禍霊夢の聖杯戦争 (lapaid)
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4話
冬木市の海の近く、倉庫街。
そこでは一人の男が、手に2本の槍を持ち、何かを待っているようだ。
しばらく時間が過ぎたのち、現れたのは二人の女性。
一人は白い髪、赤い目の女性、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。
付き添うのはダークスーツに身を包んだ剣の英霊、セイバー。
「ようやくか…」
小さくつぶやいた男は、朗朗と話し出す。
「よくぞ来た。今日一日この街を練り歩いて過ごしたものの、どいつもこいつも穴熊を決め込む腰抜けばかり。俺の戦いに応じた猛者は、お前だけだ。」
男からはため息がこぼれ、その後に嬉しそうな声に変わる。
「その清澄な闘気…セイバーとお見受けしたが、如何に?」
「その通りだ。そういうお前はランサーに相違ないか?」
「いかにも。…フン、これから死合おうという相手と尋常に名乗りを交わすこともままならぬとは。興の乗らぬ縛りがあったものだ」
やれやれ、といった表情になるランサー。その言葉にセイバーは微笑み返す。
「是非もあるまい。もとより我等自身の栄誉を競う戦いではない。お前とて、この時代の主のためにその槍を捧げたのであろう?」
「ふむ、違いない」
これから殺し合いが始まるというのにそぐわない空気。と、苦笑したランサーを見たアイリスフィールが何かに気付く。
「魅惑の魔術?既婚の女に向かって、ずいぶんな非礼ね。槍兵」
その言葉に再び苦笑するランサー。
「悪いが、持って生まれた呪いのようなものでな、こればっかりは如何ともしがたい。俺の出生か、もしくは女に生まれた自分を呪ってくれ」
どうやらランサーは意識しているわけではないらしい。魅惑の魔眼ならぬ、魅惑の魔貌。ある意味英霊の真名のヒントにもなる情報だ。
「その結構な面構えで、よもや私の剣が鈍るものと期待してはいないだろうな?槍使い」
「そうなっていたら興醒めも甚だしいが、成る程、セイバーのクラスの対魔力は伊達ではないか。…結構。この顔のせいで腰の抜けた女を斬るのでは、俺の面目に関わる。最初の一人が骨のある奴で嬉しいぞ」
「ほう、尋常な勝負を所望であったか。誇り高い英霊と相見えたのは私にとっても幸いだ」
「それでは…いざ」
鳥のように、両手に持った槍を広げるランサー。
「・・・気をつけて。私でも治療呪文ぐらいのサポートはできるけど、でも、それ以上は・・・」
「ランサーはお任せを。ただ、相手のマスターが姿を見せないのが気懸かりです」
聖杯戦争では、マスターを狙うことで魔力補給を断ち現界を保てなくすることで、勝利することができる。セイバーはそれを気にかけていた。
「妙な策を弄するかもしれない。注意しておいてください。・・・アイリスフィール、私の背中は貴女にお預けします。」
「わかったわ。セイバー、この私に勝利を」
「はい、必ずや」
「ふむ…アサシンが生きているとは」
目の前に崩れ落ちたのは、女のアサシン。まあ、首を飛ばせばどんな英霊でも基本的には殺せるだろう…再生能力もちでない限りは。
あのときアーチャーであろうやつに殺されたのとは別な個体。何人かで一つの英霊なのか?
確かアサシンは「山の翁」、「ハサン・サッバーハ」からどいつかが呼ばれる。ハサン自体は暗殺集団みたいなものだったはず。
とすると…変装技術もちとか、多重人格だった奴とかが呼ばれたと考えれば違和感はない。
つまりあれは演技…アサシンのマスターと遠坂のマスターが組んでいるということか。ついでに言えばアサシンのマスターは協会に保護されている…監督役もグルか。
「「…」」
「んお?ああ、終わったか。戻りな」
ほかにいたアサシンは赤人形と青人形に始末させた。自立式の式神みたいなもんだ。
黄人形と緑人形にはマスターどもの監視をさせている。まあ…射撃を受け付けない奴と打撃を受け付けない奴だしな。普通にアサシン始末に向けてもいいんだが、赤と青に監視させてやられても面倒だからな…
何故かもう始まってしまっているようだが…転移して見つかると面倒だからな。急ぐか。
符に戻った人形2体を手に持って収め、走って向かう。できれば、誰も脱落してないうちに会いたいものだ。
そう考え、私は海浜公園へと向かった。
「名乗りもないままの戦いに栄誉もくそもあるまいが…」
傷だらけになった戦場で、ランサーは語りだす。
「ともかく、賞賛を受け取れ。ここに至って汗一つかかんとは、女だてらに見上げたやつだ」
「無用な謙遜だぞ、ランサー」
一方のセイバーも声を返す。その手に持つのは、不可視の剣。
「貴殿の名を知らぬとはいえ、その槍捌きをもってその賛辞…私には誉だ。ありがたく頂戴しよう」
二人はお互いに騎士であった。だからこそこのような会話ができる。
しかし、その会話は無粋な声によってさえぎられる。
『そこまでだ、ランサー』
魔術的に加工された、男とも女とも取れる声。
「ランサーの、マスター」
『これ以上勝負を長引かせるな…そのセイバーは難敵だ。速やかに処理せよ…宝具の開帳を許す』
「了解した…わが主よ」
ランサーはそのマスターの指示に従うためか、左手の短槍を放り投げる。すると、右手の長槍の呪符が剥がれ落ちた。
そこから現れたのは、真紅の魔力をまとった槍。
「そういうわけだ…ここからは殺りに行かせてもらう」
そういうとランサーは両手で長槍を持ち、腰を落とした。それに合わせ、セイバーも構えた。
「「…」」
間合いを測る。まず動き出したのは、ランサー。
槍使いとして基本の突き。ただの突きと思うなかれ、放ったのは槍の英霊、ランサー。
普通の人間であればまず反応できずに貫かれてしまう速度であろう。
しかし、対抗しているのはこれまた英霊であるセイバー。
ランサーの槍をかわすのではなく、その不可視の剣で受け止める。だが
「なっ!」
セイバーが槍を受け止めた瞬間、不可視の剣は一転、その黄金の刀身をさらしたのだ。
同時に、風が吹き荒れる。そのタイミングで、ランサーは一気に距離を離した。
「さらしたな、秘蔵の剣を」
「…」
得意げに語るランサー、一方で悔しげな表情を浮かべるセイバー。
セイバーは非常に有名な英霊であり、その剣を見られれば正体がわかってしまう。
そのため、セイバーの剣はその時代の魔術師によって、不可視になるような風の魔術…『風王結界』をかけられていたのだ。
「刃渡りも確かに見て取った。これでもう見えぬ間合いに惑わされることはない」
見えない剣というアドバンテージを失い、さらには自分の正体もさらしてしまった。
それを好機とばかりにランサーは責め立てる。
槍と剣がぶつかるたびに、セイバーの剣は光を放つ。同時に風が吹き荒れる。
「そこだ!」
神速の突き、しかしそれを避けたセイバーは一気に距離を詰める。
一瞬で詰まった距離、セイバーは斬りかかる。
ここまでくればランサーが槍を薙ぐよりも早く斬ることができる。戻ってくる槍には殺傷力はない。
勝利を確信したセイバー。しかしセイバーの直感は告げる。
『避けろ』
自身の直感を疑うことなどしない、強引に体を横に倒す。
「ぐっ…あっ…!」
槍はまるで鎧を無視するように、セイバーの体を切り裂いた。
「セイバー!」
アイリスフィールが駆け寄り、何かの魔術をかけた。
「ありがとうございますアイリスフィール。大丈夫、治癒は効いてます。」
かけたのは治癒魔術だったようだ。浅い傷は見る見るうちになくなっていく。
「そう易々とはとらせてくれないか…」
ランサーは悔しそうな表情はない、むしろよく避けた、と言いたげな顔だ。
セイバーは考える。鎧は破壊されていない、むしろ鎧は無傷で肉体だけ切り裂かれた。
打ち合うたびに解かれる『風王結界』
「そうか…その槍の秘密が見えてきたぞ、ランサー。」
セイバーの下した決断、それはあの朱槍の効果は『魔力を断つ』というもの。
つまり、それが魔力であればいかなる防御も攻撃も、その槍の前では無意味だということ。
セイバーの鎧は魔力で編まれている。つまり
「その甲冑の守りを頼りにしていたのなら、あきらめるのだなセイバー。俺の槍の前では丸裸も同然だ」
「たかが鎧を向いたくらいで、得意になってもらっては困る」
しかし、その程度で弱気になるセイバーではない。
「防ぎえぬ槍ならば、防ぐより先に斬るだけのこと。覚悟してもらうぞ、ランサー」
セイバーの騎士甲冑は魔力に変わり、青いドレスのような帷子だけとなる。
「思い切ったな…乾坤一擲、と来たか」
鎧を消したことで軽量化しただけではなく、鎧の魔力を『魔力放出』に回し、スピードに乗せるつもりなのだ。
「その勇猛さ、潔い決断、嫌いではないが…」
ランサーはセイバーに話しかける。
「この場に限って言わせてもらえば、それは失策だったぞ、セイバー」
「さて、どうだが。諫言は次の打ち込みを受けてからにしてもらおうか」
失策というランサーに、文字通り斬って捨てるというセイバー。
にらみ合う二人、均衡を崩したのは、ランサー。
ぼろぼろになったアスファルト、それに足を取られたのか、体制を崩す。
もちろんその隙を見逃すはずもなくセイバーは斬りかかる。
このままなら、セイバーはランサーを切り裂き、そのまま勝利することができるだろう。
「失策」
突如その言葉がセイバーの脳裏に浮かぶ。
ランサーが立っている位置、それは最初にランサーが短槍を放り投げた場所。
短槍に巻かれていた呪符も取られ、それは毒々しい黄色い魔力を放っていた。
セイバーとランサーの目が合う。
『その不意を突かせてもらおう』
ランサーは槍先をセイバーに向けて、その短槍を蹴り上げる。
鮮血が、舞った。
「つくづく素直には勝たせてくれんか…良いがな、その不屈ぶりは」
口を開いたのはランサー。右手で左腕を抑えている。
左腕の切り傷は、見る見るうちに癒えていく。遠くにいるマスターが、治癒魔術をかけたようだ。
一方のセイバーも左腕に傷を負っていた。セイバーは無理やり体をねじることで、致命傷を避けたのだ。
しかしながら、完全に避けることはできなかったのだ。
「…アイリスフィール、私にも治癒魔術を」
「かけたのよ。かけたのに…そんな…」
悲鳴をあげたのはアイリスフィール。
ランサーの傷に比べれば軽いものだったが、なぜか治らない。
一流の魔術師であるアイリスフィールによるものであるにも関わらず、だ。
「治癒は間違いなく効いているはずよ、セイバー。あなたは今の状態で間違いなく治癒しているはずなの…」
「…」
見た目の傷は浅いが、腱を切られてしまった。
左手の親指が動かないのだ。
「我が『
隠す意味もないと、ランサーは自分の宝具の名を話し出す。
「鎧を捨てたのは早計だったな。そうでなければ『
「なるほど…一度穿てばその傷を二度と癒さぬという呪いの槍…もっと早くに気付くべきだった」
二つの宝具の名を聞き、正体を語りだす。
「フィオナ騎士団、随一の戦士…”輝く貌”のディルムッド…まさか手合せの栄に預かるとは思いませんでした」
「それがこの聖杯戦争の妙であろうな…だがな、誉れ高いのは俺のほうだ。『英霊の座』に招かれたものなら、その黄金の宝剣を見間違いなどしない。」
ランサーもセイバーの正体を話し出す。
「彼の名高き騎士王と鍔ぜり会って、一矢報いるまでに至ったとは…ふふん、どうやらこの俺も捨てた物ではないらしい」
黄金の宝剣を持つ剣の英霊など一人。騎士王…アーサー王のことだ。
「さて、互いの名も知れたところでようやく騎士として尋常な勝負を挑めるわけだが…それとも片腕を奪われた後では不満かな?セイバー」
「戯言を、この程度の手傷に気兼ねされたのでは、むしろ屈辱だ。」
言い切るセイバーだが、その内心は穏やかではない。
親指が動かないと、左手で剣を握りしめることができない。
このために自分の奥義である『
「覚悟しろセイバー、今度こそは獲る」
「それは私に獲られなかったときの話だぞ、ランサー」
一触即発の空気。どちらかが動けば、再び戦いが始まるだろう。
が、その空気は突如鳴り響いた轟音によって破られた。
「…雷?」
私が走って向かっている間に、倉庫街上空に現れた黄金の稲光。
同時に轟く雷鳴。
「いかんな…これはかなり戦いが進んでいる。」
急いで走る。転移は…するほど離れてないか?
風に流れて、時々声が聞こえる。覇気を感じさせる、野太い男の声。
返すように、別な男と女の声。
もう一人の男の声は深く、騎士のような忠誠心を感じさせる。
女の声は澄んでいて、戦乙女を感じさせる。
まぎれて、雑音の様な声。魔術的に加工されているのか、女とも男ともとれる薄気味悪い声。
その声が聞こえなくなった後、野太い男の声が大きくなった。
「聖杯に招かれし英霊は、今!ここに集うがいい。なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!」
禍霊夢が転移を使わないのは、手札をばらさないためです。
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