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ふんばる 3.11大震災
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「集いの場」へ寺再生/普門寺住職・坂野文俊さん=宮城県山元町

寄贈されたピアノを弾く子どもの姿に目を細める坂野さん

◎教義実践、出会い大切に

 「我逢人(がほうじん=我、人に会う)」。宮城県山元町山寺の普門寺住職の坂野文俊さん(50)は、人との出会いから全てが始まることを表す曹洞宗の教えを、被災した寺で実践しようとしている。
 弾むような音色が、本堂に集まった約30人の聴衆を魅了した。12日夜に開かれた宮城学院女子大OGによるピアノコンサート。ピアノは富山県南砺市の楽器店から寄贈を受けた。
 寺にピアノ。ちょっとミスマッチだが、坂野さんは「ピアノがあることでコンサートが開けるし、子どもたちが弾きにも来てくれる。みんなが集まるきっかけになればいい」と言う。
 葬式や法事だけでなく、いつでもみんなが集う寺にしたい。25歳で住職に就いて以来、常にそう願ってきた。8年前には本堂の脇に60畳の大広間を設け、檀家(だんか)らに開放。いずれ文化講座やカラオケ教室などを開講しようと考えていた。「幸せに暮らす様子に、ご先祖さまが安心してくれる」。そんな思いがあった。

 夢へ歩んでいたさなか、津波が襲った。寺院は1階天井まで冠水。建物は残ったが、本堂は泥水でぐちゃぐちゃになった。周囲の民家はほとんど損壊し、約260戸の檀家のうち60人ほどが亡くなった。
 檀家の役員会で、いったんは寺院の解体が決まったが、納得がいかなかった。震災から2カ月近く、たった一人で寺の修繕に汗を流した。「再興したい」。その一念が、大きな出会いを導いた。
 昨年5月上旬、男性がふらりと訪れた。「寺の再生を手伝わせてほしい」。全国各地で災害ボランティアに取り組む藤本和敏さん(43)=名取市=だった。突然の申し出に戸惑いながらも2人で黙々と復旧作業を続け、やがて藤本さんの紹介で、全国からボランティアが集まるようになった。
 藤本さんは昨年7月、境内に「おてら災害ボランティアセンター『テラセン』」を設立。さらに多くの学生らが集い、作業が遅れていた同町沿岸部のがれき撤去などに取り組んだ。坂野さんも寺をボランティアの休息や宿泊所として開放。今夏は庭に手作りの露天風呂も設けた。
 檀家も真剣に活動する学生らの姿に理解を示すようになり、一緒に作業を始めた。「若者と一緒に動くことで、被災した檀家が元気を取り戻している」と坂野さん。いつの間にか、寺の解体計画も消え去った。

 ことし8月、坂野さんは栃木県足利市のNPO法人の支援で境内に小さな図書館を設立。10平方メートル足らずのプレハブに小説や絵本、漫画など約3500冊が並ぶ。「墓参りに来た子どもたちに楽しんでもらいたくて」と坂野さん。休日になると、子どもたちが本堂に寝転がって読書にふける。
 今月7〜9日にも約90人の学生ボランティアが宿泊するなど、寺には常に多くの人が訪れる。「寺の本来担うべき役割があらためて分かった気がする」。一層の出会いを求めて、坂野さんは寺を守り続ける。(原口靖志)


2012年09月18日火曜日

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