高校講座HOME >> 芸術(美術T/書道T) >> 第15回 漫画はやっぱりおもしろい 〜人物〜
みなさんこんにちは!
美術の聞き手はKIKIさんです。
今回のテーマは「漫画」です。
今や日本を代表するアートのひとつである漫画の面白さを探っていきましょう!
今回の講師は漫画家・荒木飛呂彦さん。
代表作「ジョジョの奇妙な冒険」のシリーズは、ある一族の世代を超えて続く戦いの物語です。
連載は25年を超え、現在も第8部を執筆中です。
存在感抜群のキャラクターが繰り広げる予想を超えるスト―リー。
相手を老化させて自由を奪ったり、重力を操ったりするなど、特殊な能力を描くために、漫画でしかできない表現を開拓してきました。
荒木さんの作品は海外からも注目を集めています。
2009年にはフランスのルーブル美術館で原画展が開催されました。
荒木さんのワークショップに参加するのは、東京都立総合芸術高等学校のみなさんです。
漫画をつくるときに1番重要なのが、魅力的なキャラクター。
「ジョジョの奇妙な冒険」の場合、キャラクターを作っていくことで、ストーリーが自然にできあがったそうです。
今回は漫画の要であるキャラクターを作ってみましょう!
ここで荒木さんが取り出したのは道路交通標識!
“標識を擬人化して、その世界観を表してみよう”というワークショップのはじまりです!
荒木さんはずっと「人間賛歌」というテーマを貫いてきたといいます。
KIKI「人間賛歌とは?」
荒木「人間中心に描くということは、主人公が道具を使って問題を解決したり、急に神様が出てきて助けてもらったり…ということをしない、ということです。あくまでも自分で切り開いて、自分の知恵や心を使って物事に立ち向かっていく。ルネッサンスの思想とかの影響なんですよね。人間は素晴らしいんだっていう。人間を描くのが一番面白いと思うし、みんなが興味あるのは人物だと思うんですよね。という意味でキャラクターかなと。」
KIKI「例えばキャラクターが人間じゃなくても、ちゃんと性格があったら…」
荒木「そうですね。そこに何かを埋えつけてあげれば、すべてのキャラクターは動いてくると思います。僕の場合は、そのキャラクターに前向きな行動理由を付けているんです。読んだ人が力が湧くような、そういうのが描きたいです。」
荒木さん流、キャラクター作りの方法を伝授!
まず、項目が60近くある「キャラクター身上調査書」に家族関係や癖、恐れているものなどを書きこんでいきます。
例えば、運動が苦手なキャラクターで登場しているのに、戦っている間に急に強くなってしまうようなキャラクターが漫画には時々出てきます。
「キャラクター身上調査書」は、そういうことを防ぐための設計図のようなものです。
荒木さんが「止まれ」の標識から作ったキャラクター「トビ―」。
道路上で他人の動きを一瞬だけ止められます。
特技は書道2段なので、一瞬止めたときに落書きをしていたずらをするというキャラクターだそうです。
キャラクターをつくる上で重要なのは弱点です。
トビ―は小さい頃、池でおぼれてみんなに笑われた経験があるので、水におぼれることが嫌いです。
そして、対称形じゃない「止」などの文字も嫌いです。つまり、あまり自分のことが好きではないキャラクターです。
こうして、自分の頭の中にトビ―が実際にいるように感じられるようになることが重要なのです。
2011年、世界的なファッションブランドのディスプレイに荒木さんの作品が飾られました。
ファッション雑誌でも企画が組まれ、表紙にもなりました。
担当者は、荒木さんの作品にはファッション誌の表紙を飾るのにふさわしい力があると言います。
表紙は、写真のもっているムードみたいなものを、見た人が「いいな」と思えないといけません。
荒木さんの描いた表紙を見ると、スタイリスト、ヘアメイク、カメラマン、すべてを荒木さんがやっているようなものです。
荒木さんを知らない人でも目に留まるような絵で、とても効果のある表紙になっています。
マンガがファッションの新たな可能性を開きました!
調査書を使ったキャラクターづくりを進めます。
荒木さんは、父親と母親の関係がキャラクターの性格などにつながるようにしているそうですよ。
みなさん、キャラクターのイメージがわいてきたようです。
最後はストーリーにして発表してもらいます!
幼い頃、寝る前の読書は漫画か美術全集だったという荒木さん。
アートからさまざまなヒントを得てきました。
荒木「いろいろな絵があるじゃないですか。自分では考えられない世界とか、そういうのが好きで。僕はやっぱりゴーギャンが好きで。」
衝撃的だったのが、ゴーギャンの色彩。地面がピンク色だったりします。
荒木「ピンクでもいいんだ!と思ったらすごく楽しくなってきたというか。色の組み合わせのパワーっていうか、そっちの方が楽しいなと。昔の人は偉大なんです。なんかしらアイディアがあるんです。」
漫画は過去の名作の上に生み出されているのですね!
今回、アートおかんが見つけたのは、メキシコの女流画家・フリーダ・カ―ロの「傷ついた鹿」というアート作品。
印象的な顔はフリーダ自身で、度重なる大手術と夫の浮気による苦しみを糧に生まれた作品です。
でき上がった作品の発表です!
転回禁止の標識から生まれた「ロンド・サスーン」。
母親の殺害現場に居合わせてしまったため、引き返すことができない性格です。
もしあのとき行動していれば母は助かったかもしれないという思いから、もう絶対止まれないサスーンは、髪の毛を操る力で行く手を阻む敵に立ち向かいます。
車両進入禁止の標識から生まれた「赤井マチ」。
曲がったことが大嫌いで男勝りなマチ。
本当は誰より女の子らしいのに、つい強がってしまいます。
好きな先輩にも素直になれない乙女心を描きました。
指定方向以外進入禁止の標識から生まれた「すー子(すとれい子)」。
強情だけど愛されるキャラクター。
道路の安全規則を守らないと、8歳とは思えない力技をお見舞いします!
徐行の標識から生まれた「ユノ―」。
多忙な父を見て、自分はのんびり生きることにした女の子。
お茶飲み相手だった祖母が他界して2年、今は徐行の標識の下にテーブルを広げ、忙しい人を捕まえてはお茶をふるまって楽しんでいます。
落石注意の標識から生まれた「ラッキー」。
毒舌でひねくれ者。頭から本音を噴射する能力をもっています。
しかし、止まれの標識から生まれたトビ―なら時を止める能力で逃げることができます。
最後に、荒木さんの作品です!
一方通行の標識から生まれた「イッツーちゃん」。ソフトクリームを食べています。
イッツーちゃんはあまりの不味さにゴミ箱に捨てたかったのですが、ゴミ箱のある方向には行けません。
片思い中のトビ―がそれを目撃!そのソフトクリームを食べたいなぁと思っています。
すれ違ったトビ―にイッツーちゃんは「もらってくれてありがとう!」とソフトクリームを渡します。
キャラクターが息づき、物語が動き出す感覚、実感できたでしょうか?
漫画はやっぱりおもしろいですね!
※番組で紹介した、荒木飛呂彦さんオリジナル『キャラクター身上調査書』はこちら で見られます。
荒木さんからのアドバイス!
「身上調査書は、項目含めて自分で考えるのが大事」