なかにし礼が受けた“陽子線治療”とは?280万円のがん治療法

2012.09.11


食道がんを克服したなかにし礼さん【拡大】

 食道がんで今年3月から休養していた作詞家で直木賞作家のなかにし礼さん(74)が、手術を受けずにがんを克服して話題を呼んでいる。放射線治療のひとつである先進医療の陽子線治療を受けてがんが消滅したという。10月には現場復帰できるほどに回復。決め手となった陽子線治療とは何か。最前線の専門医に話を聞いた。

 なかにしさんの食道がんは、「初期から進行した状態」だったという。基本的には手術が適用となる症状だが、27歳と54歳で心筋梗塞を患ったなかにしさんは手術に不安を抱えていた。

 今年7月に刊行した著書『人生の教科書』(ワニブックス)で〈現在の日本における“切らずに治すがん治療”の全知全能にかけてみようと決心した〉と告白。陽子線治療を受けることを決意したという。

 治療は成功。10月1日には、コメンテーターを務めるテレビ朝日系「ワイド!スクランブル」に復帰するという。

 陽子線は放射線の一種だが、普通の放射線治療とどう違うのか。筑波大学陽子線医学利用研究センターの櫻井英幸センター長が説明する。

 「通常のX腺の放射線は、身体を通り抜ける性質を持つが、陽子線は決められた場所にピタリと止まることができるため、がんをくり抜くように治療ができる。つまり、1カ所に固まっているがんに有効なのです。広い範囲や全身にがんが散らばっているような状態は、陽子線治療の有効性を発揮できません」

 固まったがんであれば、たとえば15センチ程度にまで大きくなった肝がんも治療が可能だそうだ。

 同センターで陽子線の対象となっている病気は、肝がん、前立腺がん、肺がん、食道がん、頭頸部がん、脳腫瘍など多様。ただし、胃がんは対象外。胃は不規則な動きをするため放射線で狙いづらく、胃の粘膜を傷つけてしまうそうだ。

 大腸がんはケース・バイ・ケース。いずれにしても、1カ所に留まっているがんが対象だ。

 「体力の問題や何かしらの問題で手術ができない場合などに、ひとつの選択肢として、陽子線治療を検討されてはいかがでしょうか。陽子線治療は『痛くもかゆくもない治療』といわれています。お仕事をしながら治療をされている方も、多数いらっしゃいます」と櫻井センター長はいう。

 ちなみに、1回の照射時間は3〜5分程度。位置の確認などを含めて15〜40分程度。月曜から金曜日まで週5回連日行われる。病態によって10回で済む人もいれば、30回の人も。なお、治療中に皮膚が日焼けをしたようになる副作用がある。

 陽子線治療は先進医療と認められているが、保険適用ではない。陽子線の技術料は自己負担で約240万〜280万円(施設によって異なる)。民間の保険商品の中には、「先進医療特約」でカバーできるものもある。

 治療が受けられる施設は限られていて、全国で7施設しか導入されていないのが現状だ。

 関東では、筑波大学陽子線医学利用研究センターと国立がん研究センター東病院、関西では兵庫県立粒子線医療センター、福井県立病院陽子線がん治療センター。ほかに北海道、静岡、鹿児島に1カ所ずつ。

 「施設によって治療内容や治療方法、対象となる病気が異なることがあります。筑波大学では、個別に患者さんを診察して、陽子線治療の有効性が考えられる場合には、治療をさせていただいています」(櫻井センター長)

 最新がん治療の有効な選択肢のひとつが、なかにしさんの回復で、ますます注目されそうだ。