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【放送芸能】

アニメ大国 色あせる現場 過酷労働、制作会社を訴え

 人気アニメ「名探偵コナン」などの背景画を手がける制作会社「スタジオ・イースター」(東京都杉並区)の社員3人が同社を相手取り、不払いの残業代や慰謝料など3500万円の支払いを求めて東京地裁に提訴し、裁判が行われている。アニメ大国といわれる日本の制作現場で過酷な労働が蔓延(まんえん)していることは以前から指摘されてきたが、司法の場に持ち込まれるのは珍しい。現在のような状況が続けば、労働力の安価な海外への発注が進み、国際競争力が失われると危惧する声も上がっている。 (井上喜博)

 訴えなどによると、二十代の女性社員は週六日の勤務で、締め切り前には七時間の残業を強いられながらも残業代は支払われず、会社からは「アニメ業界に残業代という考え方はない」といわれたという。また三十代の男性社員は、原画などをスキャナーでパソコンに取り込む作業に従事し、多いときには一日千枚以上を任されて頚椎(けいつい)症となった。これまで三回の口頭弁論が行われ、会社側は争う姿勢を示している。

 「アニメ制作会社に入社した若者の八割が低賃金で生活できなかったり、長時間労働で体を壊したりして辞めてしまう」と話すのは、映演労連フリーユニオンの高橋邦夫委員長。

 アニメーターは大きく作画監督と、絵コンテに従って画面を設計する原画担当、原画と原画の間をつなぐ動画担当に分けられる。新人は動画担当で三、四年経験を積み、原画担当にステップアップするのが通常だが、高橋委員長によると、それ以前に退職してしまう人が多く、優秀な原画マンが恒常的に不足しているという。「動画の多くは現在、韓国や東南アジアなどに発注されている。このままアニメ産業の空洞化が続けば、海外で優秀なアニメーターが育ち、日本が後塵(こうじん)を拝する日も遠くない」

 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)が二〇〇八年に経験一年以上のアニメーター二千人(回答者728人)を対象に実施した調査がある。それによると、動画担当の平均年収は百五万円で、原画担当でも二百万円未満が五割以上。また七割が「制作会社などに所属している」と回答しながら、厚生年金の加入者は全体の12・8%、雇用保険の加入者は10・6%にすぎなかった。JAniCAの大坪英之事務局長は「若いアニメーターの中には、自分の雇用形態を正確に把握していない人も多い」と指摘する。

 テレビアニメの制作費は日本初の本格作品である手塚治虫さんの「鉄腕アトム」(1963年)以来、低く抑えられ、多くが赤字とされる。元請けのアニメ制作会社は、ビデオ化などの二次利用やキャラクタービジネスで赤字分を回収できるが、著作権を持たない下請けや孫請けはその恩恵にあずかれない。いわゆる「下請けいじめ」も行われ、経済産業省は現在、アニメ産業の下請けガイドラインの策定を進めている。

 一方、アニメーターを送り出す側は、アニメ業界の実態をどう見ているだろうか。

 国内最大手のアニメ専門学校、代々木アニメーション学院の佐野哲郎講師は「東京都内だけでもアニメ制作関連会社は七百近くあり、ピンキリというのが実情。中には二十万円近い初任給を支払っている会社もあるし、入社して一年を経ずに原画担当に転じ、三十万円以上の月収を手にしている卒業生もいる。わが校としては即戦力となる人材の育成に努めるとともに、学生には就職先の情報を事前に十分に入手するよう指導している」と話している。

 

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