来豪インタビュー
水泳バタフライ日本記録保持者
河本耕平(31)さん
バタフライ100メートル日本記録保持者であり、世界 ランキング8位と、日本バタフライ界のトップを走る河 本耕平さん。現在はアメリカのアリゾナ州にベースを 置いているが、トレーニングのために9月15〜29日、来 豪。シドニーで「NSW州スポーツ研究所」の選手たちと ともに練習し、ストール・ウィンダー・コーチから指導を 受けた。彼が最初にバタフライ50メートル日本記録を樹 立したのは2001年8月。08年6月と9月には100メートル で日本記録を樹立。その後、08年9月に50メートルで、 09年9月に100メートルでそれぞれ日本記録を更新。10年 以上もの間、驚異的な成長を続けられる理由はいかに。 そして初のオリンピック出場が期待される2012年ロンド ンへの展望は ? 練習の行われた「イアン・ソープ・アクア ティック・センター」で話を聞いた。
挑戦し続けること
2012年ロンドン五輪を見据えて
北京五輪からの3年間
アメリカ行きがターニング ・ポイントに
惜しくも代表を逃した北京五輪。 実はその選考会(08年4月)の1カ月 半後のジャパン・オープンで、河本さ んは100メートルの日本記録を樹立し ている。そこからさらに同年9月、翌 年9月と新記録を更新し続けた。
「悔しい思いだけではなくて、それ を機に成長できたし、わりとすぐに気 持ちを切り替えられましたね。選考会 の前からアメリカに拠点を移し、新し い泳ぎ方を取り入れていたことが、大 きく影響したのだと思います」
渡米のきっかけになったのは07年 夏の大会「スピード・チャンピオンズ・シリーズ」でアリゾナの井出貴久コーチと出会ったこと。
「その大会で優勝できたこともあって、コーチの方から声をかけていただきました」
指導を受けて大きく変わったのはストロークのフォーム。うねりを最小限にし、できるだけウェーブを滑らかに打つ技術を学んだ。
「バタフライは、ほんの少し腕の角度が変わっただけでも、体感スピードや疲労度が全く違ってきます。それまで も少しずつフォームを変えることは あったのですが、ここまで大きく変え ることはありませんでした。それまで の技術で出せた記録があって、でもそ れをそのまま続けて極めていっても、 あとどれくらい伸びられるんだろうと いう自分の中の葛藤もありました。そ ういう時に出会ったのが井出コーチ だったんです」
もしそこで泳ぎを変えず、自分自 身に挑戦をしていなかったら、行 き詰まっていたかもしれない。 「フォームを大きく変えたこと で、いまだに学ぶ部分が多くありますから」。
残念ながら、オリンピック選 考会には間に合わなかったが、ジャパン・オープン以降はそのフォー ムが自分のものになりつつあり、記録 の面でも成長できたと言う。「自分で 何かしたいと思ったら、それをやり遂 げるまでは頑張った方がきっといいと 思うんです」。
左から若林将也コーチ、マット・アボード選手、イーモン・サリバン選手、アンドリュー・アボード選手、河本耕 平選手、ジェフ・ヒューギル選手「河本選手の経験値とレベルには驚かされます。キック・テクニックや持続力が 素晴らしいですね」、ストール・ウィンダー・コーチ「彼は既に非常に良い選手なので、今回は細かなポイントに絞ってアドバイスしていますよ」
31歳という年齢
経験をプラスに、挑戦する気持ちを忘れない
次世代選手が追い上げる中、トッ プを維持し続けている河本さん。彼 の成長が止まらない理由はどこにあ るのか。
「年齢が上だから下だからといっ て、大会で何かサービスしてくれる わけではないので(笑)、若い選手 と同じ気持ちでやっています。でも 最近は良い意味で経験を生かしたい とも思うようになりました。例え ば、たくさんのレース経験、大きな 大会でも動じない気持ち。年齢を プラスにできる部分がもっとあるんじゃないかと。
泳ぎを変えたこともそうですが、まだまだ成し遂げたいことがたくさんあるので、その気持ちがあればきっと肉体的な限界は越えられる。一般的に言われているより、もう少し先までできるんじゃないかなと、 自分にも期待しながら、それを証明 できればいいなと思っています」
今回のオーストラリア合宿では特 にジェフ・ヒューギル選手がいるこ とが良い刺激になっているそう。 ヒューギル選手は河本さんと同年代 で、00年シドニー五輪バタフライ 100メートルで豪代表として銅メダル を獲得。04年に引退したが、08年に 現役復帰し、ロンドン五輪出場を目 指している。
「ヒューギル選手は昔から憧れで雲 の上のような存在でした。今こうし て一緒にトレーニングをし、切磋琢 磨できることはとても嬉しいです。 僕自身も、引退を考えるきっかけはたくさんあったと思います。例え ば04、08年のオリンピック。チャ ンスがありながらものにできなかっ た。そこでどうするべきかは考えま したが、その時点でまだ自分のやり たいことが残っていたので、それが 今に続く原動力になっています。そ れにどんな記録があろうが、根本に は“もっと速く泳ぎたい”という気持ち がいつもありますし」
オーストラリア合宿
名コーチとトップ・スイマーに囲まれて
今回の合宿では、数々の世界の トップ選手を育てたストール・ウィン ダー・コーチから指導を受けた。ま た、ジェフ・ヒューギル選手をはじめ トップ・スイマーとともに練習したこ とにも大きな意義があった。
「コーチから今指導を受けているポ イントは、呼吸時の頭の上げ下げ。 一連のストローク動作をよりスムー ズにできるようアドバイスをもらっ ています。少しずつ良い感覚を得ら れているので、ぜひ自分のものにし て帰りたいです。
また、テレビで見ているようなそ うそうたるメンバーの中に自分が 入って泳げているのが嬉しいし、モ チベーションが上がります。一緒に 泳いでいると、常に競争して勝ちた いという気持ちになります。さらに チームの集中力にも驚かされます。 皆の目的意識が高く、今日は何をし に来ているか、今はここが大事だと いうのをいつも考えています。コー チはその場その場でとても的確な助 言をくれますよ」
2012年ロンドン五輪へ
自己ベストに挑み、確実に出場権を
今目標としていることは、来年の 五輪の出場権獲得を確実にするとい うこと。そして自分の記録にもう1度 挑戦すること。
「その記録が出せればすごく良い 結果がついてくると思うので。あと は、ヒューギル選手とオリンピック でもともに泳げたら最高です !
今回のオーストラリア合宿では、 とても良い環境と状態で練習に臨め ていて、本当に来て良かったと思い ます。これをきっかけに成長し、来 年のオリンピックに向かって頑張り たいと思いますので、ぜひ皆さん期 待して応援してください」
● プロフィル かわもとこうへい
◎1979年10月6日、新潟県柏崎市生 まれ。バタフライ100メートル・アジア記録・日本記録保 持者。2007年秋からアメリカのアリゾナ州を拠点に活 躍。日産サティオ新潟西所属