超短篇集 (佐藤潤)
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超短篇集

第一話 『不器用な男』

 一昨日は人気のない山へ、足を運んだ。昨日は散々と悩んだ問題も解決した。苦労して、手を焼いた甲斐があったというものだ。今日は、頭を抱えたままうろうろしている。……さて、これをどうしたものか。


第二話 『鈍感な男』

 一人の男がいる。女が愛の言葉を囁いても、髪型を変えても、他の男に抱かれていても──── 気がつかない優しいだけの男。

「このスコップや鉈や麻袋は何に使うんだい」

「ええ。庭の手入れに。『ボリジ』の花を植えるわ。綺麗な青色であなたにぴったり」

「そうか、それは楽しみだね」

 数ヶ月後。庭の片隅には、色鮮やかなボリジの一群が咲いていた────


第三話 『笑う男』

 僕は郵便局の職員として、こつこつと働いている。その甲斐あって今では街の隅々まで把握出来ているほどだ。そんな何の取り柄もない僕にも彼女が出来た。だが、幸せは続かなかった。ある日僕の元へこんな手紙が届いた。

「女はXX町XX番地にあるXXビルに監禁してある。金を用意しろ。女はその場で解放してやる」

 ……馬鹿な連中だ。本当に……馬鹿だ。僕はその場に。笑いながら泣き崩れた。


第四話 『種をまく男』

 あるところにとても仲の良い夫婦がおりました。男は毎晩、畑へ種を蒔きますが芽は出ません。男の母親は「畑が悪い」と怒り、「もっと良い畑へ変えろ」と男へ迫りました。それでも男は毎晩、種を蒔きます。それでも──── 畑に芽が出ることはありませんでした。業を煮やした母親は男には内緒で畑に色んな種を蒔きました。その御陰で見事に畑は芽吹き、やがて玉のような実がなりました。ですが──── 男はそれを見た途端、悲しみに暮れ首を縊って死んでしまいました。


第五話 『後悔する男』

「恐い映画だったね」

「そうだね……」

 彼女は恐がりだ。だというのに部屋には恐いDVDが何本もある。恐いもの見たさというヤツなのかも知れない。僕がそんなことを考えていると訪問者を告げる無粋な音が聞こえた。

「誰か来たみたい。待ってて」

「うん」

 僕は映画が終わったTV画面を見つめる。TV画面の中では、顔の見分けもつかないような知らないアイドルのCMが流れていた。僕の彼女の方がずっと可愛い。

「宅配便だった」

「そう」

「お互い明日も早いし、そろそろ寝ようか」

「うん」

「大好きだよ……」

「僕も」

 ──── 彼女が殺されたことを知ったのは翌日だった。宅配便を装った男が侵入。彼女は朝まで乱暴された挙げ句、首を絞められて殺害。僕は涙を流しながら。彼女の甘い言葉と温もりが未だ感じられる携帯電話を見つめていた。


第六話 『腹が減った男』

「ん? あぁ、これか。ったく誰彼かまわず喧嘩売りやがって……あぁ、たいしたことはねぇさ。年は取ったと言っても餓鬼になんか負けねぇよ。親の顔を見てみてぇぜ。ん? あぁ、腹か? ついでに食ってきた。にしても……最近の餓鬼は、歯ごたえがねぇな」




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