神永学インタビュー 「サブキャラまで輝く方法とは」
生まれつきの赤い左目で死者の魂が見える大学生・斉藤八雲が、友人の小沢晴香と様々な心霊現象に立ち向かう人気シリーズ「心霊探偵八雲」。著者のオフィシャルFacebookページで「キャラクター診断」も公開されるほど、多彩なキャラクターが人気だ。著者にサブキャラにまで魅力が宿る創作の裏側を聞いた。
■シリーズ累計350万部「心霊探偵八雲」シリーズ
神永 僕は10代のころに大沢在昌さんの佐久間公や東野圭吾さんの加賀恭一郎、夢枕獏さんの陰陽師などキャラクターが活躍する本に出会ってから、様々なシリーズ作品を読んできました。会話を楽しんでいるうちにキャラクターが自分の友達のように思えてきて、新作が出るたびに「またあいつに会いに行かなきゃ」という気持ちでワクワクしながら本を開いていました。
そういった読書体験のせいか、キャラクター作りというのは、実は僕が小説を書くうえでとても重要視しているところです。僕はキャラクターを考えるところに、すごく時間を使います。そのキャラクターが自由に動くようになるまで、担当編集さんと何度も打ち合わせをして作り上げていきそのあとに、実際に書いて物語の中で動かしてみます。文字にしてみないと感覚がつかめないこともありますから。書いてみたうえで、「このキャラクターでは走らないかも」と思うと躊躇(ちゅうちょ)なく切り捨てて、キャラクター作りを最初からやり直します。
主役だけでなく、作品の登場人物全員が、それぞれに生きている納得感が出ないとダメなんです。それぞれが異なる考えや価値観を持っていて、お互いに影響し合いながら変化していくことが大事だと思います。ですから、『心霊探偵八雲』の中でも、主人公の八雲とヒロインの晴香は、同じにならないよう意識しました。登場人物全員が同じ方を向いていたら、ドラマが生まれないですから。
■人事担当の経験が生きる
こういう考え方には、会社員時代に、人事担当をやっていた経験が生かされていると思います。多いときは1日に100人くらいの採用面接をしていたので、様々な人に出会う機会がありました。その中で、ちょっと気になる人がいると個人的な興味でいろいろ話を聞いたりしていました。
採用以外でも、社内でトラブルが起きると、人事として関係者全員から話を聞くことになります。人によって物事の捉え方が違うので、別の話になって聞こえてくることもあるんです。正しいとか、間違っているということではなく、いろいろな価値観や考え方を受け入れていくことが大事なのだと学びました。そうした経験は、小説作りに生きています。実際、僕の作品に登場するキャラクターは、実在の人物をモデルにしていることが多いです。ときどき、モデルになった人にバレて「勝手に使うな」と怒られたりもします。
あとは、価値観が違うキャラクターを配置することで、「キャラクターが立体化される」ことがあります。晴香から見た八雲と(刑事の)後藤から見た八雲は違います。一人の目から見た一面だけではなく、違う人の視点から別の面を見せることで、キャラクターが浮き立ってくるんです。なので、話が進むなかでキャラクターがどんどん形作られていくこともあります。
(八雲に助けられたことで仲間となった新聞記者)土方真琴は、幽霊にとりつかれるだけの脇役として考えていたのですが、事前にキャラクターをしっかりと作り込んでおいたことで、僕の想像以上の活躍をしてくれました。結果として、レギュラーメンバーに残りました。こうしたイレギュラーの要素も、作品を書くうえで重要かなと僕は思っています。
キャラクター配置に時間をかけるというやり方は、小説を書き始めた当初から変わっていません。こういう方法をとるようになったのは、学生時代に勉強していた映画制作の手順を模倣しているからかもしれません。キャラクター作りはキャスティングのようなものですね。物語も重要ですが、キャスティングがダメだと退屈な映画になってしまいます。小説でも同じことが言えると思います。
(ライター 土田みき)
[日経エンタテインメント!2012年8月号の記事を基に再構成]
三浦しをん、有川浩、東川篤哉、三上延、夢枕獏、大沢在昌、東野圭吾、神永学、謎解きはディナーのあとで、三匹のおっさん、ライトノベル
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