夏の節電術(1)まずエアコン 使い方を工夫
東日本大震災以来、節電に対する関心が家庭でも高まっている。夏場の電力不足解消につながるのはもちろん、環境や家計にも優しいからだ。暑い季節を快適に過ごすことができ、日常生活で取り入れられる節電術を紹介する。
冷蔵庫は詰めすぎず
前年比マイナス23%。鳥取県中部の北栄町に住む山田寿隆さん(82)が昨夏達成した電力削減量だ。2世帯住宅に山田さん夫婦と長男一家が暮らす。「震災の悲惨な状況を知り、節電に協力することで力になりたいと考えた」と話す。
海岸部の砂丘に風力発電施設を設置するなど、環境やエネルギー問題に積極的に取り組む同町は省エネ意識を高めてもらおうと、5年前から電力削減による省エネキャンペーンを実施。山田さんは昨年、それで削減率1位になった。
もっとも、「特別なことはしていません」と山田さん。気をつけたのは、
〈1〉日中できるだけエアコンを使わず、窓を開け、扇風機を回す
〈2〉窓の外にすだれをかけ、朝顔やヘチマを育て「緑のカーテン」を設ける
〈3〉冷蔵庫を満杯にせず、庫内温度を高めに調節
――などだ。
国が昨年から提案している節電メニュー=表参照=を忠実に実践した格好だが、「家族で目標を立て、支え合ったのがうまくいった」と山田さん。就寝時はタイマー設定でエアコンを使うなど、無理をしなかった点も良かったという。電気料金は月約2万円になった。月5000円程度減らせた。
山田さんのように肩の力を抜いた姿勢が節電を長続きさせるコツだ。節電が特に必要なのは、電力需要がピークとなる午後1~4時。しかも家庭で使う電力の約4分の3を占めるエアコンと冷蔵庫の節電ができれば、効果が上がる。
まず、エアコン。温度を28度に設定するか、すだれなどで室内への日射を遮れば、10%の節電ができる。空調機メーカーのダイキン工業(大阪市)は、エアコンを効率的に運転するために室外機の重要性を指摘する。「室外機の周囲に物を置くと、風通しが悪くなり、電力をむだに消費する」と同社広報。室外機が日光のあたる場所にあれば、「室外機から1メートルほど離れたところにすだれを立てるなどして日陰を作るとよい」と話す。
エアコンと扇風機の併用も有効だ。扇風機で送風することで室内の空気が循環して室温のむらがなくなり、エアコンのセンサーが室温を下げようとするのを防げる。消費生活アドバイザーの和田由貴さんは、「水を入れたペットボトルを凍らせて扇風機の前に置き、送風すれば、冷風が来てさらに快適です」と勧める。凍らせる際にはボトルが破裂しないよう、水の量は多くてもボトル容量の8割にする。
次は冷蔵庫。冷蔵室は物を詰めない方が節電につながる。ところが、冷凍庫は逆に物を詰めて隙間を作らない方が、節電効果が高いという。詰めた物がそれぞれに保冷剤の役目を果たして冷やし合うからだ。扇風機の前に置くためのペットボトルを毎日凍らせておけば、エアコンと冷蔵庫の節電で一石二鳥になる。
節電の手段はさまざま。全てに手を出す必要はない。できる範囲で取り組めば、無理なく電力消費を減らせる。
全員集合 涼しさ共有
夏場の節電対策として、涼しい場所をみんなで共有する「クールシェア」という取り組みも注目されている。冷房の利いた店に出かけたり知人宅に集まって交流したりすることでエアコンなど家電製品の稼働台数を減らし、節電につなげる。家族や友人との関係が深められることも魅力だ。
この取り組みは、多摩美術大学教授の堀内正弘さんのゼミで、猛暑のピーク時に家庭での電力消費を抑えるアイデアとして、昨年提唱された。堀内さんは「『苦しい』『つらい』という節電ではなく、市民が楽しく参加でき、節電も自然にできる活動方法を考えた」と話す。
具体例として
〈1〉家族が1部屋に集まり、エアコン1台でだんらんする
〈2〉1軒の家に近隣住民が集い、会話と涼しさを楽しむ
〈3〉公園の木陰や水辺で過ごす
〈4〉図書館などの公共施設、街のレストランやショッピングセンターで休む
――などを提案している。
野村総合研究所(東京)によると、家族が設定温度を2度上げて2部屋以上でエアコンを動かすより、1部屋に集まって以前と同じ温度で冷房をつけておく方が、節電につながる。
知人宅・公共施設・飲食店
昨夏は東京都世田谷区の二子玉川地区などで実施したが、今夏は環境省が同大と連携して全国的に参加を呼びかけている。同区の「カフェ&レストラン ベクトル」は、クールシェアの協力店であることを示すステッカーを店頭に貼りだした。「『クールシェアで来ました』と言ってもらえれば、ドリンクを100円引きにします」とスタッフの小松汐里さんは話す。
京都市では7月以降、美術館や青少年科学センターなど、市の施設の無料開放を検討中だ。「民間施設にも協力をお願いしたい」と市地球温暖化対策室。昨夏、図書館など公共施設33か所を「街なか避暑地」として開放した東京都荒川区も、それを今夏は46か所に拡大することを予定している。お茶の無料サービスなども一部で検討。ショッピングモールやホテルなどの商業施設でも集客を目的に、涼むための場所提供や割引サービスを独自に検討している。
環境省の担当者は「クールシェアが広がれば、エアコンの稼働台数が減り、省エネに直結するだけでなく、家族や地域のつながりを強めるのにも役立ちます」と、取り組みの普及に期待を込めている。
(2012年6月12日 読売新聞)
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