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(4)シャクナゲに魅せられ2012年05月15日
シャクナゲの生産が盛んな八女市で、栽培の先駆者の一人とされるのが、同市星野村の山口耕一さん(71)だ。 かつて地域の主要産物は玉露茶だった。しかし高度経済成長期の1960年代、働き手が町に出て、手摘みの玉露作りは人手不足に直面した。 山口さんの暮らす集落は標高350メートルを超える。土壌は強い酸性で、植林した杉も育ちが悪かった。お茶に代わる換金作物を探して、まず挑戦したのは山の向こうの田主丸地区で栽培されていた久留米ツツジだった。 うきは市と接する耳納連山の山頂付近で雑木林を切り開き、70年ごろから植え始めた。「こんな所で育つわけはない」と言われたが、ツツジは酸性の土を好み、順調に育った。折しも公害が問題化し始め、「これからは緑化が重要になる」と確信。栽培種目を増やそうと、同じツツジ科のシャクナゲに挑戦した。 シャクナゲは星野村の山林に古くから自生し、どこの家でも庭には数本は植えていた。種をとってまき、ツツジの間で育てると、すくすくと育った。しかし、出荷のため平地に持って行くと暑さに負けて枯れてしまう。 栽培をあきらめかけた時、農業雑誌で接ぎ木の記事を読んだ。それをヒントに、暑さに強い台湾原産種に接ぎ、暑い博多の街中でもきれいに咲くシャクナゲを作り出した。 今、眼下に八女の山々を見下ろす標高約500メートルの畑などで約5千本を育てる。公共工事や緑化用としての需要は少ないが、今も新しい品種を導入し、研究を続ける。「シャクナゲは花の女王。きれいで大きな花が咲くのがうれしい」 星野村で生まれ育ち、木材会社を経営する足達透さん(61)も花の女王に魅せられた一人だ。 以前から星野村には花を楽しめる「名所」が必要だと感じていた。2000年に材木の仕入れで訪れた村内の山林を見て、「公園にぴったり」と直感。山ごと買い取った。 植える花を考えて浮かんだのが、自宅の庭で父が育てていたシャクナゲだった。栽培農家が多いのも心強かった。 杉を伐採した後、切り株や大きな岩が残る7ヘクタールに、山口さんらの教えを受けながら、一本ずつ植えていった。農業も園芸も全く未経験。枯らした苗も数知れない。 「シャクナゲの色と華やかさは特別。来た人がみんなうれしそうな顔になる。だからもっと喜んでもらいたくなる」 今年はルピナスやフリージアも植えた。花が終われば、枯れた花を摘む作業に追われ、来年の開花に向けた手入れが始まる。周遊路を舗装をしたり、イノシシやアナグマに掘り起こされた木を植え直すなど、公園造りに終わりはない。今や木材会社の経営は二の次だが、日に焼けた笑顔は晴れやかだ。(八尋紀子)
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