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2007年3月30日 (金)

ニッポン人・脈・記 第15回

ニッポン人・脈・記 第15回 

 慰安婦の強制疑う集団 2007年03月27日

「その教科書が使われるということを、娘が中学校に進学する年に某新聞で読んだんですよ」
いま自民党政調会長の中川昭一(なかがわ・しょういち)(53)が、97年2月、「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」をつくったのは、そんなきっかけだった。その年4月から使われる中学教科書に「従軍慰安婦」についての記述が載る。
 「歴史の事実は事実として尊重する。しかし議論が分かれている慰安婦をバンと教科書に載せることに疑問を感じたんですよ」
 「若手議員の会」の幹事長は衛藤晟一(えとう・せいいち)(59)。事務局長は安倍晋三(あべ・しんぞう)(52)。代表の中川が「憲法や安保、政治認識のコアで一致する」2人だった。6月まで計10回、学者、官僚、教科書製作者ら、両論の講師を呼んで質疑した。
 戦地に日本軍が設けた「慰安所」の女性の悲痛な体験は、今はほとんどの人が否定しない。だが、軍が強制的に、とりわけ植民地だった朝鮮半島や台湾から連れて行ったのかどうか。「若手議員の会」はそこを問題にした。
 質疑は「歴史教科書への疑問」(展転社)にまとめられた。安倍のこんな発言も載っている。
 「横田めぐみさんみたいに拉致されたなら、そのことをなぜ誰も一言も口にしなかったか」「韓国にはキーセンハウスがあって、そういうことを日常どんどんやっているわけですね」
 女性たちが自分の意志で戦地へでかけたということなのか。ともあれ軍が「ドアを破って連れ出した」証拠はないというのがコアの3人の考えだった。
 今年1月、米下院に出されたに本意謝罪を求める「慰安婦決議案」に対し、主将の安倍は「当初、定義されていた強制性を裏付けるものはなかった」と弁明した。「若手議員の会」の空気がつい口をついたのかもしれない。

従軍慰安婦問題を国会で取り上げたのは、90年6月、当時の社会党参院議員 本岡昭次(もとおか・しょうじ)(76)だ。兵庫県の教員出身で、部落差別や朝鮮人差別にずっと目を向けていた。
「労働省の職業安定局長が答弁し、民間の業者が(女性を)軍と一緒に連れ歩いているので実態はわからないと。国の責任はないというわけですよ」
だが、91年8月、韓国の金学順(キムハクスン)が慰安婦だったと名乗りをあげる。92年1月、中央大教授の吉見義明(よしみ・よしあき9(60)が、日本軍が軍慰安所設置を師事した公文書を発見し、政府も知らんぷりはできなくなる。韓国から実態調査を求められ、93年8月、「河野洋平(こうのようへい)官房長官談話」を出すことになる。
「軍の要請を受けた業者によって、甘言、強圧など本人の意思に反して集められた事例が数多くあり、官憲等が直接加担したこともあった」「心身に癒しがたい傷を負われた方々におわびと反省」「歴史教育を通じて永く記憶にとどめ、過ちを繰り返さない」
「強制した」と断言はしないけれど「軍の関与」は確かにあったというのが河野談話である。社会党委員長の村山富一(むらやま・とみいち)(83)の内閣で官房長官 五十嵐広三(いがらし・こうぞう)(81)は、国民の拠金による「アジア女性基金」をつくって、元慰安婦に1人200万円を配ることにする。
だが、それは国家賠償を回避する責任逃れではないか。民主党に移った本岡は、そんなはんぱではだめだと国家賠償を求める「戦時性的強制被害者問題の解決促進法案」を書いた。通称「本岡法案」。議員を退いてなお情熱を燃やす。
「政権交代したら、真っ先にこの法案が実現するんですよ」

「若手議員の会」を率いた中川昭一の父中川一郎は、かつて血判を押してタカ派議員集団「青嵐会」をつくった。石原慎太郎(いしはら・しんたろう)(74)も入った。「若手議員の会」はあるいは昭一の「青嵐会」かもしれない。いまや「従軍慰安婦」に関する教科書の記述はほとんど消えた。
「若手議員の会」の名簿をみると、安倍政権の顔がずらりと並ぶ。副代表の松岡利勝(まつおか・としかつ)(62)が農水省、安部の下にいた事務局次長の下村博文(しもむら・はくぶん)(52)が官房副長官、幹事長代理の高市早苗(たかいち・さなえ)(46)、委員に名を連ねた長勢甚遠(ながせ・じんえん)(63)、菅義偉(すが・よしひで)(58)、渡辺喜美(わたなべ・よしみ)(55)は閣僚に。根本匠(ねもと・たくみ)(56)は首相補佐官。オブザーバー名簿の塩崎恭久(しおざき・やすひさ)(56)は官房長官、政治資金問題で閣僚を辞任した佐田玄一郎(さた・げんいちろう)(54)の名もある。
安倍内閣とは、つまり「若手議員の会」の内閣なのである。

(早野透)

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