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2012年9月24日(月)付

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教育委員会―動ける組織に作り直せ

教育委員会は、本当に要るのか。大津市のいじめ自殺事件を機に、批判が高まっている。遺族の訴えを十分聞かず、調査を中途半端に打ち切った。市民の感覚からかけ離れている。何の役[記事全文]

労働契約法―非正規の改善へ活用を

パート労働などの非正規雇用は、いまや働く人の35%にのぼる。正社員との格差を縮小し、賃金や待遇を底上げするため、新しい労働契約法を有効に活用すべきだ。大手スーパーのイト[記事全文]

教育委員会―動ける組織に作り直せ

 教育委員会は、本当に要るのか。大津市のいじめ自殺事件を機に、批判が高まっている。

 遺族の訴えを十分聞かず、調査を中途半端に打ち切った。市民の感覚からかけ離れている。何の役に立っているのか――。

 制度が形骸化していることは否めない。しかし、性急になくせば失うものは大きい。議論を尽くし、きちんと機能する組織に仕立て直すべきだ。

 教委は、委員会と事務局からなる。住民代表たる教育委員が合議で方針を決め、職員らの事務局が実務を行う。委員会は首長から独立した権限を持つ。

 教育が政治の言いなりになった戦前の反省から、そんな「素人統制」の仕組みが作られた。

 しかし、現実は設計図通りではない。委員は非常勤で、5人前後。会議は月1〜2回。そこへ学校教育、スポーツ、文化財と、あまたの議題が押し寄せる。委員たちは事務局案を追認するのが関の山だ。

 事務局は教員出身者が多く、住民より学校の声を優先しがちだ。市町村の半分は議事録すら公開していない。住民軽視と見られて当然だ。大津の事件はこうした欠陥をあらわにした。

 もともと各地の知事や市長の間には制度の見直し論がある。

 今年に入ると、教育目標は首長が決めるという大阪府と市の基本条例が成立。愛知県や静岡県も有識者の検討会を作った。

 事件後はさらに同調する首長が増えた。日本維新の会は政策集で「廃止」と踏み込んだ。

 少し立ち止まって考えたい。

 委員会をなくせば事件や不祥事がなくなるわけではない。むしろ首長や事務局が道を誤った時の歯止めを失う。

 肝心なのは、きちんと機能する委員会に改めることだ。

 保護者や子どもの意見やSOSを聞く。住民目線で事務局の仕事を点検し、おかしければもの申す。学校選択制を取り入れるかどうかといった意見の分かれる大きなテーマを議論する。

 住民が委員会に期待するのはこの三つの役割だろう。

 これに専念してじっくり議論できるよう、まずは仕事の仕分けをしてはどうか。スポーツや文化財、公民館などは他の部局に任せ、委員会は学校教育に専念する。事務的な案件は委員会にかけない。それでも時間が足りないなら、委員長くらいは常勤化を考えるべきだ。

 不信の根にあるのは「誰のために働いているか」ということだ。委員会は学校ではなく、住民の代弁者だ。委員の公募や住民推薦を増やすなど、この原点に返る工夫が求められる。

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労働契約法―非正規の改善へ活用を

 パート労働などの非正規雇用は、いまや働く人の35%にのぼる。正社員との格差を縮小し、賃金や待遇を底上げするため、新しい労働契約法を有効に活用すべきだ。

 大手スーパーのイトーヨーカ堂が今後3年で、正社員約8600人を半減させ、パートを約6800人増やす方針を打ち出した。安売り競争で低迷する業績を立て直すためという。

 社員に占めるパートの割合は8割弱から9割に高まる。パートは時給制で、半年契約を更新しながら働く。

 それだけ見ると、低い賃金で不安定な雇用が、またじわりと広がった印象を与える。

 ただ、先の国会で成立した改正労働契約法は、この風景を変える可能性がある。

 有期から無期への雇用転換を促すこの法律は、かえって「雇い止め」を誘発する懸念も指摘されている。だが、注目すべき点もある。「有期であることを理由に、無期雇用の社員との間で不合理な格差があってはならない」と決めたことだ。

 正社員との待遇の差について「仕事内容が、このぐらい違うから」と説明する責任を会社側が負うと解すべきだろう。単に「パートだから我慢して当然」との姿勢は通用しなくなる。

 ヨーカ堂の場合、パートを増やすのは、高齢化する顧客にきめ細かい接客サービスをするのが狙いという。安値だけでない価値を実現し、収益力を上げる責任を、これまで以上にパートに担ってもらうわけだ。

 であれば、それに見合った処遇や、意欲と能力を引き出す昇進などの仕組みが必要になる。

 法律の施行は来春になる見通しだ。それまでに各企業の労使は、不合理な格差の有無をチェックし、是正に向けた話し合いが求められる。

 この動きは、正社員の働き方にも影響する。パートなど非正社員との間で、身分の違いではなく、仕事の違いで処遇を決める流れを後押しするからだ。

 ただ、単に正社員の待遇を引き下げ、雇用保障を弱めるだけでは、社会が不安定化する。

 正社員の年功序列型賃金は、年齢とともに増える生活費をまかなうためのものだった。その代わり政府は、子育てや住宅などの分野で、公的サービスを拡充せずにすんだ。欧州の福祉国家との違いである。

 仕事に応じた賃金になれば、家族を含めた生活に十分な額となるとは限らない。基礎的なサービスは社会で面倒をみる仕組みを、同時並行でつくりあげていくことが不可欠だ。

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