◇秋場所<12日目>
綱とりの大関日馬富士(28)=伊勢ケ浜=は関脇豪栄道を一方的に突き倒し、初日から12連勝として単独トップを守った。
3場所ぶりの優勝を狙う横綱白鵬(27)=宮城野=は関脇妙義龍を立ち合いで圧倒し、突き倒した。平幕旭天鵬が敗れたため、1敗は白鵬1人となった。
大関稀勢の里は豊響を寄り倒し、大関鶴竜は栃煌山を寄り切って、ともに10勝目を挙げた。2敗は、この両大関に旭天鵬と高安を加えた4人。十両は勢ら3人が3敗でトップに並んだ。
左から張ると同時に右からかち上げた白鵬。その一撃でグラついた妙義龍に頭から当たり、膝から崩れ落ちていくところへ、さらに右からの張り手でとどめを刺した。
鬼気迫る4発で1敗を守ると、脳振とうを起こし動けなくなった妙義龍を横目に見ながら、小さくガッツポーズ。25本の懸賞金を振り回すように木村庄之助から奪い取った。
気迫をこれほど全面に出す横綱は見たことがない。「あれで決まるとは思わなかった。ツキもあった」。支度部屋では冷静に振り返ったが、優勝を争う日馬富士が目の前で快勝、対戦相手も新関脇で勝ち越している妙義龍。ここぞとばかりに力の差を見せつけようとしたのもうなずける。
座右の銘は「勝とうと思わないこと」と、場所前に語った。尊敬する双葉山の「必ず受けて立つ、後の先というのがある。それをイメージしてやっている」とも。
だが、こうも付け加えた。「時には、勝ちたいという相撲を取る時もありますよ。人間ですからね」と。白鵬が人間らしさをのぞかせた一瞬だった。
「負けられないという意識が立ち合いに出ていた」と、頼もしげに話したのは北の湖理事長(元横綱)だ。
この日の朝、双葉山といっしょに刻まれた肖像メダルを造幣局から贈られた。「憧れ、尊敬する横綱と同じメダルに刻まれたことは、言葉にならない」。かつて、夢の中で双葉山と稽古をしたことがある。「わたしより先輩ですから、稽古をつけてもらっていた。長い相撲でしたね。その夢を見た九州場所(2009年)で、双葉山関と同じ12回目の優勝ができました」。今場所はどんな夢を見たのだろうか。
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