IS<インフィニット・ストラトス> for Answer (七草)
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旗の意味はお察し
04 英国淑女、戦闘旗
授業終了後、まず俺が行ったことは、
「大丈夫だよ夏。今日から頑張ればどうにかなるさ」
そう、
普段の様子ならば、勇気を出して少数ながら女子が声をかけてくると俺は考えているのだが、今の一夏の様子を見て、遠巻きで観察することしかしていない。
入学後、一夏はだいたいどんよりとしていたが、これは記録更新のようだ。
「優ぅ~。頼む!! 俺に勉強を教えてくれ!!」
「おいおい、自分で頑張ろうって気は無いのかよ1?」
俺に両手を合わせて拝み、お願いしてくる一夏。あまりの必死さに引いてしまった。
「俺には無理だ。頼むよ!! この通り!!」
「あのときも言ったと思うけど、俺は昨日一昨日に届いて、ほぼ徹夜して読んできたんだが…」
ちなみに今まで眠気を引っ張っていた原因がそれだ。量が量だけにかなりの時間がかかってしまった。
読んでみた結果、すべて事前に学んでいることが分かったのだが。
そして、このまま一夏に教えるといっても、あれだけの量だ。一つ一つ教えていたらキリが無い。
自分自身の負担を減らす意味で、ある提案をしてみる事にした。
「じゃあ、こうしよう。お前が参考書で勉強し、その中で理解できない、し辛い内容については俺に聞け。俺も分かる範囲でそれを教える」
「それって……」
何かを悟ったようで一夏は呟く。俺は頷きながら、
「俺は先生じゃないからな、一から教えられる能力は無い。だが、部分部分なら可能だ。所々の穴を埋める作業なら手伝おう。どうだ?」
「わかった。それでいい。俺も千冬姉に知られる訳にはいかないからな。よろしく頼むよ」
「頼まれた。報酬として、全部終わったらデザートでも奢ってもらうぞ」
「ああ、それぐらいなら問題ない」
両者合意で契約が成立した。
これから数日間は一夏にとって厳しい期間になるだろうが、乗り越えられるかは一夏次第だ。
「ちょっと、よろしくて?」
「へ?」
「ん?」
話は纏まり、俺は適当な話題に話を切り替えようとしたところ、言葉をかけられた。
相手は煌びやかでロールがかった金髪と青い瞳をもつ女性だった。その振る舞いは典型的なお嬢様の如く。
そして女性は自身の青い瞳を吊り上らせ、俺たちを眺めていた。
その目を見て思った。「こいつは俺たちを見下している」と。
「訊いてます? お返事は?」
なんと言う上から発言。普通の奴なら嫌悪感を抱くことだろう。
「あ、ああ、訊いているけど……どういう条件だ?」
一夏が返答する。性格に表裏がないのならば、この発言をどう返すかによって大体の性格が分かるものだが……
「まぁ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度があるのではないかしら?」
思っていたことはおそらくその通り。典型的な女尊男卑の考えをもった、お嬢様のようだ。面倒臭いタイプだ。
「…………悪いな。俺、君が誰だか知らないし」
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補にして入試主席のこのわたくしを!?」
一夏の答えは、どうもこの少女、セシリア・オルコットにとっては気に入らないものだったらしい。目を細めて、俺たちを見下した口調で言う。
「あ、質問いいか?」
「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」
「代表候補生って、何?」
聞き耳を立てていた女子が盛大にずっこけた。俺は盛大に本日何度目かのため息をつく。
「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」
「おう。知らん」
「…………」
セシリアは黙った。あまりにもイレギャラーな事態に理解が追いついていないようだ。
俺は一夏を発言させないよう一旦手で制し、口を開く。
「失礼、オルコット嬢。一夏……今までISと縁がなかったと言っても、これは常識だぞ? 簡単に言うと彼女はエリートということだ」
「そう! エリートなのですわ!!」
セシリア再起動。胸を張り、指をさす。その指が一夏に近いこと近いこと。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運なのですわよ。その現実をもう少し理解していただけるかしら?」
「そうか、それはラッキーだ」
「……馬鹿にしていますの?」
一夏、しれっと爆弾を投下しやがった。
「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。史上初のISが操縦できる男性と聞いていましたから、少しぐらい知性さを感じさせるかと思っていましたけど、期待はずれでしたわね」
「俺に何かを期待されても困るんだが」
「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、あなた達のような人間にも優しくしてあげますわよ」
複数形とは俺も数に入ってるのだろう。嬉しい事だ。
「ISのことでわからないことがあれば、まあ……ないて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。なにせわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
『エリート』とやたら連呼してくるセシリア。人を見下す態度にはもう飽きた。聞いていられないから自分の席に帰ることにしよう。
一夏と比べて俺はロックオンされていないようなので、何食わぬ顔で一夏の席を後にする。特に咎められることもなかったので自分の席に座る。
向こうでは一夏が「俺も試験官を斃した」などと発言していた。その発言を愕然としているセシリアが追求し、一夏はよくわからない答えを返している。正直いって収拾不能。
そんなところで結局話を収拾したのはチャイムの音だった。セシリアは真っ赤になりながら、
「また後で来ますわ! 逃げないことね! よくって!? あなたもですわよ!?」
と一夏と俺に向かって発言してきた。俺もかよ!?
*
「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」
次の授業は織斑先生が教鞭を持つ授業だった。
今回の授業はとても重要らしく、山田先生でさえもノートをとっている。
しかし、織斑先生は開いた教科書を閉じて口を開いた。
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
どこからか「代表者ってなんですか?」と聞こえてきた。織斑先生は「ふむ」と頷き、
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まぁ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を
測るものだ。今の時点ではたいした差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間は変更できないからそのつもりで」
辺りがざわめき始める。対抗戦か、素人が出てくるとは考え難い。この場合『クラス代表=クラス最強』と考えるべきだろう。
会議とか人の上に立つのが好きな人がやるべきだとは思うが。
「はいっ。織斑君を推薦します!」
「私もそれが良いと思います!」
基本的には、な。だがこのクラスには希少な存在が居る、故にこういう事態が起こる。物事に例外はつきものである。もっとも、
「高城君が適任だと思います!」
「高城君に一票です!」
それは俺にも当てはまることだが。
「では候補者は織斑一夏、高城優……他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」
「お、俺!?」
一夏が大声と共に立ち上がる。同時に視線が集まるが、どうも女子たちは俺たちに面倒なことは押し付けたいようだ。
「織斑。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか? いないならこの二人で決選投票だぞ」
「ちょっ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな――」
「自薦他薦は問わないと言った。他薦された者に拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」
「そうだぞ一夏、諦めろ」
「ゆ、優まで……いや、でも――」
「待ってください! 納得がいきませんわ!!」
一夏の言葉をさえぎったのはセシリアだった。セシリアは机を叩き、立ち上がることで周りの注目を集めている。
「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと仰っているのですか!?
実力からいけばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしにこのような島国までISの技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
ほう、日本人を猿扱いか……。
「いいですか!? クラス代表は実力トップがやるべき、そしてそれはわたくしですわ!」
セシリアは怒涛の如く勢いでまくしたてる。完全に間違っているといえる内容ではないが、セシリア・オルコットよ。やり過ぎだ。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐えがたい苦痛で――」
ここで、セシリアの発言が途切れることとなる。なぜならば、
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」
一夏がこう、言葉を発したからだ。
よくやった、一夏と、といえる時ならば言ってやりたい。もう彼女の言論はただの暴言にすぎないのだ、この様な場では相応しくない発言。ただの耳障りな騒音だ。
「なっ……!? あっ、あっ、あなたねぇ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
セシリアは怒る。毛を逆立てて顔を真っ赤にして叫ぶ。その様子がその怒りの大きさを表していると考えれば彼女の怒りは相当なものだろう。
ここまで感情的になった者を相手することは一夏も慣れてはないのだろう。意図的に怒らせているのならばかなりの策士だが、そうでもないのだろう。引くに引けないので流れに任せているといった雰囲気が強いように感じられる。
ふむ、まあいい。俺にも発言させろ。今のコイツは気に入らん。
俺は席を立ち上がり、セシリアに向かって言葉を投げかけた。
「そこまでだ。セシリア・オルコット」
*
やってしまった……。発言と同時に後悔した。
俺の発言の所為でセシリアなんちゃらの発言が更に激化する。
いや、けどさ。我慢できなかったんだ。自分の国を侮辱されて黙っていられるか?
俺は我慢できなかったね。だからつい口を滑らせて仕舞ったんだ、「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」と。
後悔しても仕方が無い。なるようになれと、その場の流れに身を任せようと思ってその時、ある声が響いたんだ。そう、確か……
「そこまでだ。セシリア・オルコット」
聞こえてきたのは優の声だった。
その声色はどこまでも冷たく、およそ感情といえるものが篭っていない。
同時に彼から放たれるは威圧感。形容しがたい圧力が辺りを支配する。
「なっ……」
その威圧感に気圧されるセシリア。優はその様子を一瞥し、
「お前の発言は知性の欠片もない、ただの暴言だ。聞くに堪えん」
静かに、丁寧に、それでもって威圧感はそのままに言葉を紡ぐ。
表情は無く、怒っているのか笑っているのかという情報が一切読み取れない。
「あ、あなたも、そこの男と同じように、わが祖国を侮辱しますの!?」
「俺はそんな発言をした覚えはないのだが……まあいい、好きに解釈しろ」
「決闘ですわ!! 二人とも!! わたくしと戦いなさい!!」
机を叩きセシリアは宣言した。声を荒げながら、大声で。
「おう。いいぜ。四の五の言うより分かりやすい」
「織斑に同じく」
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間遣い――いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」
「奴隷か……面白い事を言ってくれる」
「そう? 何せ丁度いいですわ。イギリスの代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
流れとはいえ勝負をすることになってしまった。優もこんな流れになるのが分かってたのか? 明らかに意図して発言してた気がする。
そんな優が千冬姉に向かって口を開く。
「織斑先生。丁度いい機会じゃないですか? この勝敗で代表を決めたら如何です?」
「ふむ。そうだな」
思案するように呟く千冬姉。
暫くして、顔を上げ口を開いた。
「それでは、勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコット、それに高城はそれぞれ用意しておくように。それでは授業を始める」
手を叩き話を締める。優は何事も無いかのように席に着き、教科書を開いたが、俺は何ともいえない感情を抱きながら席に着き、教科書とにらめっこを始めることにした。
授業の間、セシリアがずっと俺と優を睨んでいたのだろう。鋭い視線が俺の背中に刺さっていた。
最後は一夏の一人称視点だったりします。
次回は戦闘があるかも!?
日常パートはかきにくい、さっさとオリジナルな展開に入りたい…
銀の福音のところまでは原作沿いだろうなあ……
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