日米による離島防衛上陸訓練に関連して
日本の陸上自衛隊と米国海兵隊は、敵に奪われた離島を奪還するとのシナリオのもと米領グアムで実施した離島防衛の日米共同訓練映像を今日公開した。共同訓練自体は8月末に開始されたものだが、現時点ので報道関係者への公開は、現在の尖閣諸島問題やオスプレイ配備問題といった文脈を意識してのことだろう。
日本の陸上自衛隊が参加したことで日本ということが注目されるのもしかたがないが、各社報道を読むと、全体構図があまり正確ではないので、背景について補足しておいたほうがよいかもしれないと思えた。簡単に言及しておきたい。
まず、日本でのありがちな反応の例は、朝日放送「日米で「離島奪還」訓練“尖閣”念頭で中国刺激?」(参照)である。ニュース自体は短いながら、タイトルに「尖閣」を意識させていた。
共同は比較的平易な報道だった。「日米、グアムで「離島奪還」訓練を公開 「特定の島、想定せず」」(参照)より。なお、タイトルは産経で付けたものだろう。
陸上自衛隊と米海兵隊は22日、米領グアムで行っている離島防衛のための共同訓練で、上陸する場面を報道関係者に公開した。敵に奪われた離島を奪還するとのシナリオ。
陸自は「特定の国や島を想定していない」としているが、尖閣諸島をめぐる日中の緊張が高まる中、中国にとっては刺激的な訓練となった。
22日朝、グアム島西部の米海軍基地内の海岸で、陸自と海兵隊の隊員が同じゴムボートに乗って上陸。陸自隊員は、付近を制圧する想定で小銃を構えて移動した。
陸自と米海兵隊の共同訓練はこれまで、米西海岸や、日本国内の山間部の演習場で行われてきたが、初めて離島を使って実施。参加部隊も米側が沖縄に司令部を置く第3海兵遠征軍(3MEF)、日本側が九州と沖縄を管轄する西部方面隊で、尖閣諸島など南西諸島を強く意識させる内容となった。(共同)
共同の受け止め方は、報道側としても意図したとおりだっただろう。
共同に比べて、NHKでは、事実報道はかなり抑制していた。「陸自 米海兵隊と初の上陸訓練」(参照)より。
陸上自衛隊は今月、沖縄のアメリカ海兵隊と初めて、グアム島や北マリアナ諸島のテニアン島などで上陸訓練を行っていて、22日、その様子が公開されました。
訓練には、沖縄・九州にある部隊の陸上自衛隊員およそ40人と、沖縄の海兵隊のおよそ2200人が参加していて、このうち18日からグアム島で始まった上陸訓練の様子が、22日、公開されました。
訓練は、離島が攻撃された場合を想定し、小型のボートを使って上陸するもので、現地時間の午前9時すぎ、自衛隊と海兵隊の合わせておよそ60人が、沖合に停泊した艦艇から出発しました。
隊員らを乗せたボートは7隻で、横一線に並んで海上を進み、一斉に砂浜に乗り上げました。
砂浜では、上陸した陸上自衛隊員らが、物陰に身を隠したり、低い姿勢で銃を構えたりしながら前に進み、周辺に相手の部隊がいないか確認するなどしていました。
陸上自衛隊の井藤庸平3等陸佐は、「訓練は特定の国を想定したものではないが、国内では上陸訓練の場所が限られているので、グアム島などを離島の一つと見立てて訓練できるのは意義がある」と話しています。
また、アメリカ海兵隊ボート中隊のトービン・ウォーカー中隊長は、「訓練を通じて日米の信頼関係をさらに深めることができるので、今後も訓練を続けることが大切だ」と話しています。
事実報道のあと、NHKは米国海兵隊とオスプレイの関係についても言及している。
オスプレイ発着可能の艦艇も参加
訓練に参加した陸上自衛隊のおよそ40人は、先月下旬、沖縄の海兵隊員と共に、沖縄県うるま市のアメリカ軍基地「ホワイト・ビーチ」で、アメリカ海軍の強襲揚陸艦「ボノム・リシャール(4万500トン)」と、揚陸艦「トーテュガ(およそ1万6000トン)」の2隻に乗り込みました。
陸上自衛隊の部隊は、2隻に乗り込んだまま、およそ2000キロ離れた北マリアナ諸島のテニアン島に移動しました。
「ボノム・リシャール」は、ことし4月、長崎県の佐世保基地に配備されたばかりで、甲板を強化するなどの改修が施され、沖縄への配備が計画されている新型輸送機「オスプレイ」の発着艦が可能になっています。
訓練では、この艦艇に指揮所が置かれ、自衛隊と海兵隊の指揮官が、情報を交換しながら、それぞれの部隊に指示を出しています。
この艦艇が所属する部隊のキャサール・オコーナー司令官は、先月の就任式典で「オスプレイの配備により、自衛隊との活動で、より高い能力を発揮できるようになる」と述べています。
ごく簡単に言えば、日本の離島防衛には海兵隊のオスプレイが重要だということの暗示のようにも受け止められる。
だが、この部分をよく読むとわかるように、海兵隊の強襲揚陸艦は長崎県の佐世保基地に配備されており、またオスプレイもそこで離発着が可能であるという指摘である。するとこの構図では、沖縄へのオスプレイ配備の意味は弱いことがわかる。
さて今回の共同訓練についてだが、NHKはこう説明している。
日米双方の思惑は
日米両政府は、ことし4月に発表した共同文書で、「動的防衛協力」という新たな考えを打ち出しました。
日米共同での訓練や施設の使用、それに警戒監視を拡大することで、アジア太平洋地域で日米の存在感や能力を示そうというもので、今回の訓練もその一環です。
グアム島や、北マリアナ諸島のテニアン島周辺では、日米共同の訓練場の整備が検討されていて、日本側が費用を負担するかどうかなど、年内に具体的な内容を決めることにしています。
こうした動きの背景には、南西諸島の防衛態勢を強化するため海兵隊のノウハウを吸収したい自衛隊と、国防費の削減を求められるなか、日本の協力を取りつけ、グアム島の戦略拠点としての重要性を高めたいアメリカ軍の、双方の思惑があるとみられます。
さらにアメリカ海兵隊は、ことし4月、南シナ海に面した島でフィリピン軍と上陸訓練を行ったり、先月末からはオーストラリア北部の訓練施設で、オーストラリア軍と合同演習を行ったりしていて、中国が活動を活発化させているアジア太平洋地域で、日本やオーストラリア、それにフィリピンなどとの連携を強めたいというねらいもあるとみられます。
気がつかれただろうか。NHKの報道には「尖閣」は登場していないのである。
もちろん「南西諸島の防衛態勢」という言及があるので、事実上、尖閣諸島を含んでいるとはいえる。
それでもNHKによる説明の焦点は、「中国が活動を活発化させているアジア太平洋地域で、日本やオーストラリア、それにフィリピンなどとの連携を強めたいというねらいもあるとみられます」という点にある。
NHKの読み取りは正しく、この件で米国の関心は、日中関係よりも、中国の太平洋侵出が問題であり、むしろ、フィリピンを中心として南シナ海での中国との衝突が懸念されている。
日本では報道を見かけないように思えるのだが、中国はこの海域の八割を支配したいと目論んでいる。
この件の主要な報道としては、8月19日付けのニューヨークタイムズ「Asia’s Roiling Sea」(参照)がわかりやすい。
The South China Sea, one of the world’s most important waterways, has been contested off and on for centuries. These days, with the sea bounded by some of Asia’s most vibrant economies — China, Vietnam, the Philippines, Taiwan and Malaysia — the competition has become a virtual free-for-all.世界でもっとも重要な海路の一つ、南シナ海は数世紀にわたって争奪が繰り広げられてきた。最近では、この海域に面するアジアで経済発展が著しい国々である、中国、ベトナム、フィリピン、台湾、およびマレーシアが、実質的な乱闘を行うに至った。
中国が太平洋への覇権で問題を起こしているのは、ベトナム、フィリピン、台湾、マレーシアである。むしろ、先日の尖閣諸島に関連する反日活動は、日本に向けて「大乱闘」へのお誘いでもあった。
Beijing’s ambitions are large: the president of a Chinese research institute, Wu Shicun, told The Times’s Jane Perlez that China wanted to control no less than 80 percent of the sea.中国政府の野望は大きい。吴士存・中国研究所所長は、中国はこの海域の少なくとも80%を支配したいと、本紙記者ジェーン・パールズに語った。
中国の野望について、VOAに関連の地図があったので引用しよう。なお、台湾まで線が引かれていないが、中国にとっては台湾は自国領土という含みがあるためだ。また、その北の延長はどうなるかなのだが、中国の思惑としては沖縄も中国領土に含めているかもしれない(参照)。
米国はこうした中国の帝国主義的な侵出の事態に憂慮している。ニューヨークタイムズに戻る。
The United States is plainly concerned, and rightly so. In recent months, for instance, China has enlarged its army garrison on a bit of land known as Yongxing Island. Mr. Wu said the aim was to allow Beijing to “exercise sovereignty over all land features inside the South China Sea,” including more than 40 islands “now occupied illegally” by Vietnam, the Philippines and Malaysia.米国は明白にかつ正当に憂慮している。例えば、この数か月で、中国は永興島として知られている島に駐留部隊を拡大した。その目的は、ベトナム、フィリピン、およびマレーシアによって「違法に現状占有された」40を超える島を含め、「南シナ海にあるすべての形状の土地に主権を実効にすること」を中国政府が可能にすることだと吴氏は語った。
The Obama administration protested that this provocative act risked further inflaming the situation. In return, a leading Chinese newspaper told the United States to “shut up” and stop meddling in matters of Chinese sovereignty.
オバマ政権は、この挑発的行動が状況を悪化させる危険を冒していると抗議した。その返答として中国主要紙は、米国に「黙れ」と言い、中国の主権への干渉をやめるよう主張した。
日本ではあまり報道されていなかったのかもしれないが、この8月、南シナ海の領有権を巡って、中国と米国はやり合っており、実際のところ、をの直後に今日報道された共同訓練が実施されたのである。むしろ、この時点では野田政権が魚釣島を国営化にするというのは米国には想定外の時点であり、米国としては「尖閣」は念頭にはなかっただろう。
対中国の領土問題で、注意しなければならないのは、「二国間の話合い」である。ニューヨークタイムズは次のように主張を続けているが、これは米国政府と同じ意見だろう。
China would prefer to deal with territorial disputes bilaterally because it thinks it can strong-arm its neighbors. The United States has to take a neutral position on the claims but has proposed a fairer way of settling them — through negotiation and “without coercion, without intimidation, without threats and without the use of force.”中国は領土問題を二国間問題として扱うことを好むだろう。そうしておけば、相手国を力でねじ伏せることができるからだ。米国は、領土主張については中立的な立ち場を取らねばならないが、解決に向けて公正な手法を提案している。それは、交渉によって、「強制なく、威嚇なく、脅威なく、そしてかつ武力行使を伴わず、推進されるものである。
こうした背景があって今回、中国は、尖閣問題をネタに反日活動という対外的な失態をして米国の逆鱗に触れた。ニューヨークタイムズが示唆していた内容が表面化したわけである。レオン・パネッタ米国防長官が、習近平中国国家副主席にどやしこみ(参照)、領土・領海問題は交渉で平和的に解決すると中国に吐かせた。21日付け日経「習近平氏「領土・領海、交渉で平和的に解決」(参照) より。
【北京=島田学】中国共産党の次期トップへの就任が決まっている習近平国家副主席は21日、広西チワン族自治区南寧で開いた「中国―東南アジア諸国連合(ASEAN)博覧会」で演説し、「周辺国との領土や領海、海洋権益を巡る争いは交渉を通じて平和的に解決する」と述べた。中国の国営中央テレビが伝えた。
直接的には、フィリピンやベトナムなどと領有権を巡って対立する南シナ海問題を指すとみられる。ただ、日本政府による沖縄県尖閣諸島の国有化後、中国指導者が周辺国との領土を巡る対立で「平和的解決」に言及したのは初めて。国際社会で中国の海洋進出への懸念が高まっていることを念頭に「我々は永遠に覇権を唱えない」とも強調した。
習氏は20日にはベトナムのグエン・タン・ズン首相とも会談。南シナ海問題について「この問題が中越関係のすべてではないが、処理を誤れば両国全体に影響を及ぼす」と指摘。ズン首相も「両国に見解の違いはあるが、交渉と協議を通じて適切に解決したい」と応じた。中国の国営新華社が伝えた。
これで中国の海洋侵出の野望が終了したかというと、言うこととやることは違う中国のことだから、どういう展開になるかはわからない。おそらく手を変え品を変えて続くだろう。
日本としては、領土問題については、アジア諸国と連携し、軍事を関与させない平和解決の基準作りに着手すべきであり、そのためにもアジア諸国ともっと連携していくべきだろう。
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