部活動が盛んな大阪の府立高校。
化学を教え、陸上部の顧問も務める田中先生は、ほぼ毎日、部員たちと走り込みを続けています。
<田中教諭(仮名)>
「きょうは50分走ります」
<記者>
「50分! 大丈夫ですか?」
<田中教諭(仮名)>
「大丈夫です」
今年で53歳。
しかし、部員のほとんどは、その年齢を知りません。
<男子生徒>
「自分たちがばてているときも、ずっと走っていて」
<生徒>
「選手も負けないように、プレッシャーがすごいです」
<田中教諭(仮名)>
「年よりが頑張っていたら、自分らもがんばらなあかんと思ってくれたらね。それだけ」
一方、バドミントン部を指導するこの先生は、63歳。
年々、練習は体にこたえるようになっているといいます。
<63歳の教諭>
「教員というのは、現場労働者ですから。出来るだけ現場で生徒と一緒に体を動かして、それなりに自分の体の用意をしています」
実は、この高校で勤務する教員は、50歳以上が全体の7割近くを占めています。
若手の教員は数人で、平均年齢は50.1歳。
こうした教員の高齢化が、大阪府立の高校で進んでいます。
大阪府立高校の教員を年齢ごとに分布させたグラフです。
第2次ベビーブームで大量採用された世代が50代を占めている一方、中堅世代は極端に層が薄く若手と2極化しています。
<39歳の教諭>
「私と同じ年の先生に会ったことがほとんどない。学校運営をちゃんと引き継いでいけるのかな、ノウハウとか」
今後、ベテラン教員の大量退職が加速するのです。
全国的にも同じ傾向ですが、大阪府では少子化に配慮してか、これまで採用が抑えられてきました。
ベテラン教員の指導力を若手にできるだけ早く引き継ごうとする学校現場。
田中先生は、新任教員(26)が、早く独り立ちできるよう化学実験の指導に力を入れています。
<田中教諭(仮名)>
「間違ってもいいから、生徒に予想させたほうがおもしろい」
この日、新任教員が田中先生から教わった実験を初めて試みました。
水素の化学反応に、生徒たちの表情がみるみる変わります。
教室のうしろでは、田中先生が見守っていました。
<田中教諭(仮名)>
「どれが一番いいとかはないと思う。それぞれの先生方にスタイルがあって。自分も若いときに、いろんな先生をみて、いいなと思ったら取り入れる」
学校現場で進む教員の高齢化。
他にも深刻な問題が起きていました。
それは非正規の教員の増加です。
非正規教員はこれまで、産休や病休などをとる教員の代わりの講師として採用されていましたが、国は6年前の公務員改革を機に正規の枠にも配置するようになりました。
大阪では、その率が全国平均より高く、とりわけ公立中学校では1年を通して正規の枠で働く講師、非正規教員が5年前の倍になっています。
非正規の教員として、20年以上、働き続けたこの女性は新たな問題が起きていると話します。
<元講師の女性>
「定数内(正規の枠)講師(非正規)がたくさん配置されているから、実際に必要な産育休や病休の講師が足りない」
さらに、追い打ちをかけたのがこの春、大阪府の小中高校の教員採用予定者のうち13.4パーセントもが内定を辞退したことでした。
大阪府では、来年度採用の志願者も去年より1,300人余り減っています。
まさに、正規の枠を非正規教員(講師)で補っている状況なのです。
<現役講師・電話>
「去年に比べたら(講師が)増えたなと思いますね。教諭(正規)の先生が異動になって、新しくきた先生に講師(非正規)が多かった」
非正規教員は正規のおよそ8割の給与で、半年ごとに契約が交わされますが、正規になれるとは限りません。
しかし、担任はもちろん、学年主任や部活の顧問まで任されることもあるといいます。
非正規で働いたこの女性は、正規との待遇差に不満を感じていたといいます。
<20年以上講師をした女性>
「(困難校で)駅まで行ったら気分悪くなるとか駅でもどし、途中の駅でトイレにかけこみ、それでも行かなくちゃと思って(学校に)行きました。正規だったら病休とかがあるが、講師は辞めざるを得ない。そこが保障されていないですよね」
大阪府での教員志願者は、なぜ減っているのでしょうか。
<教育評論家 尾木直樹さん>
「東京都は避けた方がいいというのが、受験生の常識だったんですよ。今はどこが常識になっているかわかります?『大阪はやめておこう』」
(Q.なぜでしょう?)
「なぜってわかっているじゃないですか。あんなところに飛び込んでいく教員志願者はいないですよ、はっきり言って」
大阪府では、新しく出来た教育条例によって教員評価が厳しく見直され、罰則規定も増えました。
このまま教員の採用問題を放置すれば、教育改革は進まないと尾木さんは話します。
<教育評論家 尾木直樹さん>
「大阪でいえば2重の悪いことをやっているのは、そこ(高年齢化)に無計画だったということ。もうひとつは非正規採用で逃げをうってきているということ。この2つが重なっているわけですから、それがさらに志願者が減っていけば、どんなに管理を強化して競わせても、そういう競争は意味がないんですよ」
こうした問題に、教育委員会はどのように対応しようとしているのでしょうか。
<大阪府教育委員会教職員人事課 中野伸一課長>
「我々も、定数のなかで働かれる教員は正規の方がされるのが基本と思っています」
(Q.対策は?)
「出来るだけ採用を増やしていくことに尽きますね。今までベテランの方がもっていたノウハウ、それを次の世代につないでいくことをやっていただく。この5年10年が大事な時期ですね」
大阪府の公立学校では高齢の教員が奮闘し、非正規教員の下支えを頼みにしています。
子どもたちのために、力を発揮できる教員を育てるには何が必要か。
現場の声に耳を傾ける改革が求められています。
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