今、中国といえば、領土問題を発端とする反日デモが気になるところ。アメリカのニューヨーク市内でも反日デモ活動は行われたものの、いずれも小規模にとどまり、大きな問題とはならなかった。これは米国在住の中国人は世界中からの多様な情報に触れる機会があることや、長く海外で生活をすることで、より国際的な視野を持つことができるからにほかならない。
そして何より、ニューヨークにおいて国家や人種を対象とするような差別行動を起こせば、それはそのまま我が身に跳ね返ってくることを、よくわかっているからだ。商売に差し支えるようなバカなまねはしないというのは、アメリカ的であり中国的な考え方であるといえるだろう。中国でデモが暴動化しているときでも、漢字で書かれた看板が所狭しと掲げられ、中華料理店が軒を並べるチャイナタウンでは、普通に食事をとることができた。
そうはいっても店先に反日のビラを貼ったり、尖閣諸島の領有権を主張する貼り紙があったりするのも事実。
本国からの指示で仕方なくビラを貼る
ところが、これには少し事情がありそうだ。店主たちの話では、どうやら本国からの「偉い人」や、地元の政治団体、互助会のような集まりのリーダーなどからの指示があり、仕方なく指示に従っている面が強いようなのだ。地元有力者からの通達や、寄り合いの仲間内での雰囲気などから、どうしても自分だけが反対するということができない空気があるようなのだ。
このような状況は、ニューヨークの韓国社会にも似たような事例があるらしい。韓国料理店では、竹島の領有を主張する貼り紙などを見かけることもあるが、これらも本国の政治団体や大きな宗教団体などから、半ば無理強いされている面もあるのだという。
中国人の反日デモ活動も同様。参加している人たちの中には、日当を受け取っている人も少なくはなく、ニューヨーク郊外から観光バスでやってきた団体もあった。過去の大規模なデモの際には、中西部や西海岸から「パックツアー」で参加している人もおり、しかもその資金は、本国やその命を受けた外郭団体から供出されているのだという。参加者も気楽なもので、「これが終われば市内観光をすることになっている」と、観光付き、バイト代ありのニューヨークツアーといった風情だったのである。
もはや国際社会での「常識」を身につけている海外在住の中国人たちにとっては本当に迷惑な話であり、しかしあからさまに反対もできないというジレンマ。日本人である筆者に対して、「デモなんてみっともない行為だ」と、済まなそうにする中国人の友人もいた。世界中でシビアなビジネスを続け、本国の親族らにせっせと仕送りを続ける真摯な中国人も多い中、その彼らのビジネスを邪魔をしているのが、中国本国からの指示とあっては、彼らも途方に暮れるだけのようだ。
チャイナタウンの人々にしてみれば、礼儀正しく、値切ったりごまかしたりしない日本人客は非常に良質な顧客であり、本当はその方面のビジネスをもっと広げたいと考えている人も多いのだという。チャイナタウンで発行されている中国語新聞の一面には、政治問題と並んで日本のアイドルの活躍が掲載されていたりするところに、彼らのジレンマを見て取ることができる。
(文=田中 秀憲/NYCOARA,Inc.代表)
※尖閣問題をめぐる中国のデモを報じる9月15日付日経新聞より
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