逆行のエヴァンゲリオン 〜使徒逆転〜
第九話 いざ、決戦の時へ

沖縄近海に出現した使徒ガギエルを迎撃するため、エヴァ3機は空路から沖縄本島の国連軍基地へと入った。
米軍基地から使徒の脅威に備え国連直轄となったこの基地は、エヴァのアンビリカルケーブルなどバックアップ体制が整っていた。
ゲンドウ達はこの基地が整備されたのは、ゼーレが裏から手を回したのだと勘付いていた。
そしてネルフ本部のセントラルドグマを目指してやって来ないと言う使徒の奇妙な行動によって、『ネブカドネザルの鍵』は沖縄付近に隠されているとゲンドウは確信を得た。

「どうしてアタシとシンジは待機なワケ?」

基地に到着するなり初号機と弐号機の待機命令を受けたアスカは、不満を漏らした。

「きっと配備された伍号機とパイロットの実力を見極めたいって言う上層部の意向があるんじゃないかしら」

ゲンドウから詳しい理由は聞かされていないミサトはそのように推測してシンジ達に話した。
他に戦略自衛隊のトライデント級陸上軽巡洋艦も3隻バックアップとして作戦に参加するとミサトから聞かされたシンジ達は驚いて顔を見合わせる。

「マナ達、大丈夫かな」
「マリがさっさと使徒を倒せばいいだけの話よ」

ミサトは新兵器『垂直式使徒キャッチャー』で海を泳ぎまわる使徒ガギエルを釣り上げる作戦を立てた。
伍号機は巨大な釣竿を構えてアタリが来るのを待つ。
餌となるのは、生きている使徒と同じ電子信号を発信するリツコ特製の釣り針だ。
あの使徒サンダルフォンから得たデータのおかげでMAGIも使徒と間違えるほど精巧に作られている。
長期戦となると考えたミサトは、シンジとアスカにエヴァから降りて待機室でリラックスしながら待つように伝えた。
そして待機室ではレイとカヲルが真剣な表情で2人を待っていた。

「たいした使徒じゃないから、綾波達が心配する事は無いと思うよ」
「そうそう、使徒をやっつけた後みんなでスキューバしましょうよ!」
「違うの!」

大声でレイが怒鳴ると、シンジとアスカは固まってしまった。
レイは厳しい形相でにらみつけると、部屋は沈黙に包まれる。
シンジとアスカはじっと黙ってレイの言葉を待った。
大事な話ができる準備が整ったと判断したレイは話を始める。

「私達がここに来たのは、碇君達に『ネブカドネザルの鍵』の事を伝えるためなの」
「ネブカドネザルの鍵?」

レイの言葉にシンジとアスカは揃って驚きの声を上げた。
訳が分からないと言った様子のシンジ達に、カヲルは逆行後の世界で新たに発生したイレギュラー要素なのだと告げる。

「どうやらネブカドネザルの鍵は、その名前が示す通りサードインパクトの”鍵”となる物らしいんだ」
「前の世界でサードインパクトが起きた時、ネブカドネザルの鍵は不完全な形だったから、正確な逆行が出来なかったみたいなの」
「……ネブカドネザルの鍵を持っているヤツが新たな世界の創造者になれるってわけね」

カヲルとレイの説明を聞いたアスカは冷や汗を浮かべながらつぶやいた。
途方も無いスケールの話に身震いを隠せない。

「そのネブカドネザルの鍵を隠し持っているのが『ゼーレ』なのさ」

カヲルがそう言うとアスカとシンジは青ざめた顔になった。
ゼーレとは人類補完計画を発動させようと暗躍する組織だと、シンジとアスカもレイ達から聞いていたのだ。

「でもどうやってレイがネブカドネザルの鍵の事を知ったのよ?」
「私達に教えてくれたのは碇司令なの」
「父さんが……?」

アスカに尋ねられたレイがそう答えると、シンジは大きく口を開いて驚いた。

「碇司令は使徒の力を得ていたから世界の逆行による影響を受けなかったんだろうね」

カヲルがそうつぶやいた後、レイは意を決して落ち着いた低い声でシンジとアスカに向かって告げる。

「ゼーレがこの基地に隠しているネブカドネザルの鍵を手に入れる、それが初号機と弐号機を待機任務に就かせた理由よ」

レイの言葉を聞いたシンジは目を見開き固まってしまった。
ゲンドウは自分達に強奪行為をさせようと言うのだ。

「だけど司令はネブカドネザルの鍵を手に入れるために、アタシ達を利用しようとしているんじゃないの?」

アスカは疑いを隠さない表情でそうぼやいた。

「司令はネブカドネザルの鍵を手に入れても、渡さなくても良いって言っていたわ。……世界の命運は碇君に託すって」

シンジにとってレイの言葉は驚きの連続であり、頭の中のCPUの処理が追いついていない状況だった。
熱暴走を起こしそうな頭脳を必死に落ち着かせようとするが、上手く行かない。
アスカは深呼吸した後、ゆっくりとした口調でレイに尋ねる。

「……分かったわ、それでアタシ達はどう動けばいいの?」
「伍号機が使徒を倒しそうになったタイミングで、この基地の倉庫を破壊してネブカドネザルの鍵を強奪し敵対勢力が撤退するまで防衛。この作戦はネルフ本部の発令所に居る碇司令が指揮を執るわ」
「そんな、倒す相手は使徒じゃないなんて……」

シンジは動揺から抜け出せない様子だった。

「ネブカドネザルの鍵をゼーレに持たせて置くわけにはいかないわ」
「この使徒との戦いが終われば、きっとまたゼーレは他の場所に隠してしまうだろうね。だからこのチャンスを逃すわけにはいかないんだ」

レイとカヲルがシンジを説得しようとするが、シンジは黙って下を向いていた。

「しゃきっとしなさい、ここでアタシ達が頑張らないと多くの人が傷つくことになるのよ」
「どういう事?」

アスカに肩をつかまれて声を掛けられたシンジは、驚いて顔を上げた。

「碇司令はネルフの軍隊を総動員しても、ネブカドネザルの鍵を手に入れようとするはずよ。だけどエヴァならばATフィールドを張って防戦に徹する事が出来るわ」
「……うん」

シンジが決意を固めた表情でうなずくと、アスカ達も少し安心した顔になった。
そしてシンジとアスカが初号機と弐号機に乗り込んだタイミングで、波乱含みの使徒殲滅作戦が開始された。
本部に居るリツコは遠隔操作により伍号機の持っている垂直式使徒キャッチャーの針から発せられる信号を強化する。

「おっ、アタリが来た来たっ!」

マリは伍号機で垂直式使徒キャッチャー(巨大な釣竿)を振り回し、針に食らいついた使徒ガギエルと格闘を始めた。
並外れた巨体を持つ使徒ガギエルは、エヴァでも釣り上げるのはとても難しい。

「よっ、はっ」

針をくわえた使徒が跳ね上がり、水面から姿を現した瞬間が攻撃のチャンスだった。
ATフィールドをまとった固い外皮を持つ使徒ガギエルに対し、ミサトは釣り針を爆発させ、使徒の口を開かせて内部のコアを破壊する作戦を立てたのだ。
伍号機が攻撃のチャンスをうかがっている間、シンジ達も基地からネブカドネザルの鍵を持ち出そうとする者がいないか目を光らせた。
ここで取り逃がしてしまえば、ゼーレは裏切ったネルフに最大限の警戒をしてしまいネブカドネザルの鍵を探すのは難しくなる。

「シンジ君、アスカ、鍵はまだ倉庫の中にあると考えられるわ、準備は良い?」
「はい」

極秘回線を通じて伝えられたリツコの言葉に、初号機のエントリープラグの中でシンジは真剣な表情で答えた。
伍号機と使徒との死闘を見守っていた群衆から歓声が上がる。
ついにマリは使徒を釣り上げたようだ。
大きな爆発音が響き、使徒はその衝撃で大きく口を開いた。

「今よ、ゲイボルグの槍を使って!」
「いえっさー!」

ミサトの言葉にマリは元気良く返事をして、手に持っていた垂直式使徒キャッチャーを槍へと変形させ、使徒の口へとねじ込んだ!
槍の一撃を受けた使徒ガギエルはコアを貫かれ、大きな水しぶきを上げて伍号機の手から離れた槍と共に海中へと沈んで行った。
使徒の殲滅が確認されると、ミサトの居る国連軍の作戦司令室にも歓喜の声が響き渡る。
しかしそれはすぐに困惑の喧騒に取って代わった。
初号機と弐号機が軍の倉庫を襲撃したのだ。

「シンジ君、アスカ、何をしているの!?」

ミサトが問い掛けてもエントリープラグの中のシンジとアスカは無表情で何も答えない。
国連軍の士官は慌てて部屋を出ていく。
それ以上侵入すれば攻撃を開始すると警告を無視した初号機と弐号機に向かって、国連軍は攻撃開始した。
使徒殲滅作戦に参加したマナ達が乗るトライデント級陸上軽巡洋艦とも戦う事になったシンジ達は心を痛めたが、なるべく傷つけないように追い払うしかなかった。
国連軍は初号機と弐号機のアンビリカルケーブルを外すように指示をする。
これで電源の無くなったエヴァは数分で停止するはずだった。
初号機はゲンドウの指示に従い弐号機と共に基地の倉庫へ侵入し、ネブカドネザルの鍵を手のひらの中に収める。

「これがネブカドネザルの鍵……」

初号機の手の中で淡い光を放つ、人間の遺伝子の螺旋構造の様な形をした物体を眺めていた。

「おっと、その鍵は渡すわけにはいかないね!」

そう言って初号機と弐号機の前に現れたのは、伍号機だった。

「待ってよ、僕は戦いたくない!」
「アンタだって、ゼーレがこの鍵を持っていたらヤバいって解ってるでしょ?」

シンジとアスカは伍号機のマリに向かって、ゼーレが人類補完計画の黒幕である事を話した。

「ふーん、祖父(じい)ちゃん達はそんな事を企んでいたのか」

マリはそうつぶやくと、戦闘の構えを解いた。
説得が通じたとシンジとアスカは安心してため息をついた。
しかし次の瞬間、伍号機のエントリープラグに警報が鳴り響く。

「何これ……ビーストモード強制発動コード……?」

その時、マリの頭に着けられたシンクロ用のインターフェイス・ヘッドギアが警告音と共に光り始め、マリは頭を抱えて苦しみだした。

「ど、どうしたのよ、マリ?」

アスカの呼びかけにマリは応答せず、伍号機は突然初号機に向かってローキックを繰り出した!

「ぐっ!」

初号機の脇腹に食らったキックの痛みがシンクロし、シンジは声を上げた。

「ちょっと、何するのよ?」

アスカが問い掛けても、エントリープラグの中のマリは獣のような唸り声を上げるだけだった。
伍号機は四つん這いになり、獣のような荒々しい動きで初号機と弐号機に襲い掛かる。
周りを取り囲む国連軍や戦略自衛隊、マナ達の乗るトライデント級陸上軽巡洋艦は攻撃の手を休め、ぼう然とエヴァ同士の戦いを眺めていた。

「きっとマリはあのヘッドギアを被せられたせいでおかしくなっているんだわ」
「そんな……じゃあ倒すしかないの!?」

アスカの言葉を聞いたシンジは叫び声を上げた。
そこへレイが通信に割り込んでくる。

「碇君、惣流さん、しばらくの間伍号機を取り押さえていてくれるかしら」
「えっ?」
「渚君が伍号機のエントリープラグへ向かっているわ」

レイはシンジとアスカに、カヲルがエントリープラグの中に居るマリを助け出せば伍号機を止められると話した。

「うん、やってみるよ」

マリを救えると分かったシンジは凛とした表情でうなずいた。
シンジとアスカは息の合ったユニゾンで両脇から伍号機をつかんで羽交い絞めにする。

「くっ、凄い力だ」
「暴れるなって言うのがわからないの……!」

アンビリカルケーブルが切断された事により、エヴァの内部電源はとっくに切れている。
相手はATフィールドを持つ同じエヴァ、シンジとアスカは力を使いながら必死に耐え続けた。
シンジ達が伍号機の動きを抑えている間に、空中を飛ぶカヲルは伍号機の背後へと近づく。

「さあ、道を開いておくれ」

カヲルが伍号機の背中に呼びかけて視線を送ると、伍号機のエントリープラグが少しだけ顔を出した。
露出したエントリープラグの入口からカヲルは中へと侵入した。
そしてカヲルは操縦席でヘッドギアを着けられて苦しんでいるマリの姿を見つける。

「今、君を呪縛から解放してあげるよ」

カヲルはそうつぶやくと、マリの頭からヘッドギアをはずした。
ヘッドギアを外されたマリはぐったりと気絶した。
気を失ったマリを、カヲルはお姫様抱っこして外へと助け出すのだった。
ネルフのゼーレに対する反乱劇は、国連軍によるゼーレ幹部の逮捕と言う形であっさりと幕を下ろした。
逆行前の世界で政府や国連軍との関係が大切だと思い知らされたゲンドウは、冬月に任せ切りだった要人達との交渉に自ら顔を出していた。
さらにゲンドウはゼーレを裏切る前に、様々なところに根回しをして地盤を固めていたのだ。
巨大な財団であったゼーレを上回る活動資金の源は、未来を知っていたゲンドウの株取引による利益であると後に推測された。
ゲンドウはネルフが反乱を起こしたのではなく、ゼーレの側がネルフを滅ぼそうとして沖縄基地に爆弾を隠し持っていたのだと言う説明で周囲を納得させてしまった。

「これで老人達のシナリオは完全に破綻したな」
「ネブカドネザルの鍵さえ手に入れば、用はありませんよ」

冬月のつぶやきにゲンドウはそう答えたのだった。
国連軍や日本政府、戦略自衛隊とも協力関係を維持する事が出来て一安心のネルフだったが、油断はできない。
まだ全ての使徒を殲滅したわけではないのだ。



「やれやれ、やっと幽霊生活から抜け出す事が出来たよ」
「よかったね、カヲル君」

ゲンドウとの和解を果たしゼーレの脅威が消え去った事により、カヲルは身を隠さずに普通の生活を送れるようになった。
これからはカヲルもシンジ達と一緒に夕食を取ったり学校に通ったりできるのだ。

「惣流だけじゃなくて、綾波にも付き合っている相手が居たのか」
「別に私は渚君と付き合っているわけじゃないわ……」

ケンスケに冷やかされたレイは顔を赤くして答えた。

「そう言や、あの眼鏡を掛けた子はこの学校に来ないのか、同じエヴァのパイロットなんだろう?」
「相田ってば、レイに脈が無いからってマリに乗り換えたの?」
「そんなんじゃないよ」

アスカが言い返すと、ケンスケは否定した。

「真希波さんはネルフの病院に入院しているんだ」
「エヴァのパイロットって危険と隣り合わせやしな」

シンジが答えると、トウジは深いため息をついた。

「今度、お見舞いに行っても良い?」
「ええ、たぶんマリも喜ぶと思うわ」

ヒカリが尋ねると、アスカは笑顔でそう答えた。
未調整のエヴァ伍号機でビーストモードを強制発動されたマリは、身体的にも精神的にも大きなダメージを負ってしまった。
ゼーレはマリにスパイをさせるために生身でもビーストモードを使えるように強化手術を施していたようで、マリの視力が悪いのもその手術の影響だろうとリツコは推測していた。
マリは理性を失いベッドに寝かしつけられているような状態だったので、似たような経験をしたアスカやそんなアスカの様子を目の当たりにしたシンジにとっては胸が痛むほど心配だった。

「真希波さん、回復してくれると良いけど……」
「アタシ達が諦めなければ大丈夫よ、アタシだってシンジ達が居てくれたからこうして完全に立ち直れたんだもの」
「そうだね」

シンジはアスカの言葉を聞いて笑顔で微笑んだ。



空中を浮遊する正八面体の使徒、ラミエルが襲来したのはしばらくしての事だった。
ネルフは以前の世界でミサトの立てた「ヤシマ作戦」で迎撃する準備を整えていた。
電力については日本全国からの徴収に加えて、ジェットアローンの動力源に使用されていた原子炉を発電施設に転用させるなど、万全を期した。
日本重化学工業共同や政府関係者、戦略自衛隊のスムーズな協力を得る事が出来たのもゲンドウの外交努力と根回しの賜物(たまもの)だった。
マリが回復していないため、作戦は初号機と弐号機で遂行されることになった。

「思ったんだけどさ、あの使徒がビームを打っている間に後ろに回り込んで打てば楽勝じゃない?」
「なるほど、ダミーの標的を用意すれば良いわけね」

アスカの提案はナイスアイディアだとミサトも絶賛したが、無人戦闘機による攻撃により覆されることになった。
数機の戦闘機から同時攻撃を受けた使徒ラミエルは、ビームを拡散させて複数の標的を撃ち落としたのだった。
しかもそのビームは角度をつけて曲げられており、背後方向から迫った戦闘機も撃墜されてしまった。
その様子を見たレイはぽつりとつぶやく。

「……使徒は確実に進化しているんだわ」
「これでは盾も役に立たないわね」
「じゃあアタシがATフィールドのバリアーを張って、シンジを守るわ」

ミサトの言葉を聞いたアスカは、ディフェンスに立候補した。

「でも……!」
「射撃はシンジの方が得意そうだから任せるわ、その代わり、きっちりしとめるのよ」
「うん、分かったよ」

自分もアスカの事を守りたいと思ったシンジだが、アスカに言われてオフェンスを引き受けた。
使徒ラミエルが拡散ビームを使うと知ったミサトは、シンジがポジトロンライフルを撃つタイミングで周囲から砲撃を加える作戦を思い付いた。
ポジトロンライフルにエネルギーが集まると、使徒ラミエルもビームを放つためのエネルギー充填を始める。
その動きを察知したミサトは、周囲の砲撃施設に攻撃を開始するように命令を下した。
使徒ラミエルを覆うATフィールドに弾幕が生じ、使徒ラミエルは全方位に拡散ビームを発射する。
アスカの張り巡らせたドーム型のATフィールドにも拡散ビームが降り注いだ。

「アスカ、大丈夫?」
「このくらい平気よ!」

シンジの問い掛けに、アスカは元気に答えた。
しかし次の瞬間、使徒ラミエルの八面体の体の頂点から6本のビームが発射され、ATフィールドのバリアを張る弐号機に向かって集中したのだ!

「きゃあああっ!」

ATフィールドを貫かれ、アスカは大きな悲鳴を上げた。

「このっ!」

その直後のタイミングで初号機のポジトロンライフルからも使徒ラミエルに向かって収束されたビームが解き放たれる!
使徒ラミエルはコアを貫かれ、黒い煙を上げながら墜落した。

「アスカ!」

シンジが初号機のエントリープラグの中から呼び掛けてもアスカの返事は無い。
居ても経っても居られなくなったシンジは初号機を飛び出し、強制排出信号により射出された弐号機のエントリープラグへと乗り込んだ。
操縦席に座ったアスカは意識を失ってぐったりとしている。

「アスカ、目を覚ましてよ。僕はアスカを犠牲にして生き延びたって、ちっとも嬉しくないよ!」

反応を示さないアスカの前で、シンジはお尻がLCLに濡れるのも構わず座り込んでしまった。
ネルフの救護班が到着し、アスカは担架で運ばれて行った。
ぼうぜんとした表情のシンジの肩に、ミサトは優しく手を掛けて励ます。

「衝撃はプラグスーツが和らげてくれるから大丈夫よ」
「はい、でもシンクロ率が高かったから……」

アスカはマリと同じ病室に入院する事となった。
怒りに燃えたシンジは次に襲来した使徒シャムシェルのコアを槍でメッタ刺しにして殲滅した。
残るは使徒サキエルのみとなったが、レイは初号機だけで勝てる相手ではないと予想していた。
病室にお見舞いに来たレイは、ベッドに横たわるアスカとマリに語りかける。

「お願い惣流さん、真希波さん、目を覚まして……あなた達の力を貸して欲しいの」
「葛城三佐のカレーを食べさせてみたらどうだい?」
「それはダメ、使徒を殺せそうなほどの威力だって赤木博士と碇君が言っていたから」

カヲルなりの冗談で励ましてくれていると分かっていたレイは、少し引きつった笑顔でそう答えたのだった……。

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