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大津・琵琶湖をどうアピール(下)ちょっと京都を離れて A little out of Kyoto…

kyoto_html_6a02fbad.jpg 大津探訪の2日目は、紫式部のゆかりで知られる石山寺へ。


 岩山の上にありながら花と緑に埋め尽くされた境内に立ち並ぶ国宝の堂宇。「花の寺」とも呼ばれる石山寺の中は、まるで盆栽の中に迷い込んでしまったようだ。

 石山寺は奈良時代から観音信仰の場として都から参拝が絶えず、清少納言、和泉式部、「蜻蛉日記」の藤原道綱の母、「更級日記」の菅原孝標の娘も寺のことを書き残している。

 そして寺にこもっている間に「源氏物語」の構想がまとまり書き始めたと伝えられる紫式部にちなんだ寺宝が11月30日まで境内の豊浄殿に展示されている。

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 紫式部の肖像(江戸時代、初公開)はもちろん、源氏物語の場面を描いた絵や、各時代の天皇による物語の写し、松尾芭蕉、与謝野晶子らの書など〝物語の聖地〟としての石山寺を感じさせる品々がずらり。

 源氏物語の現代語訳やちなんだ作品を書く作家は今も石山寺を参拝するという。

 どこかで感じた雰囲気・・・。そう、石山寺は昔から「源氏オタク」の聖地だったのだ。

 展示には江戸時代のきらびやかな源氏物語の絵かるたも。ちなみに紫式部の百人一首の歌は「めぐりあひて見しやそれともわかぬまに 雲がくれにし夜半の月かな」だ。滋賀県立近代美術館では10月6日から11月25日まで、寺が所蔵する「石山寺縁起絵巻」を初めて一挙公開する。

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 静かな石山寺を降りると、そこは琵琶湖から流れ出る唯一の河川である瀬田川。外輪船の形をした遊覧船で小さな水面の旅だ。


 船がすれすれの高さでくぐる「瀬田の唐橋」では、交通の要所として歴史上、重要な戦いが何度もあった。大海人皇子が、大津に都を開いた天智天皇の子の大友皇子を滅ぼし、天武天皇として即位することになった壬申の乱(672年)の決戦もこの橋。

 1979年に掛け替えられた現在の鉄筋コンクリート橋は渋い色合いで、木橋の時代からの擬宝珠が取り付けられ、いにしえの雰囲気を伝える。京都への通勤圏として周辺には巨大なマンションが林立するが、周辺の風景に合わせようとしたものもあれば、場違いな色合いのものもあり、まちづくりの難しさをうかがわせた。


 大津から京都に入る東海道、東山道の峠に設けられていたのが「逢坂(おおさか)の関」。国道1号線として今は多くの車が行き交う峠の上には「夜をこめて鳥の空寝ははかるとも よに逢坂の関はゆるさじ」(清少納言)、「名にしおはば逢坂山のさねかずら 人に知られでくるよしもがな」(藤原定方)、そして坊主めくりのスターで、平安時代にこの地に暮らした琵琶の名手、蝉丸の「これやこの行くも帰るも別れては 知るも知らぬも逢坂の関」の歌碑が並んでいる。

 周辺には蝉丸ゆかりの3神社がある。うち関蝉丸神社は、鳥居のすぐ前に踏切がある変わったロケーションだ。やや寂れた境内に無常感が漂う。関の向こうに広がる世界は、都の人々にとっては未知の〝東国〟。現代の国際線ターミナルのように長い別れと新しい出会いの場だった。いくつもの名歌が生まれた背景を体で感じられる。


 ▽大津の味めぐり

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 滋賀県といえば「近江牛」。明治に起源がある専門店、れすとらん松喜屋(大津市唐橋町)で、焼肉とステーキがセットになった「ぜいたく重」を頂く。

 濃厚な味わいの牛肉とたれが絶妙の調和だ。このお店では、ワインも滋賀県産の赤、白を取りそろえ、おいしさをアピールする。

 大津は琵琶湖の水運を通じて米が集まっていた場所。米があるところには酒蔵が生まれる。

 創業350年あまりの老舗、平井商店の看板銘柄は、17世紀に天皇の皇子から賜った和歌にちなんだ「浅茅生」(あさじを)。蔵元杜氏の平井八兵衛さんは軽めの味わいが好みで、県産米を使った酒造りにも熱心に取り組んでいる。



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 琵琶湖の味覚の最後を飾るのは「鮒ずし」。明治2年(1869年)に鮒ずし専門店として開業した阪本屋(大津市長等1丁目)で初体験した。

 琵琶湖固有のニゴロブナと米をつけ込んで1年以上発酵させてつくるだけに強烈な予想をしていたが、一切れを口にすると固形ブイヨンのような濃厚な旨みが広がる。お茶漬けなどで食べるのも普通と聞き、納得させられた。1尾1万円を超える高級品もあるが、店頭には手頃なお試しサイズも

 ▽メリットもデメリットも京都に近いこと

 「大津には京都、奈良にない広大な湖があるし、温泉もある。そして近江神宮のかるたや、大津祭りのような伝統と文化がある。観光資源は多いが京都にあまりに近いので、それをどう売っていくのかが究極の課題です」とびわ湖大津観光協会の山本秀孝専務理事は話す。また女性市長の当選で集めた大津への注目が、いじめ事件でマイナスイメージに転じ、観光面でもダメージは少なくないという。そんな中でどう大津をプラスに売り出すか、関係者は模索を続けている。



 振り返ると、大津は観光地も市街地も、人々の会話も京都とは違ったのんびりした空気が流れていた。〝ちょっと京都を離れると〟近畿の古い日常文化が今も脈々と生きている。そして昔の宮廷人が疲れた心を休めるために訪れた寺社が古い姿を伝えている。おおげさに楽しむ観光ばかりが旅じゃない。ちょっと日常を離れて静かに考えるための旅が大津にあるのではないか。「のどかで、静かで、ゆっくり回れるところです」という田中真一・観光協会事務局長の話を聞きながら、そんなことを感じた旅の終わりだった。

(47行政ジャーナル 橋田欣典)

2012/09/24 10:36 【47行政ジャーナル】


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