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2009-04-30

「戦争なんか起こるわけがない」は思い込みだという歴史的実例

日本は長らく平和を謳歌してきた。(拉致被害者やその家族の皆さんにとっては欺瞞の平和に過ぎなかったけれど)

そんな中で防衛力の整備には「戦争なんか起こるわけがないのに…」という懐疑論が常にともなった。

だが、歴史的に見て「戦争なんか起こるわけがない」という見通しが外れたことは多い。

「アルゼンチンが戦争なんかするわけない」

1983年4月、フォークランド紛争が起こった。アルゼンチンとイギリスとの紛争だ。きっかけは、イギリス領フォークランドに対し、アルゼンチンが突然侵攻を開始したことだ。

だが紛争勃発の直前まで、戦争なんか起こるわけがない、という論理的な意見があった。例えば83年4月5日に発売された雑誌ビジネスウィークは、戦争にいたる可能性は低い、と論じている。その根拠は

  1. アルゼンチンのインフレ克服政策が最終段階に入った
  2. アルゼンチンは財政赤字削減のため、軍事費の10%削減を打ち出している

ということだ。経済が落ち着きつつあり、かつ軍縮を打ち出している国が、危険を冒してイギリス領を攻撃したりするだろうか? まさか、そんなことはない。実に説得力のある意見だ。

しかし実際にはアルゼンチンは4月2日にフォークランドに侵攻した。この雑誌が書店に並ぶ3日前の話だ。そしてこの冷静な分析が発売された4月5日当日、イギリスは、こちらも周囲の予想を裏切って、思い切った反撃に出るため空母機動艦隊を出撃させた。その結果、第二次世界大戦以来、なんと最大規模の海空戦がくりひろげられた。

「まさか、戦争なんか起きないだろう」

「相手が攻めてくることなんてないだろう」

という思い込みが裏切られた例だ。

「勝ち目もないのに日本が戦争なんかするわけない」

予想できなかったといえば、太平洋戦争もそうだ。当時、日米交渉は難航していた。アメリカは日本が戦争に訴える可能性を考慮していたが、その可能性は低いと見積もっていた。

なぜなら日米の間には絶対的な国力の差があるからだ。戦争になれば日本の負けは確実である。それくらいなら、交渉で妥協するのが当たり前だ。

だが日本政府の考えは違った。暗礁に乗り上げた日米交渉に絶望し、もう開戦のほかに道はない、と既に思い込んでいた。

在日アメリカ大使館のエマソン書記官はその空気を感じとった。「このまま交渉していたら戦争だ」と考えた。そこで国務省の重鎮ホーンベック政治顧問に報告した。

「日本は交渉で追い詰められ、絶望している。このままでは戦争に打って出るに違いない」と。

しかしホーンベックはこれを一笑に付した。「歴史上、絶望から戦争をしかけた国の名を、一つでもあったら挙げてみよ」と。戦争は勝てそうだからやるので、絶望して戦い始める馬鹿はいない。ホーンベックはエマソンの意見を退けた。

だがその数週間後、日本は負けると分かっていて敢えて開戦、真珠湾を奇襲。交渉で片付くというアメリカ国務省の見通しは外れ、太平洋戦争が始まった。

頭のよい現実主義者は、相手も自分と同じように合理的に判断する、という思い込みで失敗する。

「ただの脅しだ。フセインはカネが欲しいだけで、本当に戦争をする気はない」

これまで見てきたように、相手に戦争に打って出る意図があるかないかを判断することは極めて難しい。イギリスはアルゼンチンの本気を嗅ぎ取れなかったし、アメリカは日本の自暴自棄を読みきれなかった。この難しさは現代でも同じだ。偵察衛星で相手国を頭上からのぞき見ても、その心まで覗くことはできない。

湾岸戦争がその実例だ。湾岸戦争はイラクの独裁者フセインが、クウェートに侵攻したことで始まった。フセインはクウェートに向けてイラク軍を移動、集結させていた。アメリカはそれを偵察衛星によって知っていた。だが、それでもフセインが本当に戦争をする気だとは思わなかった。イラクと文化的に近い湾岸諸国も同様だった。

当時のアメリカの国務長官だったジェームズ・ベーカーは言っている。

サダム・フセインの好戦的な言動が改めて関心の対象になっていたが、危険な兆候だとまでは思われていなかった。イラクの暴君がクウェートに侵略をちらつかせて、自国の巨額な負債を肩代わりさせようとして、脅しをかけているに過ぎない。というのが、アメリカ政府高官の大方の見方だった。

J.A.ベーカー? 「シャトル外交:激動の4年(上)」 新潮社 1997年 p23

要するに、イラク軍の行動をただのブラフ、脅しに過ぎないと解釈していたのだ。また、フセインの方でも、アメリカの意図を読み間違えていた。クウェートを侵略してもアメリカはわざわざ介入しないだろう、と誤解していた。アメリカは「イラクはクウェートと戦争をする気はない」と誤解し、イラクは「アメリカはクウェートのために戦争をする気はない」と誤解した。その結果が湾岸戦争の勃発だった。

このように現代において、偵察衛星を何個もっていても、相手の開戦意図を常に読みきることは不可能だ。

「戦争なんか起こるわけがない」という楽観は常に危険

このようなわけで、私たち日本人がついつい思いがちな「戦争なんか起こるわけない」は、非常に危険な思い込みだ。それは相手の意図を読み間違えているかもしれない。相手は不合理な行動でも敢えて行うかもしれない。ただの脅しだと思っていたら、実は本気かもしれない。

だから「戦争なんか起こらないだろう」と期待するのではなくて、「戦争が起こらないためにはどうしたらいいか」と考えて外交を行い、あわせて「万一、戦争になっても被害を抑えられるように」と考えて防衛力を整備しておく必要がある。

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mm-morita-mmmm-morita-mm 2009/05/15 07:17 はじめまして、クウェートの安全保障体制について調べていたら、この良サイトを見つけました。

これからもブログ楽しみにしています。

暁 2009/05/15 09:19 >mm-morita-mmさん
はじめまして。わざわざコメントを下さり、ありがとうございます。
また、お褒め頂き恐縮です。
クウェートの安全保障体制とは面白そうですね。

chintaro3chintaro3 2009/05/15 19:59 暗に北朝鮮のことを言っているのかどうか気になります・・・

zyesutazyesuta 2009/05/15 20:35 コメントありがとうございますっ。
書いた者としては、ただの一般論のつもりですよ。
北朝鮮にも当てはまる部分はありますが、
グルジア紛争や慶長の役にも妥当するところがあります。

田村田村 2009/06/01 06:00 実際のところ日本は大騒ぎしてますが、日本と北朝鮮なんて大した利害関係が無いので戦争の危険は低い。朝鮮戦争で数百万人を殺し合い、現在進行形で国境の小競り合いを続けている韓国の方がずっと戦争の可能性が高い。
田原総一郎とか、それを無視して日本が一番ヤバいと言い立ててるのは理解不能です。

zyesutazyesuta 2009/06/01 09:38 >>田村さん
コメントありがとうございます。
ご慧眼、恐れ入ります。勉強になりました。
もし今後もお気づきの事、ご指摘等ありましたらご教授いただけると嬉しいです。

むむむむむむ 2009/06/02 02:32 ちょっと こちらにもコメントを。。。
なんだかこれを読んだらドキッとするものがあります。実はわたしは今アメリカに住んでるんですが、こちらで在住の日本人は戦争なんて起こらないという意見がほとんどです。なぜなら北を叩いても利益もないし、北は戦争する力もないのにアメリカと駆け引きしてるだけだと。。でも、わたしの知っているアメリカ人は”アメリカが絶対北朝鮮を叩かないとはいえない。アメリカは絶対自国のりえきにならないことはしない。表はイラク戦争で大赤字といってるけど、裏では彼らの石油を奪い、アフガンのコカイン(アフガン大量に生産してる)を奪い、売りさばいてりえきをえてる。確かに北を叩いてもメリットはないが、アメリカは北なんか恐れちゃいない。北がムズラムに売り渡した核、テロがアメリカを襲ってくることにびびってる。このまま北を野放しにしておいたらどうなるか。。しかも自分はアメリカ人だ。アメリカ人がどう思ってるかなんてわかるのさ。ばかにされて絶対黙ってない。サダムのときがそうだった。10年も北朝鮮みたいにアメリカに対してごね、ついにアメリカが切れた。このときすでに、サダムか北朝鮮かって話になってた。だんだん最近の雰囲気がそのときの状況に似てきてる。ブッシュばかりが悪いように言われてるが、国民も戦争することあおってた。もし今回も国民やオバマの周りがその傾向になれば、オバマはOKだすしかないよ。オバマのイメージダウンとかそんなもん関係ないのさ。なぜならオバマがこの国仕切ってるわけじゃないからね。オバマだって逆らえば暗殺さ。ケネディのようにね。報道や表にはでてこないものが絶対あるんだよ。昔から白人の歴史は戦争すきなんだよ。” って 最初聞いたときはたんなる戯言と思ってたけど、暁さんのこれ読んで、なんだかますますリアリティがましましたね。さらにはうちの主人(アメリカ人)がテレビでジェネラルが話してるのみてて、”表面上は当たり障り内こといってるけど、軍隊はその気だよ。戦争したがってる。カレの言葉の裏にあるものを読み取って、そのときの話し方雰囲気すべてがそういってる。まあ、これがわかるにはアメリカ人になるしかないよ。”なんてこといってました。
北が本当に自分がだめになるなら回りも巻き込んでやる と思ったときがこわいです。

ってこんなこと書いても大丈夫でしょうか? もしまずければ投稿しないでください。。。。

zyesutazyesuta 2009/06/02 13:24 >>むむむさん
こんにちは。2つも記事を読んでくださり、嬉しいです。
アメリカにお住まいとはカッコいいですね。現地の空気についてのお話、たいへん興味深く拝読しました。

シンクタンクのような専門機関から出ている意見だけに限っても、
アメリカにはあまりに多様な見解がありますから、一望するのは難しいですね。

ただ、
>裏で石油を奪い、コカインを奪い、利益を得ている
というのは、私の把握している限りでは、ちょっと語弊があるのではとも思います。

とはいえ、そのような見方のアメリカ人もいらっしゃる、
という事実は実に面白く、興味深いものですね。
軍隊の将軍が話しているのをみて、その雰囲気を読む、というのも面白いですね。

いずれも私などには知りえない話ですので、たいへん勉強になります。
今後とも何かありましたら、ご遠慮なく教えて頂けると嬉しいですっ。

rageyragey 2009/06/17 02:04 其の故に、百戦百勝は、善の善なる者に非るなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。
 孫子 謀攻篇第三

故に用兵の法は、其の来たらざるを恃むこと無く、吾れの以て待つ有ることを恃むなり。
其の攻めざるを恃むこと無く、吾が攻むベからざる所あるを恃むなり。
 孫子 九変篇第八

zyesutazyesuta 2009/06/17 08:43 >>regeyさん
兵法書といえば、呉子も「五たび戦って五たび勝つ者は災難を免れない」として軽率な戦争を戒めておりましたね。

azzazz 2009/12/19 17:07 すみません。気づいてしまった以上は書きます。

終結→集結

この投稿は削除してもらってもかまいません。

zyesutazyesuta 2009/12/20 16:40 >>azzさん
はじめましてっ。ご指摘ありがとうございます。
さっそく修正いたしました。
今後ともこういうのがありましたら遠慮なくご指摘願えると嬉しいですっ。

OOM-7大佐OOM-7大佐 2010/01/02 14:01 まぁ、だからと言って、「戦争の危機が発生すれば間違いなく戦争」になるという発想も間違いなのでしょうけどね。

アジャスタアジャスタ 2012/08/27 08:29 戦争は国同士の疑心暗鬼で生まれてくるというのを見たことがあります。
国家主義・民族的要因
よく「現代では戦争で利益が得られることはないので戦争は起こらない」とする意見があるが、実際には「利益」を掲げて戦争が行われたのは必ずしも多数派とはいえない。また「国際社会の制裁を考えれば戦争などするはずがない」とする意見もあるが、国際社会の制裁や国民の餓死をものともせず核ミサイルの開発にひた走る国家も数例ある。特に近代以降においては大衆動員の必要性もあって、国家主義に訴える戦争目的が掲げられる場合が多い。例えて言えば、日本が北日本と南日本に分断されていた場合、民族統一を求める心情は金銭的利得とはなんら関係がないし、国際的な制裁も気にせず武力統一にひた走る人々が発生しても不自然ではない。小さな島嶼ですら、その奪還のために死にたくないと思う国民だけでなく、死を賭けても奪還したいという国民も発生するが、それは金銭的利得というよりも国家主義による。中国や北朝鮮が統一を求めるのも、台湾や韓国が併合されるのを嫌がるのも国家主義によるところが大きく、ソ連崩壊後も極東に於ける冷戦が継続中で軍縮交渉が困難な原因となっている。
19世紀のドイツ・イタリア統一戦争も、ベトナム戦争も、朝鮮戦争も背景にあるのは国家主義である。
一方で、バルカン半島のような民族混在地は民族分布によって国境線を引くことが難しいために、戦争や少数民族虐殺の頻発する原因となっている。
また、併合しようとする土地の少数民族の国家主義を煽り、一旦分離独立させてから保護国化するという手口もパナマ独立(米国が保護国化)や東ティモール独立(豪州が保護国化)など史上に散見される。
また、経済困難や貧民の増大は「閉塞感」を増加させ、国家主義が蔓延しやすい。国家主義に憑かれた国民は対外強硬・排外主義に走りやすく、そのような国民の支持を得て、対外強硬に走る政治家が発生した例も多い。尊王攘夷、ナチスやロシア自由民主党(ネオナチ)の勃興などの例が見られる。
動態説
1970年代になるとそれまでの勢力均衡理論による静態的な国際情勢の理解から転換して、世界秩序の構成要素の国力などは可変的であると考える動態説が現れた。例えばウォラスティンは16世紀以降の資本主義の発達は世界に強国と弱国の格差を生み、巨視的には中核、準周辺、周辺の世界システムを形成した。さらに中核においても、時代的には長期的優勢と中期的優勢の二種類があることが認められ、長期的優勢では生産力の拡大からプロレタリアートの政治運動に次いで福祉国家化及び社会主義的世界経済へと段階的に進んでいき、中期的優勢では資本主義の矛盾が表面化、経済成長の停滞、恐慌などに次いで準周辺国への技術移転並びに相対的な優位の低下という段階を進むとしている。また1987年にはモデルスキー(Modelski)によって大規模な戦争は大体100年周期で発生する点に注目した100年周期説が提唱された。これはあらゆる秩序のエントロピー的衰退、国際的な秩序形成の衝動などが理由として挙げられている。
国際経済の動向
経済と戦争の危機には全く相反する視点がある。 まず第一に国際経済が停滞・後退すれば戦争の危機は高まるという考え方である。経済成長が不況や恐慌などによって悪化すれば、その縮小した利益をめぐる利害関係が国内経済、国際経済において悪化し、それが戦争の危機を高めることになると考えられる。また軍事費の拡大によって市場に資本を投入し、経済成長を促すため、軍拡競争が激化することも考えられるからである。
一方で、戦争にかかる膨大なコストに注目し、経済の成長が順調でなければ戦争が起こせないため、成長期にむしろ戦争の危機は高まるという考え方も存在する。経済成長を目指して資源や戦略的な要所の必要性が高まるため、競争が激化しやすくなる。また経済成長があるからこそ軍事費を増大することが可能となり、軍拡競争が発生し、経済成長を維持するために膨張主義的な世論や社会的な心理が形成されると考えられる[14]。
ただし、経済と戦争の関係性についてはデータや指標が非対称である場合や研究途上であることもあって、完結に結論できない。
“ゲーム理論”
数学のゲーム理論においては囚人のジレンマ状況とチキンゲーム状況の理論が戦争のモデルとされている。
囚人のジレンマによると、例えば核兵器の保有を両方が自制するのが最も平和で安全であるが、疑心暗鬼の心理が働いて両方とも核保有で自国の安全と相手国の支配権を得たいと考える。しかしながら自国だけ自制して相手国が核を保有した場合には自ら不利になることを選ぶことになる。ただし両国とも核保有すると核戦争勃発の危険が最大となる。
チキンゲームによると、例えば両国とも利益の追求を完全に放棄すれば最も平和で安全であり、また互いに申し合わせた妥協を履行すれば二分した利益と安全を確保できる。一方で相手国が譲歩することを衝突の直前まで期待して強硬策を実施して成功すれば半分以上の利益を確保出来るが、失敗すれば戦争が勃発することになる。
戦争原因の複雑性
ただし戦争とは大規模になればなるほど、上記した要因以外に、さまざまな軍事的、政治的要因だけでなく、法的、経済的、社会的、集団心理的、文化的な外的・内的な構造や誘因がより高度に複雑に関係して発生する重層的な事象であり、個人の人間性や一国の内部事情などにのみその根本的原因を求めることは非常に非現実的、非歴史的な考えと指摘できる。
歴史から学び、国内的な事情と国外的な環境を関係させ、個人の感情や意思を内包した歴史的必然性に戦争の原因というものは求められるべきものである。バターフィールドの『ウィッグ史観批判』で「歴史の教訓とは、人間の変化はかくも複雑であり、人間の行為や決断の最終的結果は決して予言できるような性質のものではないということである。歴史の教訓は、ただ細部の研究においてのみ学ぶことができ、歴史の簡略化の中では見失われてしまう。歴史の簡略化が、歴史的真理と正反対の宣伝のため企てられることが多いのもそのためである」と論じられているとおり、本質的に戦争、特に近代における複合的な国際政治の展開によって発生する戦争は単一の誘因によって引き起こされたとする考えはきわめて側面的な考えである。
(引用文です)

namaえnamaえ 2012/08/27 08:50 小さなことで言えば、人を信じるのは難しく、疑うのは簡単。
だから戦争を起こすのも簡単だということ。
戦争は始めたいときに始められるが、やめたいときにやめられない。(マキアヴェリ)

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