シンジ達が第壱中学校の屋上で出会った謎の眼鏡少女の事は、シンジ達の口からミサトに報告された。
話を聞いたミサトはその少女はおそらく伍号機のパイロットとして選ばれたチルドレンだろうとシンジ達に告げる。
「でも伍号機とパイロットの配属は、まだ先のはずよ」
「どうしてパイロットがやって来ていたのよ、それに会った事を秘密にしろだなんて」
アスカは腕組みをして考え込む仕草をした。
「その理由はドイツに居る加持にも探らせているわ、だからあなた達は中学校の演奏会を頑張りなさい。使徒との戦いではあなた達が大活躍しているんだから、こういう事は私達に任せて、ね?」
ミサトの言葉を聞いたシンジ達は顔を見合わせた。
逆行してきたシンジ達は今まで圧倒的な強さで使徒を倒してきたため、ミサトが作戦部長として出る幕はほとんどなかったのだ。
使徒を倒す事だけを考えてきたシンジ達は、ミサトの立場を無視してしまっていた事に気がついた。
この件も自分達で解決してしまってはミサトの立つ瀬が無いだろうと考えたシンジ達は、謎の眼鏡少女の調査をミサトに任せる事にした。
そして第壱中学校の演奏会でシンジ達の出番となった時、第三新東京市で大規模な停電が発生した。
「何よ、よりによってこんな時に!」
演奏を中断されたアスカは窓の外に向かって大きな声で怒鳴る。
そのアスカをシンジがなだめる。
「仕方ないよ、ネルフへ行って待機しないと」
「この怒りは使徒にぶつけてやるわ!」
使徒の襲来を予感したシンジ達は第壱中学校を出て急いでネルフへと向かった。
ネルフも停電の影響を受けて、機能が停止してるように見える。
「さあ乗って、ケージまで直行よ!」
しかしネルフの正面ゲートに到着したシンジ達を、車に乗ったミサトが待っていたのだ。
シンジ達の話を信じたネルフでは、こっそりと停電に備えていた。
初号機と弐号機には非常用のバッテリーが搭載済みで、すぐに出撃可能だった。
レイから貰った力を使えば電力無しでエヴァを動かす事もできたが、なるべく無駄な力の消費は抑えたい所だった。
地上へと射出された初号機と弐号機は使徒の襲来を待ち受ける。
そして蜘蛛のような姿をした使徒マトリエルが足音を響かせながらゆっくりとネルフへと近づいて来た。
使徒の姿を見つけた弐号機は走り出し、高く跳躍する。
「よくもアタシ達の演奏を邪魔してくれたわね、アタシの怒りのキックを食らいなさい!」
弐号機の強烈なキックは使徒の平べったい胴体の真ん中に突き刺さり、使徒はコアを砕かれて爆発した。
「フン、ざっとこんなもんよ!」
「アスカ、ちょっとやりすぎだよ」
作戦ではパレットガンを使って使徒を倒す予定だったが、アスカの怒りは相当なものだった。
停電から回復したネルフでは、次の作戦に湧き上がっていた。
それは浅間山火口内に出現する使徒サンダルフォンを蛹(さなぎ)の状態のまま、生きて捕えて研究する計画だった。
逆行前の世界では分裂する使徒イスラフェルが倒されてから次の使徒サンダルフォンが発見されるまで時間が掛かったが、もし早くに発見していれば孵化を始めるまで時間が掛かったかもしれない。
シンジ達も休む間もなく使徒捕獲作戦のために浅間山付近で待機する事となった。
火口に潜りATフィールドの檻で使徒を捕獲する役目はシンジに任された。
アスカは先ほどの戦いでATフィールドの力を使い過ぎてしまったので、レイから自重するように言い渡されたのだ。
「初号機が落ちそうになっても、アタシが助けてあげるからね!」
「縁起でもないこと言わないでよ……」
割と本気で言っているようなアスカに、シンジはため息をついた。
使徒の蛹はマグマ溜まりの奥深くまで沈んでしまっている可能性もあるため、ATフィールドで身を守ったカヲルが潜って探す事になった。
「やれやれ、まさかマグマの中を泳ぐとは思わなかったよ」
カヲルは休憩を取りながら数回に渡りマグマの中で使徒を探した。
マグマの中に浮かぶ使徒の蛹を見つけたカヲルは地上まで上がり、火口付近のテントで待っていたレイに報告した。
レイが使徒を発見した地点をリツコに告げると、リツコはマグマの対流速度などを計算して調査用カメラを向かわせる場所を指示した。
カヲルが使徒を追いかけて監視する方が確実かもしれないが、シンジ達は力の消費を抑える方を重視したのだ。
調査用カメラはマグマの熱と圧力で壊れる前に使徒の蛹の姿を捕える事に成功し、発令所のディスプレイには使徒の蛹の姿が映し出された。
対象が使徒と確認したゲンドウは初号機に出撃命令を下す。
耐熱・耐圧用スーツを装備した初号機は、マグマの海へと飛び込んだ。
しばらくして使徒の蛹と接触したシンジは、ATフィールドの檻を展開し使徒の蛹を閉じ込める。
「……よしっ」
「やったわね、シンジ!」
これで蛹を引き揚げる途中で使徒が孵化を始めても、落ち着いて対処できるはずだ。
初号機がマグマ溜まりから火口まで引っ張り出される間、使徒の蛹に変化は見られなかった。
「どうやら、順調に行ってるみたいだね」
「まだ油断できないわ」
作戦の様子を見守っていたカヲルがそうつぶやくと、レイはそう答えた。
地上に引き出された使徒の蛹を解析するため、シンジはATフィールドの檻を消した。
すると圧力が変化した事が影響したのか、使徒の体細胞は急激に崩壊を始める。
「早く、できる限りのデータを採取して!」
「はい!」
リツコの指示が飛び、マヤ達は急いで作業を開始した。
残念ながら使徒の体細胞の劣化は激しく完全なデータは取れなかったが、かなり有用な情報を得る事が出来たようだ。
使徒は通常通り殲滅されたと処理されたが、この事件はゲンドウとゼーレの幹部との間に亀裂を生じさせた。
ネルフが使徒の蛹を捕獲しようとした事を知ったキール達は、ゲンドウを問い質す。
「君達が使徒の幼生からデータを採取した事は分かっておる、どうしてその件を報告しなかった?」
「そのような事実は一切ありません。我々は浅間山火口で使徒を発見し、殲滅作戦を実行した。それが全てです」
キールに尋ねられたゲンドウが平然と答えると、会議に出席している他の幹部達は声を荒げる。
「ごまかすな!」
「左様、データを提出したまえ」
「私の話が信用できないというのならば、MAGIのデータを調べてくださっても構いませんよ」
余裕を持って答えるゲンドウに、幹部達は悔しそうな顔で歯ぎしりした。
証拠はすでに消されてしまっているに違いないからだ。
「この場は君の言い分を認めよう。だが我らを裏切ればどのような目にあうか、分かっているであろうな」
キールがそう告げて議場から退出すると、他の幹部達のホログラムも部屋から消え去った。
「ふっ、裏切りなどおこがましい。元から利用するために手を組んでいるだけではないか」
ゲンドウはそうつぶやいて部屋を後にしたのだった。
火口から出現した使徒サンダルフォンを倒したシンジとアスカは、次の2体に分裂する使徒イスラフェルに備えてユニゾンの戦闘訓練を始めた。
久しぶりのダンス練習で、お互いの息を合わせるのに初めは戸惑っていたが、数時間でダンスゲームで満点を取ることができた。
「前は一週間近くも掛かっていたのに、凄い進歩よね」
「アスカが僕に合わせてくれたからだよ」
「あの時は自分勝手に飛ばして悪かったわね」
「違うよ、僕だってやらずに無理だって諦めていた所もあるし」
ミサトのユニゾン作戦はアスカとシンジがお互いに心を開くきっかけだった。
アスカとシンジの同居生活が始まったのもその後だ。
「さあ、もう少し練習を続けるわよ」
「うん、そうだね」
シンジはアスカの言葉にうなずき、ゲームを再開した。
ダンスのシンクロ率は十分なのに、まだ踊り続けたのはアスカもシンジもダンスを楽しんでいるからだ。
「おや、シンジ君達の所へは行かないのかい?」
自分の部屋に閉じこもって本を読んでいるレイにカヲルが声を掛けた。
「だって、碇君達の邪魔をしたくないもの」
「やれやれ、それほど熱心に練習する事もないと思うけどね」
髪をかきあげながら、カヲルはため息をついた。
「別に構わないわ、独りで居ることには慣れてしまったもの」
そう言いながらも本に目を落とすレイの姿は寂しそうに見えた。
「なら僕と一緒に映画を観てくれないかな、感動を共有する仲間が居てくれた方が楽しいんだ」
「じゃあ映画館に行けばいいわ」
「監視カメラのある場所では映らないように力を開放しなければいけないから、落ち着かないんだよ」
この世界でカヲルは最初の使徒として殲滅された事になっていた。
今でも隠れるように過ごさなくてはいけないカヲルの寂しさがレイに伝わってくる。
「良いわ、私も本を読むのに飽きたところだから」
「ありがとう」
カヲルは穏やかな笑顔でレイにお礼を言い、リビングのテレビにミュージック映画のディスクを挿入した……。
浦戸湾に襲来した使徒イスラフェルに対して、備えは万全だった。
初号機と弐号機は余裕を持って使徒の接近を待ち受ける。
「このーっ!」
弐号機のソニックグレイブが使徒の体を縦に真っ二つに切り裂いた。
これで使徒は2体に分裂するはず――だった。
しかし、目の前で使徒はなんと3体に分かれたのだ!
「ええーっ、どうなってんのよ!」
弐号機のエントリープラグで上げたアスカの叫び声が発令所に響き渡った。
シンジ達から使徒は2体に分かれると聞いていたミサト達も困惑の表情を浮かべる。
使徒の殲滅作戦はそのまま続行されたが、初号機と弐号機では3体のコアを同時に攻撃するなど不可能だった。
2体のコアを破壊してもすぐに使徒は復活してしまう。
「まさに三位一体ってやつね……シンジ君、アスカ、ここは退くわよ!」
「はい」
「アタシはまだやれるわ!」
ミサトの指示に従い初号機は退却しようとしたが、弐号機はまだ戦おうとする姿勢を見せた。
その弐号機の腕を初号機は強引に引っ張り、駄々をこねるアスカをなだめながらシンジは戦闘区域から撤退する。
初号機と弐号機が使徒の側から離れると、戦略自衛隊の戦闘機からN2爆雷が投下された。
3体の使徒の構成物質の46%の焼却に成功し、使徒は1〜2週間ほど足止め出来ると推測された。
ネルフに戻ったシンジ達は、先ほどの戦いについて反省会をする。
「どうして使徒は3体に分裂したのかな?」
「きっと、エヴァが2機居たからよ」
シンジの疑問にレイがそう答えると、アスカは頬を膨れさせて腕組みをする。
「それで使徒はアタシ達に頭数で勝とうと思って分裂したわけね、小賢しいわ」
「だけどそれなら、もっとたくさんに分裂した方が良かったのに」
「バカね、そんな事をしたら1体の強さが弱くなるじゃない」
「だからN2爆雷でのダメージも前の時より大きかったのか」
アスカの説明にシンジは納得してうなずいた。
「使徒は場当たり的に対応していたけど、碇君達がユニゾン攻撃をする事を読んで3体に分裂したわ。確実に知恵をつけている」
レイは真剣な表情でそうつぶやいた。
「だけど、アタシとシンジだけで3体の使徒のコアに同時攻撃は難しいわね」
「渚君にやってもらうしかないわ」
そのレイの言葉を聞いたアスカは、あきれた顔でため息をつく。
「生身で使徒と戦わせるなんて、無茶が過ぎるわね」
「せめて零号機があれば、私もユニゾン攻撃に参加できるのに……」
下を向いたレイは悔しそうに体を震わせた。
自分の無力さに腹を立てているのはシンジとアスカだけでなく、レイも同じだった。
数日後、シンジとアスカとレイはミサトの車で横須賀港へと向かう事になった。
「フォースチルドレンと伍号機、ですって?」
「そう、ドイツ支部から派遣されるから、アスカは先輩として面倒を見てあげてね」
ハンドルを握るミサトは明るい調子ででアスカ達にそう告げた。
これでエヴァ3機によるユニゾン攻撃の望みが出て来た。
「彼女は真希波・マリ・イラストリアス、フォースチルドレンであり、エヴァ伍号機と一緒に本部の配属となった」
港にやって来た船の上で加持の隣で紹介された少女は、やはりシンジ達が第壱中学校の屋上で出会った眼鏡を掛けた少女だった。
「どうも、清き一票をよろしくお願いします!」
そう言って敬礼するマリに、シンジ達はどう返していいのか困った顔で見つめ合った。
これから用事があると言う加持と別れたシンジ達は、ミサトの車でコンフォート17へと帰る事にする。
「えーっ、アタシが同じ部屋に住むの!?」
「そう、ユニゾンのためには生活リズムを合わせる事も大切だからよ」
「でも……」
「連れない事言わないで、仲良くしようよー」
「ちょっと!」
マリがアスカの肩に抱き付くと、アスカは悲鳴を上げた。
「スキンシップぐらい良いじゃんかー」
「レイ、席変わって!」
「私には関係ないもの」
アスカが助けを求めても、レイは我関せずとそっぽを向いた。
助手席に座っていたシンジは、マリがアスカにベタベタする様子を振り返ってチラチラ見ながら顔を赤らめるのだった。
「はぁ……」
ミサトの車から降りて解放された時、アスカは疲れ果てた様子だった。
「おやおや、元気がないねー」
「アンタのせいよ!」
しかしアスカはマリに対して怒る元気は残っているようだ。
マリの荷物をアスカの部屋に置いてしばらく休憩した後、葛城家のリビングでユニゾンダンスゲームをする事になった。
まずはシンジとマリの2人でのチャレンジ。
緊張したシンジはいつもよりぎこちない動きになってしまったが、結果を見てミサト達も驚いた。
何と初回から満点を記録したのだ。
あっさりと自分達の記録を抜かれたアスカはショックを受ける。
「こうなったら……!」
「アスカ、真面目にやりなさい」
「はーい」
アスカの考えはすでにミサトに見抜かれていたようだ。
そしてマリはアスカとのゲームも満点を記録した。
「物凄い反応速度ね」
「レイも分かった?」
ミサトもレイと同じ感想を持った。
マリは相手の動きを感じ取ってから、0.01秒にも満たない速度で反応していた。
「レイもやりなさいよ」
「でも私は……」
「まあまあ、これもデータを取るための協力だと思って」
アスカとミサトにうながされたレイも、マリとゲームをする事になった。
そのゲームの最中に、地震が第三新東京市を襲った。
「うわっ!」
するとマリは悲鳴を上げてテーブルの下に駆け込んだ。
揺れが収まった後、シンジ達は床に落ちてしまった眼鏡を四つん這いで探すマリの姿をぼうぜんと見ていた。
「あははっ、地震がどうしても苦手なんだ」
「地震なんか日本のどこでも起きるわよ」
シンジから眼鏡を受け取ったマリがごまかし笑いを浮かべると、アスカはあきれた表情でそう告げた。
その日の夕食は、マリの歓迎会も兼ねて串焼きバーベキューをする事になった。
「なんや、あの女」
「獰猛な肉食動物みたいやな」
歓迎会に参加したトウジとケンスケはマリが串焼きを食べる様子を見て、驚きの声を上げた。
マリは肉の間に挟まっている野菜には手を付けず、肉だけに食らいついている。
「うっはー、和牛おいしいー!」
「ほらアンタ、野菜も食べなさいよ」
「ピーマンも玉ねぎも嫌い」
「全く、子供じゃないんだから」
アスカは渋々とマリの食べ残した野菜を食べた。
「おや、てっきり肉しか食べない同類さんかと思ったよ」
「アスカが肉食なのは恋愛に関してだけなの」
「レイ、何言っているのよ!」
レイの言葉にアスカは顔を赤くして言い返した。
その様子を見たケンスケはポツリとつぶやく。
「あの綾波が冗談を言うようになるなんてな」
「碇君達とも仲良くなれそうでよかったじゃない」
「委員長はどうなんや?」
「うーん……」
トウジに尋ねられたヒカリは少し困った顔でマリを見つめた。
そして歓迎会が終わった後もマリの巻き起こす騒動は収まらず、部屋ではアスカの怒鳴り声が響いていた。
マリがバスルームから服を着ないで平気でリビングにやって来ると聞かされたシンジは、マリの裸を想像し始めた所でアスカに思いっきり股間を蹴られた。
その他にもレイに鼻を近づけて、「キミ、男のニオイがするよ?」と発言し、シンジ達をドキリとさせた。
マリの鋭い嗅覚は、カヲルがレイと同じ部屋で同居してる事を見抜いたのだ。
シンジ達はハラハラしながらカヲルを部屋に隠し続ける生活を続ける。
「また暗い閉じ込められて居たような気がするよ」
「ごめん、カヲル君」
カヲルにはゼーレによって存在を隠されていた時の嫌な経験がある。
早く使徒との戦いを終えてカヲルを自由にしてあげたいとシンジ達は願った。
3人のユニゾン攻撃の訓練はネルフのシミュレータを使って行われるようになり、1週間ほどでユニゾンは完璧になった。
自信を持ったアスカは、使徒が再侵攻を始めて被害が拡大する前に自分達の方から討って出る事を提案する。
「待ってるなんてじれったいわ、マリ、アンタもそう思うでしょう?」
「あたしも使徒と戦いたくてウズウズしてるよ」
「シンジ君はどう思う?」
アスカとマリの言葉を聞いたミサトは、シンジに意見を求めた。
「はい、僕も大丈夫だと思います」
シンジの返事を聞いたミサトは出撃許可をゲンドウに申請し、作戦は開始された。
この戦いは、シンジとアスカにとってレイから受け取ったリリスの力を使わない初めての戦いとなる。
マリとのユニゾンが崩れてしまうかもしれないからだ。
しかしシンジとアスカは自分達の勝利に自信があった。
そして初号機、弐号機、伍号機の3機のエヴァは浦戸湾の沖で3体に分裂した使徒イスラフェルと対峙した。
エヴァはそれぞれ槍のようなものを装備している。
「ミュージック、スタート!」
作戦指揮車のミサトの号令により、エヴァのエントリープラグ内のスピーカーから音楽が流れる。
それは高知県の民謡よさこい節だった。
日本の歌が好きだと言うマリの希望により、ダンスミュージックから変更されたのだ。
音楽に合わせてエヴァ3機は使徒達の攻撃を交わしながら攻撃のタイミングを待つ。
そして計算通り使徒3体が指定ポイントに誘導されたのを確認したミサトは合図を送る。
「今よ!」
3機のエヴァは槍型の武器プログレッシブ・スピアを突き出し、使徒3体のコアを同時に破壊する事に成功した。
リリスの力を使わずに使徒を撃破できた事は、シンジとアスカに大きな自信をもたらした。
「次の魚みたいな使徒なんか、アタシのプログナイフで3枚おろしにしてやるわ!」
「アスカってば、料理できないじゃないか」
「それならアタシに教えなさい!」
冗談を言ってはしゃぐシンジとアスカを、レイは少しあきれながら見つめていた。
これから出て来る使徒が強くなっている可能性がある、特に学習能力が高いサキエルは油断ならない存在、それなのにシンジ達は勝った気でいる。
しかしレイはお説教を言ってシンジとアスカに嫌われたくなかったので、あまり強く言うことはできなかった。
次の使徒ガギエルが発見されたのは、本州から遠く離れた沖縄近海だった。
ミサトから報告を聞いたアスカは、使徒を倒すついでに沖縄でスキューバができると喜んでいたが、使徒はすぐに本州目指してやって来るだろうとシンジ達は一笑に付した。
しかし予想に反して使徒は沖縄近海から離れようとしない。
「人類補完委員会から伍号機を沖縄へと向かわせるように指示が出ているぞ」
冬月からその報告を聞いたゲンドウは大きな声で笑い出した。
「どうした碇?」
「冬月、我々の探し求めていた物の所在が解ったぞ」
「まさか、使徒はネブカドネザルの鍵にひかれて沖縄近海に止まっていると言うのか?」
「ゼーレの老人達め、上手く隠したつもりだろうが、使徒に嗅ぎつけられるとは皮肉なものだな」
「ドイツではなく日本に隠して置くとは、灯台下暗しを狙ったのか」
ゲンドウは伍号機だけでなく、初号機と弐号機の出撃準備を整えるように指示を下した。
表向きは伍号機の援護と言う形を取るが、冬月はゲンドウの真意を即座に見抜く。
「碇、まさかお前はゼーレに反目する気か」
「ああ、ネブカドネザルの鍵は手に入れる。……エヴァ同士で戦うことになってもな」
冬月の問い掛けに、ゲンドウは低い声でそう答えた。
出撃要請を受けたシンジ達は、輸送機に乗せられたエヴァと共に空路で沖縄へ向かった。
念願の沖縄に行ける事になったアスカは機内でも少し浮かれていた。
この後待ち受ける、大きな裏切りも知らずに……。