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記事 放射線

【ふくしまの話を聞こう】 福島で生きるための放射線知識 佐藤順一 1/3

SYNODOS JOURNAL

2012年06月06日 09:00

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ふくしまの話を聞こう」第1部 佐藤順一氏講演
   ――2012年4月28日東京・新宿歴史博物館(主催:福島おうえん勉強会)



福島おうえん勉強会」は、放射線の影響が心配な小さなお子さんをお持ちのお母さんたちの疑問に応えるような勉強会を、東京でやっていこうということから始まりました。講演会などで先生方のご意見を聞いてもどうも腑に落ちないことが多い、これを消化するには小さな勉強会で悩みを打ち明けながらやればいいのではないか、と集まりを企画したのが最初になります。現地の方たちはどういうことを考えて、どういう生活をしているのか、ということを、私たち東京近辺にいる人間は学ぼうと、市井で活動を続けるお二人をお招きしました。(主催者挨拶より)

佐藤 
ただいまご紹介にあずかりました、郡山市で「佐藤塾」という学習塾を経営している佐藤順一といいます。それではまず、そもそもなぜ単なる塾の教師である僕がこういうふうにお話をすることになったのかという経緯を、簡単に説明させていただきます。

去年の3月11日に地震が起き福島第一原発が水素爆発を起こして、僕が住んでいる郡山市にも放射性物質が飛んできているというニュースが流れました。最初は情報がまったくなかったので、僕自身も非常に不安な気持ちでテレビのニュースを見たり、ツイッターで情報収集したりしながら心配していたんですが、そのときに、塾で教えている生徒たちから携帯電話やパソコンのアドレスにメールがたくさんきていたんです。

僕は元々物理学を専攻していて、偶然ですがγ線検出器の開発をテーマに卒業論文を書いていて、そのあと修士課程に進んだときも宇宙物理でX線望遠鏡の開発をやっていましたから、元々ある程度放射線について知識があったんです。そのことを生徒たちも知っていたので、「今の福島や郡山は大丈夫なんでしょうか?」「ここにいたら私たち危ないんですか?」「これから原発はどうなっちゃうんですか?」という質問がたくさんきていて、子供たちが非常に不安がっていることがわかったんですね。それで「これは僕が不安がっている場合じゃないな」と思って、真面目にいろいろ調べ始めたんです。

現状の郡山市の放射線量とか、福島第一原発がどういう構造になっていて、現在どういう状況になって、今後どう変わっていく可能性があるのか、というのを自分なりに考えながら資料を作成したりしました。それで、3月の後半に入った段階で放射線量がだんだん下がっていっているのが、グラフを取っていてわかったんですね。最初に放射性物質が飛散したときから県が発表する放射線量を毎日プロットしてグラフを作っていたんですが、その形が放射性ヨウ素の半減期のグラフと非常に似ていたんです。大体半減期のグラフの形通りに数値が減衰しているということは、最初の事故の際に放出された放射性物質が残っているだけで、これからは線量が下がっていくんじゃないか、と予想することができました。


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それで、4月初めくらいの時点では郡山市はパニック状態で、マスクをしないと外にも出られないし、放射性物質が身体に着いてしまうかもしれないからと、誰も外を歩いていないような状態だったんですが、僕は「少しでも不安を払拭してやろう」と思って、あえてマスクをせずTシャツ・ジーパン姿で自転車に乗って「そんなに最悪な事態ではないですよ」ということを近所に説明して回ったんです。僕の塾には近所の子たちが来ていることが多いので、最初はその父兄の方々のお宅を回ったりしていました。

それでもどんどんどんどん不安の声や質問が集まってくるようになったので、「じゃあ僕の知っていることをご説明いたしますので、塾のほうに集まってきてください」というふうに言って、塾のほうで説明会をやったんです。その父兄の方のなかに銀行の支店長さんがいて「銀行の債権者の集まりでお話をしてください」と言われたり、「近所の中学校でぜひやってください」と言われてお話をしたり、講演も去年10回ぐらいやることになりました。僕はただの塾の先生で、今まで講演なんてやったこともないですしやるつもりもなかったんですが、「お願いされたらとりあえずお応えするようにしよう」と決めていましたので、あちこちでお話をしていました。

巡り巡って今回のようなとても大きな会になってしまったわけですが、そういうふうに県内のいろいろなところでお話をさせていただく機会がありましたので、福島県のお母さん方の声については、僕以上に聞いている人はいないんじゃないかというくらいで、これに関しては自信があります。

たとえば、郡山市に「プチママン」という子育て支援のNPO法人があって、そこで講演を依頼されて4月25日に100名ほどのお母さん方の前で講演する機会があったのですが、そこでアンケートを取らせていただきました。今日はそのアンケート用紙を持ってきていますので、それもお話に絡めて、福島県のお母さん方がどう考えているのか、福島県について他県の方にどう理解していただきたいのか、ということも含めて説明していきたいと思っています。

基本的な知識からわかりやすく説明


佐藤 では最初に、普段僕が放射性物質の説明で使用しているスライドを見ていただきたいと思いますが、このスライドのファイルはツイッター上の僕のアカウントに貼り付けて著作権フリーで公開していて、ご自由にダウンロードしたり配布したりしていただきたいと思っています。

さて、ハッキリ言って、大半の人たちは去年の3月の段階までは「放射性物質」なんて言葉自体そんな意識したこともないという、真っさらな状態から始まっていますよね。それで3月の原発事故以来、たくさんの専門家の方が講演会や書籍などでいろいろ放射線について説明してくださったんですが、やはりどうしてもお母さんたちや中高校生にとってはハードルが高いということもありました。

一方、僕は放射線については専門家というわけではないですが、ある程度基礎知識があり、子供たちにわかりやすくかみ砕いて説明することに関してはプロですので、そのスキルをうまく活用して専門家と一般の方との橋渡しができないかな、というふうに考えて、こういうスライドを作成したわけです。

たとえば放射線のことを説明するときは、本当に「概念だけわかればいい」という感じで、専門家から見れば「こんな説明じゃダメだ」とツッコミを受けるような大雑把な説明だと思います。「放射線とは強いエネルギーを持ったビームみたいなもので、たくさん浴びると身体に良くないです」「放射性物質とは放射線を出す物質のことで、非常に不安定でほうっておくとどんどんなくなっていきます」「放射能とは放射性物質が放射線を出す能力のことです」というふうに説明させていただいています。これは説明というより、概念を理解してもらうために言葉を簡単に直しているだけみたいなことなんです。

さらに、放射性物質が崩壊して放射線を出すイメージを図解して載せたりしています。たとえば「放射性物質というのは不安定で、今にも破裂しそうな状態です」というふうに、原子が崩壊して放射線を出すことを、イメージしやすいように「破裂」と表現しています。「放射性物質が破裂して放射線を1発出します」というようなイメージで皆さんに説明しています。

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それで、「放射線を出して安定した物質になったので、もうこれ以上放射線は出しません」「基本的に一個の放射性物質は一発放射線を出したらもう放射線は出しません。ものによってはβ崩壊やγ崩壊して2発放射線を出すものもありますが、基本的にはずーっと出しっぱなしになるのではなくて、一回出したら安定した物質に変わりますよ」と説明しているんですね。もちろん、厳密に言うと違うんですが、こういうふうにイメージしたほうがわかりやすいと思うんです。

これはたとえば、けっこう勉強している意識の高いお母さん方でも、放射性物質というとずっと放射線を出しっぱなしだと思っている方が多いんですね。たとえば半減期が30年だと言われたら、30年間放射線を出しっぱなしになると思って怖がっているところがあるので、まずその辺の誤解から解いていくために、ちょっと極端な形で説明しているんですね。

他にも「崩壊したときに出る放射線の種類も、放射性物質の種類によって異なります」とか「今回の事故で出てきた放射性物質はこういうものです」というようなことを説明しているんですが、福島のお母さん方にこういう話をするときに、いちばん手応えがあって皆さん「ああ、そうなの」と納得されるのは半減期の説明なんですね。

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皆さん、たとえば半減期が30年の物質と言うと、30年間放射線を出しっぱなしで常に同じくらい放射線を出し続けていて、30年経たないと半分にならないと思いがちなんですね。その誤解を解くために、半減期というものの概念を絵で簡単に説明したりしているんですが、たとえば半減期8日間の放射性ヨウ素は、仮に10個あったら8日間で5個崩壊して安定し、その際に5発の放射線を出すイメージですね。ですから、半減期30年のセシウム137は、仮に10個あると30年かかってようやく5個崩壊して安定することになります。

こうして比較すると、どちらが放射線を出しにくいかと言えば、当然半減期が30年のセシウムのほうが崩壊しにくいから、放射線を出しにくいという言い方もできる、だから、半減期が長いほうが怖いというものじゃないんだよ、というふうに説明しています。たとえば半減期が2万4千年と非常に長いプルトニウムについては、僕の周りでも一時期ものすごく気にされている方が多かったんですよ。「半減期2万4千年のプルトニウムってどんなの?」「2万4千年経たないと福島はきれいにならないのか?」というようなことをたくさん聞かれました。

それに対して「たとえば10個のプルトニウムがあったら、2万4千年経ってやっと5個崩壊するということですから、1年くらいではほぼまちがいなく崩壊しませんよね。崩壊しないということは放射線を出さないということですから、気にしなくていいんじゃないですか?」というふうに説明すれば、ある程度「ああ、なるほど」とわかっていただけたりしますね。

そんな感じで、スライドで絵を使って説明したりとか、お母さんたちや子供たち向けに説明しているんですが、これはもう、説明をしていると何回も同じことを聞かれるので、だったらスライドにまとめておこうかな、ということなんです。

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