慰安婦と戦場の性
新潮選書
1999年刊
慰安婦問題の基本書
いわゆる「従軍慰安婦」問題が日韓外交の大問題になっている。その実態と、さらに政治問題化したプロセスを詳細に述べた、この問題の「基本書」が秦郁彦氏の「慰安婦と戦場の性」だ。
1999年刊行だが、この時期は当時を知る方から詳細な証言を取れた最後の段階であろう。本では軍と占領地の治安を担当した憲兵(軍警察部門)の詳細な記述が残されている。日本人が朝鮮から女性を狩り集めたという嘘の証言をした吉田清治が、それを嘘と認めた電話インタビューも掲載されている。
しかし軍事史や当時の歴史背景の知識がない方には難しく、なまなましい描写があるので万人受けする内容ではないかもしれない。
思い込みと事実が異なる
本を読むと、「慰安婦問題」とはいったい何なのかと、徒労感、無力感を抱く。何でこれが政治問題になるのかが分からない。
韓国の人々は「数十万人の朝鮮人女性が軍と警察によって拉致、もしくは挺身隊の名目で連れ去られ、戦地に連行され、売春婦にさせられた」と思い込んでいるらしい。日本でこの問題を90年代から騒ぐ人も、このような情報を吹聴した。
ところがこの本によれば、事実はまったく違う。
喜んで売春を仕事にする女性はほとんどいないだろう。しかも、それが騙されて行われた場合は大変気の毒だ。しかし一世紀近く経って、今の日本、そして私たちの世代が事実と異なる問題で責任を引き受ける必要はまったくない。
問題が事実でなく政治的文脈で語られる
秦氏は、一部の活動家の事実に反した主張が、朝日新聞などの報道、そして左派系の政治勢力によって問題が拡大し、問題がこじれたことを中立的な視点で検証する。そして次のようにまとめた。
こうした経緯を振り返ると、日本では同じように問題が事実から離れて政治化することが頻繁に起こっていることに気づく。
私は経済ジャーナリストとして、またアゴラ研究所のエネルギー問題の研究部門「グローバルエネルギー・ポリシーリサーチ」(GEPR)の編集を担当し、エネルギー問題に向き合ってきた。原発、エネルギー問題は今、大混乱中だ。事実関係の確認や合理性の検討よりも、ムードや政治的都合が先行して、冷静に向き合おうという呼びかけへの一種の魔女狩り的な反発が起こり、誤った情報が拡散している。その結果、福島への風評被害、また原発停止による経済的損失が起こっているのに誰もそれを止めようとしない。
興味深いことに、慰安婦問題で間違いを流し続けた勢力、歴史家は、エネルギー問題で、デマを流し混乱を広げている勢力と重なる。福島みずほ社民党党首はその典型だ。彼女は慰安婦問題で名を売り、国会議員になった。ところが批判の強まったこの問題を今は沈黙している。そして今は原発ゼロの運動に忙しいようだ。国益を考えず、反対のための反対を行う反体制派、また自分の利益の拡充を図ろうとする勢力は、原発に飽きた3年後には別の騒ぎを引き起こしているだろう。
慰安婦問題という、ばかばかしい騒ぎに、私たちの世代がけりをつけなければならない。またその解決と検証は、「正義を語りながら国益と社会に損を与える奇妙な政治勢力」の姿を明らかにすることにもつながる。
そのための事実認識の出発点として、この本は貴重だ。
なお、本日14日22時からのニコニコ生放送でニコ生アゴラ「なぜ日韓関係は悪化するのか?繰り返される問題の深層を明らかにする!」が放送される。出席者は池田信夫氏(アゴラ研究所所長)、片山さつき氏(参議院議員)、下條正男氏(拓殖大学教授)が参加。私は企画に少しかかわらせていただいた。視聴いただければ、幸いである。
石井孝明 経済・環境ジャーナリスト ishii.takaaki1@gmail.com
しかし軍事史や当時の歴史背景の知識がない方には難しく、なまなましい描写があるので万人受けする内容ではないかもしれない。
思い込みと事実が異なる
本を読むと、「慰安婦問題」とはいったい何なのかと、徒労感、無力感を抱く。何でこれが政治問題になるのかが分からない。
韓国の人々は「数十万人の朝鮮人女性が軍と警察によって拉致、もしくは挺身隊の名目で連れ去られ、戦地に連行され、売春婦にさせられた」と思い込んでいるらしい。日本でこの問題を90年代から騒ぐ人も、このような情報を吹聴した。
ところがこの本によれば、事実はまったく違う。
- 太平洋戦争中、1万人から2万人の人が慰安婦として働いた。約半数が日本人で、2割程度が朝鮮人だった。
- 慰安婦は二等兵(最下級の兵)の給料が月10円程度(戦地の加俸なし)のところ、月300円程度の収入があった例もある。
- 軍や政府が、強制的に女性を集めた証拠はない。業者を前線近くで治安上保護し、また性病を避けるため衛生管理などをした例はある。
- 女性が騙された例は多くあった。当時はいわゆる前借金を渡され返済するという形で事実上の人身売買が行われた。最初は親など肉親が娘を売る例が多いものの、女性に他の仕事がないために、そこから抜けられなくなることが多かった。
- 女性が学校や職場などの単位でグループをつくり、工場などで強制的に働かされる女子挺身隊という制度があった。内地では半強制的に行われたが、朝鮮では大規模に実施されなかった。これと慰安婦との混同がある。
喜んで売春を仕事にする女性はほとんどいないだろう。しかも、それが騙されて行われた場合は大変気の毒だ。しかし一世紀近く経って、今の日本、そして私たちの世代が事実と異なる問題で責任を引き受ける必要はまったくない。
問題が事実でなく政治的文脈で語られる
秦氏は、一部の活動家の事実に反した主張が、朝日新聞などの報道、そして左派系の政治勢力によって問題が拡大し、問題がこじれたことを中立的な視点で検証する。そして次のようにまとめた。
(慰安婦問題は)少なくとも正義・人道を基調とする単純な動機から発したものではないようだ。おらくは内外の反体制運動体がかかえていた政治的課題にからむ、複合した思惑の産物であっただろう。それを誰よりも敏感に感じ取っていたのは、一人も名乗りをあげなかった日本人の元慰安婦たちだったと思われる。
だが一度火のついた政治キャンペーンを消火するほど、至難なことはない。煽られたマスコミやNGOは熱に浮かれたように興奮した。その熱気に押されて、日本政府は謝罪と反省を乱発した。
こうした経緯を振り返ると、日本では同じように問題が事実から離れて政治化することが頻繁に起こっていることに気づく。
私は経済ジャーナリストとして、またアゴラ研究所のエネルギー問題の研究部門「グローバルエネルギー・ポリシーリサーチ」(GEPR)の編集を担当し、エネルギー問題に向き合ってきた。原発、エネルギー問題は今、大混乱中だ。事実関係の確認や合理性の検討よりも、ムードや政治的都合が先行して、冷静に向き合おうという呼びかけへの一種の魔女狩り的な反発が起こり、誤った情報が拡散している。その結果、福島への風評被害、また原発停止による経済的損失が起こっているのに誰もそれを止めようとしない。
興味深いことに、慰安婦問題で間違いを流し続けた勢力、歴史家は、エネルギー問題で、デマを流し混乱を広げている勢力と重なる。福島みずほ社民党党首はその典型だ。彼女は慰安婦問題で名を売り、国会議員になった。ところが批判の強まったこの問題を今は沈黙している。そして今は原発ゼロの運動に忙しいようだ。国益を考えず、反対のための反対を行う反体制派、また自分の利益の拡充を図ろうとする勢力は、原発に飽きた3年後には別の騒ぎを引き起こしているだろう。
慰安婦問題という、ばかばかしい騒ぎに、私たちの世代がけりをつけなければならない。またその解決と検証は、「正義を語りながら国益と社会に損を与える奇妙な政治勢力」の姿を明らかにすることにもつながる。
そのための事実認識の出発点として、この本は貴重だ。
なお、本日14日22時からのニコニコ生放送でニコ生アゴラ「なぜ日韓関係は悪化するのか?繰り返される問題の深層を明らかにする!」が放送される。出席者は池田信夫氏(アゴラ研究所所長)、片山さつき氏(参議院議員)、下條正男氏(拓殖大学教授)が参加。私は企画に少しかかわらせていただいた。視聴いただければ、幸いである。
石井孝明 経済・環境ジャーナリスト ishii.takaaki1@gmail.com