本物のグローバル化と偽のグローバル化の違い

キヤノン中国の設立15周年記念パーティーに招待されました。中国アジアを統括するキヤノン中国のトップの小澤さんと友人なので、個人として招待されました。

招待客の多くは地元の代理店の方々で中国人が多かったです。丹羽さんも御手洗さんも来られた盛大なパーティーですが、感心したのは小澤さんのスピーチでした。

「私は中国が好きで過ごしてみてもっと長く住みたいと思いました。しかし、私は御手洗会長と2017年までに100億ドルを売る約束をしました。これを達成できない場合、首になる。皆さん、どうか私が好きな中国に居られるように、どんどんオーダーをください。」

発音こそ標準ではなくどこかの田舎の伯父さんの方言に聞こえるのですが、スピーチ自体は流暢でユーモアに溢れていたため、会場から笑い声と拍手が湧きあがりました。

「15年経ち、その間、中国のGDPが6倍になり、日中貿易額が5倍になりましたが、キヤノン中国の売上は14倍になりました」。司会の女の子の説明にまた会場から歓声が上がりました。

丹羽さんが「日中関係が困難な時期だからこそ、地味な努力が大切だ」とスピーチした時、私は目頭が熱くなりました。

15年の間に、靖国神社問題、船長逮捕問題などなど、いろいろとあって現場の苦労は多々ありましたが、キヤノンは地味にそして確実に中国とアジアの売り上げを伸ばし、今やキヤノン全体の売上の3割ほどに伸し上がりました。

15年前のことを思い出すと、あの頃もっと元気な日本企業はたくさんありました。意気込をもって中国に進出してきた著名会社も多かったです。キヤノンとの差はどこにあるでしょうか。

私が最初に小澤さんに会ったのは私の北京自宅で開いた質素なホームパーティーでした。親交の長いキヤノンマーケティング会長の村瀬さんのご紹介もあって前からお会いしたかったのですが、たまたま我が家での食事会に誘うと小澤さんが気楽に来られました。

第一印象は辛口でした。不愉快にならないのですが、聞いていると普通の日本人がなかなか言う勇気のないことを平気でいうのです。表情が明るく、迷うことがなく言うから少しも悪意を感じず、かえって好感を持ちます。

ある日、北京空港で飛行機を待っていると、目の前のスクリーンに小澤さんがカメラ目線で話しながら歩く姿が飛び込んできました。なんとご本人がジェスチャーしながら中国語で話しているのです。

こんなことをする中国法人の外人社長は日本人だけではなく、欧米人も含めて珍しいです。本人に言っていないのですが、一層彼への敬意が深まりました。

小澤さんがこうだから、当然彼の部下たちも中国語が上手な人が多く、地元のパートナーとの関係が当然強くなり、当然それが業績に反映されます。

小澤さんは米国にも長く居て英語も流暢です。彼は御手洗さんや村瀬さんなどのキヤノンの先輩たちと一緒に米国市場を開拓してきた功労者でもあるのです。その彼が米国から中国に転戦し、中国語を覚え、中国の友人を作り、中国社会に溶け込み、キヤノンの業績を伸ばしてきました。

海外の売り上げがゼロに等しい企業の日本本社で公用語を英語にするパフォーマンスをする企業がある一方、静かに海外の売り上げを8割以上に増やしたキヤノンのような本物グローバル企業もあります。

本物のグローバル化と偽のグローバル化の違いはどこにあるでしょうか。私はグローバル人材の量と質に差があると思うのです。グローバル人材の育成には長い道のりとぶれない戦略が必要なのでパフォーマンスと思い付きではできないからです。

P.S.
このメルマガを書いた直後に、尊敬している経営者の先輩、岡野さん(スタッフサービスの創業者)からお電話をいただきました。「宋さん、俺が今何をしていると思う?・・・「宋文洲猛語録」を読んでいるよ。今まで読んだ本の中で最高のビジネス本だよ、これ。電話したのはこの感動を伝えるためだよ。」・・・そういえば先月「宋文洲猛語録」を出版しました。ツイッターでのつぶやきを抜粋、整理したものです。9月10日発表の八重洲ブックセンターの週間売上ランキングでは1位にもなりました。
http://www.amazon.co.jp/dp/4478083207/

どんな感じかを示すために、昨日(9月10日)のつぶやきをサンプルとして下に表示しておきます:
・実現方法について異なる意見をいうのはいいが、企業方針に異論を唱える社員は辞めるとよい。
・どんな立派な企業理念を持っても、生きるためにまず環境変化に対応する必要がある。だから経営者が言うことが変わる。経営者の変化についてく努力は環境適応の努力でもある。
・やりたいことをやって給料をもらうなんて甘いよ。給料の大半は慰謝料と思え。
・俺は人の方針に従いたくないから自分で創業した。しかし、創業の苦労から人の方針に従うことの大切さを理解した。従うか従わないかは重要ではない。自分のしたことを、自分で始末することが重要なんだ。
・その発言はゴールを目指すための発言か、それとも自分を正当化するための発言かは、社長には一瞬で分かる。だから組織の目標を意識しないサラリーマンの発言はトップに嫌われる。すぐ言わないが・・・
・そこにリーダーらしい人がいないならば、そこに部下らしい人もいないはず・・・弁証法の原理。
この記事へのコメント
久々にコメントさせていただきます。
素晴らしいきじですね。
日本人でも中国人でも謙虚になって、相手のことを思いやり、苦労して得た食べ物を分け合って食べると心が強く結ばれるのでしょうね。
「猛語録」早速アマゾンにオーダーしました。
到着を楽しみにしております。
Posted by 川崎修 at 2012年09月14日 08:48
インドネシアではご紹介の本がすぐ手に入らないので、是非デジタル化してキンドルで読めるようにしていただけると嬉しいです。
Posted by NS at 2012年09月14日 09:16
グローバルな人材がなんなのかはともかく、責任者が現地でできるだけ現地語で仕事をするのは基本だと思います。
なんちゃってグローバル会社は他人任せにするし、いきなり成功しか考えていないから失敗するとイヤになって撤退するのではないでしょうか。
とくに最近はリスクを嫌う企業ばかりなので、日本企業はさびれる一方だと思います。
Posted by たかお at 2012年09月14日 10:30
宗さんのメルマガは毎回読ませて頂いております。回によりなるほどと思う事、いやいやそれは違うだろうと思う事様々です。しかし今回はそれが何もない。残念ながら私には中身のある文章とは思えませんでした。
次回はご自身の骨のある主張を期待致します。
Posted by 東山大黒 at 2012年09月14日 11:10
宋「語録」読んでみますね。

キヤノンは、不思議な会社ですね…。倅もそこの研究者ですが…。背伸びはあまりしないのと、撤退のうまい、合理的(ややケチといっても良いかも…)な企業だと思います。海外市場への進出は、僕らの先輩の世代から息長くやっているのも事実です。ただ今のままでは先が見えてくるような気もします。
Posted by 沼田一博 at 2012年09月14日 13:37
宋様
私は1970年1月から4年半、富士通の南米のコロンビアの初代駐在員として実績ゼロからのスタートでしたが、顧客のTelecom(コロンビアの国営通信公社)と国防省に富士通の通信システムを納入してきました。公社には、局用の市外交換機と市内交換機を日本メーカーとして南米ではコロンビアに最初に納入しました。その他搬送端局装置を12箇所の局と中継所に1970年代の初めに納入しました。
さらにコロンビアの国防省に、ドイツのSiemensと組んでマイクロウェーヴシステムを国防省の本署、それに各地のにある連隊、部隊に納入しました。
宋さんのお話しを読ませていただき、お話しをされている通りだと思うところが多々ありました。「アミーゴ」と言う関係が顧客との間で出来れえば、ビジネスはかなり楽にできるようになります。これはコロンビア人と信頼関係に基づいて出来る関係です。

私がゼロからのスタートで日本メーカーの中では、日本電気に次いで4年と5が月で二位の実績を作れたのは、宋さんのお話されていることについて同感するところが多くありました。

ただ中国の今の政治と経済を見ていると、本当に中国政府と大多数の中国人を信頼して日本企業は中国で、ビジネスを継続してやっていけるのだろうかと言う大きな疑問を持っています。
中国はケ小平以降開かれた中国になりましたが、それでもまだまだ国際的に大国としてきちんとルールを守って信頼できる国家なのかと言う疑問が未だ私にはあります。

私はいまから5年前くらいに、私が定年退職後勤めていた日本の中小企業の子会社が上海にあり、創立35周年で、北京と上海を訪問しました。
今は南カルフォルニアで定年をすごすために家族と住んでいます。
そのとき中国について感じたことは、いくらアメリカが中国に”人権”だの"民主主義”と言ってもとても中国政府なり、指導者はそのようなことに耳を貸すわけがないと強く感じました。
それは先ず指導者にとっては、13億の民を食べさせてゆくことが先決で、とても人権だ民主主義を受け入れる状況にないと感じて日本に帰りました。

話しは経済から離れてしまいましたが、中国は将来、昔のソ連邦と同じで、今の政府の鉄拳がはずされたら、多くの独立国が誕生するのではないかと言う意見を持つ学者もいます。
ただ中国国民は大変スマート民族ゆえ、大中華思想の下でソ連邦のようにならないのではないかとも思います。

宋さんのご意見をお聞かせ頂けたら幸いです。
私は薄君の慶応義塾の高校時代からの親友で尾関達夫と申します。
Posted by 尾関達夫 at 2012年09月14日 14:13
地道に継続

私は一営業マンですが、成功するにはこれが一番の近道だと感じてます。

心が折れそうな時は多々ありますが。
Posted by 田舎者 at 2012年09月14日 15:18
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