ひがし・たえこ 脚本家・小説家。北九州市生まれ。同志社大卒。主な作品に1993年NHK連続テレビ小説「ええにょぼ」など。最新刊は「ドントマーインド☆へこましたい!」(講談社)。
無邪気な愛犬が
人と人をつなぐ
映画「仔犬ダンの物語」の脚本を手掛けた東多江子さんは去年の夏、ニッキーを飼い始めた。それまで動物には全く興味がなかったが、気持ちを変えたのは、あるテレビ番組だったという。
「ボストンテリアがはやっているという内容の番組で、かわいいなと思ったんです。でも、考えてみると一人暮らしで旅行も行くし、無理だなと。でも、犬を飼っている友達に、どう思うって聞いてみたら、なんとかなるって言ってくれて-」
その一言で、東さんは犬の飼い主になるべく、研究を始めた。仕事柄、その調査ぶりは徹底している。本やネットはもちろん、犬の飼い主や東京郊外のブリーダーを訪問し話を聞いた。しつけの勉強も始め、2カ月が経過した。
保護された犬を引き取ることも考えたというが、飼い主になる条件が予想以上に厳しかった。「一人暮らしなので、銀行の住宅ローンの審査と同じようでした」と笑う。
それで、近所のブリーダーさんの店にフラフラと入り、ミニチュア・シュナウザーを紹介された。
小型犬で、趣味のジョギングを一緒に楽しめる元気な犬がほしかった。その犬に決め、ニッキーと名付けた。
「初日は覚悟してたんです。知らない場所に来て、ピーピーとなくだろうって。ところが、全然、なかない。その物おじしない様子に救われました。私は若葉マークの飼い主なので」
本だけではなく実際にしつけ教室にも通った。トイレはほめて教え、あまがみ(あまえて咬(か)む)にはその都度、ノーと言って根気よく対処した。
「あまがみは、ある日突然しなくなったんです。私を咬もうとしたニッキーが、次の瞬間、自分からやめた。けなげだなーと思いましたね」と、目を細める。
ニッキーが来て計算外のうれしいことがあった。千葉に住む両親を頻繁に訪れるようになったことだ。
「照れもあって、親と面と向かって話すことは少なかったんですね。この無邪気なニッキーの存在がみんなをつないでくれています」
近所の犬の飼い主のグループにも入った。分からないことを相談できる強い味方だ。家を空けるときには、ニッキーを自分の都合より優先して預かってくれる友達もいる。
「いまだに、なぜ急に犬を飼おうと思ったのかはうまく説明できないんです。でも、動物を愛する人たちの優しさを初めて知りました。この子のおかげです」
(文・星川きよみ、写真・坂本亜由理)