◇秋場所<10日目>
(18日・両国国技館)
一瞬の油断だった。右を差し、左上手を取りにいったところで、栃煌山のはたきに足がついていかなかった。
パタリと手をついた白鵬。通算700勝にあと1つと迫りながら痛恨の黒星。過去14戦全勝の栃煌山に通算7個目の金星を配給すると同時に、綱とりに挑む日馬富士に単独トップを許してしまった。
「油断か? まあ、そんなところですね。(足が)引っかかったのかなあ」。それでも、立ち合いからの流れは悪くなかった。「前に出て負けたんだから」と淡々と振り返る。3場所ぶりの賜杯へ、日馬富士を追いかける展開となっても「一番一番、変わりません」とぶれはない。
痛い1敗か? と聞かれ「ああ、そうだよ」と素直に答えるのも、まだまだ心に余裕があるからだろう。
対戦が組まれる日まで日馬富士も同じ東の支度部屋を使う。場所は白鵬の隣。横綱を目指す日馬富士に「心技体」の手本を無言で示しているようにもみえる。
8月のロンドン五輪を見ながら、知人とこんな話をしたという。「剣道も相撲もガッツポーズはしない。オリンピックの柔道を見ていたら、負けた選手がまだ足元にいるのに、勝った選手はガッツポーズをしていた。そのとき、これは柔道ではないなっていう話になりました」。だから、相撲が五輪種目になることには反対だという。
白鵬が極めようとしているのは相撲道。連勝が止まり、日馬富士にトップを許しても、白鵬は何ひとつ変わらない。 (岸本隆)
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