ラテン・アメリカ関係

1 ラテン・アメリカ諸国との友好関係の増進

(1) 岸総理大臣のラテン・アメリカ諸国訪問

岸総理大臣は、昨年七月から八月にかけ欧州訪問に引続いてブラジル、アルゼンティン、チリ、ペルーおよびメキシコの五カ国に対する親善訪問を行なつた。これはわが国の対ラテン・アメリカ外交史上特筆すべき出来事であるとともに、彼我相互の認識を著しく増進した点、今後わが国のラテン・アメリカ外交を推進する上に極めて大きな意義があるものと考えられる。またその際岸総理大臣がこれら各国とわが国との間に存する案件につきそれぞれの政府首脳者と懇談した成果は、政治、経済ないし移住等の面において近く着々と具体化してゆくものと思われる。岸総理大臣は、ブラジルにおいてはクビチェック大統領および外相と会談したが、とくにその機会に、同大統領との間に、両国の友好関係を強調する日伯共同宣言の調印を行なつた。その後さらに現在建設中の将来の主都たるブラジリアを訪問して新興の意気にもえる同国の前途を祝し、また日系人約四十万の業績をねぎらい、またこれを激励するため、リオ・デ・ジャネイロおよびサン・パウロで在留邦人が主催する歓迎会に臨んだ。

アルゼンティンにおいては、フロンディシ大統領その他の政府首脳と、日ア両国の経済関係の緊密化について忌憚ない意見の交換を行ない、今後とも両国間の貿易を促進すべきことを約した。

チリではアレサンドリ大統領および外相、上下両院議長を訪問したが、岸総理大臣は特に同国が代議的民主制の下に政治的な安定をとらえている点に感銘をうけた。また「日本公園」「日本学校」「日本週間」などに見られるようなチリの特別な親日的感情に謝意を表わし、両国友好関係の一層の緊密化を強調した。

ペルーでは、プラド大統領その他同国政府首脳との会談において、同国とわが国とが古くから移民を通じて密接な関係を維持して来たことを強調し、今後ますます両国の関係が緊密となるように希望した。また同国に対する邦人の移住が満六十年を迎えたことを祝し、在留邦人主催の歓迎会に臨んでこれを激励した。

さらにメキシコでは、岸総理大臣はロペス・マテオス大統領その他政府首脳と会談し、とくに同国の工業化計画に対してわが国としても積極的に貢献したいという希望を述べた。

(2) 見本船「アトラス丸」の巡航

なおラテン・アメリカ諸国全般に対する関係として、同じく最初の試みであつたが、わが巡航重工業見本市アトラス丸が昨年一月ないし五月にかけてラテン・アメリカ諸国十二港を歴訪したことは、従来わが国の産業、とくに重工業部門の実情に関する認識の薄かつたこれら諸国官民の啓発に資するととも、将来におけるわが国の対ラテン・アメリカ通商関係の改善、増進、企業提携の促進に寄与するところ大であつたものと認められる。

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2 メキシコおよび中米諸国

メキシコとわが国とは歴史的、伝統的に深い友好関係にあるが、経済面、文化面等における関係も次第に緊密となつている結果、昨年から本年にかけ同国各界の人士が非公式ながら多数来日している(カラサ通信運輸次官、コルティーネス前大統領夫人、小学教育関係観光団等々)。またさきにメキシコ市に建設された日墨会館(本書第三号八八頁参照)も昨年一月正式に開館の運びとなつたが、今後の日墨親善のために同館の活動が大いに期待されている。

その他の中米諸国とわが国との関係も著しく緊密となつているが、とくにエル・サルヴァドルには昨年一月わが国の公使館が開設されたほか、同年五月には同国よりキニョーネス商工会議所会頭を団長とする訪日視察団が外務省の招客として来日し、両国親善関係の増進に少なからぬ効果をおさめた。このほどエル・サルヴァドル側が本邦に公使館を開発することとなつたのも、両国の関係増進を如実に物語るものである。また昨年二月にはニカラグアからアルミッホ勧業大臣の非公式訪日があり、さらに本年二月にはパナマのモレノ外務大臣夫妻が、同国国連大使夫妻およびコスタリカ国国連大使夫妻と共に訪台の途次、外務省の実質上の招客として滞日する等のことによつて、それぞれわが国とこれら各国との親善を強化する上に与つて力があつた。

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3 カリブ海沿岸諸国

キューバ、ドミニカ共和国、ヴェネズェラ、コロンビア、ハイティ等の諸国とわが国との政治的、経済的関係は次第に緊密となつているが、わが国とこれら諸国との間の通商貿易を改善ないし拡大する余地はなお十分にあるので、昨年十一月とくに同地域を対象としてわが国の貿易使節団が派遣された。これはまことに時宜に適した試みであつたといえよう。

キューバについては、わが国は昨年一月同国の新政権を承認した(本書第三号八九頁参照)のであるが、これについて同政権はわが国に大使を派遣し(同年四月)、さらに同年七月にはカストロ首相の特使としてエルネスト・ゲヴァラを首班とする親善使節団が来日する等のことにより、その後における両国の関係とくに経済関係の改善に稗益するところが多かつた。

ドミニカ共和国は、従来わが国に対して極めて好意的であり、わが国よりの移住者は、良好な環境と条件の下に定着営農を進めており、その実績は同国官民からも高く評価されているのであるが、その後カリブ海方面の情勢緊張により、同国への門戸は開放されていながら、現実にはわが移住者の送出が困難となつている状況にあるので、このような事態が速やかに正常化されることが望まれている。

ハイティとわが国との関係も近来とみに緊密の度を加えているが、わか国は、昨年八月ポルトープランスに名誉領事を任命し、ハイティ側も、たまたま同月本邦に大使館を開設の上、本年一月には大使を任命した。日・ハ通商協定は一昨年十二月調印され、わが国は、同協定が実施されることによつてハイティ側のわが国に対するガット三十五条の援用が撤回されることを期待したが、先方側の同協定批准がなお遅れているので、現在これを促進中である。

ヴェネズェラについては、わが国は、同国との友好関係増進の見地から、昨年二月十一日に挙行されたベタンクール大統領の就任式に際し、同国に駐在するわが国の大使を特派大使に任命してこれに参列せしめたが、一方ヴェネズェラからは昨年マルケス・カニサレス特派大使夫妻がわが政府の賓客として来日することにより、わが国としても同国に対する啓発上相当の効果を挙げることができた。

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4 ブラジル、アルゼンティンおよびその他の南米大西洋岸諸国

ブラジルは、古来わが国と極めて密接な関係にあり、ことに通商貿易、企業提携、移住の面でわが国にとつてすこぶる重要な地位を占めている。同国は、戦前戦後を通じわが国移住者受入国の筆頭であり、現在同国に在る日系人は四十余万に達している。一昨年日本人ブラジル移住五十年祭が行なわれたのに次いで、昨年十一月にはアマゾン地区在留邦人の間で移住三十周年式典が行なわれた。右に際しわが国からは千葉三郎衆議院議員一行が外務大臣の祝辞を携行して式典に出席したが、政府としては北伯会館の建設等これに因んだ事業計画を今後とも可能な範囲で賛助する方針である。一方昨年四月にはブラジル次期大統領の有力候補と目されているジャニオ・クアドロス前サン・パウロ州知事が、夫人および令嬢を同伴し、準国賓として来日し、わが国の現状とくに産業施設を熱心に視察した。

アルゼンティンは、フロンディシ政権の下に一応安定した政治、経済情勢を示しているので、同国に対するわが国の通商および移住も円滑に進展することが期待されているが、本年五月には同国独立一五〇周年の記念祝典が大々的に行なわれる由であるので、わが国としても同国との間の伝統的友好関係にかんがみ、特派使節を派遣することを考慮中である。

ウルグァイ、パラグァイの両国もわが国に対しては伝統的に友好的であるが、就中パラグァイは近時ブラジルに次ぐわが移住者の受入国としてその重要性を増してきた。とくに昨年十月、同国外務次官一行が来日した際、わが国の同国に対する船舶借款(三八○万ドル)の見返えりとして向う三十年間に日本人移住者合計八万五千人を同国に送り出す日・パ移住協定の締結をみたことは、わが移住史上極めて大きな意義を有するものというべきである。なおパラグァイ側は、昨年十一月本邦に公使館を開設した。

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5 ペルー、チリおよびその他の太平洋岸諸国

チリとわが国とは戦前から極めて強固な友好関係にあるが、とくに最近は企業提携を通じて両国間の経済関係は次第に緊密化し、貿易量もまた増大する傾向にある。同国にはラペル・ダム(発電、水利)の建設計画もあり、これに対するわが国の協力を促進する意味も含め、同国との経済関係一般を強化する目的で、政府は、昨年三月日本プラント協会の協力の下に同国アムナテギ上院議員以下六名よりなる視察団を本邦に招待したが、同視察団をしてわが国内各種の重工業施設および文化施設を見学せしめることによつて、同国の対日認識を増進することができた。

ペルーは、戦後わが国民の入国につき種々の制限を設けていたが、プラード現大統領就任後はこれらの制限も次第に緩和されるにいたり、またわが国との経済関係も密接となつている。最近は東京水産大学の練習船海鷹丸がエクアドル国のガラパゴス諸島水域とともにペルー水域の学術調査を行なつて、同国の水産業界に寄与するところがあつた。

ボリヴィア、エクアドルは、共にわが国からの移住者の受入れや中小企業の導入を歓迎しているので、今後さらにこれらを促進すべき段階にある。これら両国は、このような対日関係を反映し、エクアドルは一昨年十一月、ボリヴィアは昨年十月、それぞれ本邦に公使館を開設した。

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