日刊!ニュースな本棚 
マンガばかり読んでるとバカになる
words by スズキトモユ/illustration by kashmir バックナンバー
このマンガ好きだったらこの小説読んでみなよー。この小説が面白いんなら、このマンガ、絶対おすすめ。そんなふうにおもしろい本の世界を倍々でひろげていきます。おお、二桁ですよ! な第10回は、キュートでたまらん死神さんマンガと小説を!

第10回 キュ、キュ、キュートな死神たん ――大場つぐみ・小畑健『DEATH NOTE』

「死神」。
三日月形の大鎌を手にし、黒いマントを羽織ったりする骸骨の姿が思い起こされます。不吉です。
骸骨に象徴される死神像の起源は、中世ヨーロッパまで遡ります。14世紀半ばに猛威を振るった黒死病(ペスト)により、ヨーロッパ全土で3500万人の死者が出たといわれています。死の恐怖から逃れるため、人々は半狂乱になり、倒れるまで踊り続けました。これを「死の舞踏」(ダンス・マカブル)といいます。
のちの芸術家たちが「死の舞踏」を絵画にした際、誰かれなく訪れる死の擬人化として、踊る骸骨などが描かれました。これが現在の死神像のもとになったわけです。16世紀のフランドルで活躍した画家・ブリューゲルの作品「死の勝利」には、馬上で大鎌を振るう骸骨の姿がみられます。
さて、おつぎは日本。日本の死神の場合、大鎌を振るったりはしませんが、死の使いとしての役割は担っているようです。18世紀初頭に書かれた近松門左衛門円熟期の作品『心中天の網島』には、「死神憑いた耳へは、意見も道理も入るまじ」なる一節があります。近松はほかの心中ものにおいても生のはかなさを表現するのに死神という単語を用いています。
酒飲みの八五郎が死神に死神の追い払い方を教わって……というサスペンスホラー落語『死神』。初代三遊亭円朝がイタリアのオペラ『クリスピーノ』の筋立てを落語にアレンジした、というのが定説とされています。なんと、国際的なことでしょう!

『DEATH NOTE』原作:大場つぐみ 漫画:小畑健(7巻〜)/集英社

前置きが長くなりました。今回とりあげるのは、『DEATH NOTE』。大場つぐみと小畑健のタッグによる大ヒット作であります。最新7巻で第一部完、とあいなりました。(どう終わったかは読んでみてください)

退屈な日常に飽き飽きしていた死神のリュークが人間界に落とした「デスノート」。それは、名前を書かれた人間は必ず死ぬという禁断のアイテムだった。「デスノート」を拾ったのは、類まれなる知性を有した高校生・夜神明(やがみらいと)。半信半疑ながらも、書かれたルールに従い、月はノートを使う。自分が人を殺したことに恐怖を覚えながらも、月は「デスノート」を使い、悪人が粛清された新世界を作ることを決意する。
一方、犯罪者たちが次々死んでいく不可解な事件を解決するため、「L」なる謎の人物が動き出す。月と「L」、タイプのちがう二人の天才による、壮絶な戦いが幕を開けるのだった……。

あれ? なんだか落語の『死神』に似ています。主人公が死神に生を司る特殊能力を与えられるくだりは共通。ただし、この『DEATH NOTE』。死神をも手玉に取る主役二人の尋常じゃなさっぷりが突き抜けてます。
超自然的なアイテムを用いた大量殺戮(「L」サイドからは「デスノート」の能力はわからない)という普通ならばお手上げの状況からいきなり月を追い詰めてしまう「L」。「L」の追求を退けるべく、緻密かつ巧妙きわまる計画で邪魔者を抹殺していく月。火花散らす物語は「デスノート」なる特殊アイテムをカギとしたサスペンスとも読めます。
少年漫画誌掲載とは思えないくらい大量の人死が出る、「死の物語」であるにもかかわらず、陰惨にはなりすぎない、どちらかといえば、笑える物語になっているのも不思議。物語にはどこか飄々とした雰囲気が漂っているのです。これは原作の大場つぐみの手柄でしょう。
また、登場人物たちの印象的な表情も見逃せません。最新7巻、第一部クライマックスにおける月のツラはたいへんなことに。デスノコラと呼ばれるコラージュ大流行なのもうなずけます。

そして、忘れてはいけないのが、死神。「人間って面白!」が口癖でリンゴ大好きな死神リュークの愛らしさは筆舌に尽くしがたいですし、死神とは思えないレムの一途な思いにも心打たれます。単行本7巻にもちょろっと登場している新死神・シドウのキャラもすごい。まったく目がはなせません。彼ら(彼女ら)死神の存在は、神を自称する存在による無差別粛清という、人間界を揺るがすような事態をも客観視し、しらじらしいユーモアを付加する役割を担っているとも思います。作品にとって死神の存在は大きい。個人的には死神マンガと認定したいぐらいであります。

仮にリュークが死んだとしたら、ぼくは泣くと思います。

『死神の精度』伊坂幸太郎/文藝春秋

さて、小説。伊坂幸太郎の新刊『死神の精度』をご紹介しましょう。
物語の主人公は死神。ふさわしい外見を与えられ、彼らはターゲットのもとに現れます。そして一週間、ターゲットと接触し、「可」ならば8日目にターゲットは死に、「見送り」ならば、死にません。つまり、ターゲットが死に値する人物なのかを見極める、一種の調査員であります。そんな死神が遭遇した事件を描いた連作短編集がこの『死神の精度』であります。表題作は第57回日本推理作家協会賞短編部門を受賞しました。

『DEATH NOTE』と同様、この作品も死神の造形が素晴らしい。音楽をこよなく愛し、仕事となれば、雨降りで、人間界の知識がないから受け答えはズレまくり。調子っぱずれのやりとりがオフビートな魅力を生んでいるあたりも『DEATH NOTE』と共通であります。
収録6篇、わりといいお話ぞろいなんですが、当の死神はあんまりピンときてなさそうなあたりも面白いですね。
人によっては鼻につくところもある(失礼)、伊坂幸太郎作品としては珍しく万人に薦められる作品だと思います。人外の存在だからいいんでしょうね。

中世ヨーロッパの「死の舞踏」絵画、落語『死神』、そして『DEATH NOTE』、『死神の精度』。程度の違いこそあれ、どれも死を超えたところにあるユーモアなのではないかと思います。死を思い、死を忘れるな、メメント・モリ!(だっけ?) そして、けらけらと笑いましょう。


本の妖精トモトモ

(文・スズキトモユ/見下げはてな 絵・kashmir/lowlife

マンガばかり読んでるとバカになるバックナンバー
ブックストップに戻る