人身事故防止、鳥獣被害軽減、大型野生動物たちの絶滅阻止

 ドングリ運びに関する 日本熊森協会の見解 (2004.11)

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奥山自然林の復元ができるまでは、奥山の凶作年、食べもののない動物たちへ、都会のどんぐりを運びます。動物たちを森の中に1日でも多くとどめ、殺すことなく獣害発生の減少をはかるのが目的です。大凶作年であった2006年は、8tのどんぐりを運びました。

どんぐり運びについての概要はこちら

また、クマなど、野生動物が多く出没・目撃される地域で、ドングリや果実などを受けつけ、該当地へ運搬してくださる有志の方を随時募集しておりま す。野生動物緊急食糧援助(どんぐり運び)が、あくまで当協会の奥山保全・再生プロジェクトを遂行する上での必要な処置であることをご理解頂き、ご協力下 さる個人、団体、市町村がございましたら、本部までお問い合わせください。0798-22-4190 ありがとうございます。

どんぐり運び批判に関しては、こちらをご参照ください(ブログ)

ドングリ運びについての日本熊森協会の見解(2004年11月)

ドングリ運びについての批判が、一部の研究者と呼ばれる人や一部の自然保護団体から出されました。一見、正論のようですが、このような方々は、日本の奥山の現状や野生動物の現状をご存知ないのではないでしょうか。 大手自然保護団体のホームページに載せられた下記のような指摘に対して、私たちは以下のように考えます。

〈指摘①〉必ずクマがそれを見つけて食べる状況にはない。

【熊森の見解】私たちは、奥地に入ってクマの痕跡を調べ、通り道にドングリを置いています。そのため、実際、各地でクマがドングリを見つけ、食べています。

〈指摘②〉少々のドングリではクマの空腹には焼け石に水。

【熊森の見解】焼け石に水なのは、言われなくてもわかっています。しかし、何らかの行動を起こすことによって、暴走する駆除に何とか歯止めをかけたいという人たちが誕生し、大きな力になっていくのです。熊森は、兵庫県で、県や地元に働きかけ、日本で一番進んだクマの保護体制をつくってきましたが、それは、ドングリ運びから始まりました。北陸でドングリ運びを呼びかけたことで、次々と会員が誕生し、クマの駆除を止めるための活動が始まっています。1頭のクマを1日でも里に出て来なくていいようにしたいという気持ちから、大きな流れが生まれていきます。大切なのは、人々に共存の心を呼び起こすことです。

〈指摘③〉野生動物は秋の実りの多寡によって個体数を調節しており、人為が介入するべきではない。

【熊森の見解】豊かな森が保全されていれば、山の実りが凶作でも、異常気象の年がきても、野生動物は絶滅しません。よって、人間が手を加えるべきではありません。しかし、人間によるスギ・ヒノキの人工林化、開発、地球温暖化によるミズナラの大量枯死などで、奥山に野生動物の棲める環境がなくなっています。奥地の森が、すでにボロボロの状態である上に、凶作や異常気象が重なると、人間が手を差しのべない限り、絶滅の危機にある野生動物は絶滅します。

〈指摘④〉それぞれの地域にその地域のドングリを食べる動物がいる。ドングリを拾ってよその地域に移すと、その地域の動物の食糧を奪うことになる。

【熊森の見解】私たちは都市の公園などのドングリを集めるように働きかけているので、あてはまりません。

〈指摘⑤〉ドングリにも本来の生育地があり、他地域のドングリをばらまくべきではない。(遺伝子の攪乱)。またドングリにドングリを食べる虫が付いており、それらの病害虫の管理なしにむやみに他の地域に持ち込むのは植物防疫上も問題。

【熊森の見解】私たちは、これまで、外来種の国内持ち込み、国内種の移動、品種改良種を自然界に持ち込むことについては、強く反対してきました。その立場は変わりません。しかし、実際のところ、原生の森を伐採し、雪国の奥山に植えられたスギは、九州や四国の苗ですし、里山のクヌギなどの落葉広葉樹は、元々生えていたシラカシやアラカシなどの常緑樹を切り、各地の苗木を取り寄せ植えたものです。さらに、少し前まで日本の森の中にいた昆虫類の多くが消え、地球温暖化により、見たことも無い亜熱帯性の昆虫やキノコが次々と繁殖しています。私たちは原生林ではなく、このような、すでに人為的な遺伝子撹乱が起こっている場所にドングリを置いていることをお知り置きください。 また、何年にもわたって検証を続けていますが、運び込んだドングリから芽が出て育ったものを見たことがありません。平地の気候風土で育ったドングリが、雪深いクマの生息地で発芽する可能性は大変低いものです。第一、ドングリの山は、置かれるや否や、虫と一緒に動物の胃袋に入ってしまいます。 ドングリにつく虫については、熊森の顧問が調べ、今、わかっている範囲では問題がないということでしたが、自然界には人間には計り知れないことが多いため、私たちこそ、気にしています。 しかし、起こらないかも知れないリスクを恐れて何もせず、奥山生態系の頂点に立つクマを人間が射殺し続けるなら、クマは絶滅し、それこそ生態系に取り返しのつかない破壊を確実にもたらします。私たちは、他に対策がないなかで、専門家とも相談しながら、駆除を止めるきっかけをつくるために、北陸でのドングリ運びに踏み切りました。ドングリ運びには99.99…%問題はないと考えていますが、少しでもリスクを減らすため、来年からは、各地域でドングリを集めて運んでもらおうと考えています。うれしいことに、今年のドングリ運びの呼びかけで、そういった地元での体制ができてきました。 ドングリ運びは、最良の方法ではなく、あくまで緊急避難的措置です。ドングリ運びをしなくすむように、自然の森を復元させることが日本熊森協会の活動の最終目標です。

〈指摘⑥〉クマが、人のにおいの付いた大量のドングリを食べて、人のにおいとドングリという食べ物を関連づけて「人の気配=餌にありつける」と学習した場合には、かえって危険な状況になる。

【熊森の見解】人間による生息環境の悪化で、野生動物は奥山では生きられなくなっており、凶作年はほとんど、人里のエサを食べています。「人の気配=餌にありつける」と学習するのであれば、もうとっくにしています。兵庫県で調べている限りでは、山にあるエサのある豊作年は、ツキノワグマは見事に人里に出てきません。山の実りの凶作年に、けもの道へとドングリを運び、クマが人里に出てこないようにすることは、餌付けとは全く別のものです。

過去数年間ドングリ運びを実施・検証して来た限り、指摘を受けたような問題は起きていません。しかし、自然を人間が完全に把握することなど永久に不可能な上、短期間ではわからないことが多くあります。私たちの活動に関心を持ち、今回、疑問を発してくださった方に、感謝しています。 奥山保全は、全国民が力をあわせて進めなければ、達成できません。今後、多くの方の衆知を集めて、いっそういい活動にしていきたいと思っています。