国の法制審議会が、悪質な交通事故の厳罰化と、少年の有期刑の上限を引き上げる少年法改正の検討に着手した。来年の通常国会で、刑法と少年法の改正案提出を目指す。
「厳罰化」の流れは近年、強まりつつある。今回も、悲惨な交通事故や凶悪事件が相次ぎ、被害者や遺族の強い要望と、加害者への厳罰を求める世論の高まりがあったことが、法改正を促す原動力となったことは間違いない。
確かに、遺族らの心情は察するに余りある。結果の重大性や悪質性に鑑みて、あまりに量刑が不均衡で国民感情と懸け離れている場合は、「適正化」の観点から速やかに改正する必要があろう。
しかし、やみくもに厳罰に処しても犯罪や事故の抑止には限界がある。特に少年法においては「更生、教育」に重点を置いた法の理念に立ち戻り、安易な拡大、乱用につながらないよう、丁寧な議論を深めてもらいたい。
悪質事故については、京都府亀岡市で4月、集団登校の列に車が突っ込み、10人が死傷した事故が契機となった。
加害少年は、一度も免許を取ったことがないのに運転を繰り返していた。だが、京都地検は「免許の有無と技能は無関係。少年には運転の技能があった」ため、罰則の重い危険運転致死傷罪の要件(運転技能がない)に当たらないと判断、適用を見送った。
これが危険運転でないなら何が「危険」なのか、一般には理解し難い。運転技術に免許が無関係なら、免許制度そのものの否定である。酒や薬物下の運転など他の適用要件に比してもバランスを失しており、到底放置はできない。
今回の改正案は@危険運転致死傷罪(上限・懲役20年)の適用要件の緩和A自動車運転過失致死傷罪(同・懲役7年)の罰則引き上げB両罪の中間的な「準危険運転致死傷罪」創設―など。いずれの案にしても、単純に量刑だけではなく、実態に即した要件の検討と、判断が揺れないよう明確な線引きを求めたい。
もちろん、事故が起きるたびに対症療法的に法改正を繰り返すだけでは、事故は防げない。ツアーバスの規制強化は始まったが、居眠りを自動警告する装置の普及や、高齢者の免許返納を促す支援策の充実など、多様な施策も併せて進めねばならない。
一方、少年法も、裁判員や被害者らの「成人の量刑と差がありすぎる」との指摘を受け、刑の上限を引き上げる方向。しかし、犯罪被害者の救済や事件の抑止策と、少年の更生のあり方とは、ともに重要だが分けて考えるべきだ。法改正で、不幸な事件、事故や再犯を可能な限り減らし、加害者にも被害者にもならずに済む社会につなげられるよう、冷静な議論を望みたい。