ニッポン人・脈・記 最終回
ニッポン人・脈・記
最終回 タカ派と結び「美しい国」 2007年03月29日
公明党の代表 太田昭宏(おおた・あきひろ)(61)は、連立政権を組む首相安倍晋三(あべ・しんぞう)(52)の「美しい国」を自分なりにとらえようと、外国人に会うたびに尋ねる。日本は美しい国ですか?何が美しい?
「終身雇用制はすばらしい」
「健康保険が美しい。貧しい人も皆で救っていく精神がある」
太田は公明新聞記者、創価学会青年部長を経て、安倍と同じ93年に初当選。公明党は「平和の党」を掲げ、所得の低い人々への目配りを唱えてきた。「日本人の助け合いとか、情とかが壊れている。だから首相は、こうやってそれを取り戻すんだと具体的に主張してくれればわかりやすいのに」
だが、安倍が国会で答えた「美しい国」とは、こういうことだ。
「明治、大正期に外国人の多くが日本を称賛した。アインシュタインは、謙虚さと質素さ、純粋で静かな心、これらを保ってほしいと述べた。質素でも立ち居振る舞いが美しい日本人でありたい」
明治、大正期はなお封建的な考え方が強く、その時代をあえて理想と語る安倍流の「美しい国」は、戦後の価値を否定する復古主義に見える。
公明党は教育基本法の改正や防衛省昇格に賛成、元来の「リベラル色」もかげっている。太田が「美しい国」を自分なりに解釈しようとするのも、与党であり続けるためではないのか。
自民党総務会長の丹羽雄哉(にわ・ゆうや)(62)は、池田勇人(いけだ・はやと)、大平正芳(おおひら・まさよし)の流れをくむリベラル派閥「宏池会」出身。だが昨年の総裁選では自派をまとめ、安倍がタカ派であることを承知で支える道を選ぶ。国民人気を認めざるを得なかった。
2月末に訪中し、中国の外務次官 戴乘国(タイ・ピンクオ)と激論を交わした。
戴「日本は、北朝鮮との関係正常化で米国に立ち遅れないようにすべきだ」
丹羽「日本国民の9割が拉致の解決を求めている。民主主義は国策に国民の意見を反映させる」
拉致での譲歩は安倍政権の自殺行為になると思ったからだ。 「もし安倍さんが就任後に靖国参拝していたら、こんなに支える気にはなれなかっただろうな」と丹羽はぽろりと語った。
「中韓との関係改善、格差への対応。右翼政権という批判は色あせて見える」と丹羽。政権の右旋回の歯止めであることに、衰退するリベラル勢力の存在意義を見いだそうとしているようだ。
リベラルをとりこんだ安倍に、右派ジャーナリズムは「手ぬるい」と不満を隠さず、自民党内で従軍慰安婦をめぐる河野談話の見直しを求める動きなどが広がる。非主流派の加藤紘一(かとう・こういち)(67)はいま、とりわけ「日本会議」の動きを気にかけている。
「日本会議」は憲法改正、皇室敬慕、反東京裁判史観などを掲げ、97年に設立。会長は元最高裁長官三好達(みよし・とおる)(79)。瀬島龍三(せじま・りゅうぞう)(95)ら右派の財界人や神社関係者がいて、じわじわと国会議員や地方議員に影響を強めている。教育基本法改正を熱心に推進した。
賛同する国会議員の懇談会もある。会長は安倍に近い平沼赳夫(ひらぬま・たけお)(67)、官房副長官下村博文(しもむら・はくぶん)(52)もかつて事務局長を務めた。
加藤は「安倍政権が限界線を超えたら動き出すべきかな」と語る。最近、盟友の山崎拓(やまさき・たく)(70)、古賀誠(こが・まこと)(66)との集まり「新YKK」の会合を重ねている。
加藤の「限界線」とは何か。
「地域のコミュニティー社会が自民党保守の原点。安倍政権が公立学校に競争原理をとり入れようとするなど、地域社会をないがしろにした時は立ち上がらないと」
日本総合研究所会長の寺島実郎(てらしま・じつろう)(59)は先月、「経
済人はなぜ平和に敏感でなければならないのか」(東洋経済新報社)を出した。三井物産に入り米国で勤務、国際派リベラル論者である。
「安倍政権が戦後レジームを脱却して、再び国権主義的な体制に戻そうと言うのなら、相当誤解している。『戦後』に対し、誇り高く振り返らなきゃいけない部分、次の歴史につなげていかなきゃいけない部分を考えないと」
この先、リベラル勢力も抱える路線を歩むのか。それとも国権主義を強めるのか。安倍はそのはざまで揺れている。鍵を握るのは、国民の目である。
(森川愛彦)
(このシリーズは本社コラムニスト・早野透、編集委員・山田厚史、森川が担当しました。敬称略)
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コメント
蘭領インドネシアの白馬事件の例を除けば
強制徴用など証明できない。
強制徴用ならば親兄弟がなんらかの奪還行動を起こすはずである。それらの記録や記憶、側面的証言が皆無なのは女性たちはその保護者たちに売られたからであろう。
投稿: 強制疑う人々って? | 2007年4月17日 (火) 13時35分