大人の課題図書書物が読めることは大人の必要条件。そしてアソビの出発点。
新旧問わず毎週一冊の課題図書を柳瀬博一が提案します。

『ナショナル ジオグラフィック』は「ビジネス誌」である

2012年 9月 25日

『ナショナル ジオグラフィック』という雑誌をご存知だろうか。
実は、私のすぐ横に日本語版の編集部がある。
アメリカでは800万部出ている雑誌である。19世紀から発行されている世界最初のカラー雑誌である。黄色い縁取りにインパクトのある写真、が目印である。

2012年9月号の特集は、「竜巻・豪雨・干ばつ…猛威を振るう異常気象」「ハドリアヌス帝とローマ帝国の国境」「太平洋のオアシス 海山」などなど。
…こう並べると、なるほど「教養」の雑誌である。すぐに役に立たない。隠居じいさん向きのアームチェアで読む雑誌、のよう、である。

 

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2012年9月号

 

とんでもない。

『ナショナル ジオグラフィック』こそ、いまだ公私ともに現役ばりばりの諸兄が手に取って読むべき「ビジネス誌」なのだ。

「異常気象」の記事は、日本のメディアがさっぱり伝えなくなった、地球温暖化による気象変化がどんな災害を今世界にもたらしているのかを、圧倒的なビジュアルとともに伝えてくれる。まさに、世界レベルでのビジネスリスクとビジネスチャンスを直接教えてくれる話である。というか、このくらいを抑えておかないと、大人としては「まずい」話である。

「ハドリアヌス帝とローマ帝国の国境」は、ユーロ危機と欧州企業のM&Aのロジックを知る上で、やはり必読の内容である。ローマ帝国の成立と崩壊に関するディテールを多面的に知っておかなければ、いまヨーロッパで起きている政治経済社会の事象のメンタルなロジックはとても理解できない。塩野七生さんの『ローマ人の物語』を読んでいるひとが、一番のローマ帝国通、というレベルでは、まったくダメ、なのである。

なにより、『ナショナル ジオグラフィック』は、アメリカという国の潜在意識を知るのに最適の雑誌である。版元は、アメリカ地理学協会だ。創刊以来、世界を制しようというアメリカ帝国主義のいわば、潜在意識をもろ出しにしているのだ。『ナショナル ジオグラフィック』が「何を報じているか」は、転じて、「アメリカはいま、どちらを向き、何に興味を持っているのか」を示しているともいえる。つまり、アメリカの方向を確認するためのかっこうのテキストなのである。

『ナショナル ジオグラフィック』で毎月得られる「教養」こそは、未来にサバイバルするうえで、きわめて強力かつ手軽な武器である。だからこそ、最前線で活躍する、あなたこそ、この雑誌を読むべきである。いや、見るべきだ。なにより、世界最高の写真が集まっているのだ。お手本にすれば、ほら、写真の腕だってあがります。

書籍情報
誌名 『ナショナル ジオグラフィック 日本版』
発行 日経ナショナル ジオグラフィック社
価格 980円
URL http://nationalgeographic.jp/nng/magazine/

柳瀬博一
「日経ビジネス」チーフ企画プロデューサー
1988年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社、日経ビジネス編集、日経ロジスティクス創刊を経て、開発部門で新規媒体開発に従事したのち、96年書籍部門の出版局立ち上げに参加。
『小倉昌男 経営学』『矢沢永吉 アー・ユー・ハッピー?』『養老孟司 デジタル昆虫図鑑』『社長失格』など数多くの書籍を世に出す傍ら、ウェブマガジン『日経ビジネス オンライン』の事業モデル構築を行い現職に。
TBSラジオ『文化系トークラジオ Life』サブパーソナリティ、『柳瀬博一Terminal』パーソナリティとしても活躍中。