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「頭を使え!」名門音楽大学教授による効率よく能力を高める練習法とは?

2012.09.25 21:00
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Noa Kageyama氏はアメリカの名門ジュリアード音楽院で学んだバイオリニストです。卒業後はインディアナ大学にてスポーツ心理学の博士号を取得し、現在はジュリアード音楽院の教授として、本番でベストパフォーマンスを引き出す方法を指導しています。今回はNoa Kageyama氏が「最も効率良く能力を高める方法」について語ります。


「学問に王道なし」と言われますが、これは学問に限らず仕事でもスポーツでも同じことが言えるでしょう。ただ、目標を達成するのに「近道」はない一方で、練習方法を間違えれば大変な「遠回り」になるのは確かです。プログラミング、ライティング、楽器の練習など、私たちはさまざまな練習に多くの時間を使いますが、正しい練習方法を知っていれば、より効率良く、効果的にスキルを習得できるでしょう。

私は2歳のときからバイオリンを弾き始めましたが、常に思い浮かぶ疑問が1つだけありました。それは「1日何時間練習したら十分なのか」ということでした。

■音楽家の答え

その疑問に対する答えを探すため、私は偉大な音楽家たちの文献を読みあさりました。20世紀を代表するピアニスト、ルービンシュタインはインタビューの中で「誰でも1日4時間以上練習する必要はないはずだ」と述べています。彼は、もしそれだけの練習時間が必要なら、それは練習方法に問題があると言ったそうです。

バイオリニストのミルスタインは教師のアウアーに「1日に何時間練習したらいいか」と聞きました(英文)。アウアーは「頭を使って練習するなら1時間半だけでいい」と答えたそうです。

「バイオリニストの王」と呼ばれたハイフェッツでさえ「過剰な練習は練習が足りないのと同じくらい悪いこと」と言ったそうです。彼は1日平均3時間程度しか練習しておらず、日曜日には全く練習しなかったそうです。

彼らを見るかぎり、1日4時間練習すれば十分なように思えます。次に、K. Anders Ericsson博士の研究結果について見てみましょう。


■心理学者の答え

人間が能力を高める方法というテーマにおいて、心理学者のEricsson博士は世界的権威と呼べる人物でしょう。彼の研究(PDFファイル)はいわゆる「10000時間の法則」のベースになっているものです。10000時間の法則とは「どんな分野の能力でも、達人レベルまで高めるためには10年もしくは10000時間の計画的訓練が必要」という仮説です。ちなみに、私は音楽家として国際的に評価を得られるレベルになるまでには15~25年の修練が必要だと思っています。

これはとても長い時間ですが、注目するべきポイントは「計画的訓練」という言葉です。計画的訓練とは高度な技術の習得を目指すために頭を使う練習であり、それ以外の訓練(単なる繰り返し練習など)とは区別して考える必要があります。


■繰り返し型練習の種類

音楽家が練習しているところを見たことがあるでしょうか? ほとんどの練習は下の3つに分けられます。

1. 練習回数更新型
この練習は単純に同じことの繰り返しです。例として、テニスのサーブ、ピアノの小節、プレゼンテーションの予行演習などといったものです。一見熱心に練習しているように見えますが、大部分は何も考えずに同じ動作を繰り返すだけです。


2. 自動運転型
この練習は1セットの動作を自然にできるようになるまで繰り返す練習です。営業トークのフレーズを3セット通して練習する、ゴルフコースを一周するなど、一通りの動作を行います。


3. ハイブリッド型
上記2つを組み合わせたものがハイブリッド型練習です。私にとって練習とは「気に入らない音がするまで演奏し続けること」でした。気に入らない音を見つけたらすぐに演奏を止めて、その部分の小節を何度も繰り返し演奏します。気に入らない音がしなくなれば演奏を再開し、また気に入らない音が聞こえたら止める。その繰り返しです。


ただ残念ながら、上記のような「繰り返すだけの練習」には3つの問題点があります。


■「繰り返し型練習」3つの問題点

1. 時間の無駄になる可能性が高い
ただ繰り返すだけの練習は「建設的な学び」になりません。多くの場合、「何時間・何日・何週間も続けながらほとんど上達しない」という状態になってしまうでしょう。さらに問題なのは、気づかぬうちに「悪いクセ」を覚えてしまい、練習自体がマイナス効果を生んでしまうことです。また、その「悪いクセ」を取り除くのに、さらに多くの練習時間がかかることにもなるでしょう。あるサクソフォン奏者はこう言ったそうです。「正しい練習は演奏を完璧にするだけではなく、完璧な状態を持続させる」と。


2. 自信を持つ妨げになる
このような練習は自信を持つ妨げにもなります。繰り返し型練習は「完成イメージ」を持たずに練習していることが多く、もし間違いなく演奏できたとしても、心の奥には不安が残ります。厄介なことに、この不安は本番で現れてしまうのです。本番で自信を得るためには、「継続的な成功体験があること」、「偶然できるのではなく、いつでもできる状態であること」、「なぜ成功できたかわかっていること」、この3つの状態を作っておく必要があります。また、演奏するための技術も把握しておきましょう。


3. 練習が「やっつけ仕事」になってしまう
繰り返し型練習はつまらないものです。私たちはこれまで、家族や先生に「これを10回練習しなさい」とか「あれを3時間やりなさい」と言われた経験があると思います。しかし、よく考えてみれば、練習時間が多くても成功するとは限りません。必要なのは「練習時間に基づいた目標」ではなく「結果に基づいた目標」なのです。つまり、「これを3時間練習する」という目標ではなく「納得いく音が鳴るまで練習する」という目標を立てることです。


■目指すべき練習とは「頭を使う練習」

繰り返し型練習がダメなら、どのような練習を目指せばいいのでしょうか? それは「頭を使う練習」です。頭を使う練習とは、科学的なアプローチを使った練習方法のこと。繰り返し型練習のように、やみくもに行うのではなく、問題の定義、仮説の組み立て、検証などの「科学的思考プロセス」を通して練習することです

通常、この科学的練習には長い時間がかかります。また、全体を通したものよりも細部の練習に時間をかけることになるでしょう。音楽家であれば、演奏曲が始まる最初の音に細心の注意を払い、イメージしたそのままの音が再現できるまで練習を重ねるはずです。

この練習は、科学的なので「客観性」も重要な要素です。したがって、自分のパフォーマンスを録画・録音して、継続的に改善点を探っていくことも重要になってきます。自分自身を鋭い目で観察して、どんなミスがあったのか、何が良かったのかなどを探してみてください。例えば、注目している部分の音は高すぎたのか、低すぎたのか、大きすぎたのか、小さすぎたのか、長すぎたのか、短すぎたのか...。音が「少し高く、長かった」なら、その程度はどのくらいでしたか? 自分の中にあるイメージとどれくらい違う音でしたか? それに対してどんな対策ができそうですか? 継続して結果を出すために何ができそうですか? 練習したセッションを毎回録音していたとして、最新の練習では狙った音がうまく出ていましたか? その時の雰囲気は聴衆に届きそうですか? 伝えたいメッセージはうまく伝わりそうですか? 

とても大変ですが、このように抜け目なく自問していくのが理想的です。

まとめると、何が問題なのかを把握し、なぜ起こったかを調べて、どう改善できるかを考える。簡単そうに聞こえるかもしれませんが、この練習方法を理解するのに私は何年もかかりました。ただ、これは23年間のバイオリン練習の中で最も価値のある「学び」だったと思います。また、私が現役バイオリニストを引退後、新しいスキルを習得するときも、この学びは十分生かされることになりました。重要なのは、練習にかけた時間の長さではなく、どのように練習をしたかということなのです

最後に、私が若い頃の自分に送りたいアドバイスを5つ紹介しますので参考にしてみてください。


■効率的なスキル習得に必要な5つのアドバイス

1. 集中力がすべて
練習時間は自分が集中できる長さに収めておくこと。人にもよりますが、10~20分、長くても45から60分程度でしょう。


2. タイミングもすべて
一日の中で最も元気な時間を探しましょう。朝早くかもしれないし、ランチの直前かもしれません。練習をするならこのような生産的な時間を選ぶようにしましょう。苦手な時間帯には仮眠を取るのがオススメです。


3. 記憶力をアテにしない
練習ノートを作りましょう。練習計画を立てて、目標を書き込み、練習で発見したことを記録するためです。Mihaly Czikszentmihalyi氏が言うように練習に集中するするコツは「練習する目的を常にハッキリさせておくこと」です。練習から得たいものは何か(どんな音が弾きたいとか、どんなフレーズや言い方を試してみたいか)など、常に完成イメージを意識しましょう。もちろん、改善点を探し続ける姿勢も忘れずに。

新しく気づいたことや、解決策を思い付いたときは、迷わず書き出してください。しっかり意識を集中して練習に取り組めば、小さな改善点や発見はいくつも見つかるはずです。


4. がんばるのではなく、賢くなる
物事がうまくいかないとき、原因は単純に練習が足りないだけということもありますが、思い切って方向転換をしないといけない場合もあります

私がジュリアーノ時代にパガニーニのカプリス第24番を練習していた時のことです。特定の音を響かせるため、私は練習に練習を重ねていました。しかし、どれだけ練習しても良い音は出ず、指から血がにじみ出るだけでした。そこで私は、明らかに効果の出ていない練習を止めることにしました。1日か2日ほど問題解決策をブレインストーミングして、アイデアが頭に浮かんだらすぐに書き出すようにしました。そして、有望なアイデアが出てきたら実際に試して検証する。これを繰り返し、なんとか壁を乗り越えることができました。


5. 常に問題解決型思考で目標達成を目指す
「繰り返し型練習」はとても簡単にできてしまうので注意が必要です。下記にある「6つの問題解決モデル」を活用して、常に頭を使って練習するようにしましょう。

1. 問題を定義する(結果はどうだったか、それをどう変えたいか)
2. 問題を分析する(何がその結果を引き起こしているか)
3. 解決案を出す(何をしたら、結果を改善できるか)
4. 解決案を検証して、効果のある案を選ぶ(どれが最も効果があるか)
5. 選ばれた解決策を実行する(練習して変化が持続するようにする)
6. 効果の確認をする(望んだ結果が得られ続けているか)


■時間は貴重なもの

上記のアドバイスは、音楽だけでなく、他のどんな分野のスキルアップにも使えます。人生は短く、時間は貴重なもの。スキルアップのために練習するなら、正しい方法で効率的に行いましょう!


The Most Valuable Lesson I Learned From Playing the Violin | Creativity Post

Noa Kageyama(原文/訳:大嶋拓人)

Photo by Thinkstock/Getty Images.

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