは、イタリアにおいてG8の知財問題に関する実務レベルの統括をしており、ACTAのイタリア政府担当者である。最近のモスクワでのG8の実務レベル知財会合でクリストファー・ムーア次官補と既にACTAについて議論したと経済担当参事官に告げた。現在イタリア政府は既存の多国間組織に強くコミットしており、もし欧州委員会も交渉テーブルに着いていてくれればよりやり易いだろうと付加。それでも、イタリアは強い興味を提案に持っており、ワシントンの準備会合に参加できるだろうとパガーニは発言。そう言って、パガーニはイタリア政府が関心を持っている次のような事項について概略を述べた。交渉における欧州委員会の役割:パガーニは、欧州委員会が知財に関する排他的権限を持っていないと考えており、欧州委員会もテーブルに着けることはEU加盟国にとって交渉を何かしら容易にするだろうと考えていた。知財執行が弱い国々のための役割:知財制度が弱い国々(例えば、中国やロシア)を含めないことは合理的と彼は理解したが、パガーニは、イタリアはさらにこれらの国々の排除について議論したいと思っていることを示唆。ドイツのG8知財への注力:ドイツがG8議長国として知財保護を最優先事項に強く押している中で、ACTAを追求するのは政治的に微妙な問題となり得るともパガーニは懸念を表明。

6.しかし、経済担当参事官が、上のことが全て考慮されたら、イタリアは実際にACTA交渉に参加できるかと直接訊ねたところ、彼は、もしそれがイタリア自身の利益になるならイタリアはそうするだろうと回答。

(5)2007年2月12日ローマ発

主題:海賊版対策条約(ACTA):イタリアの懸念

1.要請公電。4.参照。

2.ファブリチオ・マッツァ伊外務省知的財産課長が、海賊版対策条約(ACTA)の提案に関し大使館に接触。2つのソース(1つはアメリカ通商代表部、もう1つはブラッセルの(不明))が、日米共同ACTA提案をアメリカ政府がブラッセルの欧州委員会に提示したと彼に伝えてきたという。EUを含めて合意に達するのはかなり難しいだろうと思い、また、欧州委員会ではなく直接各加盟国と交渉する方が好ましいとアメリカ政府は考えていると理解していたため、マッツァは混乱し、関心を寄せている。

(コメント)
3.ACTAについて非常に大きな関心がイタリア政府にある。本国が本国大使館にアメリカの政府見解を可能な限りの範囲で通知することを要請する。

(要請)
4.次の事項の要請:ACTA提案に関する現状の説明、それは欧州委員会に既に示されているのか、ACTA交渉における欧州委員会の役割がEU各国の参加に与える影響に関するアメリカ政府の見解の説明。

(6)2007年9月6日リスボン発

(前略)

(海賊版対策条約(ACTA))
5.ドンネリー(米通商代表補)は、海賊版対策条約(ACTA)のことを持ち出し、EU各国は直接ACTA交渉に当たるべきとのイタリア政府の見解に言及。貿易だけではなく、知的財産権、税関、法律と執行、そして司法に絡む複雑な問題に他ならず、EU加盟国の権限の議論に巻き込まれたくないとするワシントンの希望を彼は強調。エスカリア(ポルトガル首相の経済アドバイザー)は、ポルトガル政府も議論に気づき、この問題での欧州委員会の主導をリスボンが喜んでいるという。マシエイラ(ポルトガル外務省欧州担当審議官)も同意し、議論の進展に従い、EU各国はその対話に入れられるべきと強調。ルシオ(ポルトガル経済省経済活動担当審議官)は、ACTAのカバーする領域は非常に重要であり、透明な形で取り組むべきで、この事の可視化を支援すると強調。

(後略)

(7)2007年12月メキシコ発

(前略)

(要約とコメント)
1.(中略)メキシコの知財官僚たちは、海賊版対策条約(ACTA)交渉参加への意志と、国際的な保険機構において知財の弱体化を図ろうとするブラジルの圧力への対抗を強調し、その国際舞台における役割の増大を喧伝することに熱心だった。(中略)

(国内の様子)
8.(中略)2007年、メキシコは知財執行強化のための海賊版対策条約交渉への参加に同意。(後略)

(8)2008年11月5日ローマ発

(前略)

1.要約:ファブリチオ・マッツァ外務省知的財産課長は、(中略)ACTA交渉で2008年末までに条文案ができることはないだろうと予測。

(中略)

(ACTA交渉により時間をかけるよう求めるEU諸国)
8.マッツァは、年末までに海賊版対策条約(ACTA)の条文案ができるとは予想していない。合意条文案のできるのは最短で2009年の夏か終わりだろうという。彼の見解によると、条約交渉における欧州委員会の関与への反対、交渉の機密レベルに対する不満、条約からの地理的表示の除外などから、交渉により時間をかけることを欧州諸国は求めようとしている。

9.EU加盟国は刑事執行に関係する事項を欧州委員会が交渉することに反対していると、マッツァは発言。この点は順に回されるEU議長国によって交渉されるより、この分野においてはEU加盟国の権限による方が適切であると彼は見ていた。イギリスとスカンジナビア諸国がこの点における欧州委員会の関与に特に激しく反対しているが、イタリアも反対しているという。

10.このACTA交渉における機密レベルは、通常の非安全保障条約より高いレベルに設定されている。マッツァによると、この機密レベルでは、EU加盟国は知財の利害関係者と議会と必要な議論を進めることもできない。次のACTA会合の前に、この点が再検討されなければならないと彼は発言。

11.マッツァによると、欧州諸国はACTAを事実上の「TRIPSプラス」と見ているが、ACTAはまだTRIPSに含まれている地理的表示を含んでいない。このTRIPSのアップグレードは、アメリカの主要問題の海賊版と模倣品は含まれているが、欧州の主要問題の地理的表示を無視していると欧州代表が指摘するのは「時間の問題」だという。この除外は、交渉を決裂させるものではないだろうが、遅らせるだろうと彼は示唆。

(後略)

(9)2009年11月24日ストックホルム発

主題:スウェーデンのACTA交渉と知財に関する懸念

1.要約:スウェーデンのメディアとブロガーらは、進行中のACTA(海賊版対策条約)交渉について、3ストライクポリシーが求められるとの報道を受け、他の多くの国々で見られたのと同様の秘密性とインターネット章についての懸念を表明。今年の前半、スウェーデン法務省がEUのために交渉していたことから、これは政府の国内批判につながった。メディア報道から、スウェーデン政府は、スウェーデンの国内法改正を必要とするようなACTAの規定にはスウェーデンは同意しないと公式に言う羽目になった。一方、The Pirate Bayサイトは、トラッカーを削除せよという差し止め判決を受け、スウェーデンからサーバーを移している。同一のトラッカーがそのすぐ後に別のサイトに現れた。IPRED(知的財産執行指令)による法改正が、法的に可能な限り早く記録を破棄する傾向をインターネット・サービス・プロバイダーに与えたことで、スウェーデンで犯罪の訴追・解決が難しくなっているという批判に耳を傾け始めているという。(中略)

(ACTA)
2.スウェーデンがEU議長国である間、EUのACTA交渉代表をしていたステファン・ヨハンソンにポストが接触。秘密性の問題がスウェーデンにおける交渉を取り巻く雰囲気に大ダメージを与えたと彼は我々に告げた。全野党が、議会で、政府は知財の執行を強化しようとしていると迫って来た。これらのグループにとって、ACTA文書の公開拒否は、交渉の背後にある政治的意図について憶測を逞しくする素晴らしい政治的ツールとなった。もしこのことが世界知的所有権機関(WIPO)内で交渉されたらと批判者は言う、WIPO事務局は最初の条文案を公開しただろうと。

3.ヨハンソンの意見では、交渉にまつわる秘密性により、全プロセスの正当性に疑念をもたらす結果となった。このことと、アメリカ提案のインターネット章の口頭提案を要約した欧州委員会のリーク文書が合わさり、法務大臣マグヌス・グラナーがスウェーデン政府は現在のスウェーデン法の変更を必要とするようなACTAの条項に同意することはないと今月頭に確約して、吹き荒れる批判をなだめる羽目になった。

4.ヨハンソンは彼の意見として、交渉グループ中に、最終的な案に影響を与えられる余地がある内にACTAの交渉条文案を公開すべきという立場に対する強い支持があると発言。彼はさらに、交渉の過程で同じような意見の共有がEUにできない内に、アメリカ政府がアメリカの産業界と緊密に意見交換していることについての欧州委員会の懸念を告げた。

5.EU各国の代表が、アメリカ提案のインターネット章についてさらに議論し、その立場を進めて調整するため11月25-26日に集まる。もちろん、議長国がスペインへ回る来たる2010年1月以降ヨハンソンがEU名代として交渉することはない。しかしながら、年の後半になるかも知れないが、2010年の間に交渉が妥結されることを期待するとヨハンソンは我々に告げた。我々は交渉すべき主な事項から言語の問題を切り離し、どこから始めるべきかについてすぐにはっきりさせる必要があると彼は発言。今まで、中核事項を切り離すことで交渉の効率化を図って来なかったという。

(後略)

(10)2010年2月16日マドリッド発

(前略)

18.ウィルソン米通商代表部補は、メキシコのグアダラハラでの最近の海賊版対策条約(ACTA)会合でスペインの官僚らが非常に積極的で親切な役割を果たしたことを賞賛。スペインのリーダーシップのおかげで、交渉官らは条約の刑事関連章で進展を見ることができた。ボネット(スペイン貿易長官)は、欧州議会がACTAについてその透明性の欠如を批判し、疑念を抱いていると言及。

(後略)

 訳していて腹が立って来るが、案の定、これらの公電から浮かび上がって来るのは、荒井寿光知財本部事務局長(当時)を筆頭として、知財本部や外務省や経産省の日本の官僚たちのデタラメな暴走ぶりである。恐らく関連公電はこれで全てではないだろうが、これだけでも、初っ端から、何の考えもなく諸手をあげてアメリカの提案に賛同していたり、大した腹案も持たないままスケジュールだけを気にして条文案作成をアメリカに任せていたり、それでいて世界に規制強化を主導的に押し付ける汚れ役はお前らでやれと言われても分からず喜んでいたり、著作権侵害の非親告罪化や法定賠償などの法改正圧力がかけられると一応少し慎重な意見も示すものの法改正の余地もあると勝手に言ったり、アメリカの外交官の前で省庁間の方針の不統一をそのまま口にするなど、彼らが外交としては完全にアウトのデタラメをやりたい放題やっていたと知れる。

 既に役所を辞めてしまっている者もいるだろうが、これらの公電に出て来る官僚たちの名前は全て覚えておいた方が良い。文化庁と経産省で報告書がまとめられ、国会への法案提出が想定されている著作権法と不正競争防止法でのアクセスコントロール回避規制強化など、今日本が訳も分からずロクでもない法改正をやる羽目になっているのは、こいつらの責任と言って良いのである。アメリカの外交官に対して恥がどうとか言っていたようだが、こいつらこそ日本の恥であると私は断言して憚らない。そう簡単に官僚のタチが変わるとも思えず、この体たらくでは、日本の官僚たちは世界の外交官にてんでバカにされ続けることだろう。

 またさらに関連公電が出て来るようなら、その都度、ここでも翻訳・紹介したいと思っているが、知財問題に限らず、このウィキリークスのリーク公電はアメリカ政府の動向を知る上で第一級資料と言って良い。ウィキリークスの真価はこのような政策的なリーク情報の公開にあるのであって、その政治的意味は大きく、このようなインターネットを通じた情報共有システムの政治的重要性は今後も増して行くだろう。それにつけても、ウィキリークスについてそのシステムの重要性を理解せず面白おかしくゴシップ的に書き立てるのが日本の報道の主流と見えるのは個人的にはかなり残念である。

(2月10日の追記:一番上に参考記事へのリンクを追加し、少し文章に手を入れた。)

(2月10日夜の追記:誤記の訂正をし、少し文章に手を入れた。)

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2010年10月12日 (火)

第240回:10月2日時点の海賊版対策条約(ACTA)条文案と国内におけるDRM回避規制強化の検討

 翻訳はおろか、今度は概要や報道発表すらついておらず、およそ人をバカにしているとしか思えないが、模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の10月2日時点の条文案(pdf)が、日本政府から正式に公開されたので、今回は、日本との国内法との関係で特に問題となるそのDRM回避規制関連部分について取り上げる。(同じくユーザ・消費者から見て気になる部分として、プライバシー保護、少量品、法定賠償やプロバイダー責任制限関連部分もあるが、これらの部分は8月時点のリーク条文案とほとんど変わりはないので、特に気になるようであれば、前々回のエントリをお読み頂ければと思う。)

 海賊版対策条約(ACTA)でDRM回避規制を規定する第2.18条中の第5項から第8項までは、10月2日時点の条文案では以下のような形になっている。(MIAUの訳を参照した。)

5. Each Party shall provide adequate legal protection and effective legal remedies against the circumvention of effective technological measures that are used by authors, performers or producers of phonograms in connection with the exercise of their rights in, and that restrict acts in respect of, their works, performances, and phonograms, which are not authorized by the authors, the performers or the producers of phonograms concerned or permitted by law.

6. In order to provide such adequate legal protection and effective legal remedies, each Party shall provide protection at least against:
(a) to the extent provided by its law:
(i) the unauthorized circumvention of an effective technological measure carried out knowingly or with reasonable grounds to know; and
(ii) the offering to the public by marketing of a device or product, including computer programs, or a service, as a means of circumventing an effective technological measure; and

(b) the manufacture, importation, or distribution of a device or product, including computer programs, or provision of a service that:
(i) is primarily designed or produced for the purpose of circumventing an effective technological measure; or
(ii) has only a limited commercially significant purpose other than circumventing an effective technological measure.
...

8. In providing adequate legal protection and effective legal remedies pursuant to paragraphs 5 and 7, each Party may adopt or maintain appropriate limitations or exceptions to measures implementing paragraphs 5, 6 and 7. Further, the obligations in paragraphs 5, 6 and 7 are without prejudice to the rights, limitations, exceptions, or defenses to copyright or related rights infringement under a Party's law.

第5項 その権利の行使に関係する形で著作権者、実演家又はレコード製作者によって用いられ、その著作物、実演及び録音に関して、著作権者、実演家又はレコード製作者によって許可されていないか、法律によって認められていない行為を制限する、有効な技術的手段の回避に対して適切な法的保護と有効な法的救済を規定しなければならない。

第6項 そのような適切な法的保護と有効な法的救済を提供するため、各締約国は、少なくとも以下の行為に対する保護を規定しなければならない:
(a)その国内法により規定される限りにおいて:
(ⅰ)故意に又はそうと知る合理的な理由がある場合になされる、有効な技術的手段の不正な回避;そして
(ⅱ)有効な技術的手段を回避する手段としての、コンピュータ・プログラムを含め、機器若しくは製品又はサービスの市場における公衆への提供の申し出;そして

(b)コンピュータ・プログラムを含め、以下の機器又は製品の製造、輸入又は頒布、又は以下のサービスの提供:
(ⅰ)主として有効な技術的手段を回避する目的で設計若しくは製造されているもの;又は
(ⅱ)有効な技術的手段を回避する以外には限定的な商業的目的しか持たないもの。

(中略:第7項は、著作権管理情報に関する規定。)

第8項 第5項及び第7項に書かれている適切な保護及び効果的な法的救済を規定するに際し、各締約国は、第5項、第6項及び第7項に書かれている措置の実施において適切な制限又は例外を採用又は維持できる。さらに、第5項、第6項及び第7項の義務が、締約国の国内法における、権利、制限、例外、又は著作権若しくは著作隣接権侵害に対する抗弁に影響を与えることはない。

 ここで、条文上の記載が単に有効な技術的手段とされて明文のアクセスコントロールへの言及がなくなり、アメリカの初期提案の形のようにアクセスコントロール回避そのものの規制が完全な義務とされなかったことは不幸中の幸いだが、日本政府の勝手なアメリカへの譲歩により、DRM回避装置とプログラムの製造、DRM回避サービスの提供までの規制が必要とされているままなのは非常に痛い。

 文化庁なり経産省なり外務省なりが国民にどこまでこの条約交渉を用いたポリシーロンダリングを隠すつもりか知らないが、今文化庁と経産省で進んでいるDRM回避規制の強化の検討で、ある程度このACTAの条文案に沿った内容の規制強化案が出されて来るのは間違いないだろう。(現行法との比較で考えた時の分析がメチャクチャなのでその点では全くお話にならないが、どこかの官庁の官僚が出所と思われる文化庁のDRM回避規制強化の検討に関する先日の産経の記事で言及されている規制強化の内容が、このACTAの条文案とピタリと符号しているのは決して偶然ではないに違いない。)

 そもそもこのような国益を無視したポリシーロンダリング自体全く気にくわない上、重複検討もいい加減にしてくれと思うが、今までの知財本部の検討や、現行の法規制とACTA条文案の比較を考えると、文化庁や経産省の検討で俎上にあがる論点は大体以下の5点になると予想される。(現行の法規制については、第36回参照。)

  1. アクセスコントロール回避自体を規制するかどうか。
  2. 「のみ」、「専ら」などの現行法の機能の限定を改めるか。
  3. DRM回避装置とプログラムの製造規制をどうするか。
  4. DRM回避サービスの規制をどうするか。
  5. 刑事罰の範囲をどうするか。

 1のアクセスコントロール回避自体の規制まで、この機会に乗じて権利者団体は狙ってくるだろうが、ACTAの現在の条文案においてすらこのような規制を必須とすることは落とされたのであり、さらに、何度も書いている通り、著作権法によるせよ不正競争防止法によるせよ、このようなアクセスコントロール回避自体の規制には、そのそもそもの法目的から来る無理が存在している。過去のDRM回避規制導入の検討経緯については第45回で取り上げているが、個人的なアクセスコントロール回避まで規制することは、不正競争防止法ではその公正な競争の確保・取引秩序の維持という目的をはるかに超える異常規制となるだろうし、著作権法はそもそも情報アクセスそのものを規制するための法律ではないのである。

 2について、現行のDRM回避機能「のみ」を有する機器、DRM回避を「専ら」その機能とする機器といった条文の限定を、ACTA条文案のように改めることも検討されるのではないかと思うが、これも実務的に意味があるかどうか甚だ疑わしい。現行法の規定でも、マジコン等は違法と解釈されているのであり(番外その15参照)、現時点でいたずらに条文を変えることはかえって法的な不安定性を増すだけのことになるのではないかと私は思っている。

 3のDRM回避機器・プログラムの製造規制も、著作権法によるにせよ不正競争防止法によるにせよ、特に企業や大学等における研究・開発との関係で極めて大きな問題を孕む。不正競争防止法の場合、第19条第1項第7号として試験・研究に対する適用除外が定められており、この適用除外を拡大することも考えられるだろうが、著作権法にはそのような例外はなく、例によって文化庁と権利者団体は全力で一般的な例外の導入に抵抗しながらデタラメな規制強化をごり押ししようとすると容易く予想されるので非常に危ない形で検討が進められるだろう。また、当たり前の話だが、試験・研究を例外とすれば多少の問題の緩和になるにしても、それで問題の全てが片付くということはない。そして、ここでも、何故製造行為を規制する必要があるのかということを少し考えてみれば、その立法事実たる根拠はACTAのポリシーロンダリングを除けば極めて薄弱であることに誰でも気づくことだろう。(大体、DRMの開発自体を萎縮させることに対して、権利者団体・ゲーム業界も全く利益は見出せないはずだが、省庁の検討に出て来るような、規制ありきで壊れたレコードのように同じことを繰り返すロビイストにはその程度の見識を求めることすら難しいだろう。情けない話だが。)

 4のDRM回避サービス規制も非常に危うい。どうせ政府や権利者団体は何も考えていないのだろうが、今の著作権法か不正競争防止法の規制に単純にサービスの提供という語を加えて広汎に規制をかけてしまうと、本来正当なものとして認められなければならない情報アクセス・複製を確保するためにすらDRM回避手段を合法的に入手することがほとんど不可能になる可能性が高い。図書館における資料保存や教育と、障害者等のためなど一般的な公益目的でのDRM回避は不可能ではないが、その手段を合法的に入手することができないという状況は誰でもバカバカしさの極みだと思うことだろう。また、サービスの提供という語自体かなり範囲は広く、直接的なサービスの提供だけではなく、間接的なサービスの提供まで含まれるとなるとその範囲が途方もなく広がることになるだろう。(「業として公衆からの求めに応じて技術的保護手段の回避を行った者」は刑罰の対象となるとされている現行の著作権法第120条の2第2項でサービスの提供の規制を読み込むことが可能かも知れないが、政府が現時点でどのような案を考えているかはよく分からない。この規定にしても、「業として公衆から」とい う語を「他人から」と変えることが考えられているとしたら、ほぼ同じことである。)

 5の刑事罰の範囲については、ACTAの今の条文案とは全く関係ないが、普段の振る舞いから考えて、この点でも文化庁や経産省、権利者団体は便乗して範囲の拡大を狙って来ることだろう。立法事実や過去の法改正の経緯を完全に無視して、不正競争防止法で刑事罰を導入する話が出て来たり、私的にコピーコントロールを回避して複製する行為の規制(著作権法第30条第1項第2号)に刑事罰を課すべきだといったバカげた話が出て来る恐れもあり、決して油断はできない。

 本当にミニマムでACTAの現在の条文案のDRM回避規制を国内法に導入することを考えると、他の点を全て条約と現行法の条文解釈の問題に落として、一般的な試験研究目的の適用除外も一緒に拡大する形で不正競争防止法にDRM回避機器の製造規制を刑事罰の導入なしで入れるという形になると思うが、そのようなある程度無難なところに今の検討が落ち着くとは考え難い。いつものように権利者団体と官僚たちは、この条約交渉に便乗して、これを最大限に利用して可能な限りの規制強化・既得権益拡大を狙って来るだろうし、縦割りと政治力のせめぎ合いの中、ねじれにねじれることが予想されるこのDRM回避規制の検討がどこにどう落ち着くのかは甚だ読み辛い。この検討はどこをどうやっても斜め上の方向に行き、前回紹介したようなアメリカのDMCAを巡るロクでもない混乱を、全部でないにしても、無理矢理輸入させられることになるのではないかという強い懸念を私は抱いている。

 大体、海賊版条約(ACTA)はその全体を見渡しても日本にとっての批准のメリットが私には全く見えない。ほとんど各国政府の役人のメンツ保持のためにやっつけで作ったとしか見えないメリットのない条約の妥結・署名・批准のための検討など、国民の情報アクセスに対する不当な規制としかなりようのないDRM回避のさらなる規制強化の検討など即刻止めるべきであるとパブコメで私は書くつもりである。

(10月14日の追記:内容は変えていないが、少し文章を整えた。)

(10月14日夜の追記:各者の主張は大体予想通りだが、9月30日に開催された技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会の第1回の配布資料議事要旨)が経産省HPで公開されているので、ここにリンクを追加しておく。その開催案内によるとこの小委員会の次回開催は10月19日の予定である。

 DRM回避規制については、非常にややこしい現行の法規制がどうなっているかということをまず理解してから話をしないと必ず頓珍漢なことになるが、経産省の参考資料の参考資料我が国における「技術的手段」に係る規制の概要(pdf)の下のような表が一目で見ようとするには良いかも知れない。

Drm_table

 いずれにせよ分かりにくいことに違いはないのだが、人によっては文化庁の平成18年の文化審議会・著作権分科会報告書(pdf)の下のような図の方が見やすいと思う方もいるかも知れないので、一緒に引用しておく。

Drm_table2

 普通DRM回避規制と聞いて端的に思い浮かぶのは、いわゆるDVDリッピングとマジコンのことだと思うが、今の法規制でも、主としてアクセスコントロールと考えられる DVDのDRM(CSS)の回避専用プログラム(DeCSSなど)の販売や提供は不正競争防止法で既に違法(ただし刑事罰はなし)とされ、アクセスコントロールと同時にコピーコントロールも行っているゲーム機のDRM回避のためのほぼ専用機器であるマジコンの販売や提供はまず間違いなく著作権法と不正競争法の両方で違法とされ、著作権法では刑事罰の対象ともなり得るだろうという、既に十分以上に規制がかかっている状態にあるということをまず押さえておかないと、この話は大体訳が分からなくなる。(さらに、いろいろと解釈の問題があるので、この問題は本当にややこしい。現行の法規制のさらに細かな点については、第36回などをお読み頂ければと思う。)

また、フランスの3ストライク法の現状について、マイコミジャーナルが非常に良くまとまった記事を書いてくれているので、ここで一緒にリンクを張っておく。)

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2010年9月 8日 (水)

第238回:8月25日版の海賊版対策条約(ACTA)リーク条文案

 昨日、文化庁で文化審議会・著作権分科会の法制問題小委員会が開催され、DRM回避規制の強化に関する検討が始まった(pc.nikkeibp.co.jpの記事ITproの記事朝日のネット記事hideharus氏の実況ツイート、文化庁HPの議事次第・資料参照)。文化庁もさすがに少しは背景を説明したようだが、前回も書いたように、このような性急な検討開始の背景にあるのは、明らかに海賊版対策条約(ACTA)の話である。

 前回使ったのは7月版のリーク文書だったが、前後してほんの数日前に8月25日版の条文案(pdf)wiki版)が新たにリークされたので(keionline.orgのブログ記事、カナダ・オタワ大教授マイケル・ガイスト氏のブログ記事も参照)、ユーザーとして気になるところについて、やはり同じように翻訳を作っておきたいと思う。

(1)プライバシー保護関連
 プライバシー保護関連の部分は、内容に大きな変更はないが、8月版の条文案では箇条書きに改められている。

ARTICLE 1.4: PRIVACY AND DISCLOSURE OF INFORMATION

1.
Nothing in this Agreement shall require any Party to disclose:

(a) information the disclosure of which would be contrary to its law or its international agreements, including laws protecting right of privacy,

(b) confidential information the disclosure of which would impede law enforcement or otherwise be contrary to the public interest, or

(c) confidential information, the disclosure of which would prejudice the legitimate commercial interests of particular enterprises, public or private.

第1.4条:プライバシーと情報開示

第1項
 この条約のいかなる条項によっても、締約国に、次の情報の開示を求めてはならない:

(a)プライバシーの権利を保護する法律等の国内法または国際条約に反する情報、

(b)その開示が法執行を阻害するか、公益に反する秘密情報、又は

(c)その開示が特定の公的若しくは私的な企業の正当な商業的利益に反する秘密情報。

 この部分自体にほとんど変更はないのだが、第2章第2節第の少量品に関する規定が、以下のように書き換えられていることとの関係で特に注意が必要である。

ARTICLE 2.X: [SMALL CONSIGNMENTS AND PERSONAL LUGGAGE]

1.
Parties shall include in the application of this section goods of a commercial nature sent in small consignments.

2. Parties may exclude from the application of this Section small quantities of goods of a non-commercial nature contained in travelers' personal luggage.

第2.X条 小口貨物と個人荷物

第1項
 各締約国は、小口貨物で送られる、商業的な性質の物品を本節の適用対象としなければならない。

第2項 各締約国は、旅行者の私的な荷物に含まれる、非商業的な性質の少量の物品を本節の適用から除外することができる。

 7月版までだと、小口貨物についても例外を設けられるという形も含め検討されていたのが、この8月版の条文案では、小口貨物を対象としなければならないと特にオプションの無い形で規定されているのである。日本の国内法との関係では微妙だが、このような強い規制を各国に課す規定ぶりとなっているからには、プライバシーの保護等はなおさら重要になって来る。

(2)法定賠償関連
 選択肢の形にはなっているものの、アメリカで一般ユーザーに法外な損害賠償を発生させ、その国民のネット利用におけるリスクを不当に高め、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにしかつながっていない法廷賠償制度を国内で導入しようとする動きとの関係で、特に注意が必要と私は思っている法定賠償制度を含む部分の修正は無く、8月25日時点の条文案でも以下の通り同じ形で残っている。

ARTICLE 2.2: DAMAGES

3.
{US: At least with respect to works, phonograms, and performances protected by copyright or related rights, and in cases of trademark counterfeiting e} [E]ach Party shall also establish or maintain a system that provides for:

(a) pre-established damages, or

(b) presumptions for determining the amount of damages sufficient to compensate the right holder for the harm caused by the infringement, or

(c) at least for copyright additional damages.

第2.2条:損害賠償

第3項
 {米:少なくとも著作権又は著作隣接権によって保護される著作物、録音と実演に関しては、及び商標権侵害のケースにおいては、}各締約国は、以下のことを規定する法制を整備又は維持しなければならない:

(a)予め決められた損害賠償、又は

(b)権利者に侵害によって生じた損害を完全に補償するのに十分な損害賠償額の推定、又は

(c)少なくとも著作権について、追加の損害賠償。

(3)プロバイダー責任制限関連
 8月25日時点では、プロバイダーの責任制限については、以下のように明文の条文としては含まれない形となり、かなりばっさりと条文が簡略化された。

ARTICLE 2.18 ENFORCEMENT IN THE DIGITAL ENVIRONMENT

2. Each Party's enforcement procedures shall provide the means to address the infringement of {US: copyright or related rights}{ EU/J: intellectual property rights in the digital environment, including infringement that occurs via technologies [US: or services] that can be used to facilitate widespread infringement. These procedures shall be implemented in a manner that avoids the creation of barriers to legitimate activity, including electronic commerce, and, consistent with each Party's law, preserves principles relating to freedom of expression, fair process, and privacy [EU: , among other [US: fundamental] principles].

3. Each Party shall endeavor to promote cooperative efforts within the business community to effectively address {US: copyright and related rights}{EU/J: intellectual property rights} infringement while preserving legitimate competition and consistent with each Party's law, preserving principles relating to freedom of expression, fair process, and privacy, [EU: among other [US: fundamental] principles].

4. Each Party may provide, in accordance with its laws and regulations, that its competent authorities have the authority to order an online service provider to disclose expeditiously the information of the relevant subscriber to the right holders, who have given legally sufficient claim with valid reasons to be infringing their {US: copyright or related rights}{J/EU: intellectual property rights}. [US/J/NZ: Each Party may provide, in accordance with its laws and regulations, its competent authorities with the authority to order an online service provider to disclose expeditiously to a right holder, or to a person authorized by the right holder, information sufficient to identify an alleged infringer, where that right holder has filed a legally sufficient claim of infringement of {US: copyright or related rights}{J/EU: intellectual property rights} and where such information is being sought for the purpose of protecting or {enforcing the right holder's {US: copyright or related rights}{J/EU: intellectual property rights}.]

第2.18条:デジタル環境における執行

第2項 各締約国の執行手続きは、侵害の拡散を助長するために使われ得る技術[米:又はサービス]を通じて発生する侵害等、デジタル環境における{米:著作権又は著作隣接権}{欧/日:知的財産権}の侵害に対する手段を提供しなければならない。この手続きは、電子商取引等の正当な行為に対する障壁を作ることを避け、各締約国の国内法に合致し、表現の自由、公正な手続きとプライバシー[欧:及び他の[米:基本的な]原則]を守る形で、実施されなければならない。

第3項 各締約国は、電子商取引等の正当な行為に対する障壁を作ることを避け、各締約国の国内法に合致し、表現の自由、公正な手続きとプライバシー[欧:及び他の[米:基本的な]原則]を守りつつ、{米:著作権及び著作隣接権}{欧/日:知的財産権侵害}に効果的に対処するため、業界間の協力の努力を促進しなければならない。

第4項 各締約国は、その国内法令に従い、{米:著作権又は著作隣接権}{日/欧:知的財産権}を侵害されているとする有効な理由に基づく法的に十分な請求をした権利者に、関係する契約者の個人情報を迅速に開示することを、オンライン・サービス・プロバイダーに命じる権限を、司法当局が有すると規定することができる。[米/日/NZ:各締約国は、その国内法令に従い、権利者の{米:著作権又は著作隣接権}{日/欧:知的財産権}の保護又は執行の目的で、そのような情報が求められる場合に、{米:著作権又は著作隣接権}{日/欧:知的財産権}を侵害されているとする有効な理由に基づく法的に十分な請求をした権利者に、関係する契約者の個人情報を迅速に開示することを、オンライン・サービス・プロバイダーに命じる権限を、権限を有する当局が有すると規定することができる。]

 この第2項に対する注として、「例えば、権利者の正当な利益を[米:尊重し][欧:考慮に入れ]つつ、オンライン・サービス・プロバイダーの責任を制限する、又はこれに対する救済を提供する、法制を採用又は維持すること」と書かれており、多少注意は必要だが、この程度の簡単な注に落ちたという点で、プロバイダーの責任制限について、異質な海外法制の取り入れのために国内法が大きく歪むというリスクは格段に低くなったと見て良いだろう

 特に、どこの国が要求したのかは分からないが、ここで海賊版対策条約の条文案に表現の自由という言葉が入ったことは大きい。知的財産権の保護強化も行き過ぎれば、情報アクセス権を含む表現の自由などの基本的な権利と抵触するということが、多少なりとも各国政府の交渉担当レベルにまで伝わっているということが分かるのである。まだ十分とは言えないが、今後、ストライクポリシーや技術的な著作権検閲など多くの問題を含む対策との関係で、知的財産権保護と表現の自由などの基本的な権利との間の調整は非常に重要な問題としてさらに認識が深められて行くものと私は期待している。

(4)DRM回避規制関連
 そして、やはり一番の問題としてなお残っているのはDRM回避規制関連部分であり、この第2.18条中の第5項から第9項までは、8月版の条文案では以下のような形になっている。

5. Each Party shall provide adequate legal protection and effective legal remedies against the circumvention of effective technological measures that are used by [Kor/US/CH/Aus/J/Sing/NZ: at least] authors, and [US: performers] and producers of phonograms in connection with the exercise of their [US/Kor/NZ: copyright [US/KOR: or related] rights [Can/EU/CH: under the WCT and WPPT] and that restrict acts in respect of their works, [performances] [Can: fixed in phonogram], and phonograms, which are not authorized by the authors, the [performers] or the producers of phonograms concerned or permitted by law.

[6. US/NZ/J: In order to provide such adequate legal protection and effective legal remedies, each Party shall provide protection at least [EU/J/CH: in appropriate cases of the following activities] [J/EU: to the extent provided by its law] against:

(a) the unauthorized circumvention of an effective technological measure [US/Sing/Aus: that controls access to a protected work, performance or phonogram and is] carried out knowingly [US: or with reasonable grounds to know]; and [NZ/EU/CH: propose to keep chapeau, delete(a)]

(b) the manufacture, importation, [or] distribution [US/NZ: of, or provision of] a device, product, [US/Sing/Ch [US: technology] or service] [J/EU: that is capable of circumventing an effective technological measure and is either:]
(i) primarily designed or produced for the purpose of circumventing an effective technological measure; or
(ii) has only a limited commercially significant purpose other than circumventing an effective technological measure.]; and

(c) the offering to the public by marketing of a device, product, or [US/Sing/CH: [US: technology] or service] as a means of circumventing an effective technological measure.]

[J: propose to delete (c).]

[Note to legal reviewers: (a), (b) and (c) are meant to be three separate items for which protection should be provided.]

[EU reserves its position on article 6.]

7. [US/Sing/NZ/Aus: Each Party shall provide that a violation of a measure implementing paragraph (5 and 6) is an independent unlawful activity that does not require [J: any other] [US/Sing/NZ/Aus: an] infringement of copyright {US/Sing/Aus: or related rights}.]

[EU proposes deletion of paragraph 7.]
...

9. Each Party may adopt and maintain exceptions or limitations to measures implementing paragraphs (5), (6) and (8), so long as they do not significantly impair the adequacy of legal protection of technological measures or electronic rights management information or the effectiveness of legal remedies for violations of those implementation measures.

[EU proposes deletion of paragraph 9.]

第5項 [加/欧/スイス:WIPO著作権条約及びWIPO実演・レコード条約中の]権利[米/韓/NZ:著作権][米/韓:又は著作隣接権]の行使に関係する形で、[韓/米/スイス/日/シンガ/NZ:少なくとも]著作権者[米:実演家]とレコード製作者によって用いられ、その著作物、[加:録音に固定された][実演]及び録音に関して、関係する著作権者、[実演家]又はレコード製作者によって許可されていないか、法律によって認められていない行為を制限する、有効な技術的手段の回避に対して適切な法的保護と有効な法的救済を規定しなければならない。

第6項 そのような適切な法的保護と有効な法的救済を提供するため、各締約国は、[欧/日/スイス:適切な場合に、][日/欧:その国内法により規定できる限りにおいて、]少なくとも以下の行為に対する保護を規定しなければならない:

(a)[米:権利者によって許可されていない行為を制限する、]故意に又はそうと知る合理的な理由がある場合になされる、有効な技術的手段の不正な回避;そして[NZ/欧/スイス:柱書きを維持し、(a)を削除することを提案。]

(b)[日/欧:有効な技術的手段を回避することができ、以下のいずれかである][以下の]機器、製品[米/シンガ/スイス:、[米:技術]又はサービス]の製造、輸入[又は]頒布[米:又は提供]:
(ⅰ)主として有効な技術的手段を回避する目的で設計若しくは製造されているもの;又は
(ⅱ)有効な技術的手段を回避する以外には限定的な商業的目的又は用途しか持たないもの。];そして

(c)有効な技術的手段を回避する手段としての、機器、製品、又は[米/シンガ/スイス:[米:技術]又はサービス]の市場における公衆への提供の申し出

[日:(c)の削除を提案。]

[法律担当者への注:(a)、(b)と(c)は、それぞれ保護が規定されるべき別々の3つの事項を意味している。]

[欧:第6項についての立場を保留。]

第7項 [米/シンガ/NZ/豪:各締約国は、第5項と第6項に書かれている手段を破ることは独立した違法行為であり、[日:他の]著作権[米/シンガ/豪:又は著作隣接権]侵害を必要としないことを規定しなければならない。]

[欧:第7項の削除を提案。]

(中略:第8項は、著作権管理情報に関する規定。)

第9項 各締約国は、第5項、第6項及び第8項に書かれている手段について、技術的手段若しくは電子的権利管理情報の適切な法的保護、又はこの手段を破ることに対する法的救済の有効性を大きく損なうものでない限りにおいて、制限及び例外を採用し、維持することができる。

[欧:第9項の削除を提案。]

 ここでも、日本政府は、多少の留保はしているが、技術的手段の定義に関する脚注で、技術的手段にはコピーコントロールだけではなく、アクセスコントロールも含めるべきと勝手に主張しており、全体として、どうにもポリシーロンダリングでDRM回避規制の強化をしたいと見えるのである。(あくまで比較の問題に過ぎないが、EUなどがDRM回避規制そのものについて比較的慎重な態度を示しており、今に至っても完全にまとまっている様子がないと分かるのは良いことである。ただし、アメリカがより強い規制を入れようと図っている点は不安である。)

 前回も書いた通り、この第5項(a)でアクセスコントロールも含めたDRMの回避行為そのものが、(b)でDRM回避機器の製造が規制の対象とされようとしていることは日本の国内法との関係では大問題である。

 何度も書いて来ている通り、このような不透明かつ不合理な条約交渉の話を除けば、DRM回避規制について今現在の法的整理を動かすべき理由は何1つなく、このような情報アクセスそのものに対する規制を日本で導入することはユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ないだろう。また、経産省でも検討が進むのだと思うが、DRM回避機器の製造規制についても、日本政府の検討で規制に対してまともな一般的な制限又は例外が作られるとは考えがたく、メーカーにとって相当不当な規制となる可能性が高い。今後、文化庁と経産省で同時並行で無意味に慌しく進められるだろう検討は本当に要注意である。

 大体、4月から8月と追っただけでも、こう内容が二転三転している条約について、その検討の詳細を隠したまま、とにかくまず条約ありき、規制強化ありきで国内の検討を進めようとするなど愚劣の極みと言って良い。パブコメ等で指摘したいと思っているが、海賊版対策条約の妥結目標が9月で、法制問題小委員会で国内法制との整合性を検討して報告書案を作るのが11月、パブコメを取るのが12月の予定というデタラメな順序からして、ふざけているとしか思えない。この検討がまた主に非公開のワーキングチームで行われるというのも国民を完全にバカにした話である。

 海賊版対策条約について、ユーザーの目から見た時に最大の問題として残ったのは、主にDRM回避規制に関する部分となったとは言え、この部分だけでも日本の知的財産法制に対する影響は決して小さいものではない。日本政府はほとんど全くと言って良いほどアテにならないが、米欧間又は南北間の対立から、この日本の国益になるとは思えない条約交渉が止まってくれることを、最低でもDRM回避規制関連部分が完全に削除されることをやはり私は願っている。

 次回は、この話と絡み、DRM回避規制について少し補足を書きたいと思っている。

(9月10日の追記:1カ所誤記を直し、一番上のリンクに文化庁HPの議事次第・資料へのリンクを追加した。また、arstechnica.comの記事、zeropaid.comの記事になっているように、欧州議会がさらにACTAに対する懸念表明を採択するなど、海外ではなおACTAに対する反対の動きも強まっている。)

(10月10日の追記:2ヵ所誤記を見つけたので、訂正した(「性等」→「正当」)。)

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2010年9月 5日 (日)

第237回:海賊版対策条約(ACTA)交渉の行方(7月版のリーク条文案)

 他の話のために後回しになっていたが、今回は海賊版・模倣品拡散防止条約(ACTA)のことを取り上げる。

 海賊版対策条約(ACTA)については、4月時点で条文案が公開されたとは言え、その後は公式の条文案の公開はなく、会合毎に日本政府から要領を得ない概要は公開されているが、やはり各国のスタンス等全て不明のまま交渉が続けられている。

 8月の交渉に用いられた文書のリーク情報があればと思っていたが、このリークはまだないようなので、ここではユーザーとして特に注意が必要と考えている部分について、7月時点でのリーク条文案(laquadrature.netの記事参照)から翻訳して行く。(なお、翻訳にあたっては、4月公開版の条文案のMIAU翻訳も参照した。)

(1)プライバシー保護関連
 4月時点ではまだ作った方が良いという文章でしかなかったが、7月時点の条文案では、プライバシー保護関連の条項は、第1章中で以下のような条文とされている。

ARTICLE 1.4: PRIVACY AND DISCLOSURE OF INFORMATION

Nothing in this Agreement shall require any Party to disclose information the disclosure of which would be contrary to its law or its international agreements, including laws protecting right of privacy or confidential infomation the disclosure of which would prejudice law enforccement or the legitimate commercial interests of paticular enterprises, public or private, or otherwise be contrary to public interest.

第1.4条:プライバシーと情報開示

この条約のいかなる条項によっても、締約国に、プライバシーの権利又は秘密情報を保護する法律等、その国内法または国際条約に反する情報の開示、特定の公的若しくは私的な企業の正当な商業的利益又は公益に反するような、情報の開示を求めてはならない。

 これは第2章第2節第2.X条(少量品に関する規定)の「締約国は、旅行者の私的な荷物に含まれる、[NZ/豪/加/シンガ/韓/日:又は小口貨物で送られる、]非商業的な性質の少量の物品を本節の適用から除外することができる。」という税関での検査に関する条項との関係で必要だと思うが、総務省などへのパブコメでも書いている通り、プロバイダーの責任制限等についての条項との関係でユーザーの情報アクセスに関する基本的な権利が不当に侵害される恐れがあり、プライバシーの保護に関する条項だけでは不十分と、国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利である情報アクセスの権利等の情報の自由に関する権利を守るということも条約に書き込むべきと私は考えている。

(2)法定賠償関連
 法定賠償については、7月時点の条文案で、第2章第1節第2.2条第3項に以下のようにそのまま残されている。

ARTICLE 2.2: DAMAGES

3. [US: At least with respect to works, phonograms, and performances protected by copyright or related rights, and in cases of trademark counterfeiting e] [E]ach Party shall also establish or maintain a system that provides for:

(a) pre-established damages, or
(b) presumptions for determining the amount of damages sufficient to compensate the right holder for the harm caused by the infringement, or
(c) at least for copyright additional damages.

第2.2条:損害賠償

第3項 [米:少なくとも著作権又は著作隣接権によって保護される著作物、録音と実演に関しては、及び商標権侵害のケースにおいては、]各締約国は、以下のことを規定する法制を整備又は維持しなければならない:

(a)予め決められた損害賠償、又は
(b)権利者に侵害によって生じた損害を完全に補償するのに十分な損害賠償額の推定、又は
(c)少なくとも著作権について、追加の損害賠償。

 ここの(a)で言及されている法定賠償制度は、アメリカで一般ユーザーに法外な損害賠償を発生させ、その国民のネット利用におけるリスクを不当に高め、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにしかつながっていないものである。選択肢の形になってはいるため必ず法定賠償制度の国内法への導入が必要になるという解釈を取ることはできないと思うが、国内でこのような不合理な制度の導入を求めている一部の者によって、国内法改正の検討の際に不当に利用される恐れも強く、この法定賠償に関する部分も要注意と私は思っている。

(3)プロバイダー責任制限関連
 プロバイダー責任制限関連については、7月時点の、第2章第4節第2.18条第3項では以下のようになっている。

ARTICLE 2.18 [ENFORCEMENT PROCEDURES IN THE DIGITAL ENVIRONMENT]

3. Each Party shall [CH:may] provide at least

(a) that online service providers shall not be held liable or shall not be subject to monetary remedies for at least civil copyright or related rights infringements that occur by any of following:
(i) automatic technical processes [J: that keep the provider from taking mesasures to prevent infringement, such as those] as part of transmission of material when the online service provider did not initiate the transmission, did not select or modify the material, and did not select the recipients of the material;
(ii) the aoutomatic, intermidiate, and temporary storage of material made available online by a person other than the online provider and transmitted by the online service provider to its users without modification of the material; or
(iii) [storage of material provided by a user of the online service provider [US/Can: or][EU: and including] referring or linking users to an online location containing infringing material or activity.]

(b) that the application of the provision of subparagraph (a)(ii) is conditioned on an online service provider [J: take appropriate measures] expeditiously [Can: or within a defined period of time][J: such as those to remove or disable] removing or disabling access to material upon [J: obtaining actual knowledge of the infringement or having reasonable grounds to know that the infringement is occuring] receipt of a legally sufficient notice of alleged infringement concerning material that has previously been removed from the originating site.

(c) that the application of the provisions of subparagraph (a)(iii) is conditioned on
[US: (i)] an online service provider not receiving a financial benefit directly attributable to the infringing activity, in a case in which the service provider has the right and ability to control such activity; and]
[(i) [US: (ii)]] an online service provider [J: taking appropriate measures] expeditiously [J: such as those to remove or disable] removing or disabling access to material
(A) upon abtaining actual knowledge that the material or an activity using the material is infringing, such as [US/Aus: for example] upon receipt of a legally sufficient notice of alleged infringement, [US/Aus: and] in the absence of a legally sufficient response from the relevant alleged infringer indicating that the result of mistake or misidentification;]
(B) in the absense of actual knowlwdge, when the online service provider [J: has reasonable grounds to know that the infringement is occurring] is aware of facts or circumstances from which infringing activity is apparent.[Can: or]
(iii) [Can: the service provider not knowing of a decision of a court of competent jurisdiction that the hosted materials are infringing]

3 bis No Party's legislation may condition the limitations in subparagraph (a) on an obligation that the online service provider monitors its services or [CH: in any other way] actively or affirmatively seeks facts indicating that infringing activity is occurring.

[J: 3 ter. Each Party shall ensure that its judicial authorities habe the authority to order an online service provider to expeditiously disclose the information of the relevant subscriber to right holders, who have given legally sufficient claim with valid reasons to be infringing their trademarks or copyright or related rights.

3 quater. Each Party shall endeavor to promote the development of mutually supportive relationships between online service providers and right holders to deal effectively with patent, industrial design, trademark and copyright or related rights infringement which takes place by means of the Internet, including the encouragement of establishing guidelines for the actions which should be taken.]

第2.18条:[デジタル環境における知財執行手続き]

第3項 各加盟国は、少なくとも以下のことを規定しなければならない[加:できる]:

(a)以下の場合に発生する、少なくとも著作権又は著作隣接権の民事的な侵害行為について、オンライン・サービス・プロバイダーが、責任を負うとされず、金銭的な救済の対象とならないこと:
(ⅰ)オンライン・サービス・プロバイダーがその通信を開始せず、そのマテリアルを選択又は変更せず、そのマテリアルの受信者を選択しない場合の、通信の一部として、[日:そのようなものとして、侵害を抑止する手段を取ることがオンライン・サービス・プロバイダーにできない]技術的な自動プロセス;
(ⅱ)オンライン・サービス・プロバイダー以外の者によって入手可能とされ、マテリアルの変更なくその利用者にオンライン・サービス・プロバイダーによって通信される、マテリアルの自動的、仲介的かつ過渡的な蓄積;又は
(ⅲ)[侵害マテリアル又は行為を含むオンラインの場所の利用者への参照の提供又はその場所と利用者の接続[米/加:を行う][欧:等を含む]、オンライン・サービス・プロバイダーの利用者によってなされるマテリアルの蓄積。]

(b)(a)(ⅱ)の規定の請求は、発生源のサイトから前に削除されたマテリアルに関する侵害の疑いの法的に十分なノーティスの受け取り[日:侵害を実際に知ったか、侵害が発生していると知る合理的な理由があること]に基づいて、オンライン・サービス・プロバイダーが、迅速に[加:又は決められた期間内に]、マテリアルを削除するかこれへのアクセスを止めること[日:削除やアクセス停止のような適切な手段を取ること]を条件とする。

(c)(a)(ⅲ)の規定の請求は、以下のことを条件とする
[米:(ⅰ)]そのような行為をコントロールする権限と能力をサービス・プロバイダーが有しているケースにおいて、オンライン・サービス・プロバイダーが、侵害行為に直接起因する金銭的利益を得ていること;そして]
(ⅰ)[米:(ⅱ)]以下の場合に、マテリアルの削除やこれへのアクセスの停止[日:のような適切な手段]を、オンライン・サービス・プロバイダーが取ったこと
(A)[米/豪:例えば]侵害の疑いの法的に十分なノーティスの受け取りに基づく等、そのマテリアル又はマテリアルを使った行為が侵害していると実際に知ったことに基づき、[米/豪:そして]それが内容又は宛先の間違いの結果であることを述べるオンライン・サービス・プロバイダーの関係する契約者からの法的に十分な返答がなかった場合;]
(B)実際そうとは知らないが、オンライン・サービス・プロバイダーが、事実又は状況から侵害行為が明らかであると気づいた[日:に、侵害が発生していると知る合理的な理由があった]場合。[加:又は]
(ⅲ)[加:サービス・プロバイダーが、ホストされたマテリアルが侵害しているとする、権限を有する裁判管轄の裁判所の決定について知らないこと]

第3の2項 いかなる締約国も、(a)の責任制限について、オンライン・サービス・プロバイダーがそのサービスを監視すること、又は[スイス:他のいかなる形でも]侵害行為が生じていることを示す事実を能動的に又は積極的に探す義務を条件とすることはできない。

[日:第3の3項 各締約国は、商標権又は著作権又は著作隣接権を侵害されているとする有効な理由に基づく法的に十分な請求をした権利者に、関係する契約者の個人情報を迅速に開示することを、オンライン・サービス・プロバイダーに命じる権限を、司法当局が有することを確保しなければならない。

第3の4項 各締約国は、取られるべき対策についてのガイドライン策定の促進など、インターネットを用いることで発生する、特許権、意匠権、商標権と著作権又は著作隣接権侵害に適切に対処するための、オンライン・サービス・プロバイダーと権利者の間の相互協力の発展を推進しなければならない。]

 現状どうなっているのかまでは分からないが、7月時点での案は前のものに比べるとかなりまともな内容となっている。ただし、日本政府の外交交渉力の無さから考えて日本の提案は通らないだろうと個人的には思っており、ぎりぎり現行法の解釈でも何とかならないこともないだろうが、その場合、そのことを受けて、プロバイダー責任制限法の改正の議論が出て来るだろうことには十分注意しておいた方が良い。(この点で、やはりアメリカは自国のノーティス&テイクダウン制度の世界各国への押し付けを図っているため、国内法制との整合性において十分な注意を払っておく必要がある。なお、日本の提案の第3の3項で、情報開示の命令を司法当局の権限と改めたのは、現行法との整合を考えて直したのだろう。)

 かなりマシになっているとは言え、特に、この点でストライクポリシー導入の議論などもまだ国内外でくすぶり続けると思っているので、やはり、国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利である情報アクセスの権利等の情報の自由に関する権利を守るということも、条約に書き込むべきであると私は考えている。

(4)DRM回避規制関連
 DRM回避規制関連としては、7月時点の、第2章第4節第2.18条第4項と第5項は、以下のようになっている。

[4. EU/J/CH/Mex/Sig/Mor/Aus: Each Party shall provide adequate legal protection and effective legal remedies [US: at least] against the circumvention of effective technological measures that [US: are used by authors, or at direction of,] authors, and [NZ: performers] performers and producers of phonograms [US:use] use in connection with the exercise of their rights and that restrict acts in respect of their works, [NZ: performances] performances, and phonograms which are not which are not authorized by the authors, the [NZ: performers] performers or producers of phonograms concerned or permitted by law.
[US: In order to provide such adequate legal protection and effective legal remedies, each Party shall provide protection at least against:] Adequate legal protection shall be provided, in appropriate cases, at least against:

(a) [NZ: the unauthorized circumvention of an effective technological measure [US: that restricts acts not authrized by right holder and is] carried out knowingly or with reasonable grounds to know;] and the unauthorized circumvention of an effective technological measure [US: that restricts acts not authrized by right holder and is] carried out knowingly or with reasonable grounds to know; and

(b) the manufacture, importation, or distribution [US: of, or offer to distribute, a devide or product, that circumvents an effective technologocal measure and is either:] of a device that has predominant function of circumventing an effective technologocal measure and that is any of the following:
(i) [US: marketed for the purpose of circumventing an effective technological measure] marketed for the purpose of circumventing an effective technological measure;
(ii) primarily designed or produced for the purpose of circumventing an effective technological measure; or
(iii) has only a limited commercially significant purpose other than circumventing an effective technological measure.]

Option1
5. Each Party shall provide that effective legal remedies [EU: effective legal remedies][EU: adequate legal protection] against a violation of a measure implementing paragraph (4) independent of any [J: other unlawful activities] infringement of copyright or related rights.

Option2
5. [US/Sing/NZ/Aus/: Each Party shall provide that a violation of a measure implementing paragraph (4) independent of any [J: other unlawful activities][J: infringement of copyright or related rights] infringement of copyright or related rights.

Article 2.18.X

Each Party may adopt and maintain exceptions or limitations to measures [Can: measures][Can: provisions] implementing paragraph (4), so long as they do not significantly impair the adequacy of legal protection of those [Can: those][Can: technological] measures or the effectiveness of legal remedies for violations of those measures.

第4項 EU/日/スイス/メキシコ/シンガ/モルドバ/豪:その権利の行使に関係する形で]著作権者[NZ:実演家]実演家又はレコード製作者]によって用いられ、その著作物[NZ:実演]実演及び録音に関して、著作権者、[NZ:実演家]実演家又はレコード製作者によって許可されていないか、法律によって認められていない行為を制限する、有効な技術的手段の回避に対して[米:少なくとも]適切な法的保護と有効な法的救済を規定しなければならない。
[米:そのような適切な法的保護と有効な法的救済を提供するため、少なくとも以下の行為に対する保護を規定しなければならない:]適切な法的保護が、適切な場合において、少なくとも以下の行為に対して規定されなけらばならない:

(a)[NZ:[米:権利者によって許可されていない行為を制限する、]故意に又はそうと知る合理的な理由がある場合になされる、有効な技術的手段の不正な回避][米:権利者によって許可されていない行為を制限する、]故意に又はそうと知る合理的な理由がある場合になされる、有効な技術的手段の不正な回避;そして

(b)有効な技術的を回避する機能を有し、以下のいずれかである機器[米:主として有効な技術的手段を回避する機能を持ち、以下のいずれかである機器又は製品]の製造、輸入又は頒布[米:、又は提供の申し出]:
(ⅰ)有効な技術的手段を回避する目的で販売されたもの;
(ⅱ)主として有効な技術的手段を回避する目的で設計若しくは製造されているもの;又は
(ⅲ)有効な技術的手段を回避する以外には限定的な商業的目的又は用途しか持たないもの。]

オプション1
第5項 各締約国は、第4項に書かれている手段を破ることに対する、有効な法的救済[欧:有効な法的救済][欧:適切な法的保護]を、著作権又は著作隣接権侵害[日:他の違法行為]とは独立に規定しなければならない。]

オプション2
第5項 [米/シンガ/NZ/豪:各締約国は、第4項に書かれている手段を破ることについて、著作権又は著作隣接権侵害[日:著作権又は著作隣接権侵害][日:他の違法行為]とは独立に規定しなければならない。]

第2.18.X条(なお、第2.18条第7項にも同じ規定があるが、条文の置き場所の検討だと思うので第7項の方は省略する。)

第4項に書かれている手段[加:手段][加:規定]について、この[加:この][加:技術的]手段の適切な法的保護又はこの手段を破ることに対する法的救済の有効性を大きく損なうものでない限りにおいて、各締約国は、制限及び例外を採用し、維持することができる。

 ここでもサービスや技術そのものまで規制の対象としようとするメチャクチャこそ直り、かなりマシになっているものの、第4項(a)でDRMの回避行為そのものが、(b)でDRM回避機器の製造が規制の対象とされようとしていることは日本の国内法との関係では大問題である。

 DRM回避行為そのものの規制については、著作権法でコピーコントロールを回避して複製する行為が規制の対象になっており、この条文案だとこれで足りるとする解釈も成立し得ないということはないだろうが、「いずれの締約国も、(a)をコピーコントロールの不正な回避に対して適用することを義務づけられることはない」という不可解な脚注がつけられていることからも、今のところ、この第4項(a)は恐らくコピーコントロールではなくアクセスコントロールを主な規制のターゲットとしていると考えられるのである。今まで何度も書いて来ていることだが、このような情報アクセスそのものに対する規制を日本で導入することはユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない。

 また、DRM回避機器の製造規制についても、日本政府の検討で規制に対してまともな一般的な制限又は例外が作られるとは考えがたく、メーカーにとって相当不当な規制となる可能性が高い。

 来週9月7日の文化庁の文化審議会・著作権分科会・法制問題小委員会において、アクセスコントロールの回避規制が検討されることとなっているが(文化庁HPの開催案内参照)、その背景にあるのは明らかにこの海賊版対策条約の議論である。

 文化庁のことなので、検討の背景について表の場では何かしらの誤魔化しを図ってくるかも知れないが、DRM回避機器に対して、ゲームメーカー勝訴の判決が出ていることを考えても、今以上の規制を是とするに足る立法事実、過去の立法経緯における整理(第45回参照)を動かす合理的な理由は何一つない。

 海賊版対策条約の議論、特にDRM回避規制の議論において、日本政府は、自国の法制について過去の立法経緯も含めてきちんと説明した形跡もなく、勝手に規制強化にコミットしたあげく、国内での議論を始めようとしているという、典型的なポリシーロンダリングのやり方を示している。相変わらず規制強化ありきで人の話に聞く耳を持つとは到底思えない文化庁が何をしでかそうとするかは特に要注意である。(外交交渉において、他に取るべきところがあるために、あるカードを切るということは当然あり得る話だが、各国の法制と条文案の比較のような外交戦略の決定において必須となるはずの詳細な資料が日本政府から何かしらの場で提示された様子はなく、例によって、この期に及んでも、ほとんど各担当省庁の官僚の勝手な思い込みだけで行き当たりばったりに交渉は進められているとしか思えない。)

 DRM回避機器の製造規制についての話もあるので、近いうちに経産省で不正競争防止法の改正の検討も始まるだろうが、こちらも同じように要注意である。

 7月時点の条文案から見ても、ほとんど交渉としては7月8月で煮詰まっていると思えるので、経産省の前回の8月会合の概要リリース共同通信の記事にもあるように、各国政府は、次のこの9月の日本会合では交渉レベルを次官級に上げ、何かしらの合意形成を図ろうとしているのだろう。署名前に条約案の全文を公開するとしている点は良いとしても、恐らく、また日本政府は、ここで何かしらの合意ができれさえすれば良いとばかりに欧米なりの言いなりに勝手に妥協をしたあげく、合意ができれば、日本として何を得たのかという説明もなく合意万歳のプロパガンダを垂れ流すことだろう。今の日本政府に期待できるところはほとんどないが、このような外交交渉のやり方は愚の骨頂である。

 ここまで来ると条約そのものについて個人でどうこう言うことにあまり意味はないが、今後も条約交渉の行方とこれを受けた国内の法改正の動きは引き続き要注意である。日本政府はほとんど全くと言って良いほどアテにならないが、個人的には、米欧間又は南北間の対立から、この日本の国益になるとは到底思えない条約交渉が完全に止まってくれることを願っている。

 次回は、「チラシの裏(3週目)」で取り上げられている通り、地方での表現規制の動きが激しさを増しているので、地方自治絡みの話を書きたいとも思っているが、その前にDRM回避規制の問題についてもう少し補足を書きたいと思っている。

(9月6日の追記:タイミングが良いというか悪いというか、今日、最新版(8月25日版)の海賊版対策条約(ACTA)の条文案のリークがあった(keionline.orgのブログ記事、カナダ・オタワ大教授マイケル・ガイスト氏のブログ記事参照)。次のエントリとして、このリークされた条文案(pdf)で(wiki版)について、上に書いところと対応する部分の翻訳を載せるつもりだが、かなり変わっているところもあり、特に、プロバイダー責任制限の部分は合意は無理と判断されたのかかなりばっさりとカットされている。ユーザーから見た時、これでACTAについて最大の問題として残ったのは、DRM回避規制に関する部分となった。)

(8月9日の追記:誤記をいくつか修正し、また、次のエントリとごっちゃにならないよう、使ったリーク文書が7月版のものであることをタイトルに書き込んだ。)

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2010年4月 6日 (火)

第220回:新たにリークされた文書から見る模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)に対する日本政府のスタンス(税関取り締まり関連部分)

 前回の最後に少し書いたが、laquadrature.netの記事の通り、2010年1月18日バージョンの海賊版対策条約案(ACTA)の全文(記事中の全文pdfへのリンク)がリークされた(en.swpat.orgで作られているテキスト版)。今回は今まで紹介していない部分で、やはり気になっていたところの税関取り締まりの部分について、その翻訳紹介をしておきたいと思う。

 日米共同提案の税関取り締まりの部分の条文案は以下のようなものである。(翻訳はいつも通り拙訳。他の国のコメントも重要ではあるのだが、やはり煩雑になるので注釈については日本政府のスタンスを示すもの以外は省略した。)

Section 2: Border Measures

Footnote: [Japan: Each Party shall implement the obligations in respect of importation and exportation set out in this Section so as to be applied to shipment of goods consighned to {a local party/a party in the territory} but destined for outside the territory of the Party].

Option 1 [Article 2.x: EU: Scope of the Border Measures

1. This section sets out the conditions for action by the competent authorities when goods are suspected of infringing intellectual property rights, within the meaning of this agreement, when they are imported, exported, or in-transit.

2. For the purpose of this section, goods infringing an intellectual property right means goods infringing any of the intellectual property rights covered by TRIPS, with the exception of the protection of undisclosed information and layout designs (topographies) of integrated circuits.]

3. Where a traveler's personal baggage contains goods of a non-commercial nature within the limits of duty-free allowance and there are no material indications to suggest the goods are part of commercial traffic, each Party may consider to leave such goods, or part of such goods, outside the scope of this section]

Option 2[[Article 2.x: Aus/Can/NZ/Sing: Scope of the Border Measures

[Aus/Can/Sing: 1. Where a traveler's personal baggage contains trademark goods or copyright materials of a non-commercial nature within the limits of the duty-free allowance {Aus: or where the copyright materials or trademark goods are sent in small consignments} and there are no material indications to suggest the goods are part of commercial traffic, Parties may consider such goods to be outside the scope of this Agreement.]

[JP: 1. Where a Party excludes from the application of the provisions in this Section small quantities of goods of a non-commercial nature contained in traveler's personal luggage, the Party shall ensure that the quantities of goods eligible for such exclusion shall be limited to the minimum allowed within its available resources.]

Option 3
[Can/NZ/US: Where a traveler's personal baggage contains goods of a non-commercial nature in quantities reasonably attributable to the personal use of the traveler and there are no material indications to suggest the goods are part of commercial traffic, each Party may consider that such goods are outside the scope of this section.]

Article 2.6: Application by Right holder

1. Each Party shall provide [US/J: procedures][Mor: measures] for import, [Aus/Can/Sing/NZ: and may provide procedures for] export [US/NZ/Mor: and in-transit] [Mor/Sing/Kor: in transit] [Aus:, Customs transit and transshipped] shipments, [EU: for import, export, and in transit shipments] by which right holders may request the competent authorities to suspend release [CH: at least in cases] of suspected counterfeit trademark goods or confusingly similar trademark goods [Can/Aus/Kor/Mor/Sing: or confusingly similar trademark goods], and suspected pirated copyright goods [EU/MX: goods suspected of infringing an intellectual property right] [Sing: ("suspected infringing goods)"] into free circulation.

2. The competent authorities shall require [US/J: a right holder ][MX: an applicant] requesting [US/J:the] [MX:the] procedures described in paragraph 1 to provide adequate [MX: and sufficient] evidence to satisfy themselves that, under the laws of[US/J: that country][Can: that country] [Aus, Can, NZ, Sing: the Party providing the procedures], there is prima facie an infringement of the right holder's intellectual property right and to supply sufficient information that may reasonably be expected to be within the right holder's knowledge to make the suspected infringing goods reasonably recognizable by the [Sing/MX: competent] [US/J: customs authorities. [US/J/AUS/CAN: The requirement to provide sufficient information shall not {Aus/Can: be used to} unreasonably deter recourse to the procedures described in paragraph 1.] [Sing/Mor: The requirement to provide sufficient information shall not [Aus/Can: be used to] unreasonably deter recourse to the procedures described in paragraph 1.]

3. Each Party shall provide [US/J:that the application to suspend the release of goods shall {JP: unless otherwise specified by the right holder} apply to all {US/J: points of entry to and exit from}{Mor: or party of customs offices in} its territory and remain applicable] [Aus/Can/NZ: for applications to suspend the release of suspected infringing goods that apply to all customs {NZ: jurisdictions of} offices in its territory and remain aplicable to multiple shipments] for a period of not less than one year from the date of application, [NZ: unless otherwise specified by the rights holder] or the period that the relevant article is protected by copyright or the relevant trademark registration is valid under the laws of the [US/J: country taking][Aus/Can/NZ/Sing: Party providing] border measures provided for under this Section, whichever is shorter. [Sing: Where the measures of a Party provide for a specific application that applies to a specific shipment of a suspected infringing good, such application shall remain applicable for a period of not less than sixty days from the date of application, or the period that the relevant article is protected by copyright or the relevant trademark registration is valid under the laws of the party providing border measures under this Section, whichever is shorter.]

[Can/NZ: Parties may provide that an application may be administratively suspended or voided for cause, particularly where it is established that an applicant has accumulated substantial unpaid storage or destruction costs owing for a significant period of time, or where the applicant has abused the process by, for example, knowingly providing false or misleading information in the application or in connection with the enforcement of border measures.]

[Sing: Each Party shall provide for either one of the following:
(i) applications to suspend the release of suspected infringing goods that apply to all customs offices in its territory and remain applicable to multiple shipments for a period of not less than one year from the date of application, or the period that the relevant article is protected by copyright or the relevant trademark registration is valid under the laws of the party providing border measures under this Section, whichever is shorter.; or
(ii) applications to suspend the release of particular specified shipments of suspected infringing goods that remain applicable for a period of not less than 60 days from the date of application, or the period that the relevant article is protected by copyright or the relevant trademark registration is valid under the laws of the party providing border measures under this Section, whichever is shorter.]

[Aus/NZ/Can/Sing/EU: 3. Each Party shall permit right holders to supply the competent authorities to assist them in taking border measures provided for under this Section. Each Party may authorize the competent authorities to request right holders to supply any such information.]

4. [US/J: The] [Aus/Can/Sing/NZ: Each Party shall provide that the competent authorities shall[US/J: inform][Aus/Can/Sing/NZ: make known to] the applicant within a reasonable period whether they have accepted the application. Where the competent authorities have accepted the application, [US/J: they shall also make known to the applicant the period of validity of the application] [Sing: they shall also make known to the applicatant the period of validity of the application]. [US/J: The competent authorities shall also make the application public, while protecting any information in the application that is confidential [Can: The competent authorities shall also make the application public, while protecting any information in the application that is confidential]. [Aus/Can/Sing/NZ: Each Party may provide that competent authorities make the above information known to an applicant through publication.]

[Aus/EU: 4 The right-holder shall not be charged a fee to cover the administration costs occasioned by the processing of the application.]

5. Each Party may also provide procedures [US/J/Sing: for import, {Sing: and} export {U.S.: , and in-transit}{Sing: ,and in-transit} shipments] [EU: for import, export, and in-transit shipment ]by which right holders may request the competent authorities to suspend release of goods suspected of infringing other intellectual property rights. [MX/Can/NZ: Delete paragraph, already covered.]

Article 2.7: Ex-Officio Action

1. Each Party [NZ: may][US/J: shall] provide that its customs authorities may act upon their own initiative, to suspend the release of [US/J: suspected {Sing: infringing} counterfeit {US/J: or confusingly similar} {Can/Aus/Kor/Mor/Sing: or confusingly similar} trademark goods or suspected pirated copyright goods ][MX:IPR infringing goods] with respect to imported, [US/J: exported] [Can: exported] [US: , or in-transit][Sing:, or in-transit] goods including [US/J: suspected [Sing: infringing] counterfeit {US/J: or confusingly similar} [Can/Aus/Kor/Mor/Sing:or confusingly similar] trademark goods or suspected pirated copyright goods] [MX: IPR infringing goods] admitted to, withdrawn from, or located in free trade zones [EU: goods suspected of infringing an intellectual property right]. [JP/Aus/Can/NZ/Sing: Each Party [US: shall][Aus/Can/Sing/NZ: may][JP: shall endeavor to] provide its customs authorities the same authority as the foregoing provision of this Article in respect of [Aus/Can/Sing/NZ: exported and] in-transit [Aus:, Customs transit and transshipped] goods that are [US/J: suspected counterfeit {JP/NZ: or confusingly similar} {Can/Aus/Kor/Mor/Sing: or confusingly similar] trademark goods or suspected pirated copyright goods.][MX IRP infringing goods]

2. Each Party may also provide that its customs authorities may act, upon their own initiative, to suspend the release of goods suspected of infringing other intellectual property rights [EU: , not covered by this section]. [MX: Delete b/c repeats 2.7.1] [Can: Delete provision]

Article 2.8: Provision of Information from Right Holder

[US/J: With respect to the procedures described in Articles 2.6 and 2.7, each][Aus/Can/Sing, NZ: Each] Party shall [Aus/Can/NZ/Sing: have in place procedures enabling][US/J: adopt or maintain a procedure to allow] right holders to supply the competent authorities [Aus/Can/Sing/NZ: with information sufficient][US/J: sufficient information] to assist them in taking border measures provided for under this Section. Each Party may authorize the competent authorities to request right holders to supply any such information.

Article 2.9: Security or Equivalent Assurance

Each Party shall provide that its competent authorities shall have the authority to require a right holder requesting procedures described under Article 2.6 to provide a reasonable security or equivalent assurance sufficient to protect the defendant and the competent authorities and to prevent abuse. Each Party shall provide that such security or equivalent assurance shall not unreasonably deter recourse to these procedures. Each Party may provide that such security may be in the form of a bond conditioned to hold the defendant harmless from any loss or damage resulting from any suspension of the release of the goods in the event the competent authorities determine that the good [US/J/Can/Aus/Kor/Mor/Sing: is not a counterfeit {US/J:or confusingly similar}{Can/Aus/Kor/Mor/Sing: or confusingly similar} trademark good or a pirated copyright good][EU: does not infringe intellectual property rights covered by this section]. [US/J:No Party may][Aus/Can/NZ:-Only in exceptional circumstances may a Party] [Sing/NZ: Only pursuant to a judicial order may a Party] permit a defendant to post a bond or other security to obtain possession of suspected counterfeit {US/J:or confusingly similar} [Can/Aus/KR/Mor/Sing: or confusingly similar] trademark goods or suspected pirated copyright goods.

[EU/Aus/Can/NZ: Article XX: Disclosure of Information:

With a view to establishing whether an intellectual property right has been infringed under national law and in accordance with national provisions on the protection of personal data, commercial and industrial secrecy and professional and administrative confidentiality, the competent authorities have detained infringing goods, shall inform the right holder of the names and addresses of the consignor, importer, exporter, or consignee, and provide to the right holder a description of the goods, the quantity of the goods, and, if known, the country of origin and name and addresses of producers of the goods.]

Article 2.10: Determination as to Infringment

Each Party shall provide a procedure by which competent authorities [Aus/Sing/NZ: may] [US/J:will] determine, whether upon request or on their own initiative within a reasonable period of time after the initiation of the procedures described under Article 2.6 or 2.7, whether the suspected infringing goods infringe an intellectual property right.

Article 2.11: Remedies

1. Each Party shall [Aus/Can/Sing/NZ: have in place procedures whereby the competent authorities may] provide that goods [Aus/Sing/Can: in the custody of the state] that have been [US/J: forfeited {NZ: to the state} as infringing] [Can: forfeited as infringing][Aus/Sing/Can: found to infringe copyright or trademark] following a determination under Article 2.10 shall be destroyed, except in exceptional circumstances.

2. Each Party shall authorize its competent authorities to impose penalties [Aus/Can/Sing, NZ: or provide remedies] in connection with the importation [US/J: and exportation][Can/Sing/NZ: and exportation] of goods following a determination under Article 2.10 that the goods are infringing. [Sing: Each Party may provide its competent authorities the same authority as the foregoing provision of this Article in respect of the exportation of goods.]

3. [US/J: No][Aus/Sing/Can: Subject to other customs procedures, no] Party may authorize the competent authorities to permit forfeited [US/J: infringing][Can: infringing] goods [Aus/Sing/Can: in the custody of the state that have been found to infringe copyright or trademark following a determination under Article 2.10] to be release into [Aus: channels of commerce][US/J: free circulation], [Aus/Sing/Can: or] exported, [US/J: or subject to other customs procedures][Can: or subject to other customs procedures] except in exceptional circumstances. In regard to counterfeit trademark goods, the simple removal of the trademark unlawfully affixed shall not be sufficient, [Aus/Can/EU/Kor/NZ/Sing/JP: other than in exceptional {Aus/Sing/Can/MX/Mor: circumstances} {EU/NZ/JP/Kor: cases}] to permit the release of the goods into the channels of commerce.

Article 2.12: Fees [Can/Aus: Delete this Article.]

1. Each Party shall provide that any [US/J: application fee] [EU: application fee], [US/J:merchandise][Can:merchandise] storage fee, or destruction fee to be assessed [Aus/Can/Sing/NZ: by competent authorities] in connection with procedures described in this Section shall not be [Aus/Can/Sing/NZ: used to][US/J: allocated in a manner or set at an amount that unreasonably burdens right holders, or][Can: allocated in a manner or set at an amount that unreasonably burdens right holders, or] unreasonably deter recourse to these procedures.

2. Each Party shall provide that if the competent authorities have made a determination under Article 2.10 that the suspected infringing goods infringe [US/J: an intellectual property right][Aus, Can/Sing/NZ:copyright trademark], [Aus/Can/NZ/Sing: procedures are made available to enable] the right holder [US/J: shall not be liable for payment of any storage or destruction fees described in paragraph 1][Aus/Can/NZ/Sing to seek recovery of, and indemnify against, costs and expenses that the right holder may have incurred in connection with the exercise of rights and remedies provided under this Section]. [EU: Delete paragraph 2.]

Article 2.13: Disclosure of Information

Where the competent authorities have [Sing: made a determination under Article 2.10 that the suspected infringing goods infringe an intellectual property right, the Party shall grant its competent authorities the authority to inform the right holder of the names and addresses of the consignor, the importer and the consignee and of the quantity of the goods in question.] [US/J: confiscated][MX: seized] [Aus/NZ/Can: detained or seized] infringing goods, [Aus/NZ/Can/Mor: and in accordance with their domestic laws pertaining to] [Can/NZ/Mor: the privacy of information,] [Aus: the protection of personal information,] the competent authority shall have the authority to inform the right holder [MX: and his licensee] within 30 [Mex: 45] days of [US/J: confiscation][Aus/NZ/Can: such detention or seizure], or at an earlier time, the names and addresses of the consignor, importer, exporter, or consignee, and provide to the right holder a description of the goods, [Sing: and] the quantity of the goods [Sing: in accordance with its domestic laws pertaining to the privacy or confidentiality or information. The competent authority may, in addition, provide the name and addresses of exporter] and if known, the country of origin and name and addresses of producers of the goods.

[Can/NZ/Sing/EU: Article XX: EU: Liability of the Competent Authorities

1. The acceptance of an application shall not entitle the right-holder to compensation in the event that goods infringing an intellectual property right are not detected by {Sing: competent authorities} a customs office and are released or no action is taken to detain them.

2. The competent authorities shall not be liable towards the persons involved in the situations referred to in Article 2.6 for damages suffered by them as a result of the authority's intervention, except where provided for by the law of the Party in which the application is made or in which the loss or damage is incurred.]

[Article XX: Kor: Information Exchange between Customs Authorities

If the customs authority of an importing party seizes counterfeit trademark goods or pirated goods to be imported, the party may request the customs authority of the exporting party to take proper measures to the exporters of the goods concerned. The requesting party shall provide information necessary for the identification of the goods concerned by the customs authority of the requested party.]

[JP: Including "in accordance with national legislations and relevant international agreements/arrangements"]

第2章 税関取り締まり

脚注:[日:各加盟国は、その領土内の当事者に対するものとして差し押さえられるものだけでなく、加盟国の領土外に向けられた物品の輸送にも適用できるよう国内法に、本章に規定されている輸出入に関する義務を取り入れる。]

オプション1 第2.X条:欧:税関取り締まりの対象範囲

第1項 本章では、本条約の意味における知的財産権侵害の疑義がある物品が、輸入、輸出あるいは通過した時に、権限を有する当局が取り締まりを行う条件を規定する。

第2項 本章の目的において、「知的財産権侵害物品」は、営業秘密の保護と集積回路のレイアウトデザイン(回路配置)を例外として、TRIPS協定によってカバーされる知的財産権を侵害する物品を意味する。

第3項 旅行者の私的な荷物が、免税として許される範囲内の非商業的な性質の物品を含んでいる場合であって、その物品が商業的な取引の一部を構成することを示唆する証拠がない場合、各加盟国は、このような物品あるいはこのような物品の一部を本章の対象範囲外と考えることができる。]

オプション2 [[第2.X条:豪/加/NZ/シンガ:税関取り締まりの対象範囲

[豪/加/シンガ:第1項 旅行者の私的な荷物が、免税として許される範囲内の非商業的な商標物品あるいは著作物を含んでいる場合であって、{豪:あるいは、少量の荷物として送られる場合であって、}その物品が商業的な取引の一部を構成することを示唆する証拠がない場合、加盟国は、このような物品を本章の対象範囲外と考えることができる。]

[日:第1項 旅行者の私的な荷物に含まれる少量の非商業的性質の物品を本条の適用から除外する時、加盟国はこのような除外の対象として適切な量は、その使用可能なリソースにおいて許される最小限度のものに限定する。]

オプション3 [米/加/NZ:旅行者の私的な荷物が、旅行者の私的な利用に当てられると合理的に考えられる量の非商業的性質の物品を含んでいる場合、各加盟国は、このような物品を本章の対象範囲外と考えることができる。]

第2.6条:権利者による申請

第1項 各加盟国は、[豪:税関を通り積み替えられる]積荷の輸入[豪/加/シンガ/NZ:に対する手続きを規定し、そして]、輸出[米/NZ/モロッコ:と通過][モロッコ/シンガ/韓国:と通過][欧:の積荷の輸入、輸出と通過]に対する[米/日:手続き][モロッコ:措置]を規定し[豪/加/シンガ/NZ:規定することができ]、これにより、権利者が、権限を有する当局に[スイス:少なくとも場合により]商標権侵害の疑義がある物品あるいは誤認混同を生じる類似の商標物品[加/豪/韓/モロッコ/シンガ:あるいは誤認混同を生じる類似の商標物品]と著作権侵害の疑義がある物品の自由流通への通関を差し止めることを可能とする。

第2項 権限を有する当局は、第1項に記載された手続きを申請した[日/米:権利者][メキシコ:申請者]に、[日/米:その国の][加:その国の][豪/加/NZ/シンガ:手続きを規定する加盟国の]法律の下で、権利者の知的財産権の侵害があると疎明できる、適切な[メキシコ:かつ十分な]証拠の提出と、権利者の知っている範囲で、[シンガ/メキシコ:権限を有する][日/米:税関当局]により侵害疑義物品を認められるようにすると合理的に期待される十分な情報の提供を求める。[日/米/豪/加:十分な情報提供の要請は、第1項に記載されている手続きの申請を不当に抑止しては{豪/加:抑止するように使われては}ならない。][シンガ/モロッコ:十分な情報提供の要請は、第1項に記載されている手続きの申請を不当に抑止しては{豪/加:抑止するように使われては}ならない。

第3項 各加盟国は、申請日から1年以上の期間、[NZ:権利者によって他のことが特定されていない限り、]あるいは、[日米:国が取る][豪/加/シンガ/NZ:加盟国が規定する]本条における税関取り締まり法の下で、関係する事項の著作権の保護期間あるいは関係する商標登録の有効期間がより短い場合はその期間、[日/米:物品の通関を差し止める申請は、{日:権利者によって他のことが特定されていない限り}その領土と他の法適用領域への全ての{日/米:入出点に}{モロッコ:あるいはその中の税関事務所に}適用されることを][豪/加/NZ:侵害疑義物品の通関を差し止める申請は、その領土と他の法的用領域の全ての税関事務所{NZ:の司法判断}に適用され、複数の積荷に適用可能であることを]規定する。[シンガ:加盟国の措置により侵害疑義物品の特別な積荷に適用される特別な申請が規定されている場合、そのような申請は、申請日から6月以上の期間か、本章の税関取り締まりを規定する加盟国の法の下で、関係する事項の著作権保護期間あるいは関係する登録商標の有効期間がより短い場合は、その期間適用可能なものとされる。]

[加/NZ:加盟国は、十分な期間の間に申請者が実質的に保管あるいは廃棄コストを支払わなかった場合、あるいは、税関取り締まりの執行に関してその申請において偽のあるいはミスリードするような情報を故意に提供することなどにより、手続きを濫用した場合には、正当な理由として行政的に申請を中断され得るか無効とされ得ることを規定できる。]

[シンガ:各加盟国は、次のいずれかを規定する:
(ⅰ)侵害疑義物品の通関差し止め申請は、申請日から1年以上の期間か、本章の税関取り締まりを規定する加盟国の法の下で、関係する事項の著作権保護期間あるいは関係する登録商標の有効期間がより短い場合はその期間、その領土と他の法適用領域における全ての関税事務所に適用され、複数の積荷に適用可能であるとすること。;あるいは
(ⅱ)特定の侵害疑義物品の通関差し止め申請は、申請日から60日以上の期間か、本章の税関取り締まりを規定する加盟国の法の下で、関係する事項の著作権保護期間あるいは関係する登録商標の有効期間がより短い場合はその期間、適用可能であるとすること。]

[欧/豪/NZ/加/シンガ:第3項 各加盟国は、本条に規定される税関取り締まりの役に立つことを権限に有する当局に提供することを許すことができる。各加盟国は、権限を有する当局に、権利者にこのような情報を提供することを求める権限を与えることができる。]

第4項 [豪/加/シンガ/NZ:各加盟国は、権限を有する当局が、申請を受理してから合理的な期間内に申請者に[日/米:通知する][豪/加/シンガ/NZ:知らせる]ことを規定する][日/米:、権限を有する当局は、申請の有効期間も申請者に知らせる][シンガ:権限を有する当局は、申請の有効期間も申請者に知らせる]。[日/米:権限を有する当局は、申請に含まれている秘密情報を保護しつつ、申請を公表する][加:権限を有する当局は、申請に含まれている秘密情報を保護しつつ、申請を公表する]。[豪/加/シンガ/NZ:各加盟国は、権限を有する当局が上記の情報を刊行物を通じて申請者に知らせることと規定できる。]

[欧/豪:第4項 各加盟国は、権限を有する当局が、申請の処理によって生じる行政コストをカバーする料金を支払う。]

第5項 各加盟国は、[日/米/シンガ:積荷の輸入、{シンガ:と}輸出{米:、と通過}{シンガ:、と通過}][欧:の輸入、輸出、と通過]についての手続きも規定し、権利者が、権限を有する当局に、他の知的財産権侵害の疑義がある物品の通関を差し止めることを申請することを可能とする。[メキシコ/加/NZ:既にカバーされている内容であり、本項削除。]

第2.7条 職権取り締まり

第1項 各加盟国は、その税関当局が、自主的に、自由貿易圏内に受け入れられるか、引き出されるか、そこに置かれた[日/米:{シンガ:侵害}疑義模倣{日/米:あるいは誤認混同を生じる}{加/豪/韓/モロッコ/シンガ:あるいは誤認混同を生じる}商標物品あるいは著作権侵害疑義物品][メキシコ:知的財産権侵害物品][欧:知的財産権侵害疑義物品]を含め、物品の輸入、[日/米:輸出][加:輸出][米:、あるいは通過][シンガ:、あるいは通過]に関し、[日/米:{シンガ:侵害}疑義模倣{日/米:あるいは誤認混同を生じる}{加/豪/韓/モロッコ/シンガ:あるいは誤認混同を生じる}商標物品あるいは著作権侵害疑義物品][メキシコ:知的財産権侵害物品]の通関を差し止めることができることを規定[NZ:できる][日/米:する]。[日/豪/加/NZ/シンガ:各加盟国は、[{シンガ:侵害}疑義模倣{日/米:あるいは誤認混同を生じる}{加/豪/韓/モロッコ/シンガ:あるいは誤認混同を生じる}商標物品あるいは著作権侵害疑義物品][メキシコ:知的財産権侵害物品]の[豪/加/シンガ/NZ:輸出と]通過[豪;、税関通過と積み替え]について、本条の前に規定されているのと同じ権限を、税関当局に与える[米:と規定する。][豪/加/シンガ/NZ:ことができる。][日:よう努めなければならない。]

第2項 各加盟国はまた、権限を有する税関が、職権で、[欧:本章によってカバーされていない、]他の知的財産権の侵害疑義物品を通関を止められるようにすることができる。[メキシコ:第2.7条第1項の繰り返しであり、削除][加:本項削除]

第2.8条 権利者からの情報提供

[日/米:第2.6条と第2.7条に記載されている手続きに関して、各][豪/加/シンガ/NZ:各]加盟国は、本条に規定される税関取り締まりの役に立つ十分な情報を権利者が権限を有する当局に提供することを[豪/加/NZ/シンガ:可能とする手続きを定める][許す手続きを採用するか維持する]。各加盟国は、権限を有する当局に権利者にそのような情報を提供することを求める権限を与えることができる。

第2.9条 担保あるいは同等の保証

各加盟国は、第2.6条に記載された手続きを申請した権利者に、被申請者と権限を有する当局を保護し、濫用を防ぐため、合理的な担保あるいは同等の保証を求める権限を有することを規定する。各加盟国は、このような担保あるいは同等の保証がこの手続きの申請を不当に抑止することがないよう規定する。各加盟国は、権限を有する当局が、その物品は[日/米/加/豪/韓/モロッコ/シンガ:模倣{日/米:あるいは誤認混同を生じる類似}{加/豪/韓/モロッコ/シンガ:あるいは誤認混同を生じる類似}商標物品あるいは著作権侵害物品ではない][欧:本章でカバーされる知的財産権を侵害しない]と決定した場合に、物品の通関の差し止めから生じる損失あるいは損害から被申請者が害を受けないように条件づけられた担保の形で、このような保証がなされ得ることを規定する。[日/米:どの加盟国も、][豪/加/NZ:例外的な状況においてのみ、加盟国は、][シンガ/NZ:司法命令のみにより、加盟国は、]被申請者に、模倣疑義{日/米:あるいは誤認混同を生じる類似}{加/豪/韓/モロッコ/シンガ:あるいは誤認混同を生じる類似}商標物品あるいは著作権侵害物品を入手するために担保を供託することを認めること[日/米:はできない][豪/加/シンガ/NZ:ができる]。

[欧/豪/加/NZ:第XX条 情報開示

国内法の下で知的財産権が侵害されているか否かを決める点で、個人情報、営業秘密、職業的、行政的秘密の保護に関する国内法に従い、権限を有する当局は、侵害物品を止め、権利者に、その差出人、輸入者、輸出者、あるいは名宛人を知らせ、物品の詳細、物品の量、そして、もし分かった場合は、原産国と物品の製造者の名前を住所を提供する。]

第2.10条:侵害に関する決定

各加盟国は、権限を有する当局が、申請によりあるいは職権により、第2.6条あるいは第2.7条に記載された手続きの開始後合理的な期間内に、侵害疑義物品が知的財産権を侵害しているか否かを決定する手続きを規定する。

第2.11条:救済措置

第1項 各加盟国は、第2.10条の決定に従い、[日米:侵害しているとして{NZ:国に}没収された][加:侵害しているとして没収された][豪/シンガ/加:著作権あるいは商標権を侵害すると分かった][豪/シンガ/加:国の管理下にある]物品は、例外的な状況を除き、廃棄することを規定する[豪/加/シンガ/NZ:廃棄できることとする、権限を有する当局における手続きを定める]。

第2項 各加盟国は、物品が権利を侵害しているとする第2.10条の決定に従い、物品の輸入[日/米:と輸出][加/シンガ/NZ:と輸出]について、その権限を有する当局に罰を課す権限を与える。[シンガ:各加盟国は、その権限を有する当局が、物品の輸出に関しても本条の規定と同じ権限を有すると規定することができる。]

第3項 [日/米:いかなる][豪/シンガ/加:他の税関手続きに従うが、いかなる]加盟国も、例外的な状況を除き、[豪/シンガ/加:第2.10条の決定により著作権あるいは商標権を侵害していると分かった、国の管理下にある、]没収した[日/米:侵害][加:侵害]物品を、[豪:商業チャネル][日/米:自由流通]に流すか、[豪/シンガ/加:あるいは]輸出させるか、[日/米:あるいは他の税関手続きに載せるか][加:あるいは他の税関手続きに載せるか]することを認める権限を、権限を有する当局に与えてはならない。

第2.12条:料金[加/豪:本条削除]

第1項 各加盟国は、本章に記載されている手続きについて[豪/加/シンガ/NZ:権限を有する当局により]算定される、[日/米:申請料][欧:申請料]、[日/米:商品][加:商品]保管料、あるいは廃棄料が、手続きへの申請を不当に抑止する[豪/加/シンガ/NZ:ように使われないようにすることを][日/米:ことがないような、あるいは、権利者に不当な負担となるような料金設定がなされないことを][加:ことがないような、あるいは、権利者に不当な負担となるような料金設定がなされないことを]規定する。

第2項 各加盟国は、権限を有する当局が、侵害疑義物品が[日/米:知的財産権][豪/加/シンガ/NZ:著作権と商標権]を侵害するという第2.10条の決定をした場合、[日/米:権利者が、第1項に記載されている保管あるいは廃棄料の支払いの責任を負わないということを][豪/加/NZ/シンガ:本章で規定されている権利行使と救済措置について権利者に生じるコストと出費の回復と補償を求めることを可能とする手続きを入手可能とすることを]規定する。[欧:第2項削除]

第2.13条:情報開示

権限を有する当局が、[シンガ:侵害疑義物品が知的財産権を侵害すると第2.10条の決定を行った場合、権限を有する当局は、問題の物品の差出人、輸入者と名宛人の名前と住所を権利者に通知できる権限を、各加盟国は、権限を有する当局に付与する。]侵害物品を[日/米:押収した][メキシコ:差し押さえた][豪/NZ/加:差し止めるか差し押さえた]場合、[加/NZ/モロッコ:プライバシー情報][豪:個人方法保護]に関するその国内法にも従いつつ、権限を有する当局は、[日/米:押収の][豪/NZ/加:そのような停止あるいは差し押さえの]日から30[メキシコ:45]日以内に、差出人、輸入者、輸出者あるいは名宛人の名前と住所を権利者[メキシコ:とライセンシー]に通知し、物品の説明、[シンガ:と]物品の量[シンガ:を、プライバシーあるいは秘密あるいは情報に関するその国内法に従う形で、提供する。権限を有する当局は、輸出者の名前と住所]と、知り得た場合は、原産国と物品の製造者の名前と住所を権利者に提供する権限を有する[シンガ:も提供することができる]。

[欧/加/NZ/シンガ:第XX条:欧:権限を有する当局の責任

第1項
 申請の受理は、知的財産権侵害物品が税関事務所{シンガ:権限を有する当局}によって探知されず、通関され、あるいはそれを差し止めることがなされなかったということが起こった場合に、補償を求める権利を権利者に与えない。

第2項 権限を有する当局は、その申請がなされたか、そこでその損失あるいは損害が生じた国の法律によって規定されている場合を除き、当局の介入の結果として第2.6条に規定されている状況の関係者が被った損害について、責任を負わない。]

第XX条:韓:税関当局間の情報交換

輸入国の税関当局が、輸入されようとする商標侵害物品あるいは著作権侵害物品を差し押さえた場合、加盟国は、輸出国のぜ下院当局に、問題の物品の輸出者に対して適切な措置を取ることを求めることができる。この要請国は、被要請国の税関当局が物品を特定するのに必要な情報を提供する。]

注:[日:「国内法と関係する国際条約に一致する形で」と入れる]

 詳しくは直接条文案を読んで頂ければと思うが、この部分はインターネット関連部分など(第218回第219回参照)に比べると問題は少ない。しかし、実際どのような解釈・運用がされるかは不明であり、現時点で何とも言えないところもあるが、日本政府が、旅行者の私的な荷物について認められる例外について最小限にするべきと各国の中で最も厳しいスタンスを勝手に取っていることはやはり見逃せない。どの国もこの例外について単に設けることが「できる」としているのみで、プライバシーなどの基本的な権利を守ることとする前提が抜けている時点でかなり危ういのだが、それをおくとしても、日本政府はよほど私的な旅行者に対する取り締まりを強化したいと見えるのである。現時点で、この点で日本の国内法の改正が必要となるとは読めないが、海賊版対策条約(ACTA)については、この税関取り締まり部分についても気をつけておくに越したことはないだろう。(全体的にアメリカと並び日本政府はこの税関取り締まり部分で非常に厳しいスタンスを取っている。)

 先週3月30日に、知財本部で本部会合が開催され(議事次第参照)、知財計画の骨子案(pdf)が了承されたが(日経の記事も参照)、海賊版対策については、その詳細を秘匿したまま、2010年中の妥結を目指すとする人をバカにした形で相変わらずこの骨子案も書かれている。知財本部の動きも要注意であることに変わりはない。

 最後に少し他の話も紹介しておくと、同じく3月30日に警察庁が、平成21年度における総合セキュリティ対策会議の取組状況について(pdf)というペーパーを公表している。この資料では、児童ポルノ流通防止協議会での児童ポルノサイトブロッキングの検討について、「児童ポルノの流通防止という目的に照らし、ブロッキングという手段(いずれの技術的方法を用いても、通信の秘密の侵害になる。)をとることについて、正当行為及び緊急避難の違法性阻却事由に係る論点について検討を行ったが、引き続き議論がなされることが必要」と、どうやっても通信の秘密の侵害になるのに引き続き議論するとされており、今の日本の警察はよほど通信の秘密を侵害し憲法を踏みにじって検閲がしたいと見える。今後も児童ポルノ規制に関しては危険なプロパガンダが続くことだろうが、検閲としかなりようのないブロッキングについてはいくら注意してもしすぎではない。(なお、分かり切っていた話ではあるが、インターネット協会(ホットラインセンター)が資料を公表するより先に警察庁の公式資料に検討の内容が入るあたり、完全にこの児童ポルノ流通防止協議会が警察主導の官製ネット検閲検討会であることを良く表している。)

 3月31日には、やはりインターネット協会から、半官検閲センターである、インターネット・ホットラインセンターの改訂版ガイドラインが公表されている(インターネット協会のリリースinternet watchの記事参照)。

 また、文化政策関連ということでは、つい昨日の4月5日に、経済産業省も、その第3回の産業構造審議会・産業競争力部会(配布資料参照)で、「文化産業」大国に向けて(pdf)という資料を公表している。これもいつもの内容のないお役所ペーパーだが、念のためリンクを張っておく。(ここに書いてある程度のことならその施策にかかるコスト分損して終わるだけのことだろう。経産省も何をしたいのかいまいち良く分からないが、ただし、さらに役所がコンテンツの内容にまで介入してくるようなら発生する文化的ダメージは甚大なものとなることだろう。)

 都の青少年健全育成条例問題については、くりした善行民主党都議がそのtwitterで教えて下さっているように、都議会民主党内でプロジェクトチームが発足したようである。都条例問題についても全く気を緩めることはできないが、次の定例会までに真に多角的な検証が行われることを心から期待する。

 海賊版対策条約(ACTA)の条文案については他の部分も含め順次翻訳紹介して行きたいと思っているが、その前に、次回は、相変わらず人をバカにしたペーパーではあるのだが、知財本部の資料などについてざっと取り上げておきたいと思っている。

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2010年3月14日 (日)

第219回:新たにリークされた文書から見る模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)に対する日本政府のスタンス(民事エンフォースメント関連部分)

 今回は、前回に続いて、カナダのオタワ大教授がそのブログ記事で取り上げた海賊版対策条約(ACTA)についての新たなリーク文書(pdf)(en.swpat.orgで作成されているテキスト版)の民事エンフォースメント関連部分を訳出する。日米共同提案の欄に2010年1月18日段階のものとしてあげられているのは、以下のような条文である。(翻訳はいつも通り拙訳。他の国のコメントも重要ではあるのだが、やはり煩雑になるので注釈については日本政府のスタンスを示すもの以外は省略した。)

1. SECTION 1: CIVIL ENFORCEMENT

Article 2.1 Availability of Civil Procedures

1. Each Party shall make available to right holders [US/J: civil judicial][Mex/NZ: or administrative] procedures concerning the enforcement of any [US/J: intellectual property right] [Sing/Can/NZ: copyrights and related rights and trademarks] [Kor: as provided for in the following individual articles in this Section].

Proposed article 2.1.1 moved to Article 2.X Injunction - Option 1

Article 2.X Injunctions

Option 1: In civil judicial proceedings concerning the enforcement of [Can/NZ: copyright or related rights and trademarks] [US/J: intellectual property rights], each Party shall provide that its [US/J: judicial authorities] [NZ: competent authorities] shall have the authority to issue an order to a party to desist from an infringement, including an order to prevent infringing goods from entering into the channels of commerce [US/Aus/Kor/Mor/NZ: and to prevent their exportation].

Article 2.2 Damages

1. Each Party shall provide that:
(a) in civil judicial proceedings, [US/J: its judicial authorities] [Mex/NZ: or competent authorities] [EU/NZ: on application of the{EU: injured party}{NZ:right holder}] shall have the authority to order the infringer [EU/NZ: who knowingly or with reasonable grounds to know, engaged in infringing activity] of [Can/Sing/NZ: copyright or related rights and trademarks] [US/J: intellectual property rights] to pay the right holder
(i) damages adequate to compensate for the [EU: actual] injury the right holder has suffered as a result of the infringement; or [EU: or]
(ii) [US/Mor/Aus/Kor/Sing: at least in the case of copyright or related rights infringement and trademark counterfeiting,][MX: in the case of IPR infringements] the profits of the infringer that are attributable to the infringement, which may be presumed to be the amount of damages referred to in the clause (i)[Aus/Sing/NZ/EU: which may be presumed to be the amount of damages referred to in clause (i)]; and
[(iii) Can/NZ: For greater certainty, a Party may limit or exclude damages in certain special cases.]

(b)
in determining the amount of damages for [Can/Sing/NZ: copyright or related rights infringement][MX: IPR] infringement [US/J: of intellectual property rights] [Can/Sing: and trademark counterfeiting], its [US/J:judicial][NZ: competent] authorities [US/J: shall][Aus/Can/NZ:may] consider, inter alia, [Can/NZ: any legitimate measure of value that may be submitted by the right holder, including] [EU/Can/NZ: the lost profits], the value of the infringed good or service, measured by the market price, [Can: or] the suggested retail price [NZ: suggested retail price], or other legitimate measure of value submitted by the right holder [Can/NZ: or other legitimate measure of value submitted by the right holder], [EU: the profits of the infringer that are attributable to the infringement].

2.
At least with respect to works, phonograms, and performances protected by copyright or related rights, and in cases of trademark counterfeiting, in civil judicial proceedings, [EU/Can: As an alternative to paragraph 1,] each Party [US/J: shall][EU/Can/NZ: may] establish or maintain a system that provides [Sing/NZ: for]:
(a) pre-established damages; or [Sing: a system that provides for]
b) presumptions for determining the amount of damages sufficient [US/Can: to constitute a deterrent to future infringements and] to compensate [US: fully] the right holder for the harm caused by the infringement.

Footnote: Such measure [Option J: shall][US/Sing/Can/EU: may] include the presumption that the amount of damages is (i) the quantity of the goods infringing the right holder's intellectual property right and actually assigned to third persons, multiplied by the amount of profit per unit of goods which would have been sold by the right holder if there had not been the act of infringement or (ii) a reasonable royalty [EU: or (iii) a lump sum on the basis of elements such as at least the amount of royalties or fees which would have been due if the infringer had requested authorization to use the intellectual property right in question].

3. Each Party shall provide that the right holder shall have the right to choose the system in paragraph 2 as an alternative to the damages in paragraph 1.

4. Each Party shall provide that its judicial [NZ: competent] authorities, except in exceptional circumstances, [EU: unless equity does not allow this], shall have the authority to order, at the conclusion of the civil judicial proceedings [US/J : concerning copyright or related rights infringement, patent infringement {Can/NZ: patent infringement}, or trademark infringement] [EU: concerning copyright or related rights infringement, patent infringement, or trademark infringement], that the prevailing party [US/J: shall][Can: shall] be awarded payment by the losing party of [NZ: appropriate ] court [{EU: reasonable and proportionate}EU/CAN/NZ: legal] costs or fees. Each Party [US/J:shall] [Mor: may] also provide that its [US/J: judicial] [NZ: competent] authorities, [US/Can/Mor/MX/NZ: except in exceptional circumstances] [EU: unless equity does not allow this], [US/Can/Aus/Mor: {US/Aus/Mor: at least }in proceedings concerning copyright or related rights infringement or willful trademark counterfeiting,] shall have the authority to order, [J/Can/Aus/NZ: in appropriate cases][MX: in appropriate cases], that the prevailing party be awarded payment by the losing party of [US/J: reasonable][NZ: appropriate] attorney's fees. [US/Aus/Mor: Further, each Party shall provide that its judicial authorities, at least in exceptional circumstances, shall have the authority to order, at the conclusion of civil judicial proceedings concerning patent infringement, that the prevailing party shall be awarded payment by the losing party of reasonable attorney's fees.][Mor: ,fees should be left to the discretion of the judge who determine the reasonable level of these fees][EU: Further, each Party shall provide that its judicial authorities, at least in exceptional circumstances, shall have the authority to order, at the conclusion of civil judicial proceedings concerning patent infringement, that the prevailing party shall be awarded payment by the losing party of reasonable attorneys' fees.

Article 2.3 Other Remedies

1. [US: At least] [Can: At least]with respect to goods that have been found to be [US/Aus/Can/Sing/Kor/NZ: pirated or counterfeit] [J/EU/MX: infringing an intellectual property right], each Party shall provide that in civil judicial proceedings, at the right holder's request, [J/Aus/EU/Can/MX/Kor/NZ: its judicial{NZ:competent} authorities shall have the authority to order that] such goods shall be [NZ: forfeited to the right holder] [US/J: destroyed], [EU/Can/NZ: recalled or definitively removed from the channel of commerce,] except in exceptional circumstances, [Can: except in exceptional circumstances,]without compensation of any sort.

2. Each Party shall further provide that its judicial authorities shall have the authority to order that materials and implements [J/Can/EU: the predominant use of which has been] [US/Aus/NZ: that have been used] [EU: that have been used] in the manufacture or creation of [J/MX/EU: infringing {MX: of IP}] [US/Aus/Can/Sing: pirated or counterfeit] goods [NZ : infringing copyright or relate rights or trademarks ] shall be, without compensation of any sort, [US/EU/MX: promptly][Aus: promptly] [Can: without undue delay][NZ: forfeited to the right holder] [US/J: destroyed] or [US/EU/MX/NZ: in exceptional circumstances,][Aus: in exceptional circumstances,] disposed of outside the channels of commerce in such a manner as to minimize the risks of further infringements.

3. In regard to counterfeit trademarked goods, the simple removal of the trademark unlawfully affixed shall not be sufficient [J/Aus/Can/MX:, other than in exceptional cases,] to permit the release of goods into the channels of commerce.

Article 2.4 Information related to Infringement

[EU: Without prejudice to other statutory provisions which, in particular, govern the protection of confidentiality of information sources or the processing of personal data,] Each Party shall provide that in civil judicial proceedings concerning the enforcement of [US/J: intellectual property rights][Can: copyright or related rights and trademarks], its judicial authorities shall have the authority upon a justified request of the right holder, to order the infringer to provide, [US/J; for the purpose of collecting evidence] [EU: for the purpose of collecting evidence][Mor: within the framework of measures of inquiry or investigation], any [Can: relevant] information [EU: information on the origin and distribution network of the infringing goods or services on a commercial
scale] [J: in the form as prescribed in its applicable laws and regulations] that the infringer possesses or controls, [J/Can/EU/MX: where appropriate,] to the right holder or to the judicial authorities. Such information may include information regarding any person or persons involved in any aspect of the infringement and regarding the means of production or distribution channel of such goods or services, including the identification of third persons involved in the production and distribution of the infringing goods or services or in their channels of distribution. [Can: For greater clarity, this provision does not apply to the extent that it would conflict with common law or statutory privileges, such as legal professional privilege.]

Article 2.5 Provisional Measures

[X. EU: Each Party shall provide that its judicial authorities shall have the authority, at the request of the applicant, to issue an interlocutory injunction intended to prevent any imminent infringement of an intellectual property right. An interlocutory injunction may also be issued, under the same conditions, against an intermediary whose services are being used by a third party infringe an intellectual property right. Each Party shall also provide that provisional measures may be issued, even before the commencement of proceedings on the merits, to preserve relevant evidence in respect of the alleged infringement. Such measures may include inter alia the detailed description, the taking of samples or the physical seizure of the documents or of the infringing goods.]

OPTION1 [1. US/EU/Sing: Each Party shall provide that its judicial authorities shall act expeditiously on requests for provisional measures inaudita altera parte] [Sing: and shall endeavor to make a decisions on such requests within ten days except in exceptional cases .] [US/EU: , and shall endeavor to make a decision on such requests {US: within ten days}{EU: without delay}{MX: within twenty days}, except in exceptional cases.]

OPTION2 [1. J: Each Party shall ensure that, where proceedings for provisional measures are conducted inaudita altera parte, the {J: judicial}{MX: competent} authorities shall be expeditiously make a decision on the request for provisional measures.]

OPTION3 [1. Can/Aus/Kor/NZ: Each Party's authorities shall act on requests for {Can/Aus: relief}{Kor/NZ: provisional measures} inaudita altera parte {Can: without undue delay} {Kor/Aus/NZ: expeditiously} in accordance with the Party's judicial rules.]

2. [US/J/NZ/MX: In civil {US/J: judicial}{NZ: or administrative} proceedings {MX: or administrative remedies} concerning copyright or related rights infringement and trademark counterfeiting{NZ: infringement}], [EU: In civil judicial proceedings concerning copyright or related rights infringement and trademark counterfeiting], each Party shall provide that its judicial authorities shall have the authority to order [Can/NZ:, in appropriate cases,] the seizure or other taking into custody of suspected infringing goods, materials, and implements relevant to the act of infringement [US/Aus/Can/NZ: and, at least for trademark counterfeiting, documentary evidence relevant to the infringement ][Sing: used to accomplish the prohibited activity ].

3. Each Party shall provide that its [US/J: judicial][MX: competent] authorities have the authority to require the plaintiff, with respect to provisional measures, to provide any reasonably available evidence in order to satisfy themselves with a sufficient degree of certainty that the plaintiff's right is being infringed or that such infringement is imminent, and to order the plaintiff to provide a reasonable security or equivalent assurance set at a level sufficient to protect the defendant [EU/Can:,ensuring compensation for any prejudice suffered when the measure is revoked or lapses due to any reason,] and to prevent abuse, [US/J: and so as not to unreasonably deter recourse to such procedures] [Can:  an so as not to unreasonably deter recourse to such procedures].

[4. EU/Can: Each Party shall ensure that the provisional measure referred to in paragraphs 1, 2 and 3 are revoked or otherwise cease to have effect, upon request of the defendant, if the applicant does not institute proceedings leading to a decision on the merits of the case before the competent judicial authority, either within a reasonable period to be determined by the judicial authority if the laws of a Party so permit or within a period not exceeding 20 working days or 31 calendar days.][NZ: Delete this paragraph.]

第1章 民事エンフォースメント

第2.1条 民事手続きの整備

第1項 各加盟国は、[本章の以下の各条に規定されている通り][日/米:知的財産権][シンガ/加/NZ:著作権、著作隣接権及び商標権]のエンフォースメントに関する[日/米:民事司法的][メキシコ/NZ:あるいは行政的]手続きを権利者のために整備する。

(注:提案されている第2.1.1条は、第2.X条 差し止めに移されるーオプション1)

第2.X条 差し止め

オプション1:[加/NZ:著作権あるいは著作隣接権及び商標権][日/米:知的財産権]のエンフォースメントに関する民事司法手続きにおいて、各加盟国は、その[日/米:司法当局][NZ:権限を有する当局]が、侵害品の流通チャネルへの流通[米/豪/韓/モロッコ/NZ:及びその輸出]を止める命令を含め、侵害を抑止する命令を当事者に出す権限を有することを規定する。

第2.2条 損害賠償

第1項 各加盟国は、以下のことを規定する:
(a)民事司法手続きにおいて、[欧/NZ:{欧:被侵害者}{NZ:権利者}の申し立てに基づき]その[日/米:司法当局][NZ:権限を有する当局]が、[欧/NZ:故意に、あるいは、知っていたと思われる合理的な理由がある場合において、侵害行為を行った][加/シンガ/NZ:著作権あるいは著作隣接権及び商標権][日/米:知的財産権]の侵害者に、権利者へ次の支払いを命じること
(ⅰ)侵害の結果として権利者が被った[欧:実際の]被害を適切に補償する損害賠償;あるいは[欧:あるいは
(ⅱ)[米/モロッコ/豪/韓/シンガ:少なくとも著作権あるいは著作隣接権及び商標権侵害のケースにおいて][メキシコ:知的財産権侵害のケースにおいて]、(ⅰ)に記載されている損害賠償の量と推定し得る[欧/豪/シンガ/NZ:(ⅰ)に記載されている損害賠償額と推定し得る]侵害に起因する侵害者の利益;及び
[(ⅲ)加/NZ:明確化のため、加盟国は、特別なケースにおける損害賠償に制限あるいは例外を設けることができる。]

(b)[加/シンガ/NZ:著作権あるいは著作隣接権侵害][加/シンガ:及び商標権侵害][日/米:知的財産権の][メキシコ:知的財産権]侵害の損害賠償額の決定において、その[日/米:司法][加/シンガ:権限を有する]当局が、市価、[加:あるいは]示される小売価格から計算される侵害品あるいは侵害サービスの価値、あるいは、権利者によって主張される他の正当な価値算定法[加/NZ:、あるいは、権利者によって主張される他の正当な価値算定法]、[欧:侵害に起因する侵害者の利益]を考慮に[日/米:入れる][豪/加/NZ:入れることができる]。

第2項 少なくとも、著作権あるいは著作隣接権によって保護される著作物、録音と実演に関しては、そして、商標権侵害のケースにおいては、民事司法手続きにおいて、[欧/加:第1項の代わりに、]各加盟国は、以下のことを規定する法制を整備・維持する:
(a)予め決められた損害賠償額;あるいは
(b)[米/加:将来の侵害を抑止し、]権利者に侵害によって生じた損害を完全に補償するのに十分な損害賠償額の推定

脚注:このような措置は、損害賠償額は、(ⅰ)侵害行為が無かったとしたら権利者によって販売されていただろう物の1個あたりの利益額を、権利者の知的財産権を侵害し、本当に第3者に帰す侵害品の数にかけた額あるいは(ⅱ)合理的な利用料[欧:あるいは(ⅲ)少なくとも問題の知的財産権の利用許可を侵害者が求めたとしたら、得られただろう合理的な利用料のような要素に基づいた総額]であるとする推定を[日:含む][米/欧/シンガ/加:含むことができる]。)

第3項 各加盟国は、権利者が、第1項に規定されている損害賠償に代えて第2項の法制を選ぶ権利を有することを規定する。

第4項 各加盟国は、例外的な状況を除き、[欧:公平性の原理によって許される限りにおいて、]その司法[NZ:権限を有する]当局が、[日/米:著作権あるいは著作隣接権侵害、特許権侵害{加/NZ:特許権侵害}、あるいは商標権侵害に関する][欧:著作権あるいは著作隣接権侵害、特許権侵害、あるいは商標権侵害に関する]民事司法手続きの終結時に、[NZ:適切な]法廷[欧:{合理的でバランスの取れた}欧/加/NZ:法的]費用について敗訴当事者が勝訴当事者に[日/米:支払わなければならない][加:支払う]ことを命じる権限を有することを規定する。各加盟国は、[米/加/豪/モロッコ:例外的な状況を除き、][欧:公平性の原理によって許される限りにおいて、][米/加/豪/モロッコ:{米/豪/モロッコ:少なくとも}著作権あるいは著作隣接権侵害あるいは故意の商標権侵害に関する手続きにおいて、]その[日/米:司法][NZ:権限を有する]当局が、[日/加/豪/モロッコ:適切なケースで、][メキシコ:適切なケースで、][日/米:合理的な][NZ:適切な]弁護士費用について敗訴当事者が勝訴当事者に支払うことを命じる権限を有することも[日/米:規定する][モロッコ:規定できる]。[米/豪/モロッコ:さらに、各加盟国は、その司法当局が、少なくとも例外的な状況において、特許権侵害に関する民事司法手続きの終結時に、合理的な弁護士費用について敗訴当事者が勝訴当事者に支払うことを命じる権限を有することを規定する。][モロッコ:、費用は、その合理的な水準を決める裁判官の判断に委ねられる。][欧:さらに、各加盟国は、その司法当局が、少なくとも例外的な状況において、特許権侵害に関する民事司法手続きの終結時に、合理的な弁護士費用について敗訴当事者が勝訴当事者に支払うことを命じる権限を有することを規定する。

第2.3条 その他の救済措置

第1項 [米:少なくとも][加:少なくとも][米/豪/加/シンガ/韓/NZ:海賊版あるいは模倣品][日/欧/メキシコ:知的財産権を侵害するもの]と分かった物について、各加盟国は、民事司法手続きにおいて、権利者の求めに応じ、何らの補償なく、例外的な状況を除き、[加:例外的な状況を除き、]そのような物の[NZ:権利者への没収を、][日/米:破棄を、][欧/加/NZ:商業チャネルからのリコールあるいは完全な除去を、][日/豪/欧/加/メキシコ/韓/NZ:その司法{NZ:権限を有する}当局が、命じる権限を有すること]を規定する。

第2項 さらに各加盟国は、その司法当局が、[日/欧/メキシコ:{メキシコ:知的財産権}侵害品][米/豪/加/シンガ:海賊版あるいは模倣品][NZ:著作権あるいは著作隣接権侵害品]の製造に[米/豪/NZ:用いられた][欧:用いられた][日/欧/加:主として用いられる]材料と装置について、何らの補償なく、[米/欧/メキシコ:速やかな][豪:速やかな][加:不当な遅滞の無い][NZ:権利者への没収][日/米:破棄]、あるいは、[米/欧/メキシコ/NZ:例外的な状況で、][豪:例外的な状況で、]さらなる侵害のリスクを最小化するような形での商業チャネルからの除去を命じる権限を有することを規定する。

第3項 商標権侵害品に関しては、[日/豪/加/メキシコ:例外的な状況を除き、]違法に付された商標の単なる除去は商業チャネルに物品を流すのを認めるのに十分でない。

第2.4条 侵害に関する情報

[特に、個人情報の処理あるいは情報源秘匿の保護に関する他の法規定にかかわらず、]各加盟国は、[日/米:知的財産権][加:著作権あるいは著作隣接権及び商標権]のエンフォースメントに関する民事司法手続きにおいて、その司法当局が、権利者の正当な求めに基づいて、[日/米:証拠を集めるために、][欧:証拠を集めるために、][モロッコ:審理における措置の枠内で、]その有するあるいは管理しているあらゆる[加:関連する]情報[欧:商業的な規模での侵害品あるいはサービスの起源と頒布ネットワークに関する情報]を、[日:適用される法令に規定された形式で、][日/欧/加/メキシコ:それが適切な場合は、]侵害者が権利者あるいは司法当局に提供することを命じる権限を有することを規定する。このような情報は、侵害品あるいはサービスの製造あるいは頒布あるいはその頒布チャネルにかかわる第3者を特定可能な情報など、何らかの形で侵害にかかわっている者に関する、そして、そのような物あるいはサービスの製造手段あるいは頒布チャネルに関する情報を含み得る。[加:より明確に、この規定は、コモンローあるいは法的な職業上の権利のような法規定上の権利に反しない限りにおいて適用される。]

第2.5条 仮の措置

第X項 欧:各加盟国は、その司法当局が、申立人の申し立てにより、知的財産権の差し迫った侵害を抑止するための仮処分を出す権限を有することを規定する。仮処分は、そのサービスが第3者によって知的財産権侵害に用いられている仲介者に対しても、同様の条件で、出され得る。各加盟国は、本訴訟が始まる前であっても、侵害の疑いについて関連する証拠を保全するためにも、この仮の措置が出され得ることを規定する。このような措置は、とりわけ、詳細な説明、サンプルの取得、あるいは、文書あるいは侵害品の物理的な差し押さえを含み得る。]

オプション1 [第1項 米/欧/シンガ:各加盟国は、その司法当局が、申し立てに基づき、他方当事者の意見を聞くことなく、迅速に仮の措置について行動し、[シンガ:例外的な状況を除き、その申し立てに基づき、10日以内に決定を行うよう努める][米/欧:例外的な状況を除き、その申し立てに基づき、{米:10日以内に}{欧:遅滞なく}{メキシコ:20日以内に}決定を行うよう努める]ことを規定する。]

オプション2 [第1項 日:各加盟国は、仮の措置の手続きが他方当事者の意見を聞かずに行われる場合、その{日:司法}{メキシコ:権限を有する}当局が、仮の措置の申し立てに基づき、迅速に決定を行うことを担保する。]

オプション3 [第1項 加/豪/韓/NZ:各加盟国の当局は、国内の司法法令に則り、{加/豪:救済命令}{韓/NZ:仮の措置}の申し立てに基づき、他方当事者の意見を聞くことなく、{加:不当な遅滞なく}{韓/豪/NZ:迅速に}行動する。]

第2項 [日/米/NZ/メキシコ:著作権あるいは著作隣接権侵害及び商標権侵害に関する民事{日/米:司法}{NZ:あるいは行政}手続きにおいて][欧:著作権あるいは著作隣接権侵害及び商標権侵害に関する民事司法手続きにおいて]、各加盟国は、その司法当局が、[適切な場合に、]侵害が疑われる物と、侵害に関係する材料と装置[米/豪/加/NZ:と、少なくとも商標権侵害について、侵害に関係する証拠文書]の差し押さえあるいは保全を命じる権限を有することを規定する。

第3項 各加盟国は、その[日/米:司法][メキシコ:権限を有する]当局が、仮の措置に関して、原告の権利が侵害されているか、その侵害が差し迫ったものであることについて十分に確証を得られるよう合理的に入手可能な証拠を提供することを原告に求める権限と、被告の保護と濫用の防止のため、[米/日:そして、このような手続きにおける償還を不当に制限することがないようにしつつ、]十分な程度の合理的なあるいは同等の保証金の供託を命じる権限を有することを規定する。

第4項 欧/加:各加盟国は、20営業日あるいは31日を超えない期間内か、加盟国の国内法が認めるようであれば司法当局によって決められる合理的な期間内に、権限を有する司法当局における本訴訟を申し立て人が起こさない場合、第1、2及び3項に記載された仮の措置は却下されるか、さもなければ効力を失うことを担保する。][NZ:本項削除。]

 詳しくは上を読んでもらえればと思うが、この民事エンフォースメント関連部分については、インターネット関連部分ほどの問題はないものの、第2.2条第2項にいわゆる著作権侵害(と商標権侵害)の法定賠償が入って来ていることには注意しておいた方が良い。何度かパブコメでも指摘している通り、法定損害賠償制度は、アメリカで一般ユーザーに法外な損害賠償を発生させ、その国民のネット利用におけるリスクを不当に高め、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにしかつながっていないものであり、日本において導入されるべきとは到底思えない制度である。このような条文が入っていることは、以前の知財本部の「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関する調査」(提出パブコメ参照)に「損害賠償額の算定を容易にするための方策」についての項目があったことや、日本レコード協会などの権利者団体などが法定賠償制度の導入を求めていること(第2回インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ(議事次第議事録)の日本レコード協会資料(pdf)参照)と決して無関係ではないと私は考えている。この部分については選択になっており、法定賠償制度の導入が必要となるとは条文上必ずしも読めず、日本政府のコミットメントも不明だが、この部分についてもポリシーロンダリングの危険性があるだろう。

 海外でこの条約の不透明性が大きな問題となって来ていることは何度か取り上げて来ているが、ドイツでは法務大臣が海賊版対策条約に絡んでストライクポリシーを導入することはないと言い(Spiegelの記事(ドイツ語)参照)、さらに、欧州議会で海賊版対策条約の透明性向上決議が633対13の圧倒的多数で議決されるなど(zdnet.frの記事(フランス語)、ガイスト氏のブログ記事1参照)、欧州において、その秘密性に対する不信、透明性を上げようとする力はこの上なく高まっている。これに対し、アメリカは欧州の透明性向上のための提案を拒否し、例によってこの条約もほぼ自国法制の押し付けに使っているので当然と言えば当然だが、今のまま条約の検討を進めることを主張しているというのが今の大まかな世界の状況である(nationaljournal.comの記事、ガイスト氏のブログ記事2参照)。

 しかし、翻って日本を見ると、つい先日の12日に開催された第4回知財本部のコンテンツ強化専門調査会(議事次第参照)でも、その資料インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策についての検討状況(pdf)で、具体的な条文を隠したまま、プロバイダーの責任制限とDRM回避規制の強化について「ACTA交渉における主な課題の1つであることを踏まえ、優先して検討」と一方的に宣言した上で、プロバイダーに無意味に責任を押し付け、その免責という形での、侵害行為を繰り返す利用者に対するサービスの停止(ストライクポリシー)やフィルタリングの強制、DRM(アクセスコントロール)回避機器規制における刑事罰の付与、アクセスコントロール回避行為そのものの規制を行うべきとやはり変わらず露骨に危険な規制強化色を出し続け、国民の意見も、関係各者の意見も無視して、政府がぬけぬけとポリシーロンダリングを図っているというのが日本の惨憺たる現状である。欧米における法規制の具体的解釈・運用の問題を勝手に無視して、やはり一方的に国際動向を決めつけているあたりなど、知財本部もやはり日本の官庁の例に洩れず、デタラメな国際動向プロパガンダを行っていることも見逃されてはならない。

(さらに、他の資料「知的財産財推進計画(仮称)」骨子に盛り込むべき事項(案)(コンテンツ強化関連)(pdf)では、「デジタル化・ネットワーク化に対応した著作権制度の在り方(保護期間、補償金等の権利の在り方を含む)について総合的な検討を行い、検討の結果、措置を講じることが可能なものから順次実施しつつ、2012年までに結論を得る。(中期)」という項目も入っているが、既に文化庁と権利者団体以外ではほぼ結論の出そろっている保護期間延長問題について、文化庁のデタラメな采配の結果既に裁判にまで発展している補償金問題について、今現在行政でこれ以上何を検討する必要があるのかさっぱり分からない。この点でも国民の意見は踏みにじられようとしている。)

 政府内の役人は何も考えていないのだろうが、端的に言って、海賊版対策条約(ACTA)について、日本は、自分で言い出しておきながら最も議論が遅れ、他国の異質な法制を一方的に押し付けられようとしているという、さらに、今のままでは日本は丸損の上ネット検閲条約の提案国として世界的に指弾されることになりかねないという愚かにもほどがある状況にある。明日15日にも、知財本部で第4回のインターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループが開催されるが(開催案内参照)、どのような中間とりまとめ案が出されるか、私は極めて不安である。

 また、前の提出パブコメから公益法人関係の奴を抜き出して少し手を入れただけなので、新しくエントリを立てて載せることはしないが、ハトミミ.comで3月23日〆切で行われている独立行政法人及び公益法人関係のパブコメも提出したので、最後に合わせ書いておく。

(2010年3月16日夜の追記:先日15日に知財本部で第4回のインターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループが開催された(議事次第参照)。その事務局作成の論点整理資料(pdf)でも、規制の問題点も多少一緒にあげられているものの、相変わらず、知財本部はその問題点の十分な検討もしないまま一方的に、DRM回避機器の規制について、「製造」及び「回避サービスの提供」まで対象行為を広げ、「のみ」要件の緩和・主観的要件と客観的要件の組み合わせによる規制等で対象機器の範囲を広げ、アクセスコントロール回避機器の頒布等に刑事罰を設け、回避機器の水際規制を設け、個人のアクセスコントロール回避行為を規制することが必要ではないかと、プロバイダー責任制限法により、無意味にプロバイダーの責任を増し、その免責条件として、ネット切断などの対策が含まれてくるだろうガイドラインをプロバイダーに押し付けることが必要ではないかと危険な規制強化の項目ばかりを並べ続けている。次回のコンテンツ強化専門調査会は3月23日だが(開催案内参照)、到底実のある議論がされるとは思えず、私の不信は高まるばかりである。)

(2010年3月20日の追記:またも一方的な論点整理が事務局から提示され、要領を得ない議論がなされるのではないかと私は懸念しているが、次回の第5回インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループは3月24日開催予定となっている(開催案内参照。コメント・情報ありがとうございます)。また、特許などが中心で他の話に比べるとそこまで問題が大きくないため、あまり取り上げていないが、次回の第5回知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会は3月26日開催予定となっている(開催案内参照)。)

(2010年5月1日の追記:一ヶ所翻訳中の誤記を訂正した。)

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2010年3月 3日 (水)

第218回:新たにリークされた文書から見る模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)に対する日本政府のスタンス(インターネット関連部分)

 前回に少し追記という形で書いたが、カナダのオタワ大教授がそのブログ記事で、海賊版対策条約(ACTA)について新たなリークがあったことを取り上げている。このブログ記事中にリンクが張られている欧州理事会の新リーク文書(pdf)en.swpat.orgで作成されているテキスト版)には、各国政府のスタンスも書かれており、非常に重要な情報が多く含まれているので、新たにエントリを立てることにする。(この文書も偽物にしてはできすぎており、本物であろうと私は思っている。)

 このリーク文書(pdf)において、日米共同提案の欄に2010年1月18日段階のものとしてあげられているインターネット関連部分の条文は、以下のようなものである。(他の国のコメントも重要ではあるのだが、煩雑になるので注釈については主として日本政府のスタンスを示すもの以外は省略した。翻訳はいつも通り拙訳。このリーク文書には、民事エンフォースメント部分も含まれているのだが、この部分についてはまた別途翻訳・紹介したいと思っている。)

[US/AUS: ARTICLE [2.17]{MX: 2.18}: ENFORCEMENT PROCEDURES IN THE DIGITAL ENVIRONMENT

1. Each Party shall ensure that enforcement procedures, to the  extent set forth in the civil and criminal enforcement sections of this Agreement, are available under its law so as to permit effective action against an act of [US: trademark {AUS: infringement}, copyright or related rights][J/EU:intellectual property rights] infringement which takes place [US: by means of the Internet][EU: in the digital environment], including [US: expeditious remedies][MX: measures] to prevent [US/EU: infringement and remedies which constitute a deterrent to further infringement.][MX: or deter such infringements.][EU: Those measures, procedures and remedies shall also be fair and proportionate.]

[J: Japan suppose overall concept of Paragraph 1. However, it should be noted that infringement of intellectual property rights other than trademark, copyright or related rights on the Internet is also a serious problem. This infringement which takes place by means of the Internet should not be limited that of trademark and copyright or related rights.]

2. Without prejudice to the rights, limitations, exceptions or defenses to [{J: patent, industrial design, trademark and}{US: copyright or related rights}] [EU: intellectual property rights] infringement available under its law, including with respect to the issue of exhaustion of rights, each Party [US: confirms that][CH: shall provide for][US/J:  civil remedies][MX: administrative, civil or penal actions], as well as limitations, exceptions, or defenses with respect to the application of such [US: remedies][MX: actions], are available in its legal system in cases of third party liability for  [{J: patent, industrial design, trademark and}{US: copyright or related rights}][EU: intellectual property rights] infringement.

[J: Japan basically supports Paragraph 2 but would like to confirm or propose the matters below:
- "civil remedies...are available" will be implemented if a Party at least makes available either damages or injuctions. In other words, a Party is not obliged to make both damages and injuctions available.
- Infringement of rights to patent, industrial design and trademark by third parties is also a serious problem, so Japan proposes a reference to these rights.
- If this paragraph is to be moved to the Civil Enforcement Section, the question on where this provision should be located in the Civil Enforcement Section should be carefully considered since the original US proposal refers to copyright or related rights while the Civil Enforcement Section bascially does not limit its scope.]

...
Footnote: [J: For the purpose of "civil remedies" shall mean both damages and injonctions or either one of these]

Footnote: For greater certainty, the Parties understand that third party liability [{US: means}{AUS/NZ: may include} liability for any person who authorizes for a direct financial benefit, {US: induces through or by conduct directed to promoting} {CH: induces an} infringement, or knowingly and materially aids any act of {US: copyright or related rights} {J: copyright or related rights} infringement by another.][EU: refer to the concept of holding other persons other than the actual infringer liable for their involvement in the infringement.][US: Further, the Parties also understand that the application of third party liability may include consideration of exceptions or limitations to exclusive rights that are confined to certain special cases that do not conflict with a normal exploitation of the {EU: service or of the product or in the case if copyright of the} work, performance or phonogram, and do not unreasonably prejudice the legitimate interests of the right holder, {US: including fair use, fair dealing, or their equivalents.}{EU: including fair use, fair dealing, or their equivalents}{J: Further the Parties also understand liability may include consideration of exceptions or limitations to exclusive rights that are confined to certain special cases that do not conflict with a normal exploitation of the work, performance or phonogram, and do not unreasonably prejudice the legitimate interests of the right holder, including including fair use, fair dealing, or their equivalents}

Footnote:[J: The first sentence of Footnote (1) is basically acceptable. The second sentence refers to "three-step test" and Japan understands this rule is important, however, the reference is not appropriate because "three-step test" applies to copyright, while the scope of Paragraph 2 should not be limited to copyright or related rights. In addition, making reference to a specific country such as "fair use" is inappropriate in this context.]
...

3. OPTION1 [US Each Party recognize that some persons use the services of third parties, including online service providers, for engaging in copyright or related rights infringement. Each Party also recognises that legal uncertainty with respect to application of {US: intellectual property rights}{AUS: copyright and related rights}, limitations, exceptions, and defenses in the digial environment may present barriers to the economic growth of, and opportunities in, electronic commerce. Accordingly, in order to facilitate the continued development of an industry engaged in providing information services online while also ensuring that measures to take adequate and effective action against copyright or related rights infringement are available and reasonable,{MX: in its legal remedies}][EU: (a) In this respect] each Party [US: shall][CH: may]:

[J: It is worth considering moving 1st and 2nd sentences of paragraph 3 to the preamble of the Agreement or a political declaration to be made on announcing ACTA.]

(a) provide limitations on the [US: scope of civil remedies available against an][EU: on the liability of] online service provider[EU:s} for infringing activities that occur by
(i) automatic technical processes, [US: and][EU: or][MX: Define automatica technical processes]
(ii) the actions of the provider's users that are [US: not directed or] [EU: not directed] initiated [EU: nor modified] by that provider and when the provider does not select the material, [US: and][EU: or]
(iii)[US: the provider referring or linking users to an online location,]
[EU: the storage of information provided by the recipient of the service or at the request of the recipient of the service,] when, in cases of subparagraphs (ii) and (iii), the provider does not have actual knowledge of the infringemetn and is not aware of facts or circumstances from which infringing activity is apparent; and
[EU: when exercising the activities as stipulated in the paragraph 3(a)(ii) and/or (iii) the online service providers act expeditiously, in accordance with applicable law, to remove or disable access to infringing material or infringing activity upon obtaining actual knowledge of the infringement or the fact that the information at the initial source has been removed or disable.]

(b) conditions the application of the provisions of subparagraph (a) on meeting the following requirements:
(i) an online service provider adopting and reasonably implementing a policy to address the unauthorized storage or transmission of materials protected by copyright or related rights [US: except that no Party may condition the limitations in subparagraph (a) on the online service provider's monitoring its services or affirmatively seeking facts indicating that infringing activity is occuring][J: except that no Party may condition the limitations in subparagraph (a) on the online service provider's monitoring its services or affirmatively seeking facts indicating that infringing activity is occuring]; and
(ii) an online service provider expeditiously removing or disabling access to material or [US: activity][MX: alleged infringement], upon receipt [US: of legally sufficient notice of alleged infringement,][MX: of an order from a competent authority] and in the absence of a legally sufficient response from the relevant subscriber of the online service provider indicatig that the notice was the result of mistake or misidentificatin. except that the provisions of (ii) shall not be applied to the extent that the online service provider is acting solely as a conduit for transmissions through its system or network.]

OPTION 3
[J: c) if a Party does not adopt the mesures under subparagraphs (a) and (b), such Party shall ensure that civil remedies to compensate for damages are available against an online service provider who does not take appropriate measures such as removing or disabling access to material or activity to prevent copyright or related rights infringement initiated by its users only when:
(i) it is technically possible to take measures for preventing the infringement, and
(ii) the provider knows or there is a reasonable ground to know that the infringement is occuring.

3 bis. Each Party shall not impose general obligation on online service providers to regularly monitor its service or affirmatively seek facts indicating infringing activity on a daily bassis in order to claim the application of the provision on limitations described in paragraph 3(a) or (b).

3 ter. Each Party shall enable right holders, who have given effective notification to an online service provider of materials that they claim with valid reasons to be infringing their copyright or related rights, to expeditiously obtain from that provider information on the identity of the relevant subscriber.

3 quater. Each Party shall promote the development of mutually supportive relationships between online service providers and right holders to deal effectively with patent, industrial design, trademark and copyright or related rights infringement which takes plce by means of the Internet, including the encouragement of establishing guidelines for the actions which should be taken.]]

[J: The current paragraph 3 proposed by the US is not consistent with Japanese legislation. Provisional texts shown here are still under examination.

Further, the IS Act of Japan provides the limitation on the scope of the ISPs' liability under certain circumstances but the Act limits the scope of civil damages only. That is, the ISP Act mentions nothing about availability of the injuction against an ISP and the courts decide whether the injuction order should be issued on case by case basis.

The ISP Act of Japan does not categorize ISPs into "conduit," "hosting," "caching" or others. In addition, the Act denies civil liabilities for ISPs under the following conditions:
(a) it is technically impossible for an ISP to take measures for preventing the transmission of information; or
(b) an ISP does not know and does not have a reasonable ground to know that infringing activity is occurring.

Meeting the conditions described in subparagraphs (b)(i)and (b)(ii) of US proposal are not required under the ISP Act of Japan. However, adopting and reasonably implementing a policy or removing material upon receipt of notice may be taken into consideration when courts decide whether condition (a) or (b) above is met. Therefore, there is a difference between the structure of the present ACTA draft and the ISP Act of Japan.

Thus, Japan indicates a revision to paragraph 3. The blue sentences are added or modified by Japan to show clearly the difference between present ACTA draft and the ISP ACT of Japan.

Japan would like to clarify whether providing stricter conditions for the limitations of ISP in the Party's national law, compared to the conditions provided in the present ACTA text, will be regarded as a proper implementation of this paragraph or not.]

...
Footnote: An example of such a policy is providing for the termination in appropriate circumstances of subscriptions [US: and][AUS:or] accounts on the service provider's system or network of repeat infringers.

Footnote: [J: The present legislation of Japan does not require an ISP to adopt and implement a "policy," so Japan is now examining how to adjust Footnote (6) to Japanese legislation or vice versa. ]

Footnote: For purposes of this Article, online service provider and provider mean a provider of online services or network access, or the operators of facilities therefore, and includes any entity offering the transmission, routing, or providing of connections for digital online communications, between or among points specified by a user, of material of the user's choosing, without modification to the content of the material as sent or received. [CAN: Examining scope of "modification".][NZ: It is unclear whether the definition of "online service provider" includes a person who hosts material on websites or other electronic retrieval systems that can be accessed by a user.][J: Japan needs to consider further wehter this footnote is acceptable.]

4. OPTION 1
[US: In implementing Article 11 of the WIPO Copyright Treaty and Article 18 of the WIPO Performances and Phonograms Treaty regarding] [CAN/J/EU: In implementing Article 11 of the WIPO Copyright Treaty and Article 18 of the WIPO Performances and Phonograms Treaty regarding] [AUS: In order to provide][EU: Each Party shall provide] adquate legal protection [US: and effective legal remedies][EU: and effective legal remedies] against the circumvention of effective technological measures that are used by authors, performers or producers of phonograms [CH: or any other copyright owner or owner of an exclusive license] in connection with the exercise of their rights and that restrict unauthorized acts in respect of their works, performances, and phonograms, [US: each Party shall provide for civil remedies, as well as criminal penalties] [EU: each Party shall provide for civil  remedies, as well as criminal penalties] in appropriate cases of willful conduct, that apply to:
(a) the unauthorized circumvention of an effective technological measure [US: that controls access to a protected work, performance, or phonogram] [EU: that controls access to a protected work, performance, or phonogram]; and
(b) the manufacture, importation, or circulation of a technology, service, device, product, component, or part thereof, that is: marketed or primarily designed or produced for the purpose of circumventing an effective technological measure; or that has only a limited commercially significant purpose or use other than circumventing an effective technological measure.

[EU: 4.2 Each Party may provide for measures which would safeguard the benefit of certain exceptoins and limitations to copyright and related rights, in accordane with its legislation.]

4. OPTION 2 [J: Each Party shall provide for civil remedies that apply to:
(a) the importation, assignment, delivery of (i) a device (including a machine incorporating such device) or, (ii) data storage media or a machine on which a program having sole function of circumventing an effective technological measure is stored; or
product, component, or part thereof, that is: marketed or primarily designed or produced for the purpose of circumventing an effective technological measure; or that has only a limited commercially significant purpose or use other than circumventing an effective technological measure.
(b) the provision through an electric telecommunication line, of a program having sole function of circumventing an effective technological measure.

[J: Japan understands that the WIPO treaties do not require the Parties to implement the restriction on circumvention of access control. Thus, making reference to the WIPO treaties is inappropriate. The Copyright Act and the Unfair Competition Prevention Act of Japan restrict circumvention of effective technological measures under certain conditions (The Copyright Act does not restrict circumvention of access control.). However, these Laws do NOT provide:
- a restriction on circumvention of access control itself,
- a restriction on manufacture, importation and circulation of a technology for circumvention of access control,
- a restriction on importation or circulation of services for circumvention of access control,
- a restriction on manufacture of devices for circumvention of access control, and
- criminal penalties for circumvention of access control or any related acts, such as manufacturing of or trafficking in devices for circumvention of access control.
Therefore, Japan is now examining how to fix the difference between its legislation and present ACTA draft, with due regard to maintaining a balance between the rights of authors and the larger public interest, e.g. education, research, and cannot provide definitive comments on Paragraph 4 at this time. Japan reserves the right to make further comments on Paragraph 4.

Japan would like to know from the US or other countries which adopt a restriction on circumvention of access control, the concrete example and data and background of the legislation. That is, amount of harm by circumvention of access control, how effective the legal remedy against the circumvention of access control was (e.g. shrinkage of harm, number of litigation cases, what kind of major actions were ceased in terms of copyright protection perspective.).]

...
Footnote: [US: The][EU: In accordance with the applicable national legislation, the] obligations in paragraphs (4) and (5) [US: are][EU: may be] without prejudice to the rights, limitations, or defenses to copyright or related rights infringement. Further, [US: in implementing paragraph (4), no Party may][EU: paragraph (4) does not imply any obligation to] require that the design of, or the design and selection of parts and components for, a consumer electonrics, telecommunications, or computing product provide for a response to any particular technological measure, so long as the product does not otherwise violate any measures implementing paragraph (4).[CAN: clarification of relationship of exceptions to access control measures.][J: Japan reserves its position on Footnote (8) because the acceptability of this Footnote depends on the scope of Paragraph 4. The current legislation of Japan does not mandate devices to respond to any particular technological measure.]
...

[5. Each Party shall provide [US: that a][EU: adequate legal protection against a] violation of a measure implementing paragraph (4) [US: is a separate civil or criminal offense,][EU: is a separate civil or criminal offence] independent of any infringement of copyright or related rights. Further, [US: each Party may adopt exceptions and limitations to measures implementing {US: subparagraph (4)}{J: paragraph 4} so long as they do not significantly impair the adequacy of legal protection of those measures or the effectiveness of legal remedies for violations of those measures.][EU: each Party may provide for measures which would safeguard the benefit of certain exceptions and limitations to copyright and related rights, in accordance with its legislation.]

[J: Japan accepts the concept of the first sentence of Paragraph 5, which provides that the liability for the infringement of copyright or related rights and the circumvention of effective technological measures are separate from and independent of each other. Japan reserves its position on the second sentence, especially the phrases following "so long as" since we would like to examine those phrases in connection with Paragraph 4.]

6. [US: In implementing Article 12 of the WIPO Copyright Treaty and Article 19 of the WIPO Performances and Phonograms Treaty on providing][CAN: In implementing Article 12 the WIPO Copyright Treaty and Article 19 of the WIPO Performances and Phonograms Treaty regarding][AUS: In order to provide] adequete and effective legal remedies to protect [J: electronic] rights management information, [EU: In implementing Article 12 the WIPO Copyright Treaty and Article 19 of the WIPO Performances and Phonograms Treaty on providing adequete and effective legal remedies to protect rights management information] each Party shall provide [US: for civil remedies, as well as criminal penalties][EU: adequate legal protection to protect electronic rights management information] in appropriate cases of willful conduct, that apply to any person performing any of the following acts knowing [J: or with respect to civil remedies having reasonable grounds to know] that it will induce, enable, facilitate, or conceal an infringement of any copyright or related right [J: covered by the treaties above]:
(a) to remove or alter any [AUS/J/EU: electronic] right management information
(b) to distribute, import for distribution, broadcast, communicate, or make available to the public [J: without authority], copies of works, performances, or phonograrns, knowing that [AUS/REU: eleetronicirights management information has been removed or altered without authority.

[EU: 6.2 Each Party may adopt appropriate exceptions to the requirements of subparagraphs (a) and (b)]

[J: The word "electronic" should be inserted before "rights management information" in paragraph 6 because WIPO treaties explicitly confine the Contracting party's obligations concerning RMI to providing the remedies against removing or altering electronic RMI, and other acts with the knowledge of such removing and altering. It should be noted that Article 12 of the WCT and Article 19 of the WPPT stipulate "Contracting Parties shall provide adequate and effective legal remedies against any person knowingly performing any of the following acts knowing, or with respect to civil remedies having reasonable grounds to know, that will induce, enable...Infringement..." Thus, the expression of this provision should be examined again in civil remedies context.

The word "without authority" should be inserted as it is in the WCT and the WPPT.]

[7. Each Party may adopt appropriate limitations or exceptions to the requirements of subparagraphs (a) and (b) of paragraph (6) [J: so long as they do not significantly impair the adequacy of legal protection or effectiveness of legal remedies against the acts of provided in that paragraph.]

[J: The brackets in paragraph 7 intends to confirm that exceptions to the requirements regarding electronic RMI are permissible but they should not impair the adequacy of the restrictions stipulated in paragraph 6.]

[米/豪:[第2.17条]{メキシコ:2.18} デジタル環境におけるエンフォースメント手続き

第1項 各加盟国は、インターネットを用いることで発生する、[米:商標権{豪:侵害}、著作権あるいは著作隣接権権][日/欧:知的財産権]侵害行為に対する効果的な措置を取ることを可能とするよう、侵害を抑止する[米:迅速な救済措置]、[米/欧:さらなる侵害を防止する救済措置][メキシコ:そのような侵害を防止あるいは抑止する手段]を含め、本条約の民事的・刑事的エンフォースメントの章に書かれている限りのエンフォースメント手続きを国内法で担保しなければならない。[欧:この手段、手続きと救済措置は、公平でバランスの取れたものでなくてはならない。]

(注:日:全体として第1項のコンセプトを日本は支持する。しかし、商標権、著作権あるいは著作隣接権以外のインターネットにおける侵害も深刻な問題であるということに注意するべきである。インターネットを用いることで発生するこの侵害は、商標権、著作権あるいは著作隣接権に限定されるべきではない。)

第2項 権利の消尽に関する事項を含め、その国内法で担保されている[{日:特許権、意匠権、商標権及び}{米:著作権あるいは著作隣接権}][欧:知的財産権]に対する権利、権利制限、例外あるいは抗弁にかかわらず、各加盟国は、[{日:特許権、意匠権、商標権及び}{米:著作権あるいは著作隣接権}][欧:知的財産権]に関する第3者責任(訳注:間接侵害)のケースにおける[日米:民事的救済措置][メキシコ:行政、民事あるいは刑事上の措置]、並びにその[米:救済措置][メキシコ:措置]の適用に関する制限、例外あるいは抗弁の担保をその法体系中でしなければならない。

(注:日:日本は基本的に第2項を支持するが、以下のような事項を確認するか、提案する:
ー「民事的救済措置を...担保する」について、加盟国は、少なくとも損害賠償か差し止めを担保することで国内法への取り入れがなされたこととする。つまり、加盟国は、損害賠償と差し止めの両方を担保することを求められることはない。
ー第3者による、特許権、意匠権、商標権の侵害も深刻な問題であり、日本はこれらの権利への言及を提案する。
ーこの項が民事エンフォースメント章に移される場合、アメリカの原案が著作権と著作隣接権のみを言及しているのに対し、民事エンフォースメント章は基本的にその範囲を限定していないため、この規定が民事エンフォースメントの章に置かれるべきか否かは注意深く検討されなくてはならない。)

(脚注:[日本:「民事的救済措置」について、これは損害賠償か差し止めの両方かそのどちらかを意味する。])

(脚注:明確性のため、各加盟国は、第3者責任は[他者による{米:著作権あるいは著作隣接権}{日:著作権あるいは著作隣接権}侵害行為を、直接的な経済的利益を得るために、{米:その振る舞いによって}侵害に寄与するか、意図的かつ具体的に幇助することを{米:意味する}{豪NZ:含む}][欧:侵害に関与し責任を負う実際の侵害者以外の者を押さえることに関するものである。][米:さらに、加盟国は、この責任は、{米:フェアユース、フェアディーリングあるいはこれらと同等のものを含め、}{欧:フェアユース、フェアディーリングあるいはこれらと同等のものを含め、}排他的権利の例外あるいは制限が、著作物、実演あるいは録音の{著作権が問題となる場合は、そのサービスあるいは製品の}通常の利用を害さず、権利者の正当な利益を不当に害しない特別な場合に限定されるという考慮を含むと理解する。][日:さらに、加盟国は、この責任は、フェアユース、フェアディーリングあるいはこれらと同等のものを含め、排他的権利の例外あるいは制限が、著作物、実演あるいは録音の通常の利用を害さず、権利者の合法利用を不当に害しない特別な場合に限定されるという考慮を含むと理解する。])

(脚注:[日:脚注(1)の第1段落は基本的に受け入れ可能である。第2段落は「3ステップテスト」に言及しており、日本はこのルールが重要であることを理解している、しかし、第2段落の対象は著作権あるいは著作隣接権に限定されるべきではないため、「3ステップテスト」は著作権に適用されるものであるから、この言及は適切でない。さらに、この文脈において、「フェアユース」のような特定の国への言及を行うことも適切でない。])

第3項 オプション1 [米:各加盟国は、オンライン・サービス・プロバイダーを著作権あるいは著作隣接権の侵害のために用いる者がいることを認める。各加盟国はまた、デジタル環境における{米:知的財産権}{豪:著作権及び著作隣接権}、権利制限、例外と抗弁の適用に関する法的不明確性が、電子取引の経済的成長とその機会の障害となっているだろうことも認める。したがって、オンラインの情報サービス産業の持続的発展を促進し、著作権あるいは著作隣接権侵害に対する適切で効果的な措置を[{メキシコ:法的な救済措置として}][欧:(a)この点で]合理的な形で担保するため、各加盟国は、以下のこと[米:を行わなければならない][スイス:ができる]:

(注:[日:第3項の第1段落と第2段落を条約の前段あるいは海賊版対策条約についてなされるだろう政治的宣言中に移すことは検討に値する。])

(a)次のことによって発生する侵害行為について、オンライン・サービス・プロバイダー[米:に対して使用可能な民事救済措置の範囲][欧:の責任]についてその責任制限を行うこと:
(ⅰ)技術的な自動プロセス、[米:及び][欧:あるいは][メキシコ:技術的な自動プロセスの定義]
(ⅱ)プロバイダーがそのデータを選別しない場合の、プロバイダーによって[米:管理あるいは開始されたものでは][欧:管理・開始されたものでも、変更されたものでも]ないプロバイダーのユーザーの行為、[米:及び][欧:あるいは]
(ⅲ)小段落(ⅱ)と(ⅲ)のケースで、プロバイダーが、侵害を実際に知らず、その事実あるいは侵害行為が見られる状況に気づいていなかった場合に、[欧:かつ、第3項(a)(ⅱ)及び/あるいは(ⅲ)に規定されている行為を実行するオンライン・サービス・プロバイダーが、適用される法律に従い、侵害を実際に知ったことから権利侵害物あるいは侵害行為の除去あるいはアクセスの停止を迅速に行った場合に、][欧:サービスの受け手の求めに応じてあるいはサービスの受け手によって提供される情報の蓄積を、][米:オンラインのある場所をユーザーに参照させる、あるいは、その場所とユーザーを接続すること];そして、

(b)(a)の規定の適用は、以下の要件を満たす場合とすること:
(ⅰ)オンライン・サービス・プロバイダーが、著作権あるいは著作隣接権によって保護される物の不正蓄積あるいは不正送信に対する対策を採用し、合理的に実施する場合。[米:ただし、この(a)の責任制限において、いかなる加盟国も、オンライン・サービス・プロバイダーがそのサービスを監視すること、あるいは、侵害行為が生じていることを示す事実を積極的に探すことを条件とすることはできない][日:ただし、この(a)の責任制限において、いかなる加盟国も、オンライン・サービス・プロバイダーがそのサービスを監視すること、あるいは、侵害行為が生じていることを示す事実を積極的に探すことを条件とすることはできない];及び
(ⅱ)オンライン・サービス・プロバイダーが、侵害の疑いの法的に十分なノーティスの受け取りに基づいて、そのノーティスの内容あるいは宛先が間違いであることを述べるオンライン・サービス・プロバイダーのユーザーからの返答がない場合に、その物へのアクセスあるいは[米:行為][メキシコ:侵害の疑いのある行為]を、迅速に止めるか取り除く場合。ただし、オンライン・サービス・プロバイダーがそのシステムあるいはネットワークを通じて単に伝送者として振る舞っている場合には、この(ⅱ)の規定は適用されない。]

オプション3
[日:(c)小段落(a)及び(b)に規定されている手段を加盟国が採用しない場合、次の場合にのみ、その利用者によって開始される著作権侵害あるいは著作隣接権侵害を防止するため、その物あるいは行為を除去あるいは停止する適切な手段を取らなかったオンライン・サービス・プロバイダーに対する損害賠償請求の民事的救済措置を担保しなければならない。
(ⅰ)侵害を防止するための手段が技術的に取り得る場合、そして
(ⅱ)プロバイダーが侵害が生じたことを知っているか、知ったとする合理的な理由がある場合。

第3項の2 第3項(a)あるいは(b)の規定の適用を求めるに当たり、日々恒常的にそのサービスを監視し、侵害行為を示す事実を積極的に探す義務をオンライン・サービス・プロバイダーに課すことはできない。

第3項の3 各加盟国は、権利者が、著作権あるいは著作隣接権を侵害されているとする有効な理由に基づく請求として有効な通知をオンライン・サービス・プロバイダーに送った権利者に、関係する契約者の個人情報をプロバイダーから迅速に得ることを可能としなければならない。

第3項の4 各加盟国は、取られるべき措置についてのガイドライン策定の促進など、インターネットを用いることで派生する、特許権、意匠権、商標権と著作権あるいは著作隣接権侵害に適切に対処するための、オンライン・サービス・プロバイダーと権利者の間の相互協力の発展を支援しなければならない。]]

(注:アメリカの提案による現在の第3項は、日本の法制と一致しない。この部分の規定の文言はまだ検討を要する。

 さらに、日本のプロバイダー責任制限法は、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)の範囲をある状況に制限しており、この法律は範囲を民事的な損害賠償請求のみに限定している。つまり、プロバイダー責任制限法は、ISPに対する差し止めについて言及しておらず、差し止めを出すか否かは裁判所がケースバイケースで決定することになっている。

 日本のプロバイダー責任制限法は、ISPを通信、ホスト、キャッシュ等に分類していない。さらに、この法律は次の条件下におけるISPの民事的な責任を否定している。
(a)情報の通信を防止する技術的手段を取ることがISPに不可能である場合;あるいは
(b)侵害行為が発生したことを知らないか、知ったとする合理的な理由がない場合。

 アメリカの提案中の小段落(b)(ⅰ)と(b)(ⅱ)に書かれた条件を満たすことは、日本のプロバイダー責任制限法では求められない。しかし、通知を受け取り、その物を除去するポリシーを採用し、合理的に実行することは、上記の(a)あるいは(b)の条件を満たすかどうかについて裁判所が判断する時に考慮に入れられる。したがって、今のACTA案の構成と日本のプロバイダー責任制限法の間には違いがある。

 したがって、日本は第3項の改訂を示唆する。日本によって追加されたあるいは変更された青字の文章は、今のACTA案と日本のプロバイダー責任制限法の間の違いを明確に示すものである。

日本は、今のACTAの文言で規定されている条件と比較して、国内法でISPの制限により厳しい条件を規定することがこの項の適切な国内法への導入とみなせるかどうかについての確認を求める。)

(脚注:このような対策の例として、適切な状況において、サービス・プロバイダーのシステムあるいはネットワークにおける繰り返しの侵害者のアカウント[米:及び][豪:あるいは]契約の停止がある。)

(脚注:[日:日本の現行法制は、「ポリシー」を採用し、実行することをISPに求めていない、つまり、日本は今いかに脚注(6)を日本の法制に合わせるか、あるいはその逆とするかを検討しているところである。])

(脚注:本条について、オンライン・サービス・プロバイダーとプロバイダーは、オンラインサービスあるいはネットワークアクセスの提供者、あるいは、その設備のオペレーターを意味し、送受信される物の内容に変更を加えない、利用者の選択による物の、利用者によって特定される点の間の、通信、ルーティング、デジタルオンライン通信への接続の提供を行うあらゆる者を含む。[加:「変更」の範囲について要検討。][NZ:利用者によってアクセスされ得る、ウェブサイト上の物をホストする、あるいは、他の電子的検索システムが、「オンライン・サービス・プロバイダー」に含まれるのかどうか不明確である。][日:日本は、この脚注が受け入れ可能かどうかさらに検討を要する。]

第4項 オプション1 その権利の行使に関係する形で著作権者、実演家あるいはレコード製作者[スイス:あるいは他の著作権の権利者あるいは排他的権利のライセンサー]によって用いられ、その著作物、実演あるいは録音に関する不正行為を制限する、有効な技術的保護手段の回避に対する適切な法的保護[米:と法的救済措置][欧:と法的救済措置][米:に関する、WIPO著作権条約の第11条とWIPO実演・レコード条約の第18条を取り入れ、][日/欧/加:に関する、WIPO著作権条約の第11条とWIPO実演・レコード条約の第18条を取り入れ、][欧:を、]加盟国は、適切な意図的行動のケースにおいて[米:民事的救済措置と刑事的救済措置を]規定する。この手段は、次のことに適用される。
(a)[米:著作物、実演あるいは録音へのアクセスをコントロールする][欧:著作物、実演あるいは録音へのアクセスをコントロールする]有効な技術手段の不正な回避;及び
(b)つまり、主として有効な技術的保護手段を回避する目的で販売されるか、主としてその目的のために設計されている、あるいは、有効な技術的保護手段を回避する以外に重要な商業的目的を持たない、技術、サービス、機器、製品、部品あるいはその一部をなす物の製造、輸入あるいは流通。

[欧:第4.2項 各加盟国は、その国内法に従い、著作権と著作隣接権への例外と権利制限の利益を保持することができる。]

第4項 オプション2 [日:各加盟国は、次のことに適用される民事的救済措置を規定する:
(a)有効な技術的手段を回避する機能のみを有する(ⅰ)機器(そのような機器を組み込んだ装置も含む)あるいは(ⅱ)プログラムを有する媒体あるいは装置;あるいは、有効な技術的手段を回避する目的のためのみに販売されるか、主として設計あるいは製造された製品、部品あるいはその一部;あるいは、有効な技術的手段を回避する以外には限定された商業的目的あるいは用途しか持たない物の輸入、譲渡、頒布。

(b)有効な技術的手段の回避の機能のみを有するプログラムの電気通信回線を通じた提供。]

(注:[日:WIPO条約は、アクセスコントロール規制の導入を加盟国に求めるものではないと日本は理解している。したがって、WIPO条約への言及は不適切である。日本の著作権法と不正競争防止法は、ある条件下で有効な技術的手段の回避を規制している(著作権法は、アクセスコントロールの回避を規制していない。)。しかし、これらの法は、次のことを規定していない:
ーアクセスコントロール自体の回避の規制
ーアクセスコントロール回避技術の製造、輸入と流通の規制
ーアクセスコントロール回避サービスの輸入あるいは流通の規制
ーアクセスコントロールのための機器の製造の規制、そして
ーアクセスコントロール回避、あるいは、アクセスコントロール回避機器の製造あるいは売買のような関係する行為に対する罰則。
したがって、著作者の権利と、教育、研究といったより大きな公益とのバランスの維持を尊重しつつ、今のACTA案と国内法制の間の差を埋める検討を行っているところであり、現時点で第4項について決定的なコメントをすることはできない。第4項についてさらなるコメントをする権利を日本は留保する。

そのアクセスコントロール規制を採用しているアメリカと他の国から、その法制の具体的な例とデータと背景についての情報を日本は求める。つまり、アクセスコントロールの回避によって生じる被害の量、アクセスコントロール回避に対する法的な救済措置がどれほど有効であるか(例えば、被害の縮小、裁判となったケースの数、著作権の保護につい主としてどのような行為が止まったか)といったことについてである。)

第5項 第4項に書かれている手段を破ること[米:が、][欧:に対する適切な法的保護を、]著作権あるいは著作隣接権侵害とは独立に、[米:別々の民事あるいは刑事上の侵害行為となることを、][欧:別々の民事あるいは刑事上の侵害行為となることを、]各加盟国は規定しなければならない。さらに、[米:第4項に書かれている手段について、この手段の適切な法的保護あるいはこの手段を破ることに対する法的救済措置の有効性を大きく損なうものでない限りにおいて、各加盟国は、第4項に書かれていいる手段について制限あるいは例外を採用することができる。][欧:加盟国は、その国内法に従い、著作権と著作隣接権の例外の利益を保持することができる。]

(注:[日本は、著作権あるいは著作隣接権の侵害の責任と有効な技術的手段の回避が別個のものであると規定する第5項の第1文のコンセプトを受け入れる。ただし、第4項との関係で、その語の意味を検討したいと考えるため、日本は第2文、特に「限りにおいて」以前の部分の語についての態度を保留する。])

(脚注:[欧:適用される国内法に従う、]第4項と第5項の義務は、権利、制限あるいは、著作権あるいは著作権侵害に対する抗弁にかかわらない[欧:ものであり得る]。さらに、別な形で第4項で規定されている手段を破るものでない限りにおいて、特定の技術的手段に反応するものでない、電子製品、通信機あるいは計算機の設計、あるいはその部品の設計と選択に対する義務を[米:第4項を国内法に導入するに当たり、どの加盟国も課されることはない。][欧:第4項によって課されることはない。][加:権利制限とアクセスコントロール回避との関係を明確化する必要あり。][日:この脚注を受け入れられるかどうかは、第4項の範囲によるため、日本は脚注(8)に対する態度を留保する。日本の現行法制は、機器に特定の技術的手段に反応することを義務づけるものではない。]

第6項 [日:電子的な]権利管理情報の保護のための適切で効果的な法的救済措置の規定[米:に関する、WIPO著作権条約の第12条とWIPO実演・レコード条約の第19条を国内法に取り入れ、][加:に関する、WIPO著作権条約の第12条とWIPO実演・レコード条約の第19条を国内法に取り入れ、][欧:権利管理情報の保護のための適切で効果的な法的救済措置の規定に関する、WIPO著作権条約の第12条とWIPO実演・レコード条約の第19条を国内法に取り入れ、]加盟国は、適切な意図的行動のケースにおいて[米:民事的救済措置と刑事的救済措置を][欧:電子的な権利管理情報の保護のための適切な法的措置を]規定する。この手段は、それが[日:この条約によってカバーされる]著作権あるいは著作隣接権侵害に寄与するか、それを可能とするか、助長するか、隠すだろうことを知りながら、[あるいは、知ったとする合理的な理由がある場合の民事的救済措置に関し、]次の行為を行う者に適用される:
(a)不正な[日/欧/豪:電子的な]権利管理情報の除去あるいは改変;及び
(b)その権利管理情報が不正に除去されているか改変されていることを知りながら、[不正になされる]著作物、実演あるいは録音の複製物の頒布、頒布のための輸入、放送、送信あるいは公衆送信可能化。

[欧:6.2項 小段落(a)と(b)の要件に対して、各加盟国は適切な例外を設けることができる。]

(注:WIPO条約は明確に権利管理情報について、電子的な権利管理情報の除去あるいは改変、そして、そのような除去または改変を知って行う他の行為に対する救済措置のみを規定しているため、第6項の「権利管理情報」の前に「電子的な」を入れるべきである。WIPO著作権条約の第12条とWIPO実演・レコード条約の第19条は、「加盟国は、...侵害...を可能とし、それに寄与すると知りながら、あるいは知ったとする合理的な理由がある場合の民事的救済措置に関し、次の行為の実行を意図的に行う者に対する適切で有効な法的救済措置を規定しなければならない」と規定していることが注意されるべきである。したがって、この規定の書きぶりは、この民事的救済措置の文脈で再検討されなければならない。

WIPO著作権条約とWIPO実演・レコード条約と同じく、「不正になされる」という語を入れるべきである。)

第7項 [日:第6項で規定されている行為に対する法的救済措置の適切な法的保護あるいは有効性を大きく損なうことがない限りにおいて、]各加盟国は、第6項の小段落(a)と(b)の要件について適切な制限あるいは例外を採用することができる。

(注:第7項の括弧は、権利管理情報に関する要件の例外は可能であるが、第6項に規定されている制限の有効性を損なうものであってはならないということを確認することを目的としている。)

 詳しくは上を読んでもらえればと、かなり略した部分もあるのでさらに詳しくは原文を読んでもらえればと思うが、日本政府は、一応かなりの留保をしているものの、この条文と注から、海賊版対策条約(ACTA)のインターネット関連部分において対象を著作権だけでなく特許権などまで広げようとしていたり、第3項の3で、プロバイダーの責任制限について、権利者が個人情報を迅速に得ることを可能とするといった国内法の改正が必要となるだろうことを勝手に提案していたりとかなり大きなコミットメントを一方的に行っていると分かる。これがポリシーロンダリングでなくて何だと言うのか。(なお、変更の提案箇所を見ると、第216回で紹介したリーク文書はアメリカ提案の条文であったことが分かる。)

 また、他の点でも留保してはいるが、プロバイダーの責任制限とセットにしたストライクポリシーの導入やDRM回避規制強化などについて、今のACTAの条文案と国内法制を合わせられるかどうかの検討を行うと2010年1月時点で明言しており、これらの点でも、日本政府はポリシーロンダリングをやる気であると知れる。知財本部で今異常なペースで検討が進められているのはその所為だろうが、このような詳しい条文案と国内法制の差異、コミットメントに関する情報を隠したまま検討を進めるなど姑息以外の何ものでもない。

 この新たにリークされた文書は、今の日本政府の姑息なポリシーロンダリング、知財本部における検討を理解する上で、第1級の資料である。4月の次の会合に向けて、知財本部がこの条文案に沿い、極めて危うい形で拙速に結論を出そうとして来るのではないかという私の危惧はこれでますます強まった。今日も開催されることになっているが、知財本部の検討からは全く目が離せない。

(2010年3月4日の追記:昨日インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループの第3回が開催された(議事次第参照)。その資料事務局による論点の再整理について(pdf)に書かれていることは、プロバイダーに無意味に責任を押し付け、その免責という形での、侵害行為を繰り返す利用者に対するサービスの停止(ストライクポリシー)や、迅速な削除の強制、裁判外での個人情報の開示、アクセスコントロール回避行為そのものの規制、規制対象となるDRM回避機器の「のみ」要件の、主観的要件あるいは「主たる」、「専ら」といったより曖昧な形への拡大と、知財本部・事務局は、案の定、今の海賊版対策条約(ACTA)の条文案を完全に意識し、危険な規制強化色を露骨に出して来ている。)

(2010年5月1日の追記:翻訳中の誤記をいくつか訂正した。)

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