横綱白鵬(左)を破り2場所連続の全勝優勝を果たした大関日馬富士=23日、両国国技館で(沢田将人撮影)
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◇秋場所<千秋楽>
大関日馬富士(28)=伊勢ケ浜=が2場所連続4度目の優勝を果たし、70人目の横綱に昇進することが確実になった。新横綱誕生は、2007年夏場所後に昇進した白鵬以来で外国出身では5人目。大関通過22場所は昭和以降4番目のスロー昇進で、白鵬の一人横綱は15場所で終わる。日本相撲協会審判部は日馬富士の横綱昇進を諮る臨時理事会開催を北の湖理事長(元横綱)に要請。理事長は24日に開かれる横綱審議委員会(鶴田卓彦委員長)に諮問し、推薦を受けた上で26日の九州場所番付編成会議と理事会で正式に決定する。
綱を狙う者の「執念」と綱のプライドを守ろうとする者の「意地」。2分近い大熱戦は「執念」が、ほんの少しだけ上回った。
最後の力を振り絞って日馬富士が放った右下手投げを右足一本でこらえる白鵬。1回、2回…。両者が輪を描くように一周した4回目。ついに白鵬を右肩から転がすと力を出し尽くした日馬富士も倒れ込み、拝むように額を土俵に当てた。
「全身全霊で自分の力をすべて振り絞った。土俵の神様に、いつも勝利を与えてくれる感謝の気持ちを表しました」
モンゴルから日本にやってきて11年半。夢にまで見た横綱昇進を双葉山、貴乃花に次ぐ史上3人目の2場所連続全勝優勝で確実にした。48本の懸賞の束を両手で大切に受け、花道からの通路で兄弟子の安美錦と抱擁。しっとりと瞳をうるませた。
この日は母、妻、そして2人の娘を招待した。もちろん6年前、交通事故で亡くなった父ダワーニャムさんも天国から見守っていた。父が健在だったころ「着るもの、食べることができるようになったら次は人のためになることをしなさい」。その教えを守って懸賞金をモンゴルの心臓病の子どもたちのために贈ったり、中古の救急車や消防車の贈呈に参加するようになった。今年8月、帰国した際は「次は横綱というお土産を持って帰ってきます」と墓前に誓った。
「優勝することよりも父が喜ぶのは正しい生き方をすること。これからもそのことを胸に刻んでやっていく」
今年5月22日、2人目の娘、ヒシゲジャルガルちゃんが誕生して以降、まだ負けがない。「子どもと遊んで、ご飯を食べて寝る。今は上の子と一緒にお風呂に入るのが楽しみみたい」と妻のバトトールさん(25)。
モンゴル語で「ヒシゲ」は「豊か」、「ジャルガル」は「幸運」の意味を持つ。まさに豊かな幸運に恵まれ、日馬富士は第70代横綱をつかみ取った。 (竹尾和久)
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