こうのとり追って:第5部・考えよう妊娠、出産/4 自分に合うお産場所探し
毎日新聞 2012年09月17日 東京朝刊
◇まき割りで鍛え、自然に 分娩制限施設、予約に苦労も
コン、カコーン−−。うっそうと木が生い茂る庭に、まき割りの音が響く。おのを握るのは、大きなおなかを抱えた妊婦たちだ。
愛知県岡崎市の産院「吉村医院」では、妊婦がまき割りや井戸水くみといった「作業」に汗を流す。お昼には江戸時代に建てられた古民家で、まきで炊いたご飯をほおばる。
吉村医院は「本当の自然なお産」を実践している。帝王切開や、赤ちゃんを産道から引き出す吸引分娩(ぶんべん)などの医療行為をできるだけ行わず、母子の力でお産をやり遂げることを目指す。そのために、妊婦の体作りを重視する。妊娠中は「作業」のほか、自宅で毎日2〜3時間歩き、スクワットを200〜300回続けるよう指導する。
体力と気力を培い、和食に徹した食生活で臨んだお産では、「赤ちゃんがつるっと生まれてくる」という。田中寧子副院長は「妊娠中の取り組みがあるからできる、計画的な自然分娩」と表現する。年間260〜270件のお産を扱うが、東京や大阪など遠方から通う人も少なくない。
愛知県知立市の松田紗知さん(29)は、10月に2人目の出産を控える。長女(3)は近所の産院で出産したが、お産に時間がかかり陣痛誘発剤を使われ、つらかったという。「以前の産院は、医師が忙しそうで質問もできなかった。吉村医院は親身になってくれる」と信頼を寄せる。
吉村正院長(80)は、かつて大学病院で最先端の産科医療に携わっていた。父の後を継ぐため実家に戻り、地域でお産を手がけるうちに、妊婦と赤ちゃんが持つ力を最大限に生かすお産が望ましいと考えるようになった。