強制執行7
放火物件で強制執行によって追い出す一方、別の物件で追い出される過程であると述べた。ではこの強制執行手続きにおいて、どこまで抵抗することが可能なのか?先に回答を述べると、現在では如何なる抵抗もほぼ無力である。
かつて競売物件は暴力団の独壇場だった。裁判所の競売物件買受窓口には、明らかに暴力団と分かるいかつい兄ちゃんがうろついていた。仮に一般人が買い受け申し込みをしようものなら、
「よう、どの物件買うんだい?いい度胸してるなあ、ウチの組敵にまわすんか?」
そんな言葉を発したかは定かではないが、一般人がとても入れない空間が、裁判所の一角にあった。裁判所の事務員は窓口の奥で縮こまっていた。これが40年前。
それから買受申し込みが郵送でできるようになり、裁判所から暴力団は消え去った。次に暴力団は、競売物件の「占有屋」などという仕事を作り出した。当時の法律では、競売物件を落札したあと、物件の占有者(すんでいる人)を特定して追い出す手続きが面倒だった。またその抜け道もあった。例えば一度占有者を特定しても、裁判手続きに訴えられたら、また新たな占有者を入れ替えて手続きを無効にしてしまうなど。
いずれにしろ、暴力団絡みの占有屋が物件を占有し、一般人は中々競落できずに、安値になった所でまた暴力団が落札する。落札出来なくても多額の立ち退き料を買い受け人からせしめるという収益構造が残った。
オウムがその占有屋の片棒を担がされたのは約15年前のことである。オウム事件後、宗教法人の解散・破産により富士山周辺から首都圏に移転するしかなかったが、まともな仕事にもついていない、親の連帯保証人もつけられない、しかも同居人が赤の他人同士であるという出家者達は、通常の賃貸物件を借りるのが困難だった。そこでこの暴力団が占有している物件に金を払って住まわせてもらうしかなかった。通常占有屋は、物件を占有する仕事を一日当たり一万前後で引き受けていた。これをオウムはお金を払ってやってくれるわけだから、彼らにとってはおいしい話だった。この搾取の構図には途中で気づいたので、自分たちで立ち退き料をせしめるようなことも一時期あった。超高級車が買える金額を一物件の立ち退きでもらったこともある。
しかしこのように暴力団(プラスオウム)がのさばる状況は、民事執行法の改正に次ぐ改正で、どんどん駆逐されていった。最近では、簡単に不動産引渡命令が出て、簡単に強制執行で追い出すことができてしまう。暴力団が簡単に排除できるようになったということは、当然のことながら一般市民で出て行くところがない人達も簡単に追い出せるわけである。
暴力団は金のためにやっているが、住宅ローンが払えずに追い出される一般市民の債務者は、行くところがないのでやっている。生きていくために必死で抵抗するしかない場合もある。簡単に追い出された債務者家族がちりぢりに離散し、ある者はホームレスになったり、ある者は犯罪者になってしまったりということもある。暴力団という社会の暗黒を完全排除しようとすれば、白かった筈の一般市民も徐々に黒に追い込まれる。これについては前にも書いた通り。
買い受け人は大抵が不動産業者なので、転売して金儲けをする目的。(比較的)金持ちが貧乏人を追い出す構図で、強い者の力ばかりが増ている状況。そんな状況でリースバックは弱者救済の方策でもあったわけだが。。
実際に強制執行となって、その後どうなるかの追跡をしたことはない。丁度今、買い受け人から強制執行を受けそうなケースの人の相談を受けている。その人にも次のように話している。
「今の制度では、どんなに頑張っても強制執行で追い出されてしまいますよ。」
「追い出されなかったケースとしては、自宅で寝たきりの病人がいて、動かすと死んでしまうケースとかですね。どうしても強制執行を避けたかったら、親族で死にそうな病人を自宅で生命維持装置につないでおくしなかないですね。」
勿論、最初の競売物件調査時に物件にいなかった死にそうな病人が、強制執行の時だけいるとしたら変な話だ。強制執行妨害罪が疑われる可能性があるから、冗談として挙げた話。何にしろ、この債務者が「どうしても出て行きたくない、諦めない」というその根性が気に入ったのと、最後どうなるかを見届けたいので、支援中。
「極めて難しいと思うけど最後はどうするつもりですか?」
という問いに対してその債務者が出してきたのが
「浅見帆帆子のやり方で頑張るしかない!」
浅見帆帆子は、運が良くなる・夢が叶うなど、自己実現についての本を沢山書いている。何かそれって
「グルを思念すれば救済は成功する」
「グルを求めれば死刑は回避される」
と同じく、現実のプロセスがごっそり抜け落ちているような…。まあそれよりかはマシかな。
(つづきで話を元に戻す)
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