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2012年9月26日(水)付

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宗教と暴動―扇動者を喜ばせない

イスラム預言者ムハンマドを侮辱する映像や風刺画への反発がアジアでも高まっている。抗議デモの暴徒化は経済的に貧しい地域で激しいが、暴力は決して豊かな社会を育てない。パキス[記事全文]

首都と高速道―都心から撤去しては

老朽化する首都高速道路の都心環状線(約15キロ)について、国土交通省の有識者会議が「高架橋を撤去し、地下化を含めた再生を目指すべきだ」とする提言をまとめた。1964年の[記事全文]

宗教と暴動―扇動者を喜ばせない

 イスラム預言者ムハンマドを侮辱する映像や風刺画への反発がアジアでも高まっている。抗議デモの暴徒化は経済的に貧しい地域で激しいが、暴力は決して豊かな社会を育てない。

 パキスタンでは、鉄道相が米国のビデオ映像の作者を殺害した者に10万ドル(約800万円)の賞金を出すと発言した。政府は「あくまで個人的な意見」と説明するが、現職の大臣が殺人をけしかけるとは、許されないことだ。この国のカラチやペシャワルでは、デモ隊の一部が暴徒となって警官隊と衝突し、20人以上が亡くなっている。

 イランでは、宗教財団がムハンマドの風刺小説の作者にかけていた殺害懸賞金を増額した。平和と安心をめざす人々がすることだろうか。

 フランスの雑誌が載せた風刺画やビデオ映像がイスラム教徒を怒らせたのは当然だろう。言論の自由があるといっても、特定の宗教に悪意をこめ、はやして喜ぶ商業主義は、品のいいものではない。

 しかし、だからといって手段を選ばぬ暴力に訴えては、その宗教が理解できぬものだとの非難を集め、敵意の応酬になる。

 すでにエジプトやリビア、イエメンで米大使館が襲撃され、犠牲者が出ている。過激な宗教集団や政党が組織的に人を集めたようだ。

 キリスト教や仏教をふくめ、世界各地で宗教や信仰への関心があらためて高まったのは、経済のグローバル化と軌を一にするように見える。都市化が進む一方で経済格差は広がり、多くの若者が職に就けずに苦しんでいる。不安と不満が、宗教や信仰をよりどころにさせた。

 ただ、それで平和や安心が世界に広がったわけではない。他者による批判を自らの尊厳への攻撃と受けとめ、宗教をたてに暴力に訴える。狭量な信徒が陥りがちな短絡が、今回の暴徒たちにもうかがえる。

 ムハンマドを侮辱するビデオ映像や風刺画を実際に目にした人の数は限られているだろう。ところが、他国のイスラム教徒の抗議活動の情報が伝わるだけで自分も見た気分になり、欧米への憎悪を燃え上がらせて街頭に押し出す。

 残念だが、心ない映像や風刺画を作ろうとする不心得者はこれからも現れるだろう。宗教に限らず政治の世界でも、挑発や扇動で権力や影響力を得ようとする野心家が後を絶たない。

 そんな扇動者を喜ばせるままでは、社会がどれほど困った問題を抱えることになるか。それは宗教だけの問題ではない。

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首都と高速道―都心から撤去しては

 老朽化する首都高速道路の都心環状線(約15キロ)について、国土交通省の有識者会議が「高架橋を撤去し、地下化を含めた再生を目指すべきだ」とする提言をまとめた。

 1964年の東京五輪にあわせて整備された首都高は、補修だけでは間に合わなくなりつつある。高架橋が損ねている景観を取り戻し、首都直下型地震などの災害に備えるためにも地下化による全面更新が有効、との主張である。

 ただ、それには膨大な資金が必要だ。都心環状線の外側に3本もの環状道路が建設されていることを考えると、都心環状線の完全な撤去で首都の改造を目指すべきではないか。

 中心部を通過するだけの車を迂回(うかい)させる。それが環状道路の役割であり、世界の主要都市の多くにある。

 ところが都心環状線は平均半径が2キロ余にすぎず、北京やパリの5キロ台、ワシントンの16キロ余、ロンドンの30キロ近くと比べて圧倒的に小さい。

 国交省は「都心に車を引き入れている」として、中央環状線(都心から8キロ圏)、外環道(15キロ圏)、圏央道(40〜60キロ圏)の「3環状」を建設中だ。

 開通区間が計画の半分に満たない外環道と圏央道をめぐっては巨額の投資に賛否が分かれるが、さらに都心環状線を造り替えるのは二重投資である。

 都心環状線の地下化は小泉政権時代にも話題になった。一部区間が国の重要文化財である日本橋の景観を台無しにしているとして約2キロの地下化が提案されたが、4千億〜5千億円という財源のメドが立たず、議論は深まらなかった。

 今回は、地下化に熱心なロータリークラブが「全長50キロの地下環状線」を提案した。事業費を約3.8兆円と見積もり、財政難を踏まえて「通行料金の恒久有料化」を求めている。

 05年の道路公団民営化では、旧4公団の債務を50年までに返済し、その後は通行料を無料にすると決まった。首都高の更新論議にまぎれたなし崩しの変更は許されない。

 都心環状線内で乗ったり降りたりする車は通行車両の4割。完全撤去すると、一般道の渋滞対策が不可欠だが、世界では都心への流入を規制している例が珍しくない。

 首都・東京の防災対策は、一極集中をやわらげることが出発点だ。都心環状線の撤去をテコに集中を緩和し、空いた用地を防災や景観を重視した街づくりに生かす。そんな発想で検討を深めていきたい。

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