実は筆者のシリア人の知人でも、最初から全員が明確に反アサドを自覚していたわけではない。しかし、国民の大規模な蜂起と、政権の残虐な弾圧を目にして、2011年夏までには全員が反アサドに転じている。これは筆者の周辺のほんの小さなサンプル内でのことだが、いろいろ情報を集めると、こうしたケースは実際に非常に多い。
もちろんシリア国民にも様々な立場・主張の人がいて、現在もアサド支持派は存在するが、ここで重要なのはやはり数の比率だ。あらゆる情報ソースを検討しても、親アサド派はいまや明らかに圧倒的少数派である。
国外メディアの想像が生んだ「宗派間抗争」説
「シリア内戦は宗派間の権力抗争。政府側も反政府側もどっちもどっち」「自由シリア軍や反体制派は外国の傀儡。シリア内戦は外国の代理戦争だ」といった見方も、「思い込み」から来ている。
アサド大統領は少数宗派のアラウィ派の出身であり、政権幹部もアラウィ派が中心だから、反体制運動は多数宗派であるスンニ派による宗派闘争だと考えたくなる気持ちはわからなくはない。だが、現地から伝わる反体制派情報には、宗派対立を伺わせるものは非常に少ない。筆者の情報収集・分析では、シリアの主要な対立軸は宗派間抗争ではなく、「アサド一族と側近グループ vs その他の国民」である。
付随的な対立項目としては、地域によっては宗派間抗争も多少は生じているようだが、現地からの情報では、むしろアサド政権側がアラウィ派を焚きつけているケースが多い。
親アサド派はさかんに「反体制派はスンニ派の過激派であり、アラウィ派を虐待するに違いない」との情報を流しているが、実際のところ、情報が出ている事件は、ほとんど政府軍かアサド派民兵によるスンニ派住民の虐殺であり、スンニ派側によるアラウィ派一般住民の虐殺例はない。
シリア内戦を宗派抗争とする見方は、筆者の見るところ、ほとんどが国外メディアの想像から出ている。隣国イラクが各宗派の過激派陣営による殺し合いになってしまった例が、先入観の原因になっているようだ。
もちろんシリアの反体制派には、モスレム同胞団やサラフィスト(イスラム復古主義者)も含め、スンニ派色の極めて強い勢力が存在する。また、親族や友人を殺害された人の中には、強い復讐心を持つ人も少なくない。しかし、少なくとも現時点までのところ、反体制派サイドからアラウィ派一般住民の排撃を主張する声は高まっていない。
ただし、反体制派が同じスンニ派のサウジアラビアやカタールから支援されていることは事実である。しかし、外国の思惑のためにシリア国内の反体制派は叛乱をしたわけではない。宗派対立の下地は確かにあるが、現時点でそれは回避されていると言っていい。
「シリア人同士の戦い」か、「外国の代理戦争」か
サウジやカタール、さらには欧米からの支援などがあるため、反体制派、特に自由シリア軍をそうした外国の手先だと決めつける見方もときおり見かける。だが、これも前述したチェリーピッキングの典型例だ。
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