上の写真の建物は、アメリカン航空の“本社”である。アップルの“本社”でもある。他にもコカ・コーラにフォード、GE、グーグル、それにウォルマート……。
米デラウェア州北部ウィルミントンのノース・オレンジ・ストリート1209番地。ここに建つ一見、何の変哲もないビルはなんと、世界中の計28万5000もの企業の“本社”となっている。
どういうことかというと、彼らは同ビルを“本社”として登記しているのだ。そして、この住所は彼らが委任する同州で最も人気の高い登記代理人のものなのである。
こうした企業がデラウェア州に集まっているのには訳がある。それはずばり、「節税」だ。同州では商標や著作権、リース、版権などの収益に掛かる税金はゼロ。そのうえ、会社を簡単に立ち上げられる。そこで税金対策の一環として、多くの企業がデラウェアに本社を登記、あるいは関連会社を立ち上げ、著作物から生じる収益をそちらへ移しているのだ。この仕組みは「デラウェアの抜け穴」として知られ、同州で登記した企業はこの10年で推定95億ドル(約7600億円)もの節税に成功している。
デラウェア州が企業に優しい制度を設けたのは20世紀初頭のことだ。他州から企業を誘致する目的だったが、いまでは同州の貴重な財源になろうとしている。2011年には、籍を置くだけの企業からの税金や手数料で8億6000万ドルを得た。
旨味を覚えてしまったからか、同州では1時間足らずで起業できるほど事務手続きを短縮化しているうえ、起業に関する申請を月~木曜日は深夜まで、金曜日は夜の10時半まで受け付けるなど、徹底した企業目線の行政サービスを行っている。
しかも、申請は驚くほど簡単。従業員数や資産、事業内容を明記せずとも起業できてしまう。その容易さは、タックスヘイブン(租税回避地)として有名なケイマン諸島を凌(しの)ぎ、世界一との声もある。
当然、そこに目を付けて、「ペーパーカンパニー」を興(おこ)してはマネーロンダリングや脱税に悪用する輩も増えており、米捜査当局からの目は日に日に厳しくなっている。
from USA「ニューヨーク・タイムズ」(英語)
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