ドラゴンクエストIXのゲームデザイン
ここで堀井氏の話はいったんストップ。15分ほど、ディレクターの藤澤氏により、『ドラゴンクエストIX』が、どうやって作られたのかが語られた。ここでは、その概略を簡単に紹介する。
最初に決まっていたのは、「ニンテンドーDSでマルチプレイができるドラクエを作る」ということ。そのコンセプトは「ずっと遊べる」「みんなで遊べる」ということだった。ソフトが発売されたいまならば、誰もが理解しているけれど、最初は「できるのかなぁ?」とみんなが不安だったという。
なぜなら、多くの人にとって、「ドラゴンクエスト」は
・エンディングまで50時間くらい遊ぶもの
・人にヒントを聞かず、一人で攻略するもの
だったからだ。シリーズ作でありながら、そういう根本的な部分を変えなければいけないところが最大の難関となった。そして藤澤氏は、それをどうやって解決していったかを、一つひとつ説明していった。
まず、「エンディング後に遊べるゲームデザイン」に取り組んだ。エンディング後の世界を描くことにして、エンディング後の移動手段を増やし、ここから「新しいことが始まる」ことを強調。ほぼ無制限に強くなる成長システムと、それにともなって成長する敵も用意し、「強くなる」モチベーションを失わせないようにしたのだという。すべては「ずっと遊べる」ようにするための試みである。
毎日電源を入れたくなる仕組みも用意。これはWi-Fiショッピングや、すれ違い通信などを利用することで実現した。Wi-Fi通信によるクエスト配信を用意し、しばらくゲームから離れても、ふとしたきっかけで、また遊ぶ気になれるゲームデザインを心がけた。
1人で遊ぶのではなく「みんなで攻略できる」というゲームデザインにも取り組んだ。
マルチプレイはもちろんのこと、すれ違い通信も、みんなで攻略している気分にさせるための要素なのだという。なぜなら、すれ違い通信で「宝の地図」がもらえるということは、先行している人の「成果」を見られることとイコールだからだ。先に進むと、こういうものが出てくるんだ、という情報を、ごく自然に知ることになる。つまり、プレイヤーは、知らず知らずのうちに、「ゲームの攻略情報を共有している」という状況に導かれているのだ。
クエストや錬金など、攻略ヒントが必要な、難易度の高いゲームシステムも意図的に入れた。何をすればいいのか、よくわからないクエストも用意し、先行している人の情報を必要にするように導くためだ。いまではネットでヒントを探すのは当然のように行われているので、そこで情報を探す楽しさも想定しているとのことだった。
プレイデータは、人と差別化できるようにした。着せ替えができるようにして、さらには強さとか遊び方のデータも見えるようにしたのだ。人と違うことが起きれば、その体験を人に話したくなる。ブログなどに書きたくなる。これらは、すべて「人に話したくなる」ための仕掛けなのだという。
だから、同じような体験をさせないためにも、あえてクリア後に目標を定めないようにしているとのこと。
こういった、一つひとつの要素を丁寧に入れたことにより、『ドラゴンクエスト』は、スタートダッシュ型ゲームからロングラン型ゲームへと質的変換を実現することに成功したのだと語り、藤澤氏のプレゼンは終了した。