多くの人が遊ぶときに気をつけていること
次第に話題は「ドラゴンクエスト」シリーズ全体のことへと進んでいった。
「『I』から『III』までは、ほとんど悩みませんでした。『I』は容量の関係があり、内容をシンプルにそぎ落とすしかなかった。容量が増えたので『II』でパーティープレイにした。ただ最初からパーティープレイは難しすぎるので、まず1人からはじまって、2人、3人と仲間が増えていくようにしました。当時のゲームには、あまり物語はなかったけど、物語があると、プレイヤーにとって、やるべきことがわかりやすくなる、という効果がある。これとゲームシステムを、うまくシンクロさせたんです」
こうして堀井氏は、さまざまな要素をゲームを「わかりやすくするため」に利用していることを示したのだ。実はこれ、堀井氏自身が「自分は取扱説明書を読まないタイプ」だからとのこと。
「はじめてパソコンを買ったときも、触ってみて、わからなくなってから読みました。そういう性格なこともあって、取扱説明書を読まなくてもわかるように気を使ってます。『ドラゴンクエストI』では、最初は7×7マスくらいの小さな部屋からゲームを始めて、ここから出るときには、一通り「はなす」「とる」「かいだん」などのコマンドを使い、それらのコマンドをおぼえられるようにしました」
こうやってやり方を覚えてもらうのが、『ドラゴンクエスト』シリーズで、いまなお守られている文法なのでという。ただし、これは微妙なサジ加減が必要らしい。
「難しいのは、説明しすぎると、読まれなくなること。このあたりのサジ加減は言葉にしにくい。肌感覚です」
いちばん怖いのは去っていく人
この後、ゲーム序盤をどうするか、という話題になると、堀井さんは真剣な顔になり、「いちばん怖いのは文句をいう人じゃない」という話を切り出した。
「いちばん怖いのは、ゲームをプレイしたけど、わたしにゲームに向いてないんだ、と感じて、そのまま去っていく人。こういう人を増やしちゃいけない。わたしでも遊べるゲームがあったんだ! と思ってもらうことが大事」
だから序盤が大切なのだ、と堀井氏は強調する。
「序盤で、なにをしていいかわからないと、人はそのゲームを投げ出してしまう。でも序盤が面白いと、この先どうなるんだろう? とワクワクしてくれる。するとユーザーは能動的になってくれる。能動的になると、ゲームって面白くなるんですよ」
「ただシリーズ作は難しい。2作目は前作よりも面白くしないといけない。ユーザーの期待値が上がっているから同じ面白さだと、つまらないと思われてしまう。『ドラゴンクエスト』がよかったのは、ハードが進化したこと。どんどん容量が増えて、ハードも進化して、やれることが増えたんです」
しかし、それに続く堀井さんの言葉に、会場は一気に緊張に包まれた。
「でも、それは『VIII』までの話です」
そして基調講演は、シリーズで初めてマシンパワーを落としたマシンで開発された「ドラゴンクエストIX」が、いかにして作られたのか? という、来場者がもっとも聞きたかった話題へと進んでいった。