[PDFファイルを表示] ◆秋田内陸縦貫鉄道・由利高原鉄道 鳥海山麓の矢島と日本海を臨む本荘を結ぶ由利高原鉄道。県北の鷹巣から県内陸部の山並みを縫うように走り、角館へとつながる秋田内陸縦貫鉄道。かつてはともに旧国鉄の赤字廃止対象路線だったが、「地域の足を残そう」とする住民の熱い運動が実り、県や沿線市町村も出資する第三セクター鉄道に生まれ変わった。 以来、地域を支える使命を乗せて走り続けている。 ◆秋田内陸縦貫鉄道秋田内陸線 JR奥羽本線鷹巣駅を起点に、森吉山と太平山に挟まれた阿仁川沿いを走り、五、六九七メートルもの長さの十二段トンネルを抜け、山沢湖の西側桧木内川沿いにJR田沢湖線角館駅に至る九四・二キロの鉄路。秋田内陸縦貫鉄道株式会社(本社阿仁町)は、ここに上下線合わせて四十六本(うち急行四本)の列車を走らせる。 [PDFファイルを表示] 所要時間は、急行が約一時間五十分、各駅停車が約二時間三十分。停車駅は二十九駅(急行停車九駅)。 路線の歴史は、大正十一年に鷹巣〜角館間を予定線とした旧国鉄・鷹角線が法制化されたことに始まる。建設は遅れたものの昭和九年に鷹巣〜米内沢間(一五・○キロ)、十年に米内沢〜阿仁前田間(一〇・二キロ)、十一年には阿仁前田〜阿仁合間(七・八キロ)が開業するなど着々と路線が建設された。が、戦争の影響でそれも中断する。 戦後、工事が再開され三十八年に阿仁合〜比立内間一三・○キロ)が開業し、旧国鉄・阿仁合線(鷹巣〜比立内間)ができあがった。四十五年には反対側から角館〜松葉間(一九・二キロ)が旧国鉄・角館線として開業。夢の実現まで、残るは比立内〜松葉間の二十九キロ余りとなっていた。 しかし、自家用車の普及や道路の整備などにより、自動車輸送が鉄道輸送に取って代わる時代が到来。両線とも、赤字に苦しむ旧国鉄の廃止対象路線となる。一方で、住民による「生活の足を存続させ、悲願の鷹角線全線開通を」との運動も盛り上がり、県・沿線八町村・民間団体による第三セクター方式での存続が実現することになった。 [PDFファイルを表示] 旅客目標は年間百十万人 五十九年に、資本金三億円のうち県と沿線町村も三八・六%ずつを出し合うことで同社が設立された。六十一年に阿仁合線、角館線は、それぞれ同鉄道秋田内陸北線、南線として営業開始。その前年からは残された比立内〜松葉間の建設にも取りかかり、平成元年、悲願の全線開業を果たした。 全線開業して五年目を迎えたが、経営状況は厳しい。毎年一億円を超す赤字となっているからだ。それでも営業係数(百円の収入を得るために必要な経費)は、三セク転換前の八七八から三年度は一三一まで減らした。第三セクターでは全国有数の長さを維持していることも考え合わせると、同社の努力のほどがうかがえる。 今後の大きな課題とされるのが輸送人員。元年度が百七万九千人、四年度は百三万二千人と減少傾向にある。沿線地域の人口減少とマイカーヘの依存度が年々増加していることが利用減になっている。 それでもこれまでは赤字の半分を国の補助で賄い、残りの半分を県と地元自治体が負担してきた。しかし今年度からは国の補助が無くなる。これからは秋田内陸縦貫鉄道基金(二十億円)の運用益でその分を補っていかなければならない。賄い切れないときは県と地元自治体の負担が増大することにもなりかねない。同社の金森専務は「それだけはどうしても避けなければならない。単年度赤字を一億円以内に圧縮したい。そのためには輸送人員百十万人が目標」と話す。 乗車促進のために様々な運動が進められている。町村民号によるツアーは沿線各町村単位に行われ好評を博している。そのほか、秋田内陸100キロチャレンジマラソンヘの協賛、沿線小学牛の絵画コンクールを兼ねたギャラリー列車の運行など、イメージアップを図り県の内外を問わず内陸線を知ってもらうのが目的だ。「状況は決して甘くありません。様々な運動を通して、沿線の皆さんの"マイレール意識"を高めていきたいものです」と金森さんは語る。 全国初の女性運転士が活躍 内陸線にソフトなイメージをもたらしているのが、全国初の女性運転士・三浦智子さん(二三)。鷹巣町出身で、高校を卒業後昭和六十三年に入社。車掌を経て平成二年に運転士の免許を取得した。「会社の勧めもありましたが、女性ではまだだれもやったことのない仕事なので挑戦してみました」と三浦さん。 鷹巣発八時五十九分の急行もりよし1号と角館発十二時十六分の同2号を運転する。時速八十五キロ、トンネルが多いこと、踏切以外を横断する人がいるなど、安全運転には最も気を使う。 「先輩運転士さんたちからの励ましや協力があったからここまでやってこれたと思います。運転士を目指す女性が続いてきてくれることを楽しみにしています」と笑顔で語ってくれた。 急行もりよし1・2号は車掌も女性。村上真奈美さん(二一)と吉田召与子(しょうこ)さん(二二)が交代で乗務する。車内販売や駅業務もこなすほか本社で事務も執る。もりよし号は華やかさでいっぱい。利用促進にもその華やかさで挑戦だ。 [PDFファイルを表示] ◆由利高原鉄道鳥海山ろく線 日本海に面した県南西部の中核都市・本荘市から、鳥海山の北側山麓を由利町、矢島町へと走る「おばこ号」。ヘッドマークに鳥海山とかわいい「あきたおばこ」を配した百六人乗りワンマンカーだ。この気動車を各駅停車で、一日に十四往復走らせているのが由利高原鉄道株式会社(本社矢島町)である。 営業区間は羽後本荘駅から矢島駅までの二三・○キロ。全部で十一駅のうち、JR羽越本線と接続する羽後本荘、中間の由利町にある前郷、それに終点の矢島の三駅を除く九駅は無人駅である。下りは羽後本荘発七時六分から二十一時十二分まで、上りは矢島発六時ちょうどから十九時五十四分まで、ほぼ一時間おきのダイヤとなっている。 時速三五〜五〇キロ、片道四十分。一両編成の「おばこ号」は、車窓に出羽富士と呼ばれる鳥海山(標高二、二三六メートル)を映しながら、子吉川に沿った田園地帯をゆっくりと走る。同社の田中営業部長は「ふだんは一両ですが、全部で五両ありますので、通学時間帯やお客さんの多いときにはいつでも二両編成にできます」と話す。利用客は平均すると一日に千六百人程度。その三分の二は、小学生から高校生までの通学客である。 開業以来、黒字続き 元は旧国鉄矢島線。当時は営業係数が六六一の赤字廃止対象路線だった。しかし、矢島町を中心に沿線三市町、それに古くから生活線として利用してきた鳥海町の住民などによる存続運動の結果、昭和六十年に旧国鉄から引き継ぎ開業した。資本令一億円は民間のほか、県と四市町が三八・五%ずつ出資している。 開業後は、転換前に比べて単年度の営業収入で約四千万円伸ばし、一方で経費は四分の一に縮めるなどした結果、毎年三百〜四百万円の黒字続き。営業係数も九七〜九八で推移している。 その陰には益々ならぬ経営努力があった。運行本数を増やし、職員は旧国鉄時代の半数近くに減らした。同社が企画する旅行パック、バスとリフト券もついたスキーセット商品の販売など、全収入の約一割を占める旅行業収入も見逃せない。安全運行に欠かせない経費は節約の限りではないが、それ以外のもの、例えば本社屋。元は公民館であった古い建物を借りているあたりも努力の一端だ。 しかし、決して経営が楽観できる状況ではない。沿線人口の減少により、通勤や定期外客などが年を追うごとに減ってきているからだ。田中さんは 「主力の通学客は横ばい状態です。今後、小・中学生、高校生の鉄道利用見込みを立てながら、さらに経営改善の努力を続けます」と沿線の年齢別人口の推移を分析しながら語る。 家族的な雰囲気で地域に溶け込む ワンマンカーだから運転士は車掌の役もこなす。いちばん利用客と接する機会の多い同鉄道の顔と言ってもよい。その運転士を目指して、今特訓を続けているのが、見習い運転士の佐藤崇剛(たかよし)さん(二三)だ。 雄物川町出身で、東京にある私鉄の営業マンをしていたが、平成三年にUターンし同社に入社した。「運転士は小さいころからの憧れです。秋田でその憧れの仕事に就けるならこんなに嬉しいことはありません」と厳しい訓練も何のその。すでに学科試験は合格しており、先輩運転士につき乗務し指導を受ける毎日だ。「人当たりも良く、素直でまじめな性格です。ぜひ六月の技能試験には合格してもらいたい」と先輩も期待する。近々、一人で運転する佐藤さんの姿を見られるに違いない。 社員にとって乗り降りする客は皆顔見知り。下校の小学生に乗り遅れはないかと数えたりもする。こうした地域住民との触れ合いが、車内、社内に家族的な雰囲気を作り出している。 地域の人たちの生活に密着した同鉄道。「これからは鉄道の良さが問われる時代です。社会の流れをよくつかんで、良さが出せるようがんばります」 と田中さん。鳥海山の広大な裾野は昨年、滞在型リゾートゾーン「鳥海高原」として生まれ変わった。家族的な雰囲気を生かしながら同鉄道は今、新たな道をきりひらこうとしている。 [PDFファイルを表示] 《秋田内陸線観光ガイド》 ◎大太鼓の館(鷹巣町) ギネスも認める世界一の綴子大太鼓をはじめ、35ヵ国130個の太鼓が勢揃い。 鷹巣駅から車で7分。年中無体。0186(63)0111 ◎浜辺の歌音楽館(森吉町) 同町は「力ナリヤ」「浜辺の歌」などで有名な作曲家成田為三生誕の地。館内には氏の楽譜や遺品の数々が展示されている。 米内沢駅から徒歩15分。0186(72)3014 ◎太平糊・小又峡・三階の滝・桃洞の滝 鉱山植物やブナ林、10力所あまりの滝など峡谷美を誇る森吉山県立自然公園。紅葉の時期は最高。 太平湖へは阿仁前田駅からバス60分。同湖の遊覧船で20分の所からか小又峡が始まる。 ◎潟前山森林公園(西木村) 水深日本一の田沢湖を望み、キャンプ場などかある。近くには山の幸資料館も。 松葉駅から車で15分。0187(47)2007 ◎蔵家屋敷(角館町) 国の天然記念物に指定された枝垂桜におおわれ、黒板塀の続く武家屋敷のたたずまいは正にみちのくの小京都。近くには、桧木内川の2キロメートルに及ぶ桜並木、樺細工の技を伝える角館町伝承館などもある。 角館駅から徒歩20分。0187(54)2700 角館町観光協会 ◎スキー場 森吉山森吉スキー場(森吉町)阿仁前田駅からバス35分。0186(76)2111 森吉山阿仁スキー場(阿仁町)阿仁合駅からバス30分。0186(82)3311 ◎異人館・伝承館(阿仁町) 異人館は阿仁鉱山のドイツ人技師の住居として明治13年に建築された洋館。鉱山の全盛時代を今に伝える伝承館が隣接。阿仁合駅から徒歩3分。0186(82)3658 ◎マタギの里熊牧場(阿仁町) 映画「マタギ」「イタズ」のロケ地になった同町。60頭ものツキノワグマが迎えてくれる。途中の打当温泉には「マタギ資料館」もある。 阿仁マタギ駅から車で7分。0186(84)2029 ◎花しょうぶ園(阿仁町) 7月上旬〜中旬に200種300万本の花しょうぶが咲き乱れる。 荒瀬駅から徒歩15分。0186(82)2117 阿仁町観光協会 ◎ふれあいプラザクリオン(西木村) 25mの温水プールのほか気泡、うたせ湯、サウナなど各種の温泉が楽しめるクアハウス。 西明寺駅から車で3分。0187(47)2111 西木村観光協会 《鳥海山ろく線観光ガイド》 ◎永泉寺(本荘市) 山門は文3年(1862)に建立され、徳川末期の建築美の見本として件の重要文化財に指定されている。 本荘駅から徒歩10分。 ◎南由利原高原青少年旅行村(由利町) 鳥海山の雄姿を逆さに映す大谷地池を中心とする保養地で、豊かな自然を体感することができる。ケビン、バンガロー、運動広場など多彩な施設がある。 前郷駅から車で15分。営業期間5月〜10月。0184(53)2126 ◎日新館(矢島町) 各種イベントのできるホールやステージなどがある。棟続きの郷土資料館には矢島の歴史や鳥海山の自然に関する資料を展示。 矢島駅から徒歩5分。無料。0184(56)2203 ◎島海高原花立牧場(矢島町) 鳥海山の2合目矢島登山口に広がる牧場で、キャンプ場、バンガロー、テニスコートなど各種施設が整っている。 昨年7月には「矢島スポーツ合宿センター」(宿泊室25室、グラウンド3面)もオープン、真夏の合宿に最適。矢島駅からバス25分。4月〜11月。0184(56)2408 花立クリーンハイツ ◎鳥海高原矢島スキー場(矢島町) ロングシーズン(12月上旬〜4月上旬)、スキーが楽しめる。 矢島駅からバス30分。0184(55)2402 矢島町産業課 ◎法体の滝(鳥海町) 落差57.4メートル、流長100メートル大瀑布。 矢島駅からバス45分、バス停から徒歩30分。 |