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【放送芸能】

心の中に「希望の国」 福島原発事故、初の劇映画

 東京電力福島第一原発事故を題材とした劇映画「希望の国」(園子温監督)が10月20日から、東京・新宿ピカデリーなどで公開される。福島の事故をメーンテーマとする本格的な劇映画は初めて。3・11を再現したようなリアリティーが感じられる一方、園監督らしい映像と演出で、故郷から強制的に引き離される、ある家族の姿を描く。 (小田克也)

 作品は20XX年の「長島県大原町」が舞台。地震で原発事故が起き、半径二十キロが警戒区域となる。小野泰彦(夏八木勲)は、自宅の庭がちょうど境界線になり、立ち入り禁止のテープを張られ、ぼうぜんとする。

 小野家は圏外だったが、泰彦は、だからといって安全とはいえない、国の言うことは信じられない、と息子の洋一(村上淳)とその妻・いずみ(神楽坂恵)を避難させる。

 やがて原発が制御不能となり、泰彦と妻の智恵子(大谷直子)も退避を迫られる。だが泰彦は牛を飼い、ブロッコリーを育て、代々、家族の歴史を刻んできた地を離れようとしない…。

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 泰彦は退避を求める町役場の職員に、庭の大木を指しながら「自分たちの刻印を捨ててまで、どこかに行きたいとは思わない」と吐き捨てる。園監督は「せりふもシーンもなるべく想像力で書くことはやめ、取材した通りに入れようと思った」と言うが、言葉の一つひとつに重みが感じられる。

 事実に立脚しながら、演出も秀逸。例えば、立ち入り禁止のテープを張るために打たれる丸太の杭(くい)は、故郷との別れ、そして泰彦・洋一の父子の離別を暗示する。また、認知症によって時間や空間の感覚を失った智恵子の存在は、失われた故郷は元通りにならないし、惨事は再び起こりうる−という時間軸に絡む、さまざまなことを想起させる。

 小野家は、祖父から孫まで同居する昔の日本の家族のようだ。大惨事に遭遇しながらも家庭には懐かしい時間が流れ、積雪やアネモネの花などを交えた自然描写も美しい。

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 福島第一原発の事故を描くドキュメンタリーは相次いで公開されているが、劇映画は、被災者の感情や、原発の稼働が大きな問題となっている現状を考えれば、製作しにくいのが実情だろう。

 園監督も「資金調達が大変でした。今の日本では、こういった映画を作ることが困難なんだな、と。暗部を見せるものには尻込みする。ただ、そうでなければやる意味がない」と言葉に力がこもる。

 前作の「ヒミズ」で主人公を演じた染谷将太と二階堂ふみにベネチア国際映画祭・新人俳優賞をもたらすなど、実力が世界で知られる監督に対し、イギリスと台湾の製作会社が出資し、日本を含めた三国共同製作となった。監督のこれまでの作品は、現実の事件を題材に、性や暴力という困難なテーマに挑んできたが、今回も挑戦だったようだ。

 「希望の国」という題は皮肉にも取れるが、園監督は「見えるものの中に希望はないかもしれないけど、心の中に芽生える可能性がある」と語る。

 夏八木と大谷のベテラン二人が存在感を見せる。廃虚と化した無人の街で、泰彦と智恵子が雪を踏み締めて盆踊りをするシーンが印象的だ。

 <その・しおん> 1961年、愛知県豊川市生まれ。86年の「男の花道」が、自主映画を支援する、ぴあフィルムフェスティバルグランプリを受賞。90年の「自転車吐息」はベルリン国際映画祭に正式招待されるなど、90年代は独立系映画の旗手として多くの作品を発表。2000年以降は「自殺サークル」「紀子の食卓」「愛のむきだし」「ちゃんと伝える」「冷たい熱帯魚」「恋の罪」などを発表。社会派エンターテインメント作品への志向を強めている。

 

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