ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~ (enagon)
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第16話 聖人少女と堕ちた聖女




<一誠side>

 今日も今日とて夜の住宅街を龍巳とともにチャリで爆走中。いい加減これも慣れてきたな。でも何時まで経っても慣れないことが一つだけ。背中に龍巳の柔らかい物があたって辛い! 何が辛いってこんな状況で後ろを振り向けないのが辛い! っていうか擦り付けるのやめて! 今にも理性が崩壊しそうなんだから! ちっくしょう! 火織に惚れてなかったらこのまま押し倒してるのになあ! ……でも龍巳は俺をお兄ちゃんとして信頼してくれているからこうして少し過敏なスキンシップをしてくれてるんだし、やっぱり裏切れないよな。今の関係壊したくないし火織にも嫌われちまう。俺って恵まれてるよな。こんなに可愛い幼馴染に囲まれて、なおかつ信頼されてるんだから。ごめん松田、元浜。今ならお前たちが俺のことを羨むのがよく分かるわ。俺今すっげー幸せだもん。俺も同じ境遇のやつ見かけたら血涙流すかもな。

 と、そんな事考えてたら今日の依頼主の家に付いた。今日は普通の一軒家か。今まではいつもマンションとかだったし、一軒家は初めてだな。……これ家族に見つからずに依頼主だけに会えるんだろうか? 仕事中の悪魔は依頼主以外の人間には認知されないって部長に説明されたけどこの場合どうなるんだ? それに俺はともかく龍巳は使い魔で龍だし。大丈夫かな? と、取り敢えずチャイムでも押してみるか?

「イッセー、イッセー」

「ん? なんだ龍巳?」

「ドア、開いてる」

「あ、本当だ。……でも勝手に入るのはマズイよな?」

 そう言いながら少しドアを開けて中を覗きこんでってうぉぉぉぉぉぉ!? 何だ!? 龍巳に首根っこ掴まれていきなり後ろに引き倒されたんだが!?

「な、なんだよ龍巳いきなり!? どうかしたのか!?」

「……中から妙な気配。人間、でも光の気配」

 その言葉に先日の天野さんのことを思い出す。でもあれは堕天使だったって言うし、となると考えられるのは……

「……もしかして悪魔祓い(エクソシスト)?」

「……分からない。かもしれない。中の気配、分かりにくい。……これ、結界? それに知ってるような気配も……?」

 龍巳のような強者でも分からないのか? あ、でも力は強いけどその分細かいことは苦手なんだっけ? ……でもどうするかな? 悪魔祓い(エクソシスト)が中にいるならこのまま逃げたいけど依頼主が気になるし、龍巳が知ってるかもしれないという気配も気になる。ここはどうすべきか……

「イッセー、中入る。我の後ろ隠れてる。離れちゃダメ」

「わ、分かった」

 結局入ってみることになるか。ま、まあ龍巳がいれば大丈夫……なんだよな? そして家の中に入り、リビングの方に向かう。部屋の中は淡い灯りだけが灯っていて、その灯りがロウソクだとすぐに気付いた。そして部屋の奥の壁には……

「な、なんだよこれ!?」

 男性が逆さに大きな杭で貼り付けにされていた。体中が切り刻まれ、傷口からは臓物が……

「う、うぇ、ゴボッ」

 それ以上それを見ることが出来ず、俺はその場で吐いてしまった。龍巳が背中をさすってくれる。目を向けると普段表情を変えない龍巳も大きくその表情を不快そうに歪めていた。そして彼女の顔の向こう、視界に入ったリビングの壁には文字のようなものが血で書かれていた。

「な、何だ、これ?」

「『悪い事する人はお仕置きよ!』って、聖なるお方の言葉を借りてみました~!」

 俺の独り言に突然後ろから若い男の声で返事をされた。驚き振り返ると

「んーんー。これはこれは、悪魔くんではあ~りませんか!」

 そこには神父服らしきものを着た白髪の少年がいた。

「神父? 悪魔祓い(エクソシスト)?」

 龍巳は驚いてないな。気付いてたのか?

「はいはいそ~でございます! 俺は少年神父~♪ デビルな輩をぶった斬り~、悪魔の首を~チョンパして~、俺はおまんま貰うのさ~♪」

 その自称神父な少年は突然歌い出した。こ、こいつ、頭おかしいんじゃねえか?

「俺の名前はフリード・セルゼン。とある悪魔払い組織の末端でございます。お前ら悪魔をぶっ殺すのが俺のお仕事よん。と言ってもそっちのメスは悪魔じゃないか?まあこの場にいるなら同じ事! さあ、すぐに殺してあげるから新たな扉を開こうZE!」

 完全に狂ってやがる。それに予想通り悪魔祓い(エクソシスト)か。教会の連中ってのはみんなこんななのか?それに、悪魔祓い(エクソシスト)なんだから俺たち悪魔を殺しに来るのはまだ分かるとして……

「おい、お前か? この人を殺したのは?」

「ハイそうでございますよ~! 俺が殺っちゃいました! だって~、悪魔を呼び出すような人間のクズ生きてる価値無いっしょ! だから~、殺してやったんですよ! ヒャハハハハ!」

 こ、こいつ腐ってやがる!

「早すぎたんだ?」

「いやそんな事言ってる場合じゃないだろうが龍巳!?」

 なんでお前はこんな時まで平常運転なんだよ!? この状況分かってんのか!? いつも通りのお前にお兄さんついいつものノリになっちまったよ!?

「……落ち着いた?」

「……誠に遺憾ながら」

 俺を落ち着かせるためでももう少し言葉を選んで欲しかったぜ。

「おい神父、人間が人間を殺すってどうなんだよ。悪魔でもこんな事しねえぞ!」

「はあっ!? お前何様!? 悪魔が俺に説教ですか!? クソ笑えるぜこのクソ悪魔! 悪魔に頼るような人間、殺して当然だろうがこのバ~カ! 死んで人生やり直せ! あ、悪魔だっけ?じゃあ、人生じゃなくて悪魔生か!」

 そう言うと神父は懐から刀身のない剣の柄と装飾銃を取り出し、柄からは光の刀身が現れた。

「俺的にはお前がアレなんで斬っちゃうよ? 撃っちゃうよ? 殺しちゃうよ!? いいですね!? 了解です!!」

 そう言うと神父は俺に斬りかかって来た! と、同時に龍巳は俺を小脇に抱え、後ろに大きく下がる。光の剣は空振る……が、そのまま神父は銃をこっちに向けると

「バキュン!!」

 という言葉とともに光の弾が撃ちだされた! そしてその弾はそのまま

「た、龍巳!?」

 龍巳の心臓のあたりに突き刺さった!? そ、そんな、嘘だろ!?

「龍巳!? おい、龍巳!?」

「ん、大丈夫。イッセー、下がる。我の後ろに」

 ……へ? 傷が、無い? い、今当たったよな?

「はあぁ!? 何それ何それどうなってんでござんすか!? 死ねよ死ねよまじ死ねよ!!」

 そう言って神父は銃を乱射して全弾龍巳に当たってるんだけど……龍巳には全く効いてないな。何で効かないんだ?

「ああもうウザったい! なんなんだよてめえはよ!?」

 と言って突っ込んできた神父の光の剣が龍巳の胸に突き刺さった!? こ、これはさすがに!

「た、たつ・・・」

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「な!? アーシア!?」

 何でここに!? ってそれどころじゃなかった!

「た、龍巳! お前なんで避け……」

「ん、この程度、問題ない」

 そう言って龍巳は手を一閃すると神父は部屋の端まで吹っ飛んでいった。あ、あの龍巳さん? 胸に剣が突き刺さってますよ? あなた一体何者なんですか?

「あ、あの龍巳さん? 大丈夫ですか?」

 アーシアが例の癒しのオーラを手に纏わせながら聞いてくるけど

「ん、問題ない。それからアーシア、久しぶり。」

 そう言うと龍巳は自分に突き刺さった剣を抜き取った。その剣にはどういうわけか血もついておらず、龍巳の体にも傷はついていなかった。龍巳の存在について更に謎が深まったぜ。こいつ本当に龍なのか?俺の想像する龍とはだいぶ違う……ってこれは今更だな。腐女子の時点で龍とはもう想像できん。

「あ、あの。なんでイッセーさんたちはここに? それに龍巳さん、さっきのは一体……?」

「あん? 何々助手のアーシアちゃん? 結界は張り終わったのかな? そしてお前、な~んで悪魔なんかと楽しく談笑しくさってんだこのクソビッチが!?」

「!? そ、そんな・・・イッセーさんが、悪魔?」

「なになに、知らなかったの? もしかして悪魔とシスターの許されざる恋だったりするのかな? でも残念!! これからその悪魔はそこのオブジェみたいになっていただくでやんすのよ!」

「え? い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「可愛い悲鳴ありがとうございます! この手の死体初めてだっけ? ならちゃ~んと見ておけよ! これが俺らの仕事! 悪魔くんに魅入られたダメ人間はそうやって死んでもらうのですよぉ」

「……そ、そんな……」

「と、まあ新人シスターの教育が済んだところで続きと行きましょうかねえ!!」

 くっ! 新しい光の剣を取り出してまた斬りかかってきやがった! いつまでも龍巳に任せるってのも……って!?

「……おいおいマジですかー。アーシアたん、キミ何してるか分かってんの?」

「……はい。フリード神父、お願いです。この方々をお許し下さい。どうかお見逃しを」

 アーシアが俺達の前に出てかばってくれた。

「もう嫌です。悪魔に魅入られたと言って人間を裁いたり、悪魔を殺したりなんてそんなの間違ってます!」

「はぁァァァァァァァァァあああああああああああああ!? バカこいてんじゃねぇよこのクソビッチが! 悪魔はクソだって教会で習っただろうがぁ! 頭にウジでも湧いてんじゃねぇのか!?」

「悪魔にだっていい人はいます!」

「いねぇよバァァァァァァァァァァァカ!!」

「私も前まではそう思っていました! でもイッセーさんたちは良い人です! 悪魔でもそれは変わりません! こんなの主が許すはずが……!」

 俺が悪魔だということと、死体を見たことでショックを受けたであろうアーシアはそれでも神父を説得していた。なんて強い精神をしてるんだ。それに会って間もない俺をここまで信用してくれて、正直めちゃくちゃ嬉しい。……でも言いすぎだ! そいつはまともじゃない! これ以上食って掛かったら……!

「ああもう、うざったいんだよこのクソあまがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「させない」

「ぐえっ!?」

 とうとう堪忍袋の緒が切れた神父はアーシアに殴りかかるけどその前に龍巳が神父を弾き飛ばした。

「アーシア! 大丈夫か!?」

「は、はい。私は大丈夫ですイッセーさん」

「アーシアも我の後ろに。ここ危ない。我が守る」

「で、でも……」

「大丈夫。任せる」

「は、はい」

 そう言ってアーシアも龍巳の後ろ、俺の傍までやってきた。しかしこの状況どうすればいいんだ!? さすがにアーシアの見ている前で殺しなんてさせたくないし第一龍巳に殺しをさせたくない。でもこのままじゃこの危機を脱せない!

「OKOK、分かりましたよ糞野郎ども。堕天使の姉さんにそのあまは殺すなって言われてるけどもう知らね。てめぇらまとめてぶっ殺してやんよ!!」

そう言って神父は再度斬りかかってきた。そして龍巳も右手にいつか見た黒いオーラを纏わせ突撃する。ダ、ダメだ龍巳! 殺しちゃダメだ! そんな俺の思いは届かず二人の影は交錯しようとし



ギィィィィン!!



「そこまでよ2人共」

 そこには神父の光の剣をあの長大な刀で受け止め、龍巳の右手を素手で受け止めている火織がいた。







<火織side>

「只今帰りました~」

 今日の契約を終え、魔法陣を介して私が部室に帰ると皆慌ただしく魔法陣の準備をしていた。

「おかえりなさい火織! 帰ってきて早々で悪いけどすぐにみんなで飛ぶわ!」

「何かあったんですか?」

「イッセーの依頼主の下に悪魔祓い(エクソシスト)が現れたのよ! 結界を張っていたらしくて発見が遅れたわ! すぐにイッセーと龍巳を助けに行くわよ!」

 あ、なるほど。イッセーがアーシアと再会し、フリードと接触するのは今日だったのね。みんな慌ててるけど龍巳がついてるんだし心配する必要もないと思うんだけど。現に黒姉と白音だった慌てず余裕を持って……ものすごい慌ててるわね。龍巳が一緒にいるのになんで慌てるのよ。あなた達龍巳の正体知ってるでしょ。心配する要素がどこにあるのよ。

「ま、まずいにゃん。危機的状況、助ける龍巳」

「そして颯爽と助けた龍巳姉様に見惚れるお兄ちゃん」

「「このままだと2人が……!」」

 あ、そっちの心配か。危機的状況からくる吊り橋効果でイッセーが龍巳に惚れちゃうんじゃないかって心配してるのね? イッセーの命の方を心配しろとは龍巳が一緒にいる時点で言えないけど、その心配の仕方はどうかと思うわよお二人さん。

「準備が出来たわ! みんな飛ぶわよ!」

 とか何とかやってるとジャンプの準備が出来たらしい。そして私達の体が光に包まれ光が止むとその先には

「って、ヤバッ!?」

 そこにはフリードを殺しにかかってる龍巳がいた! 龍巳にとって人一人殺すなんて今更過ぎて抵抗ないだろうけど、やっぱりそんなことはしてほしくないしイッセーやアーシアにそんな光景見せたくない! 私は急いで2人の間に割り込み



ギィィィィン!!



「そこまでよ2人共」

 フリードの光の剣を七天七刀で受け止め、龍巳の右手を素手で受け止めた。くっ! いくら威力を弱めてるといっても龍巳の拳は効くわね。

「あぁァン!? 今度は一体なんですか!?」

 そう言いながら左手に持っていた拳銃を私に向けてくるので

「ブヘッ!?」

 私は顔面を蹴り飛ばした。今のはさすがに痛いかな?

「火織!?」

「やっほーイッセー。助けに来たわよ」

「僕達もいるよ」

 そう言って祐斗や部長たちも合流してきた。と、そんな時

「ヒャッホウ! 悪魔の団体さんに一撃目!」

 フリードがまたもや斬りかかって来た!? さっきのは銃でガードされたの!? 原作読んでる時も思ったけど人間とは思えない反応速度ね! 私は斬りかかってくるフリードを再度受け止めようとすると



シュシュン!!



 私の両側を黒と白の影が通り過ぎ

「お前が!」

「全ての!」

「「元凶か!!」」

「ぐへぇあ!?」

 黒姉と白音のダブル猫パンチが炸裂した!! かなり見事に決まったのかフリードも起き上がってこない。し、死んでないよね?そして2人はまるで決めポーズのようにフリードを指さし

「イッセー(お兄ちゃん)は渡さない!」

 いやいやちょっと違うよね!? 恋に盲目なのは分かったからもう少し空気読んでよお二人さん!? イッセーも目が点になってるし部長たち呆れ返ってるじゃない!なんかもう家族として恥ずかしいよ。

「イッセー、大丈夫? ケガはない?」

「はい部長。龍巳が守ってくれたんで大丈夫です」

「そう、良かったわ。……それでそちらにいるシスターはどういうことかしら?」

 部長がイッセーの背後にいるアーシアを睨みつけつつ聞いてきた。睨まれたアーシアはさらに縮こまっちゃってイッセーの背中に縋りついてる。

「か、彼女はこの前話したシスターのアーシアです! あの神父から俺達の事を庇ってくれて!」

「……そう、つまり堕天使の。ならあそこに倒れているのははぐれ悪魔祓い(エクソシスト)ということね」

 そう言って部長が何かを考え始めちゃった。今後の対応とかかな? ……しかし今のこの状況どうにかならないかな? アーシアがイッセーにベッタリくっついてるもんだから黒姉達めっちゃ不機嫌だし、そこから漏れる殺気に反応してアーシアはさらにイッセーにベッタリだからもう完全に悪循環だよ。イッセーがアーシアのことばっか気にかけてるのも黒姉達の不機嫌に拍車をかけてるし。と、そんな時

「! 部長、この家に堕天使らしきものたちが複数近づいていますわ。このままでは、こちらが不利になります!」

 堕天使の気配を感じ取った朱乃さんが言った。

「……朱乃、直ちに帰還するわ。ジャンプの用意を」

「はい」

 でもこの部長の言葉にイッセーは猛然と食って掛かった。

「部長! ここにアーシアを1人置いていけません! ここに置いて行ったら堕天使に何をされるか!」

「諦めなさいイッセー。彼女は堕天使側の人間、私達悪魔とは相容れないわ。それにあなたの話だと彼女は神器(セイクリッドギア)を持っているのでしょう? なら堕天使も彼女を無闇には傷つけないはずよ。それから魔法陣で移動できるのは悪魔とその使い魔だけ。しかもこの魔法陣は私の眷属しかジャンプできないわ」

「そ、そんな……」

 イッセーが泣きそうな顔でアーシアを見る。そしてアーシアも泣きそうな顔をしつつも笑顔を作り

「イッセーさん。また、会いましょう」

 と言った。イッセーはうつむき何かに耐えるようにして朱乃さんの用意した魔法陣に乗る。そして全員が魔法陣に乗りジャンプの準備が出来た。

「……アーシア」

 イッセーは悔しそうな顔でうつむきつつ彼女の名を口にしている。アーシアも顔は笑っているけどどう見ても1人置いて行かれることに恐怖を感じてるよね。



 ……しょうがないよね。こんな顔見せられちゃ。



 魔法陣が発動し部室へジャンプしようとした瞬間、トンッと魔法陣から一歩出る。

「か、火織!? あなた何してるの!? 早く戻りな」

 言葉の途中で部長たちはジャンプしていった。ごめんなさい部長。でもやっぱり置いていけないよ。

「さて……」

 私は驚いたような顔でこちらを見ているアーシアの前でしゃがんで目線を合わせる。

「な、なんで……」

「うん?」

「なんでここに残ったんですか? もうすぐ堕天使の方々が来るんですよ? なんでみなさんと一緒に逃げなかったんですか?」

「ふふ、優しいのねあなた。敵であるはずの悪魔の私を心配してそんなことを言ってくれるなんて」

「そ、それは……」

「私が残ったのはね、大事な妹と幼馴染を庇ってくれたのにそのお礼もせずに危険な場所にあなたを残して行きたくなかったからよ」

 その私の言葉にアーシアはさらに驚いた顔をした。

「初めましてアーシア・アルジェントさん。イッセーから話は聞いてるわ。私の名前は神裂火織。龍巳のお姉ちゃんでイッセーの幼馴染よ」

「は、はい! 私はアーシア・アルジェントです! 初めまして!」

 そう言って彼女は頭を下げる。この子すっごく可愛いな。イッセーが入れ込むのも分かる気がする。

「ってそうじゃありません! 早く逃げてください! ここにいたら「逃げない」……え?」

「まだ私は逃げないわ。言ったでしょう? まだお礼をしていないし、ここにあなたを残して行きたくないって。だから」

 そう言って私は彼女の頭に手を載せる。

「あなたのお願いをなんでも1つ叶えてあげる。悪魔だけど代価はいらないわ。これはお礼だから」

「!!」

 ふふ、この子今日は驚いてばっかりね。でも彼女は悲しそうな顔で俯いてしまった。

「で、でも私はシスターで……」

「今はシスターとか悪魔とか関係ないわ。助けてもらったからお礼をする。あたり前のことでしょう?」

「……」

彼女はうつむいたまま黙ってしまった。そのまま待っていると彼女はほんの少し肩を震わせながら

「……けて」

「うん?」

「……助けて、下さい」

 彼女は泣きながら、でも精一杯の気持ちを込めて言った。言ってくれた。これでもう私も遠慮をする必要がない。わたしは彼女を抱きしめてあげる。

「うん、分かった。あなたを助けてあげる。それにイッセーだって、龍巳だって、他のみんなだって助けてくれるわ」

 そう言って彼女の頭を撫でてあげるとついに限界が来たのか彼女は声を上げながら泣き始めた。でもそんな時空気を読まない無粋な輩が

「無理だな」

 などとのたまった。全く本当に空気を読んでほしいわね。私達の目の前には堕天使が3人ほど降り立っていた。

「ド、ドーナシーク様」

 なるほど、真ん中でトレンチコートを着ているのがドーナシークか。なら左のスーツを来た女がカラワーナ、右のゴスロリ着たのがミッテルトかしら? 到着する前にアーシア連れて逃げようと思ったけど意外と早かったわね。まあ間に合わなかったのはしょうがないし、どうせならここでも1つ布石を打っておきましょうか。

「こちらに戻れアーシア・アルジェント。貴様の神器(セイクリッドギア)はレイナーレ様の計画に必要不可欠なものなのだ」

「イ、イヤです。もうあそこには戻りたくありません。こんなふうに人を殺める人たちのところには行きたくありません。そ、それにあなた達は私を……」

「何度も言わせるなアーシア・アルジェント。あまり聞き分けがないようだと「黙りなさい」……貴様」

 私はドーナシークの言葉に割って入るとアーシアの前に壁になるように立ちはだかった。

「悪いけどこの子は私の妹たちの恩人なの。あなた達には渡さないわ」

 そう言って鞘に収めた七天七刀を構える。

「この下級悪魔風情が、何をしているのか分かっているのか?」

「そっちこそ。あなた達何をしているか分かってるのかしら? ここは魔王の妹が管理している土地。何か問題を起こせば即戦争よ? そちらの総督殿はこのことを知っているのかしら?」

「ふん、この計画は上に隠して遂行している。その点この土地ほどいい隠れ蓑はない。なにせ他の堕天使はここに目を向けないのだから。それにここで貴様の口を封じれば問題になることもない」

 そう言って堕天使たちは光の槍を構える。しかしこの人達も愚かね。独断専行だってことあっさり吐いてくれたわ。もっと苦労すると思ってたのに。まあおかげで楽できたからいいけど。しっかり言質もとったし、これで部長たちも遠慮なく動けるわね。独断専行ならこれはどこででも起きている小競り合いになるんだから。そうと分かればここにはもう用は無いわね。

「か、火織さん」

「大丈夫よアーシア。心配しないで」

 堕天使たちは余裕を持ってこっちを狙ってきてる。大方人数が多いから余裕とか思ってるんでしょうね。そして一斉に光の槍を投げてきた。思うんだけどこいつらの攻撃ってワンパターンね。わたしは余裕を持って

「七閃」

 飛んでくる槍を全て叩き壊した。この程度で苦戦するようなやわな修行は積んでないのよ。見れば堕天使たち、それにアーシアも驚いているわね。

「……一纏めにした長い黒髪にその長大な刀、それに見えないほど速い太刀筋」

「ま、まさかこいつがレイナーレ様の言っていた!」

「え、うそ!? じゃあこの女がお姉さまを退けた人間!?」

 どうやらレイナーレから私のことは聞いているようね。3人は警戒してか私から距離をとってまたしても光の槍を取り出し構えた。でもなかなか動かない。かなり警戒されているわね。ならこの隙に

「逃げるわよアーシア」

「え? ふぇ!?」

 私は七天七刀を腰に戻し、アーシアをお姫様抱っこした。

「くっ! 逃げられると思うか!」

 そう言ってまた一斉に槍を投げてきた。アーシアに当たったらどうする気かしら?

「捕まえられると思う?」

 そう言って私は後ろの私の影に飛び込んだ。

「「「なっ!?」」」

 私は首元まで影に潜り、槍はその上を空振った。こんな時のために影を媒介にして転移するための魔獣を用意していたのよね。イメージは某野菜先生の狗神使いの転移だったりする。……最近龍巳のことほんと言えなくなってきたわね私。

「それではさようなら、堕天使さん♪」

 そう言って頭まで影に潜り、部室の中の影に転移した。そして転移した先で私とアーシアが見たものは

「なんであなた達は邪魔するの!? 早く火織を迎えに行かないと!」

「火織なら大丈夫にゃ! ここで待ってるほうが懸命にゃ!」

「それに火織姉様にはなにか考えがあるはずです! 邪魔をしちゃダメです!」

「そんな事言ってる場合じゃないだろ! 堕天使が来てるんだぞ! 早く助けねえと!」

「イッセー落ち着く。火織強い。問題ない」

「いや強いからって堕天使複数を一人で相手できるわけないよ! いいから早くそこをどいてくれ!」

「あらあら、これは一体どうしましょうかしら?」

 ……なんか神裂家vsグレモリー眷属が勃発していた。長く向こうにいた割りに誰も来ないなと思ってたらこんなことになってたんだ。うーん、黒姉たちは私の強さ知ってるから大丈夫だけど、私の強さを知らないみんなには心配かけちゃったな。それに勝手なことしちゃったし……もしかして私これからお説教かな?

「クス、皆さん優しい方々ですね」

 アーシアは危機を脱したからか、安心したような表情で語りかけてきた。

「ええ、自慢の家族と仲間たちよ。アーシアにも紹介するわね」

「はい!」

 じゃあまずはみんなを止めましょうか。ヒートアップしすぎてまだこっちに気付いてくれないし。仙術使える黒姉や白音まで気付かないのはどうかと思うけど。





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