日本において「天然酵母の定義」はまだ確立されていません。「天然」という言葉は広い意味が有ります。最近新聞でも話題になったように、何をもってして「天然」というのか、「自然」というのか議論が別れるところです。あえて言うのならイーストのみ使用のパンであっても、「天然」という表記で違法ではないのかもしれません。
同じように「無添加」という言葉が有ります。パンに関して言うのなら「完全無添加」というのはあり得ません。完全無農薬の国内産小麦粉は殆ど有りません。湧水を使用していても「酸性雨」の影響が全く無いという保障はありません。「天然酵母パン」は「無添加」、という発想は危険でさえあります。「天然酵母」を培養する過程、及び材料において「完全無添加」は可能なのでしょうか?
アメリカでは「ノン イースト」と表記されているパンがあります。これも良く調べると乾燥果実からの「天然酵母パン」という事のようですが、多くの場合「ナチュラル イースト」と言い切って無い場合は、化学的に合成された酵素剤等を添加しているようです。フランスでは「天然酵母パン」に(粉量に対し)1,25%の「イースト」を使用しても、「ルヴァン」即ち「天然酵母」と表記しても良いそうです。
最近の日本のベーカリーは、無添加、オーガニック、天然酵母、国内産小麦粉使用、等などの言葉を並べれば「健康志向」のパンを作っているベーカリーとしての認知を受けているようです。私は「無添加が善で、有添加が悪である」と言っている訳では有りません。可能な限りの無添加を追求し、情報を開示し、消費者の方々に「嘘をつかない」ことが大切であり、そのような姿勢こそがベーカリーの信頼に結びつくと考えます。 |