強制執行6
刑務所で服役中の元所有者。その彼に残置物処分許可を求める手紙を送った。期限までに返信がなければ、強制執行をするつもりだった。ところが、先方に伝えた期限の翌日に返信が来た。その趣旨は以下の通り。
「大事な荷物の残っている。親族である兄に整理をお願いしたい。時間を頂きたい。兄と連絡を取って欲しい。」
正直、費用だけを考えれば、もはや問題はクリアしてしまっている。強制執行をしても、荷物は全て「ゴミ」扱いなので、10万もかからない。しかしながら「経世在民(世の人々を救うこと)」の思想を背景にしている以上、相手の要望を全く無視することもできない。正直「面倒くさい」と思わないでもなかったが、相手の恨みも買いたくはない。それで再度お兄さんに連絡を取ってみることにした。
お兄さんは元々管理会社にしか連絡先を明かしていなかった。住所その他連絡先を可能な限り秘匿しているらしかった。元所有者本人から「兄と連絡」して欲しい旨伝えた。すると管理会社は、お兄さんに確認した上で、こちらに連絡先を教えてくれた。ようやくお兄さんと連絡がついた。何とかお兄さんの手で必要なモノを持ちだして欲しいと思ったが、お兄さん曰く
「弟があんな事件を起こして、どれほど嫌な思いをしたか。あの物件の近くを通ることすら避けている。」
こちらとしては物件が使えず困っているので、親族として刑務所の本人に連絡を取って欲しい旨を頼むと…
「仕事が忙しいので、刑務所まで面会には行けない。こちらからも手紙で連絡を取ってみるので、待っていて欲しい。」
外のお兄さんにも突き返され、塀の中の本人からも「大事なモノがあるから待ってくれ」。これではこ両方の間をたらい回しされただけ。しかし、一応こちらとしてはやれるだけのことをやって、それなりの誠意を見せておけば、相手に因縁を付けられる余地は少なくなる。仮に強制執行になっても、費用的にも10万かからないことが確実。時間的な問題もあるので、並行して強制執行も進めつつ、何とか荷物の整理を進めてもらえるように手紙を書いた。
また仮にお兄さんが手伝ってくれない場合でも、こちらが「大事なモノ」を持ち出せるような手筈も整えた。不動産の強制執行は、まず一回目に「催告」を行う。「1ヶ月以内に出て行って下さいね。」と執行官が退去を促すのである。それを行った後に、一ヶ月後に実際の強制執行がなされる。引っ越し屋が大勢でやってきて、数時間の内に家財道具ごと居住者を追い出してしまうのは、この2回目である。このケースでは元所有者は刑務所なので、一回目「催告」とは言っても誰もいないのであるが、それでも同じ手続きになる。小生はその「催告」に同行し、部屋毎に荷物を写真におさめて本人宛に送ることにした。「これらの写真の中に必要な荷物があれば、写真の番号と共にその荷物を指定下さい、保管しておきます」と。これだけやればいいだろう。
このように強制執行を進める一方で、小生は強制執行で追い出される人達の相談にも乗る。現実的に引っ越しの手伝いをしたこともある。丁度この強制執行手続きの裏でも、別の債務者(家が競売にかかって他人の手に渡り追い出される予定の人)の強制執行手続きが進行中。その債務者から連絡が来た。
「野田さん、裁判所の執行官が来ました。」
「ああ、そうですか、しょうがないですね。」
「担当の人は、山田太郎(仮名)さんです。」
小生の放火物件と同じ執行官!
同じ執行官に一方で追い出しを頼み、他方で追い出されるとは…
利益相反とか利害関係人で、執行官忌避(担当者が交代すること)とかないよね…
コメント