東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 神奈川 > 9月26日の記事一覧 > 記事

ここから本文

【神奈川】

「がけ崩落 教訓は」住民不安 京急脱線事故

脱線した電車の周囲で復旧作業が進む現場。後方は崩れた崖=横須賀市追浜町で

写真

 ゲリラ豪雨による土砂崩れが、帰宅を急ぐ人たちを襲った。二十四日深夜、横須賀市で起きた京急線の脱線事故。運転士と乗客の計二十八人が重軽傷を負った。現場付近では二十年間で過去にも二度、土砂崩れがあり、付近の住民からは不安な声も出ている。 (脱線事故取材班)

■20年間で3回目

 今回の事故現場付近では一九九七年四月、現場から二キロ南で土砂崩れがあり、普通電車が土砂に乗り上げ、四両編成のうち前三両が脱線、乗客十九人が負傷した事故があった。

 また、九二年五月にも、今回の事故現場からわずか百メートルほどの場所で土砂崩れが発生。線路わきのがけが崩れ、上下線の線路を覆った。下り普通電車が現場にさしかかっていたが、運転士が気付いて急停車したため、乗客にけがはなかった。

 二十年間で三度目の土砂崩れに、市民からは「横須賀はがけ地が多い。二度の崩落の教訓は、生かされていたのか」と心配する声も出ている。

■斜面は民有地

 土砂崩れの発生現場は、県が指定する「急傾斜地崩壊危険区域」ではない民有地で、行政も安全対策を取れない状態になっている。

 横須賀市危機管理課や傾斜地保全課の担当者は「土地の所有者が崩落防止をすることが原則。ただ、この場合は京急が鉄道を走らせているので、安全対策の責任は京急になる」と口をそろえる。

 小高い丘が連なる横須賀市は、日本で最もトンネルの多い街といわれているほど、たくさんのトンネルが山を貫き、傾斜地の合間を鉄道や道路が走る。市北部は特に傾斜地に囲まれており、今回の脱線事故現場も斜面に沿って線路が延びているため、土砂崩れの危険性と隣り合わせで運行している状態だ。

 市傾斜地保全課は、「県の急傾斜地崩壊危険区域は、斜面の崩落防止工事や定期点検がある。だが指定外の傾斜地で民有地だと、行政が手を出すわけにはいかない」という。

 九七年に脱線事故が起きた時は、市が指定区域外の傾斜地を緊急点検したが「今回は今のところ予定はない」という。

 沿線住民は「がけ地だらけの街を走ってくれるのはありがたいが、沿線すべての斜面の崩落防止工事を京急だけでやりきれないのでは」と話す。

■局地豪雨

 土砂崩れを引き起こした二十四日夜の豪雨は極端に狭い地域で起きた。背景には地形の特徴などが影響しているようだ。

 横須賀市内に三カ所の雨量計を設置している県河川課によると、脱線事故の現場に最も近く、現場から約七キロ南の雨量計は、二十四日午後十一時までの一時間に八八ミリを計測。この地域の今年八月一カ月の総雨量が一時間で降る猛烈さだった。

 しかし、さらに数キロ南に位置する残り二カ所の雨量計は、同じ時間帯の雨量が、それぞれゼロミリや三ミリと極端に少なかった。

 豪雨を計測した雨量計は、三浦半島で最も標高が高い大楠山(二四一メートル)に連なる丘に設置。同課は「この周辺は湿った空気が初めて山に当たる場所。気流が上昇しやすく、狭い範囲で強い雨が降りやすい」と分析する。

■モーター車奏功

 京急は、全ての路線で先頭と最後尾に重量のあるモーター付きの車両を編成している。今回の事故でも、最初に脱線した先頭車両は二両目などよりも約十トン重く、この組み合わせにより横転を免れた可能性がある。

 京急によると、モーターは車両下部の四本の車軸のそれぞれ中央に取り付けられている。広報担当者は「モーター付き車両を先頭にすると、脱線しても進行方向から大きくずれないため、転覆しにくいというデータがある」と話す。

 遅くとも昭和三十年代には、この編成を採用したという。

■懸命な復旧作業

 斜面は幅十一メートル、高さ十二メートルにわたって崩落した。現場では二十六日始発からの運転再開に向け、京急の作業員約二百人が土砂などの撤去にあたった。

 崩落した斜面には、二十五日午後になっても高さ数メートルの折れた木が五本ほどひっかかっていた。作業員はロープで体を支え、チェーンソーで一本ずつ切断。斜面に残る土砂も地面に落とし、土のうに詰めてトラックで運搬を繰り返した。

 県警は事故車両の見分を終え、トンネル内など崩落現場の見分を始めた。

 

この記事を印刷する

PR情報





おすすめサイト

ads by adingo