近況報告

金原の近況をできるだけお知らせします。

■ 2011/6/29(水)

6月18日の社会学部同窓会総会で、金山先生にお会いした。

金山先生は法政大学の社会学部を退職なさって、もう悠々自適のご身分……なんだけど、いまでも研究に打ちこんでらして、一方、ゼミ生ともつきあっていらっしゃる。

「学生は野獣、教員は瘋癲」というのが口癖で、教授会などでも、ごくたまに発言なさることがあって、その時は、非常に厳しい提言をなさってらした。

じつは、金山先生はお茶の水の文化学院で教えてらっしゃったときがあって、ぼくも数年、ちょうど同じ日に教えていて、毎週ご一緒したことがある。そんなこともあって、親しくさせていただいてたんだけど、生物学を基盤とした環境学その他への造詣の深さには、いつも敬服していた……とか書くと、「ちっともわかってないくせに」というお言葉が返ってきそうだが、素人にもうまく届くように教えてくださった。

金山先生、とても煙草がお好きだったのだが、一時、体調が悪くて、禁煙なさっていたときがあった。当時、ヘビースモーカーのぼくが目の前で、いかにもおいしそうにショートピースを吸っていたら、先生が軽くうなりながら「金原君、一本だけ、もらえないか」とおっしゃった。笑うに笑えず、うつむいて、一本差し上げた。

そんな金山先生、いまでもお元気で、同窓会総会でぼくが下手な講演をしたあと、「いやあ、おもしろかったよ」といってくださって、そのとき、ぼくの講演がらみで昆虫食の話をしたんだけど、今日、先生からDVDが届いた。ニューギニアで、ピナタンという親指大のイモムシを調理する映像だった。

そうか、やっぱり、昆虫もおいしいんだろうなと納得。

この昆虫食の話、そのうちエッセイで書く予定。

■ 2011/6/26(日)

このところ、暗い話題が続いてて、さて、次はどんな内容になるんだろうと思っていたら、明るい話題がちらちらと見えてきたのでご一報を。

いままでうちのゼミ出身の作家といえば、『ブラックロッド』で電撃大賞を受賞してデビューした古橋秀之、そのすぐあとに続いてデビューし、『猫の地球儀』や『イリヤの空』で注目された秋山瑞人、今回、MF文庫『精霊使いの剣舞』がコミカライズ決定となった志瑞祐。そして瑞嶋カツヒロが一迅社文庫から『僕が彼女に寄生中』でデビュー(7月1日発行予定だけど、すでに書店に並んでいる)。ラノベに興味のある方は、ぜひ読んでみてほしい。その他、社会学部では田中優子ゼミに在籍しながら、毎回金原ゼミに顔を出し、合宿にも欠かさず顔を出す、早矢塚かつやもほぼ3カ月おきに新刊を出している。

それからもうひとつ、朗報。集英社から出はじめた「戦争×文学」という全20巻のシリーズのなかの「イマジネーションの戦争」という巻には、筒井康隆、三崎亜記などの作品が収められることになっているのだが、そこに1編、秋山瑞人の作品が収録されることになったらしい。めでたい! ただ、秋山、ここ3年ほど新作が出ていないので、いささか心配。

ともあれ、ゼミの卒業生が活躍してくれると、やっぱりうれしい。

つい先週も、コント集団「夜ふかしの会」で、岡田・内田の脚本・演出コンビも頑張っていて、新宿のシアター・モリエール、ほぼ満席。

若い人たちの活動はやっぱり、楽しい。

今月16日の三浦さんと金原の対談、なかなか好評だった……と自画自賛。

また18日の社会学部同窓会総会での金原の講演もまずまずかなあ。

25日は法政の校友会(大学のPTAみたいなもの)の役員交流会で夕方から飯田橋の出版会館。ここの食事は量だけはあるんだけど、ほとんどデリカシーが感じられない……と、女性のブーイング多し。ぱさぱさした肉と魚ばかりで、味が……とのこと。こちらは100名以上参加。

そのあと、8時から飯田橋の北海道で2次会。こちらは50名ほど参加。

そういえば、校友会の会食のとき、隣に座っていらっしゃった方(男性)は、いままで家の鍵を持ったことがないらしい。いつも、自分が家に帰るときは奥さんが待っていたとのこと。そして、奥さんは子どもの食事と夫の食事は別の物を用意していて、夫のお酒の進み具合に合わせて肴が出てくる……わ、なんか、すごい。まぶしい。目がつぶれそう。

26日(日)は午後3時から、穂村弘・東直子の対談。さすがに満席。穂村さんの鋭い切り口と、東さんの優しい視線がうまくよりそったいい対談だった。それにしても、人によって好きな短歌って、やっぱり違うんだなと納得してしまった。

引き合いに出た穂村さんの短歌「それぞれの夜のどこかでセロファンを肛門に貼る少年少女」のセロファンは、ギョウ虫検査のセロファンだったことが判明。それだけでも、いったかいがあったというもの。

対談のあとは、ゼミ生が味の素スタジアムのフリマに出店していて、その打ち上げに参加。1時間半ほどつきあって、穂村さんと東さんの対談の打ち上げに途中から参加。

なかなか充実した一日だった……ような気がする。午前中、エッセイ、ひとつあげたし。

■ 2011/6/19(日)

いきなりの近況報告です!
取りあえず、次のような本が出ました。

●2011年5月10日
『刑務所図書館の人びと ハ−バ−ドを出て司書になった男の日記』533頁(柏書房)
Running the Books: The Adventures of an Accidental Prison Librarian by Avi Steinberg

あとがきの最初の三分の一くらいを引用。

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 いわれてみれば確かにありそうだけど、いわれるまでは考えたこともなかった……そんなものがたまにある。たとえば、刑務所の図書室。
 そして、「いわれてみれば確かにありそうだけど、いわれるまでは考えたこともなかった……そんなもの」って、絶対におもしろそうだ。たとえば、刑務所の図書室。
 というわけで、ボストンの刑務所の司書をしていたハーヴァード出身の若者が書いたエッセイと聞いたときは、もう耳がぴくぴくしてしょうがなかった。
 ページをめくったら、いきなり「受刑者の中で、いちばん司書に向いているのが風俗の男。逆にまったく向いていないのがサイコキラーと詐欺師……」。
 あ、そうかもと思って読んでいると、映画を観ての帰りに、刃渡り十五センチほどのナイフを突きつけられ、金を脅し取られたときのエピソード。


「あれ?」相手が唐突にいった。なぜか、声の調子が少し変わっている。「あんた、刑務所@ベイ@で働いてる?」
 ぼくの体の関節という関節が緊張した。喉が締めつけられる。ほらみろ。仕事が家までついてきたじゃないか。監獄熱は妄想なんかじゃなかった。
 この場合、こう答えるのが正解だ。「ベイ? なんのことかな? シーフードの店? きいたことないな」
 しかし、そうは答えず、振り返って相手をみた。背が高く、やせている。長い腕にがっしりした肩。青い目出し帽をかぶり、その上にすりきれた黒いフードをかぶっている。
 ぼくはいった。「うん、図書室の司書をしてる」
「そうだ!」男はスペイン語なまりでいった。「思い出した。本の人だろ!」


 相手は出所した知り合いの受刑者だったのだ。こういう状況も、いわれてみれば確かにありそうだけど、まず普通の人は考えつかない。あるとすれば、O・ヘンリーの短編か、お涙頂戴のハリウッド映画くらいだろう。しかし、ここに描かれてる世界はO・ヘンリーの世界でもなければ、ハリウッド映画の世界でもない。現実のボストンの刑務所だ。
 そんな世界で著者は様々な受刑者と出会う。
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本好きの人、図書館好きの人、ノンフィクション好きの人、みんなにお薦めです。
それから、紀伊國屋のウェブページでも特集を組んでくれているので、興味のある方はこちらへ。
金原が考えた、参考図書一覧が載っています。


●2011年5月31日
『神の左手』470頁(講談社)
The Left Hand of God by Paul Hoffman

こちらも、あとがきの最初の部分を引用。

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 ポール・ホフマンの『神の左手』(The Left Hand of God)を読み終えたときの衝撃はおそらく一生忘れられない。
 ひと言でいってしまえば、ダークファンタジー。もう少し詳しく説明すると、嘘と偽りと裏切りと圧政の暗黒の世界で繰り広げられる、少年たちの冒険物語。
 しかし冒頭からのこの暗さはなんだろう。容赦なく、途方もなく暗い。
 舞台はヨーロッパ中世を思わせる架空の世界。幕が開くと、そこは「聖域(サンクチュアリ)」と呼ばれる、壮大な修道院の中だ……が、サンクチュアリというのは名ばかりで、巨大な建物からして監獄そのもの。寒々しく殺伐としていて、廊下はあちこちで曲がり、くねり、ねじれているうえに、内部はどこも、どの部屋もほとんど作りに変化がない。まさに壮大な迷宮で、すべてを把握している者はひとりもいない。
 イギリスのゴシックファンタジーの金字塔『ゴーメンガースト三部作』の舞台になっている、どこから始まってどこで終わるのかまったくわからない、自己増殖していくかにさえみえるグロテスクなゴーメンガースト城にとてもよく似ている。
 そんな修道院に、十歳にもならない男の子が次々に連れてこられる。そして十年以上も拷問に近い訓練を受けさせられ、やがてどこかへ送り出される。
 男の子のなかのひとりが主人公のケイル。ケイルは人並み外れた知力と体力でこの煉獄のようなサンクチュアリの過酷な日々を生き抜いてきたが、決して人に心を開かない。そんなケイルが殺人がらみのいまわしい事件に巻きこまれ、唯一の親友ヘンリと、ヘンリの仲間クライストを連れてここを脱出しようと画策するところから、物語がゆっくり動き始める。
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 まさにモダン・ダーク・ゴシック・ファンタジーの傑作。うっとりしながら最後まで訳した作品。


●2011年6月14日
『ユリシーズ・ムーアと第一のかぎ』330頁(学研)共訳
Ulysses Moore and the First Key by Pierdomenico Baccalario


このシリーズ、いよいよこの第6巻で一応、完結。こちらは、案外とまっとうな、タイムスリップを中心に置いた冒険ファンタジー。新味はないものの、物語のなかに子どもたちの喜びそうなものがあちこちにちりばめてあって、文句なく楽しい。いい感じで増刷が続いていて、このままファンタジーの定番になってくれるといいなと思っているところ。

去年完結した『パーシー・ジャクソン』のシリーズといい、このシリーズといい、ファンタジー、まだまだしっかり売れるじゃん。出版社、がんばれ。


ところで先週は、いくつかのイベントに呼ばれて、あちこちで話をしてきたのだった。
まず、14日(火)は法政大学の多摩キャンパスにあるエッグドームという学生施設の2Fにあるレストランでイベント。

このレストラン、じつは先週、朝日新聞でも取りあげられたんだけど、「法政大、学生、教員、NPOが協力」して作ったもの。「スタッフには障害者も加わる」というシステム。

このレストランのオープン記念のイベントが、多摩キャンパスのボランティア・センター主催で行われた、というわけ。

この日はまず、江戸学の田中優子先生が、江戸の生活について1時間。みんなはお茶をいただきながら聴く。そのあと、飲み会に入って、しばらくしてから金原の登場。明治の三遊亭圓朝の速記本とイギリスの近代小説(novel)と道具の話が30分。みんなは日本酒を飲みながら聞く。

NPO法人「やまぼうし」が切り盛りしてくれているこのレストラン、ぜひ、一度、食べにきてほしい。「日替わりプレート」は豪勢で贅沢なものの、500円と、学生にはちょっと高いけど、十割蕎麦は250円。これにコロッケかかき揚げをそえれば、350円。昼食には十分。

この日、イベントのあとも教職員と学生がしっかり飲んで盛り上がっていた。

それから16日(木)の5時から、法政大学の市ヶ谷キャンパスで、三浦しをんさんとの対談。演題は「大学生活、だらだらしてちゃいけないのか」。

これについては、いささか経緯がある。

先月、うちのゼミ生を通じて、からむし澤げんえい(まるで坊さんのような名前)君という学生が研究室にやってきて、「大学での学び」についての講演を頼みたいとのこと。それで説明をきいてみたら、どうも引き受けられそうにない。

そこで「ぼくが話すと、大学なんて遊んでいればいいじゃんという内容になるからまずいだろう」と何度か断ったんだけど、それでもいいといわれて、結局引き受けることになってしまったのだった。

主催の学生センターのほうも、ぼくが「大学での学び」ではなく「大学で学ばない」という話になりそうですとメールを送ったら、「逆説的で面白いプログラムになりそうです。ありがとうございます」との返事。

いいのかなあ……?

しかし、どうも自分一人では心許なく、三浦しをんさんが、以前、大学生協書籍部の出している冊子で、「大学生活、もっと自由に、のびのびやってみれば?」というふうなことをいっていたのを覚えていたので、すぐにメールして、対談をお願いしたら、快諾いただいて、このイベントになった、という次第。

学生たち、楽しんでくれていたらうれしいなと思う。

そして、18日(土)は午後から社会学部の同窓会で、総会、講演会(金原が担当)、懇親会。

なんか、あわただしい1週間だった。

そこでふと、手帳をみてみたら、6月5日(日)は1日うちにいたんだけど、次に1日うちにいられるのは、7月3日(日)だということが判明。せわしいなあ。

校友連合会、同窓会、役員交流会といった大学の行事や、ゼミ合宿や(10日から12日まで八王子セミナーハウスで行ったのだった。なかなか面白い作品も出たし。そうだ、今月にはうちのゼミの同人誌も出る!)、いろんなことで土曜日がつぶれるし、日曜日もいろんなイベントなんかでつぶれるし、けっこう大変なのだった。

そんなこんなで、近況の更新が遅れ遅れになってますが、それも来年の3月末日までのこと。またすぐに復帰します。


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 last updated 2011/7/11