超短篇集 (佐藤潤)
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第九話 『悩む男』



 彼女は僕の患者だ。彼女には七歳になる息子がいる。同じ年齢の男児よりも体が小さいが、明るく朗らかで母親思いのごく普通の少年だ。──── 生まれつき手足がないというハンディキャップを除けば。

 周りの奇異の目にさらされた彼女は、精神的に疲れ果て僕の元へ訪れた。今では、少年の明るさに助けられたのか随分と安定している。僕自身あまり力になれていないのが口惜しくはあるけれど。

「友達がたくさん、ですか。それはよかったですね」

「ええ。昨日なんか、ドッジボールと、サッカーをして遊んだそうで。泥だらけで帰って来ました。生傷が絶えませんが、息子が楽しそうなので……」

「……そう、ですか」

 彼女は嬉しそうに僕へお辞儀をすると診察室を後にした。僕は彼女の華奢な背中を見つめながら少しだけ悩んで。電話の受話器を手に取った。


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